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西園正都調教師

西園正都調教師


もはや、短距離重賞での多頭数出しはトレードマークとなっている西園厩舎だが、今年の安田記念にも世代の大将格といっても過言ではない有力馬3頭を送り込む。今回はお馴染みの西園正都調教師に、短距離王国と言われるようになった所以、3頭それぞれのレース展望をじっくり語っていただいた。


距離適性が明確になったサダムパテック


-:よろしくお願いします。まずはサダムパテックから聞かせてください。前走の京王杯SCは久々にこの馬らしい競馬でしたね。

西園正都調教師:そうですね。本来の力を発揮できて、良かったと思います。

-:今までとはガラリ一変した内容でしたが、どのように分析されていますか?

西:まあ、ガラリ一変と言いますか、前々走の東京新聞杯(13着)については連戦の疲れがあったように思います。堅実に走ってくれる馬が、ああいう着順だっただけに、腑に落ちなかったというのが正直なところでした。結局、4走前の鳴尾記念(3着)で2着までに来れず、賞金加算が出来なかったために、余分なレースを使わざるを得なくなったことが響いた感じかな。

外面上はわからなかったし、岩田も「調子が良い」ということだったので使ったけど、結果的に見れば、目に見えない疲れがあったということだね。乗り役に「疲れもないし、具合は良いですよ」と言われれば、どうしても使ってしまうからね。それが悪かったということかな。でも、それはあくまで結果論だけどね。東京新聞杯がああいう結果に終わったので、期限を設けずにしっかり休ませて、自然な形で京王杯からの始動となりました。


-:京王杯SCはプラス8キロでの出走でしたが。

西:そうだね、栗東にいる時は少し太かったかな。まあ、太いというか、担当者によると「キ甲が何センチか伸びた」ということだったね。実際、担当者がパテックを曳いていると、以前は少し頭が見えていたのに、見えなくなっていたからね。元々背の高い馬だけど、大きくなっているなという印象を受けました。短期間の間に成長したということかな。

-:以前より胴が詰まって見えるのは、体高が伸びたということですね。

西:(短距離での活躍馬が多い)西園厩舎体型になってきたのかな。まあ、意識的にそういう体型にしようとしている訳ではないけどね。

-:仕上がり状態は良かったということですね。

西:前走時はオーナーが来場されていたので、勝つつもりでいますと伝えました。それぐらいしっかりと仕上げていました。去年は皐月賞で1番人気に支持されたほどの馬なので、実績を考えれば勝って当然だと考えていました。馬さえ良くなれば勝てると思っていましたので、その通りの結果になったということでしょう。

-:1400mの距離で結果を残したことに驚きを感じたのですが?

西:東京の1400mは他の競馬場のマイルぐらいの感覚だからね。コーナーが緩いしゴマカシも効かない競馬場なので、力さえあれば7ハロンであろうと8ハロンであろうと勝てると思っていました。まあ、1200mは厳しいかもしれないけど…。

-:サダムパテックの持っている距離の許容範囲が広いですね。

西:許容範囲が広いというか、どのような競馬でもできて、競馬のしやすい馬だね。揉まれ弱い面がないし、ゲートもちゃんと出たしね。まあ、東京コースは走るし、広いコースが合うのだろうね。自分の希望的観測では2000mぐらいまでは大丈夫だと考えています。弥生賞も勝っているのでね。まあ、ポテンシャルが高い馬なので菊花賞でも5着に来ましたが、本質的には1400mから2000mぐらいまでが守備範囲ではないかと思っています。

-:気が早いですが、秋の最大目標は秋の天皇賞になりそうですね。

西:秋天ぐらいまではねえ…。自分の中では2000mぐらいまでは行きたいと思ってます。(短距離志向という)厩舎の傾向があるので、余計に2000mぐらいまでは行きたいなあと思います。でも、坂路のベスト10を見ると西園厩舎の馬が6頭ぐらい入っている時があるからね。別に坂路で競走している訳ではないのだけど…。



-:短距離馬の方が坂路で時計が出やすいのでしょうか?

西:動く、動く。やっぱり短距離馬の方が時計は出るからね。パテックは坂路であまり時計が出なかったけど、帰ってきてからは51秒台が続けて出るようになっているので、強くなってきたのかなとは思いますよ。

-:速い時計を出すことによる疲れみたいなものは心配しなくても良いのでしょうか?

西:結局、ウチの厩舎が坂路主体でやるというのは、4ハロンだと負荷が掛けられて、疲れが残らないからです。6ハロンとか7ハロンの長めからやると、競走に準じた距離で流していくので負担も掛かります。新馬を使う前は一度(コースに)入れますが、でき上がってしまえば、坂路主体でやってます。

-:馬場についてはいかがでしょうか?

西:跳びがキレイな馬だから、良馬場になって欲しいね。不良馬場のダービーでは7着に負けてますから。まあ、あの時はグチャグチャの馬場だったけど…。それでもこの馬はクラシック3冠に出走して、全て掲示板に乗っているのだから立派な馬ですよ。やっぱり脚元に不安がないのが大きな武器だね。オープン馬は泣くヤツ(脚元を気にする馬)が多いものだけど、この馬は本当にどこも悪いところがない。いつも脚は冷たいし、乾いているしね。骨密度が高くて、腱もしっかりして太いのだろうね。

-:ウィリアムズ騎手からは何かコメントはありましたか?

西:「DVDを何度も見たが、スミヨン騎手が乗ったレースがすごく強かった。ここでも勝てる馬だと思っていた」ということでした。調教では厩舎から乗って貰いました。坂路に着くまでに15分ぐらいかかるのだけど「ハミ受けをいじってみたら、片方は反抗して戻すから、反対の方から誘導してやらないとダメだということを常歩で確認した」ということでした。それが「競馬に活かせた」みたいで、実際競馬でも真っ直ぐに走っていたし、そこまで考えているのだなと驚かされたよ。

-:それだけの短時間に馬の癖を読み取るということですね。

西:そういうことだね。ほとんどが初乗りだから、返し馬をすごく丁寧にやっているよね。そこで、馬の癖を読み取るのだろうね。さすがに豪州の名手と言われているだけはあるよ。あれだけ勝つのだから、すごい乗り役だと思うよ。

-:安田記念に向けて、サダムパテックの抱負をお願いします。

西:まあ、騎手手配の点では色々とありましたが、今回も乗ってくれることになったので良かったです。運も向いてきたかな。去年の鬱憤を晴らして秋に繋げたいと思います。


7歳にして進化を続けるシルポート


-:続きまして、シルポートはどのような馬ですか?

西:44戦10勝で重賞を3つ勝っているのだけど、ハナ差負けも2回あって、まあ、すごい馬だよ。今年の中山記念(フェデラリストの2着)も勝ったと思ったよ。去年の京王杯SCもストロングリターンにハナ差負け、一昨年のエプソムC(セイウンワンダーの2着)もハナ差だよ。でも良く言えば充実しているのかな。すごく走るオープン馬だよね。7歳にもなって成長する馬なんていないよ。前とは筋肉の付き方が違うからね。

-:晩成型ということなのでしょうね。

西:そういうことだろうね。

-:去年の天皇賞での逃げは圧巻でしたね。

西:あのレース以来、すごくファンが多くなったよ。自分の人生に置き換えているのだろうね。最近はこういうタイプの馬はいないからね。昔はテレビ馬がいましたけど、今時、これだけビュンビュン飛ばす馬はねえ…。4コーナー回った時に後ろと大分離れていたから、スタンドがワァーと盛り上がっていたでしょ。まあ、止まってしまいましたけど。レース後、蛯名に気持ち良かっただろと聞いたら、「ハイ、気持ち良かったです」だって。結局ハナに行く馬だから、展開次第のところはあるけど、しっかり体を造って、シルポートらしい競馬をするだけだね。



-:東京コースはこの馬にとって有利とは言えないのではないでしょうか?

西:直線も長いし、確かに不利だよな。府中で逃げ切るのは難しいからな。東京新聞杯もコスモセンサー(2着)があの手応えでガルボに最後差されたしなあ。それでもこの馬の個性を存分に発揮させて、スタンドを沸かせようとは思ってますよ。

-:人気がなければマークも薄くなるのでしょうが。

西:そうだよね。最近はすぐに鈴を付けにくるのでね。来なくてもいいのにねえ…。まあ、この馬の競馬をしてどこまでやれるかという感じです。

-:人気の馬が2・3番手で後ろの馬をブロックするような形が理想的ですね。

西:マイラーズCはシルポートが逃げて、コスモセンサーが3番手の位置取りになりましたが、実は57秒(前半1000m)のラップだったんだよ。だから付いてきた馬はみんな下がってしまったからね。幸もシルポートに付いて行ったら、止まってしまうことが分かっていたので、あの位置で競馬をしただけで、ウチの厩舎がラインを作ったような言われ方をしたけど、そういうことはなかったよ。実際、馬主さんが違うので、そのようなことはできないからね。まあ、今度はパテックも含めて3頭出しになるけど、外国馬もいるからどのような展開になるかは分からないね。

-:ある程度速いラップを刻んでいくということになりそうですね。

西:自分のペースで行くということです。ファンも多いので、期待に応えられるように、シルポートらしい競馬をさせたいですね。


安定感ならこの馬!コスモセンサー


-:もう1頭、コスモセンサーはどのような馬でしょうか?

西:この馬は3、4走前にオープン特別を勝っているし、ニューイヤーSではガルボを完封しているように、持ち時計もあるので、パテックやシルポートと比較すると安定した競馬ができるタイプです。

-:2、3番手から王道の競馬ができるというタイプですね。

西:そうだね、どこかで紛れのある競馬になれば、出番があるのかなという感じだね。

-:少し終いが甘いタイプに見受けられるのですが?

西:でも最近の競馬をみると、今までのセンサーのイメージとは違うよね。筋肉の付き方も良くなってますよ。



-:季節的なものについてはいかがでしょうか?

西:冬に良積が集中しているので、冬場がいいと良く言われるのだけれども、一概には言えないと思います。年齢を重ねてデキも違ってきているし、馬を担当する人間も変わってきていますから。

-:GⅠレースでの3頭出しはスゴいことだと思うのですが?

西:去年も違う馬で3頭出しだったけど、本当に有り難いことだね。まあ、意識的に短いところという訳ではないけど、たまたま結果的にそうなっているだけだよ。まあ、本当は天皇賞・菊花賞・ダービーなんかを勝ちたいんだよ。でも自分の好きな馬の体型が、知らず知らずのうちに偏ってしまうということだろうね。

-:先生は筋肉質の馬が好きなのでしょうか?

西:好きだね。胴の長い馬やユルい馬は何か頼りないからね。2頭並んでいるとどうしても筋肉の付きが良い馬に目が向いてしまうんだよ。でも、パテックなんかは(胴が)長いからね。体型は長いところ向きでも結果が短いところなのだから、どうしようもないよね。

-:サダムパテックの様な体型が好まれるのでしょうか?

西:そうだね、やっぱり需要は多いと思うよ。でも、何度も言うけど、秋天の2000mぐらいまでは距離が持って欲しいと思ってます。

-:ありがとうございました。




【西園 正都】 Masato Nishizono

1955年鹿児島県出身。
1997年に調教師免許を取得。
1998年に厩舎開業。
JRA通算成績は328勝(12/5/27現在)
初出走
1998年3月7日1回阪神3日目7Rドクターブイ(13着)
初勝利
1998年4月26日1回新潟2日目4Rマイネルユートピア・延26頭目


最近の主な重賞勝利
・12年 京王杯スプリングC/11年 弥生賞(共にサダムパテック号)
・11~12年 マイラーズC/10年 京都金杯 (共にシルポート号)


騎手時代に303勝を挙げた後に厩舎を開業。坂路を主体とした独自の調整方法で活躍馬を量産。自らも「ウチの古馬は短距離王国」と公言しているように、スプリント~マイル路線は大レースで常連中の常連。
この春はサダムパテック、シルポート、コスモセンサーが安田記念に出走予定。