関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

本田優調教師

本田優調教師

菊花賞といえば、春の実績馬が実力を示すと同時に、夏の上がり馬の台頭も少なくないレース。その後者にあたる最大の惑星馬がタガノビッグバンといっても過言ではない。デビューして3戦はダートで結果を残せず、芝に矛先を変えて3連勝。その中間には予期せぬアクシデントも……。大舞台に辿り着くまでの奇跡の過程を本田優調教師に伺った。

Ⅹ-大腸炎から奇跡的な復活…3連勝

-:競馬ラボには初めてのご出演となります。よろしくお願いします。最初にタガノビッグバンと出会った時の印象から教えて下さい。

本田優調教師:最初に見た時から馬っ振りは良い馬でした。

-:体を見ると、僕らが思っている一般的なフジキセキ産駒とは違う印象を受けたのですが。

本:う~ん、そうかもしれないけどね。まあ、バランスは良いからね。

-:フジキセキ産駒というと、もうちょっと体型が詰まっているように思います。

本:(母父に)リアルシヤダイが入っているから。リアルシヤダイでも詰まり気味の馬が結構いるからね。

-:今年の3月ごろにⅩ-大腸炎(※注1)を患ったようですね?

本:Ⅹ-大腸炎にかかって、ここ(栗東トレセン)の診療所に2週間ぐらい入院したかな。最悪なケースを考えないといけない状態に近かったんだけどね。まあ、幸い奇跡なのか、良い方向に向かってくれて、退院して戻って来れたんですけどね。

-:馬にとっては死に至るケースも考えられる病気だと窺いました。

本:結局、原因が分からないというのもあるし、下痢がずっと続いちゃうんでね。脱水症状に罹ったり、そうこうしている内に血液が濃くなったり、色々、血液の方に問題が出てきて、蹄葉炎(※注2)になるパターンが多いんだけどね。ウチもそれで2頭ほど亡くしたことがあるので……。



-:休養期間は3ケ月ぐらいでしたね。

本:退院して来てから放牧に出したのだけど、体がすぐ元に戻りました。奇跡的というか、しばらくは時間が掛かるかなと思っていたからね。ヘタをすれば半年ぐらいは掛かるのかなと思っていたけど、思ったよりも早く回復してくれて、そういう生命力もあるのだろうね。

-:復帰してから3戦目で未勝利戦を勝ち上がりましたが、早くからこの馬の芝の長距離適性を感じられていましたか。

本:いや、どちらかと言えばダートかなと思っていたのでね。ダートで結果が出なくて、そういうことがあって、帰ってきてから目先を替えてみるのも良いかと芝を使ったんだけど。そうしたら、芝の走りが良かったので。

■「Ⅹ-大腸炎にかかって、ここの診療所に2週間ぐらい入院したかな。最悪なケースを考えないといけない状態に近かったんだけどね」

-:そこから予想外と言いますか、3連勝ですね。

本:そうだね。未勝利の時は正直、早く勝たせないといけないと思って、メンバーとか色々調べながら使っていた馬なので。勝ってからはメンバーを気にしないで使って連勝だからねえ。

-:競馬の内容を見ていると、ジョッキーの意のままになるというか、乗りやすさがポイントかなと思います。

本:乗りやすいのは乗りやすい馬だし、素直な馬なのでね。適性が芝の中距離以上なのかな。まあ、競馬はしやすそうだしね。追ってからも、段々シッカリするようになってきたので。

-:兵庫特別で1番人気だったのですが、思ったより強いと言うと、失礼にあたるかもしれませんが、着差(3馬身)つけての完勝でしたね。この馬の長距離適性を考えると菊花賞でもおもしろい存在ですね。

本:まあ、正直な話、未勝利を勝った時もそうだし、500万を勝った時もなんだけど、ギリギリというか何とか勝ってくれた感じだったので、1000万ではしばらく時間が掛かるかなとは思っていました。結果はこちらが思っているよりも全然強い勝ち方をしてくれたね。

-:この時は1番人気での勝利でしたが、ファンは良く見ているなと。

本:僕の評価よりもファンの人の評価の方が正しかったんだろうね。



-:母父リアルシヤダイというところで、長距離適性に期待しているファンが多いと思うのですが、それと同時にフジキセキがどうなんだろうというところでファンは悩むと思うのですが、先生からご覧になっていかがでしょうか。

本:だけれど、種馬がどうのこうのとか、長距離がもたないとか言っても、今の時代は色々な血が入ってきているからね。中にはこなす馬もいるだろうしね。

-:フジキセキに距離が持たない子が多いのは、レース前に燃え過ぎてしまうことに原因があるように思うのですが、普段の様子を見ていると、この馬はそういう感じじゃないですね。

本:うん、扱いやすいからね。

-:カリカリしたところがなく、どちらかと言えばボーとしている方に近い部類ですね。

本:まあ、ボーとしているというか、普通に……。

-:おっとりしている馬だという感じがしているのですが。

本:ええ。

未知なる距離を乗りやすさでカバー

-:そして、メンバーも条件もガラっと変わってくる菊花賞への手応えはいかがですか?

本:正直、強い馬や一流どころと対戦していないからね。かと言って、3連勝というのはなかなか出来ないからね。2歳とかの早い時期の3連勝じゃなくて、夏からは古馬と混合のレースになっているから。そういう意味で、500万、1000万と古馬と戦って、負担重量は3歳で有利なんだけど、それにしても3連勝して、勝つ度に力を付けているのかなとは思います。

-:そうですね。未勝利勝ちから上げってくる馬のレベルを考えても、7月の未勝利は際どい時期だと思うのですが、そこからここまで来るというのは結構難しいことですよね。

本:際どいと言うか、ウチの厩舎もこの時期に何頭か未勝利を脱出したのだけど、未勝利のメンバーはあんまり成績が良い馬がいないレースだったので、そこからすると考えられないような3連勝なのでね。

-:未勝利の頃は正直、菊ということまでは頭に入っていない状態ですよね。

本:菊がどうのこうのいう問題ではなくて、取りあえず1つは勝たせたいという思いの方が強い時期だから。その前の成績も成績だったので、芝を使い出してから、芝の方が良いのかなというのがあったにしても、やっぱり早く勝たせたいというイメージの方が強くて、先の事までは考えてなかったです。

■「3000mになると折り合いが第一だからね。上手いこと折り合いを付けて、どれだけリラックスさせて走らせるかだから」

-:勝った後のコンディションはどのような感じでしょうか?

本:勝った後は変わりなく来ています。まあ、そんなに間隔もないのでね。

-:菊花賞という舞台を考えると、G1級の人気馬でも引っ掛かる馬であったり、終い切れる馬が人気を裏切ってきた歴史がありますが、その中でタガノビッグバンという馬の乗りやすさがプラスになりそうですね。

本:乗りやすいとは思うけどね。まあ、実際に乗っていないから判らないけど……。乗り役(太宰啓介騎手)はずっと乗っているので。乗りやすいだろうし、折り合いも付くだろうし。逃げても良いし2、3番手からでも良いしね。

-:そんなに注文が付く馬ではないですね?

本:うん、その辺は大丈夫だと思う。かと言って、3000mになるとちょっと違うからね。だから、ウチの馬も対応するか分からないけど、3000mに合うというか、3000mでも大丈夫かなというのはあるね。



-:人気馬の中には切れすぎたりだとか、スピードが勝ち過ぎていて、3000mに不安を抱えている調教師さんもいると思うのですが、この馬は向いているように思います。

本:取りあえず、3000mになると折り合いが第一だからね。上手いこと折り合いを付けて、どれだけリラックスさせて走らせるかだから。まして菊花賞はスタートしてすぐに下るからね。下ってコーナーだから、結構、素直な馬は噛んでしまうというのがあるし。折り合いを付けたいからといって、どうしても噛ませちゃうから。乗っている方もね。2000mだったらスッーと出して、そのまま行けるのだけど、やっぱり引っ張らないといけないというのが頭にあって、ハミを掛けちゃうし。その時にガツンときちゃうと、さすがに人気馬も3000mで折り合いを欠いて、気負って走れば、終いは間違いなく伸びないからね。

-:その辺りは乗り役をやられていた先生からしても、人気馬で菊花賞は乗りたくないレースでしたか?

本:いや~、菊花賞にしろ、何にしろ乗り役は人気馬に乗りたいからね。人気のある馬イコール勝つ確率が大きいということだから。勝つチャンスのある馬には乗り役は誰でも乗りたいからね。その中であとは自分がどのように乗りこなせるかだから。

-:本田厩舎と太宰ジョッキーとのコンビは相性が良いですね。

本:コンビというか所属はしていないのだけど、ほとんど所属ジョッキーだと思っているから。啓介がいる競馬場で使う時はほとんど啓介を乗せているので、今、ウチの厩舎が調子良いのか、啓介が調子良いのか……。

-:太宰ジョッキーと言えば、菊花賞ではマイネルデスポットで2着がありますが、それと似たような近い匂いを感じるのですが?

本:大分昔だけどな……。

-:最後にタガノビッグバンのファンにメッセージをお願いします。

本:僕らの期待を裏切ったと言ったらおかしいけど、自分が思っているよりもかなり力を付けてきています。まだ、成長途上で底も見せていないので、一戦一戦楽しみが増えていくと思います。ファンの方も競馬場に来て、応援してくれれば良いかな思っています。

-:ありがとうございました。




(注1)X―大腸炎
馬の急性出血性大腸炎で、1963年に米国で報告されて以来、わが国でも発生がみられる。悪臭がある激しい水様性の下痢が特徴的で、血液が著しく濃縮し、脱水状態となる。急性に虚脱状態に陥り、死亡することが多い。解剖してみると、全身性にうっ血と出血が認められ、特に大腸粘膜において顕著である。原因は不明ということで「X」と名付けられているが、各種ストレスと細菌由来の内毒素(エンドトキシン)が関係すると考えられている。


(注2)蹄葉炎
蹄壁と蹄骨を繋ぐ葉状層を養っている血管に異常が起こり、葉状層の組織が障害され、蹄の角質と知覚部が離断して蹄骨が変位する難治性の蹄病であり、蹄内部の葉状層という部位が炎症を起こしたのち壊死し、蹄骨が蹄壁から分離してしまう病気。


(写真・取材)高橋章夫




【本田 優】Masaru Honda

1959年 東京都出身。
2006年に調教師免許を取得。
2007年に厩舎開業。
JRA通算成績は105勝(12/10/14現在)
初出走
07年6月30日 3回阪神5日目1R ジョバイロ
初勝利
07年7月28日 2回小倉5日目3R バトルブレーヴ


■最近の主な重賞勝利
・12年 札幌記念
・11年 愛知杯/マーメイドS/福島牝馬S
(全てフミノイマージン号)


騎手としては1980年に星川薫厩舎所属よりデビュー。テイエムオーシャン、カワカミプリンセスとの主戦騎手であったことは周知の通りだが、マイソールサウンドなど個性派とのコンビでファンの記憶に残る活躍をみせた。騎手としての通算成績は7997戦757勝。 2007年から厩舎を開業すると、太宰啓介騎手を主戦に据え、今夏にはJRA通算100勝をマーク。菊花賞に送り込むタガノビッグバンだけでなく、今秋もフミノイマージンでG1獲りを狙う。