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古川慎司調教助手

古川慎司調教助手(栗東・石坂正厩舎)


オークスをレースレコードのおまけつきで圧勝、牝馬二冠を達成したジェンティルドンナがローズSから始動する。 姉のドナウブルーも活躍、そして、オークスでの勝ちっぷりから、今でこそ実力を疑うものはいないが、オークスの戦前は距離不安や、初の長距離輸送について、疑う声が多かったのも確か。 そんな最中、周囲の雑音をあざ笑うような前走を陣営はどう見たのか?また、牝馬三冠制覇へ向けての秘訣は……?厩舎の番頭格である古川慎司調教助手に迫った。


ディープ産駒の可能性を広げたオークス


-:それでは、今年の春に引き続き、よろしくお願いします。まず、ジェンティルドンナの近況について教えて下さい。

古:8月1日に入厩しました。競馬まで一ヶ月ちょっと時間を取って、ここまで順調に乗り込めました。オークスのあとから、ずっとノーザンファームしがらきにいました。北海道には行きませんでした。

-:しがらきはここから1時間以内の近いところで、朝晩の涼しさが全然違って、気温も3度ぐらい違いますね。

古:そうですね。涼しい感じはしますね。朝の早い時間だと。滋賀県なのでだいぶ暑いというイメージがあると思うんですが、あそこは涼しいですね。冬場はすごく寒いですけど。

-:あそこの馬はみんなリラックスして走れていますね。

古:ああ、そうですね。直接の仕事振りを見たことはないので、どういう調教をしているかということは話でしか知らないですが、山奥なので馬にとっては良い環境だと思いますし、雑音も少ないと思います。あとやっぱりノーザンファームの精鋭メンバーが揃っているので、施設だけでなくスタッフもシッカリしているからだと思うのですが、本当にノーザンファームしがらきが出来てからは石坂厩舎的にはすごく成績が安定してきたというか、放牧、入厩のローテーションがすごく組みやすくなりましたね。ものすごく重宝しています。

-:あとは負担が少ないということでしょうね。

古:そうですね。やっぱり輸送というのは得意だとか不得意だというよりは、どの馬もデメリットでしかないですからね。それが少ないというのは本当に有利というか、メリットが高いと思いますね。

-:そういうノンビリ出来る場所でリフレッシュして帰ってきたジェンティルドンナなんですけど、帰って来てすぐに乗った訳ではないと思うのですが、気分的、機嫌的にはどうですか?

古:何かね、休みが長くなったりすると乗り始めの初日がモノすごく元気が良いというか、センサーが敏感になり過ぎて、色々な雑音とか拾うんですね。彼女は。そういうのが春は激しくて、競馬を使った後、少し楽をさせて「久しぶりに乗ります!」という時はモノすごく怖い感じがしたのですけど、今回はそういった雰囲気が全く見当たらないというか、ちょっと落ち着きが出たというか、大人になったというか……。大きく変わった感じはしないのですが、その辺は春先ほどピリピリしていないなという印象を受けていますね。

-:二冠馬なので走る能力は間違いないので、精神面も大人になるだけで大分ポテンシャルが上がってくると思うのですが?

古:そうですね。僕ら、触っている人間の安心感も違いますし、成長面でフィジカルな面での成長は難しいと思うのですが、メンタルの成長というのはキャリアを積めば積むほど出てくるので、その辺はひと夏を越して少しお姉さんになったかなという印象ですね。


「ディープインパクトの産駒がすごく良くなってくるのは、むしろこれからなんじゃないかと思っています」


-:ジェンティルドンナがオークスを勝つまではディープインパクト産駒、特に牝馬はマイルぐらいまでは成績が出ていたのですが、それ以上の距離でどうかという話があったと思うのですが、それがあのレースでかなり覆されたなという気がするのですが?

古:そうですね。G1はマイルまでしか勝ったことはなかったんですよね。重賞はトーセンホマレボシ(京都新聞杯)が勝っていたのかな。G1ではマイルまでしか成績が出ていなかったし、あんまりイメージはなかったですね。ただ、あの馬に関しては距離は持ってくれるだろうなという安心感はありましたけど、やっぱりそういうデータとか牝馬の特性とかを考えると、2400mに絶対的な自信があった訳ではなかったですね。
(のちにディープブリランテも同距離の日本ダービーを制し、トーセンホマレボシも同3着となった)

-:ということは石坂厩舎とかノーザンファームとかの括りを超えて、日本競馬の中のディープインパクト産駒のレベルを上げたレースだという気がするのですが?

古:ディープはオールマイティに色々これからも短い所、長い所を問わず、ダートでも走る馬が出てくると思うのでね。スゴイ種馬だなと思って……。色々なタイプの馬を出しますし、乗り味だって、ウチの厩舎にもディープ産駒が何頭かいますが、それぞれ違いますし、気性も違います。スゴく素晴らしい種馬ではないでしょうか。

-:みんなが初年度から口を揃えて、ディープインパクトに関しては素晴らしい種馬になると言っていたのですけど、実際フタを開けてみれば1勝はするけど、2勝目以降に苦しむというパターンがあったのも確かです。その中で石坂厩舎というのはディープインパクト産駒で結果を残していますね。

古:そうですね、数も勝っていますし、1頭で重賞を複数勝ってもいますが、僕は繁殖牝馬の質だと思うんですね。個人的には。初年度産駒は良いのを選んで付けているけど、初年度産駒の成績が良ければ更に良くなりますからね。多分、ディープインパクトの産駒がすごく良くなってくるのは、むしろこれからなんじゃないかと思っているのですけど。
これで1世代目、2世代目が確実に結果を出してきているので、ジェンティルが確か2世代目ですよね?距離もシッカリこなせているニューダイナスティ(セントライト記念を岩田騎手で予定)という男馬もいますし、距離を走れる馬もいっぱい出て来ているので、これからもっともっとスゴイ馬が出てくるのではという気がしますけどね。


-:海外のフランス(ビューティーパーラーがフランスの桜花賞にあたるプール・デッセ・デ・ブーリッシュ勝ち)でも結果が出ていますし、日本だけじゃないですからね。

古:日本だけではなく、本当にむしろこれから、サンデーサイレンスの時のように良い馬が続々と出てくるんじゃないかと思いますけどね。


「3連勝で牝馬ナンバーワンの座を狙う」
古川慎司調教助手インタビュー後半は→

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【古川 慎司】 Shinji Furukawa

小学5年生時に馬に興味を持ちはじめ、6年生より本格的に乗馬開始。栗東高校馬術部、京都産業大学を経て、滋賀県内の牧場にて1年半勤務。その後、競馬学校に入り1996年1月より栗東トレセンへ。2000年からダーレー研修プログラムでイギリス、ニューマーケットの厩舎などで学ぶ。イギリス人の友人に誘われアメリカのブリーダーズCを見に行ったことがきっかけでアメリカの競りに関わる仕事に携わるようになった。

本格的に日本からアメリカに移住する決心で就労ビザの手配を進めていたが'01年、同時多発テロの影響で全てが白紙になってしまう。人生の目標を見失い、日本での居場所を模索していたところ、
'02年5月、欠員が出たことで石坂厩舎へ。以後、現在まで調教助手としてヴァーミリアンやサンライズペガサス、サンライズキングなどの活躍を裏で支えてきた。

忘れられない馬はサンライズペガサス。「あの馬の背中の感触を超える馬には、まだ出会っていない」