関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

安藤光彰調教助手

安藤光彰調教助手(元・騎手)


-:マーチトウショウですね(笑)。それで、中央に来てからの事を少し振り返ってもらいたいのですが、中央の試験に受かって、美浦に行って。美浦でどんな感じだったのかとか。

光:美浦?スゴイ!ジャングルだよ(笑)。駅からは遠いし、夜は光がないし。何もない。だって、休みの日に吉野家に行くのに往復1時間ぐらいかかるもん(笑)。

-:ハハハ(笑)。アンミツさんが吉牛行くんですか?

光:行くよ~。休みの日にさ、「朝に吉牛食いて~な~」と思って、そうしたら往復1時間。でも、今思えば不便な美浦での毎日もそれなりに楽しかったよ。

-:息子さん(安藤洋一騎手)も笠松から一緒に引っ越したんですか?

光:いいや。息子はその前に大井に入れとったもん。教養センター行って体重が重くて帰されて、それでオレが笠松で攻め馬を教えたんよ。そして、しばらくして、大分できるようになって、大井に。それまで乗馬しかした事なかったんで、競走馬の攻め馬を教えなといけなくて。

-:具体的には何を教えたんですか?

光:朝の普通の攻め馬。乗馬はやっていたけれど、それと違うもん、やっぱり。

-:どこが一番違うものでしょう。

光:いやいや、全然違うよ。乗馬はハミをかけてガッチリ手綱持ってゆっくり乗る。攻め馬はある程度のスピードだから、乗馬と同じじゃワーッと持っていかれるよ。馬には力で勝てん。背中でのバランスと、上手く反応して手綱を上手いこと抜かないと。だって、喧嘩をしても馬に勝てないよね?微妙なハミの受け一つにしてもぜんぜん違うよ。

-:持っていかれるのを、うまいこと宥めるわけですね。

光:重心を後ろにかけたら余計に馬はグッと行きたがるよ。体重を前にかけながらうまいこと抑える。それが競走馬に乗る基本。

-:それが出来るようにならないとダメなんですね。

光:乗馬だけではダメ。それでは調教にならん。笠松は競馬場で調教しているから、コッチとは大分違う。

-:一日に乗る頭数も違う。

光:だから山(坂路)も良くないかもしれん。一気にバーッと放すだけ。馬も馬場に出たら一気に行くから。こうダクから徐々にスピードを上げていく感じじゃないと。

-:今、ダクはしなくなっていますよね?

光:本当はちょっとダク踏ませて、軽い駆け足から行くといいんだけど。ほとんどビューンと行く流れだね。中央の調教は。

-:話題が戻りますが、そもそも、中央に来ようと思ったキッカケは何ですか?

光:笠松もだんだん厳しくなってきたからね。メシを食っていけんもん。

-:アンミツさんの時代はよかったと。

光:そりゃよかったよ。一番下が1着賞金40万ぐらいあったよ。今は全部15万均一でさ。

-:じゃあ笠松のときも年収にしたらは何千万かあったわけで。

光:あったあった。栗東に来たのは親の面倒をみなくちゃいけないという理由もあったけれどね。栗東に来たのは50歳くらいかな。

-:中央で乗った馬のエピソードも聞かせてほしいのですが、記憶に残る馬はというと。

光:思い出?何にもないよ(笑)!いやいや、大阪杯でメイショウサムソンに負けたシャドウゲイトで。あの時は勝春が騎乗停止で頼まれたんだよな。あれは美浦にいるときで、あとは向こうにいる時はシーイズトウショウ。乗っていてハマッ感じがしたね。中京で。

-:シャドウゲイトはどんな馬でした?

光:毛艶が悪くて「これ走るの?」って感じだった。あのときはまだあまり勝ってなかったよ。あそこから強くなったね。

-:タイムパラドックスはどうでしたか?

光:あれも平安Sが初めての重賞勝ちだったもんな。あの時、もう一頭の豊くん(武豊騎手)が乗っとった松田博資厩舎の本命馬・ビワシンセイキもいたけれど、最初は俺がビワに乗る予定やったんよ(笑)。でもパラドックスで勝ってしまったねえ。

-:タイムパラドックスでフェブラリーSも出ましたよね。

光:あの時は、下手に乗ったなあ……。

-:……ですよね(笑)。

光:陣営から「最近掛かると」言われていたので、ちょっとかまえて乗ってしまったな。ゆっくり出してジッとしていたら全然掛からない(笑)。何も聞かなかったら、もっと出して行ったよ。もともと俺は出して行って、騙すように乗るのが好きだからね。アレは自分でも嫌になったなあ。後ろから行ってダメなんより、行って負けた方が気分良かったよ。「全然掛からないじゃん!」と思っても遅くてさ、3コーナーで「あ~あ」って。

-:タイムパラドックスは硬い馬ではなかったですか?

光:そう、硬い。最初はビックリしたね。走る馬に感じないね。ガッシリした方でもないし、牡馬にしては華奢だったし。でもレースではビックリするくらい良い脚使う。



-:そんな色々な馬に乗ってきて、ジョッキー暦36年。アンミツさんから見て、馬とは何なのか?どういう結論に達しましたか?

光:誰が見ても「走る・走らない」は絶対に分からん。馬に聞いてもわからんわ。それが馬の難しさ。馬って本当に分からん!それに尽きるね(笑)。

-:それが面白さでもありますよね?

光:そりゃそうだね。

-:血統とか、金額だけじゃなくて、それが分からないってところが馬の難しさであり、面白さですね。

光:それに走らせる速さでも馬の感触は違うんだよ。15-15じゃあ走りそうにないって思っていた馬でも調教で速いとこを乗ってくると「この馬違うねぇ」って見直すことはよくあるよ。だから馬を判断するなら普通のところじゃ分からない。速いとこで乗ってみないと。

-:追い切りの速さとレースの速さは違いますよね。

光:時計が出たって結果が出ないやつもいるもん。でも、ある程度時計はウソをつかないってところもあるよ。だってオルフェーヴルでも、坂路の時計はすごいじゃん。ビックリする時計出るよな。まあ……、競馬はやってみないと分からんけどね。どういうアクシデントがあるか分からないし。

-:逆にシャドウゲイトなんかそうだったかもしれないけど、調教で乗ったときよりレースの方がすごいなって思う馬もいますよね?

光:行きっぷりとかテンのスピードとかね。

-:そういうのは調教では全然分からない事じゃないですか。

光:全然わからない。そればっかりはやってみないと。やっぱり馬って分からんって。ハッキリ言ってね。分かったようなフリをしている人もいるけど。

-:知った風な口きくけど。じゃあ自分で金出してやってみなって。

光:ホントに知っているんだったら、自分で金出して馬買うよ。走れば儲かるもん。200万の馬が5千万稼げばいいよね。

-:3千万で5億稼ぐ馬がいるんだったら絶対買いますよと。

光:いや(笑)。3千万は怖くて出せない(笑)。俺だったら200万で5千万稼げる馬探すよ。

-:ハハハ(笑)。忙しい中、沢山お話いただきましたが、最後にアンミツさんを応援してきたファンに向けて一言お願いします。

光:長い間ありがとうございました!その一言ですね。

安藤光彰調教助手インタビュー前半は→

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(取材・写真)高橋章夫




【安藤 光彰】 Mitsuaki Andou

笠松競馬の騎手として1976年10月20日にデビュー。(中央移籍時点で)2818勝の成績を残すなど、地方競馬の第一人者として活躍。2007年にJRAへ移籍。まずは美浦の菊川正達厩舎に所属したが、2009年に栗東へ移籍。
中央では2155戦68勝。うち重賞は2勝を挙げて、今年2月一杯をもって騎手を引退。現在は坪憲章厩舎にて調教助手を務めながら、調教師を目指している。弟は言わずと知れた安藤勝己騎手。長男は大井競馬の安藤洋一騎手。娘婿は太宰啓介騎手。