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中井仁調教助手

中井仁調教助手(栗東・本田優厩舎)


スムーズならば、好勝負必至


-:もともと、2歳の暮れにデビューしているんですけど、3歳の春とかは、まだ体の緩さとかいろいろあって、古馬になってから良くなってきた馬じゃないですか?それで古馬の牝馬GI・ヴィクトリアマイルは、ベストの条件に近いと思うんですけど、ズバリ、手応えはどう感じでいますか?

中:手応え……。そうですね、やっぱりGIなので、そんなに大きなことは言えないですけど、力上位で、勝ち負けできるぐらいの力を持っていると思うので、なんとか頑張って欲しいですね。

-:あとはもともとスピードもありましたから、どういう位置取りというか、流れに乗れるのか、気になるところなんですけど、一番後ろからでも、来ることはあり得る馬ですよね。

中:まあ、それなりにタメて乗ると思うので、そんなに前には行かないと思います。スタートは速いですけれど、中団より後ろで脚をタメてもらえれば、終いは絶対伸びてくる馬なので。

-:あと、左回りというのは、3歳の春もスイートピーSとオークス、2回続けて走っているんですけど、この頃とは、やっぱり馬のコンディションとか、体の成長とかが、全然比較にならないじゃないですか。実際にこないだの東京新聞杯を見ても、左回りというのはこの馬は大丈夫ですよね。

中:全然、問題ないと思いますよ。どちらかが “得意・不得意”もないと思うんですけれど。

-:実際に上がり33秒が出ていますしね。下手ではないと。

中:全然問題ないと思います。

-:今回のポイントとすると、どんな点になりますか?「ある程度流れてもらいたい」という意識も……。

中:流れはそこまで気にしていないんですけど、エリザベスみたいに前との差が、道中でできないほうがいいかなとは思います。あんまり離されすぎてもというのはありますね。

-:ああ、じゃあスローで縦長の流れよりは。

中:別にスローでも、前とそんなに差がなければと思います。

-:ハイペースで縦長になりすぎるよりは、スローで団子のレースをスパーン!と切れ味で差すイメージと。

中:そんなに前と距離がないほうが、個人的には安心して見てられるというのはあります(笑)。

-:位置取り的に後ろにいますからね。この馬の良さって、瞬発力というか、3ハロンの脚も素晴らしいんですけど、追い出した時の、一瞬の“グンッ”と上がって行く時の反応の良さっていうのが素晴らしいと思うんです。その辺りは調教で乗っていても、何か感じるものはあるんですか?

中:やっぱり具合がいい時は、全然反応が違いますね。沈み方が、何か……、スッと出した時に、“グンッ”と一気に体が沈むんですよね。



-:そういう意味で、今回の追い切りはどういう感じでしょうか?

中:こないだ僕は乗っていないので、わからないですけれど、普段の調教で乗っている感じでは、かなり具合が良い状態で出せそうですね。

-:十分に勝負になると。

中:そう思っているんですけどね。

-:フミノイマージンは乗っていて柔らかいフットワークの馬ですか?俗に言う“飛節の深い馬は踏み遅れる感じがある”みたいな感じがあるんですけど、この馬はそんなことはないですよね。

中:やっぱり柔らかいですね。この馬は……、乗っていて気持ちいいですね。

-:フワフワとした感じと。

中:安定感があるんです。けっこう幅もあるし、バネもあるし。

-:馬体を横から見ると、幅が分からないじゃないですか、でも、歩いている姿を見ると幅を感じますからね。

中:オッサンのような、女の子じゃないみたいな感じの体していますもんね(笑)。

-:ちょっとなんか、キンカメ産駒とかにありがちな、 プリッとした感じがする、いい筋肉を持っていますよね。

中:そうですね。筋肉が柔らかいし。

-:あと、天候に関してはどうでしょうか?パンパンの馬場がいいのか、ちょっと雨が降ってくれた方がいいのか。

中:いや~、雨はちょっと降って欲しくないですね。いい馬場の方が終いを活かせると思いますから。

-:枠に関してはどう思っていますか?

中:いや、あんまり気になりません。最内枠でも勝っていますし、枠自体は普段からそんなに気にしていないんです。

-:こないだの東京新聞杯でも、ああいう抜けてくる時に手間取っていて、前が壁になっていて出られないというレースがあっても、この馬はへこたれずに伸びて来るじゃないですか。かなり精神的には強いタイプですか?

中:もともと根性が凄かったんです。勝負根性はあるので、狭いところでも割って来られるっていうのが。牝馬らしからぬ根性の持ち主というか、それがセールスポイントでもありますね。

-:中井さんもフミノイマージンとの付き合いはけっこう長いようですが、4年目ですよね?中井さんにとったら、フミノイマージンはどんな馬ですか。初めて担当した馬が、今回でGI挑戦は3戦目ですか。オークス、エリ女ときて、3戦目のGIで、一番成熟した頃に挑戦するレースになるわけなんですけど。

中:やっぱり、有難いっていうか、かわいいですよね。最初からやらせてもらって、僕にとっての初勝利もこの馬なんで。それでいて、初重賞もこの馬で。

-:だいぶ大人になりましたか?

中:そうですね。やっぱり昔は本当に手がかかったんで、昔から比べると。

-:どんなところで手がかかったり。

中:競馬を使ったり、追い切りをするたびに、どうしてもトモは疲れが取れなかったんで。



-:けっこう骨格的に大きいから、やっぱり若い時は大きい骨を動かすだけの筋力が付ききっていないと、やっぱり疲れが出ちゃうんですよね。

中:でしょうね、もうホント「大丈夫かな?」っていうぐらいの雰囲気がありましたから。

-:“ガコガコ”していたんですか?

中:トモが本当に悪かったんです。

-:それだけ、もともとトモを使って走れる体ではあったということでしょうね。前に頼って走っていたら、そんなにトモがガタンってこないでしょうね。

中:そうですね。本当に気持ちで走るタイプなんで、余計に体へ負担がかかっていたんでしょうね。

-:メンコは着ける予定ですか?

中:競馬ですか?競馬はウチの厩舎は全部、“耳なし”ですね。普段、メンコをしているやつは耳ありですけど。メンコをしてないやつは耳なしで。

-:フミノイマージンは耳なしで。あれは、本田厩舎のトレードマークという、それだけの意味合いなんですね?

中:そうですね、はい。

-:最後にフミノイマージンを応援しているファンの人に、手応えをちょっと教えてください。

中:安定して力を出し切ってくれるんですけど、今回本当に一番いい状態で出せるようやっているので、そんなに大敗とかはないと思います……、はい(笑)。

-:スムーズならどこまで伸びて来るのかっていうのが、やっぱり見てみたいですよね。

中:そうですね、やっぱり“スムーズに”っていうのがね、条件になりますけど、どうしても後ろから行く馬なんでね。

-:どこかに開いたスペースを見つけて、そこをきれいに伸びて来られたら、かなり上位を期待できると。

中:一応、上位争いを期待してくれるとは思っているんですけど。応援してくれるファンの方もいますし、いい結果で応えられればと思っています。


「ヴィクトリアマイルを見据えた臨戦過程を経て」
中井仁調教助手インタビュー前半→

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(取材・写真)高橋章夫




【中井 仁】 Hitoshi Nakai

本田優厩舎の持ち乗り調教助手。中学時代、バブルガムフェローが勝った秋の天皇賞を勝った頃から、競馬に興味を持ち始める。高校卒業後、半年間、乗馬クラブで研修。
その後、トレセンの近くにある栗東ホースクラブで約2年、宇治田原ステーブルで6年務めて、2008から本田厩舎に。初めて任されたのがフミノイマージンという幸運の持ち主。
「牝馬を任されることが多いので、あまり怒らないように気を付けています。牝馬は難しい所があるので、馬の気持ちをなだめるように付き合わないと」。
愛馬フミノイマージンの馬房には「ぽっぽ」と書かれていて、歩き方が鳩っぽいところからぽっぽと呼ぶようになった。最近では「ぽっぽ氏」と呼んでいる。