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小林真也調教助手

小林真也調教助手(栗東・平田修厩舎)


本番はマイナス体重で出走が理想

-:そして、1週前の追い切りというか、調教のメニューを教えて下さい。

小:1週前は中2週ということで、平田厩舎は中2週の場合、中間は結構、軽めなので、追い切りはなかったです。当週、最終追い切りだけ、ジョッキーが馬場で追い切って、その1本だけですね。

-:ただ、坂路で時計としては?

小:前回よりも大きめには乗るようにはしているし、馬もシャープになっているので、自然とそういう時計が出ますけど、意識的に1週前追い切り、例えば(4F)53(秒)とか55とか、そういうのはないですね。それはブラックヒルがどうこうじゃなくて、元々、平田先生のやり方というか。

-:じゃあ調教欄を見て、前回みたいにCWに2週続けて入っていないから不安になったりとかというのは?

小:それはないですね。中2週ですしね。まあ、個人的には全然やっても大丈夫だろうとは思うけど、そこは先生が決めることなので。

-:この秋もこの後、多分使うでしょうし、そのレースを見据えたとしても、中2週の平田調教師のパターンで、良いということですね?

小:いつものブラックヒルに限らず、平田厩舎、全般の中2週の馬の調教パターンですね。

-:あとは毎日、だいたい乗られている小林助手に聞きたいのはブラックヒルの変化。秋山ジョッキーに聞いても「春から大きな変わりはない」と言うのですけど、実際、体を見たら、お尻とか幅なんかは変わってきていると思うし、馬の雰囲気も若干、男っぽくなったかなというイメージがするんですけど。

小:背丈は多分、ほとんど変わっていないと思うんですけど、何せ、かなり太い状態、相当に太い状態で帰ってきたので、横に広がっていますね。こういう言い方をしたらアレですけど、横に広がって帰ってきましたね。コロンコロンの状態で。
でも、それだけしっかり休ませてくれたので、それはすごく良かったと思うし、肉体的にも精神的にも完全にリフレッシュして帰ってきた感があったので、すごく良い状態で、良い状態と言うか、良い休養になったと思います。あとは精神的にはドッシリしたし、普段の調教でも、坂路のスタートでも、競馬の時の地下馬道にしても、馬場入りにしても休養前よりはおとなしいですね。


-:と言うことは、ファンは体重を数字で見ているのですけど、この馬は新馬でデビューした頃もかなり太かったじゃないですか?



小:体重については「春は減っていって」とか言われているんですけど、まず、前提として新馬の時がメチャクチャ太かったんですよ。それがあって、5月の目標のレースまで無理せず1戦ごとに、少しずつ絞っていったということなんですよね。だから、減っていったというよりも目標とするレースに向かって、適正な馬体重まで作っていったということです。

-:そう考えたら、NHKマイルCの460キロというのが、仕上げ切った状態での馬体重とコチラは想像をしますが、毎日王冠が太かったとしたら、今の体でいう適体重というのはどれぐらいだと思われますか?

小:そんなに変わんないんじゃないですか。ただ、毎日王冠は468でしたけど、直前まで478だったんですよね。ちょっとヤバイなというぐらいで……。

-:プラス18?

小:そうなんです。輸送前は。それでこのまま行って大丈夫かなと心配だったんですけど、輸送と多少、直前、乾草、牧草を制限と言うか、工夫して何とか当日競馬場で見たら、結構、それなりにスッキリしていたので、思ったよりは走れるかなと思ったんですけど。数字にしたらどうだろう。

-:マイナス1桁台ですか?

小:秋山さんはレースの後「今日でもまだ太いというか、余裕があるよ」と言っていたので。だからと言って、ことさら絞るという必要はないんですけど、あとは自然に落ちていくだろうし。ただ、もう少し、464とかですかね。だいたい大まかに言えば。感覚的には本番はそれぐらいで良いんじゃないかと思います。

-:秋山ジョッキーも毎日王冠前は「太くて良い。休み明けだから、秋の何戦かを考えたら、秋の使い始めはもちろん、太い状態で良いし、そこから徐々に仕上がってくれたら良い」と言っていたんですけど。

小:ただ、脚元のことがあるんでね。478というとさすがにちょっと……。見た目にもゴロンとしていたし、競馬で勝った負けたはもちろん大事ですけど、脚元ですよね、やっぱり。それが一番心配でしたね。


■「体重については「春は減っていって」とか言われているんですけど、まず、前提として新馬の時がメチャクチャ太かったんですよ。それがあって、5月の目標のレースまで無理せず1戦ごとに、少しずつ絞っていったということなんですよね」

-:春も結構、硬いと言われた京都でも走っていますしね。でも、この馬は強いっていうか、ラッキーだった所は雨のレースもありましたもんね。

小:そうですね。雪とか。

-:2戦目は直前に吹雪があって。ユタカさんが「もう止めよう」と言って、秋山ジョッキーが……。

小:「勘弁してくれって、やらせてくれ」って(笑)。確かに内ラチ沿いが真っ白になっていましたね。そこを1頭だけ伸びてきたのでね。

-:このこぶし賞はカレンブラックヒルにとっては大きな分岐点のレースですね。このレースがもしなかったら、どうなっていたでしょうね。

小:そうですね!ハハハ。

-:外国じゃないから、ローテーションが全然変わっちゃいますものね。

小:色々、除外なども含めて、運のある馬です。あと、分岐点ということで言えば、2歳の10月だったかな、新馬で入ってからNHKマイルCの目標まで、1回も放牧に出なかったんですよ。それがこの馬にとってはNHKマイルCを勝つまでの話で言えば、一番大きなことだったんじゃないかなと思います。

-:普通は半年間もずっとトレセンにいたら、嫌になるじゃないですか?この馬は嫌にならない?

小:こぶし賞の後だったかな。ニュージーランドTまで2ケ月ぐらい開いて、それで平田先生が「どうしよう。出すか」って言っていたんです。
ちょっと色々精神的にも肉体的にも難しいところがある馬だったし、そういう難しい馬が完成されていく中で、一番重要な時期だったから、牧場が悪いとかそういうことじゃないんですけど、放牧に出て良くなる馬もいますが、この馬に関してはちょっと目標とするレースまでは置いておいて欲しかったんですよ。だから、それがマイルCを勝つまでの過程で一番大事なことだったんじゃないかと思います。


-:実際は半年間、トレセンにいたけれど、こぶし賞からニュージーランドTまでの間という2ケ月弱はトレセン内での短期放牧みたいなニュアンスがあったんですか?

小:まあ、変わらず乗り込んではいましたけどね。乗り込んでいたし、プールにも行っていたし。ただ、やる人を替えないで、具体的に言えば、やる人とか調教内容とか環境を替えないで、ずっと手元に置いておけたというのは大きかったんじゃないかなと思います。



-:振り返るとニュージーランドTで正直、負けると思いました。

小:本当ですか。ハハハ。

-:まず最初にこれが一つ壁やなと思いました。ここは負けて、ちょっと人気を下げて、NHKマイルCに勝つやろなという予想があったんですよ。この時、追い切りもちょっと遅めと言うか、おつりを残して、輸送を考えて。

小:ニュージーランドTの時は確か坂路で追い切ったのかな、最終追い切りはジョッキーが。

-:最終追い切りはCWで85.7、終い12.8。CWで85.7というのはブラックヒルにとっては結構、ゆったりですね?

小:相当軽いでしょうね。はい。

-:もちろん初めての輸送というのもあるし、色んなクリアしないといけない所をブラックヒルがクリアして、あれっ、思っているより強いなと思って。

小:そうですよね。ただ、やっている者として、ずっと携わっている者としては1戦ごとに馬がドンドン良くなっていっていたので、精神的にも肉体的にも。だから、勝ち負けは時の運だし、それは別ですけど、そんなに弱気ではなかったです。ただ、ニュージーランドTは最後、ビュッと伸びた時の脚が速かったんで、こういう瞬発力もあるんだなと思いました。

-:若干、聞いていた話と違ったからね。もうちょっとワンペースの馬と聞いていたから。あれみたいな。あの人たち何を言ってんだろうみたいな。

小:ハハハ。あの脚はビックリしましたね。だから、もしかしたら後ろから行っても、ある程度、スパッと切れるのかもしれないですけど。まあ、本来の持ち味からいったら、前で競馬をする方が良いんでしょうけどね。あれは意外でした。

-:毎日王冠も2、3番手から掛からずに、むしろズブいぐらいの手応えで。1分45秒0というのは、13秒足しても1分58秒フラットになりますけど。

小:ハハハ。その辺は競馬なので何とも言えないですけど。折り合いについては大丈夫だろうと思っていました。毎日王冠の1ケ月半ぐらい前に、ちょっと早めに戻してもらって、折り合いのことを一番に考えて、毎日調教をしていたんです。元々、乗りやすい馬ですけど、もう一つ折り合いが付くようにというか、完全にハミが抜けるように道中。調教でも意識して乗っていたし、そんなに馬も気合が乗ってなかったというか、気が入り過ぎていなかったから。ただ、グランプリボスが外から来た時にはこれはどうかなって思ったんですけど、何ともなかった感じですね。

-:こんなに新馬戦から順調に連戦連勝できた馬というのも前代未聞なので、いつ負けるのかなといったらアレですけど、また、負けるならココやというレースが来てしまったというのはね。

小:まあ、ディープインパクトでも負けますからね。それは競馬だから、幾らでも負けるんでしょうけど、いつだったかな。NHKマイルCの後だったかは、はっきり覚えていないですけど、何かのインターネットの掲示板で「無敗の馬は夢が広がるな」と書いてあったんですよね。
何でもない一言なんですけど、何かハッとさせられたというか、何かそうだよなと思って、いつまでも無敗というのは難しいだろうし、あんまり僕らが要求、期待し過ぎることは良くないんでしょうけど、夢が広がるなと本当にその通りだなと思って。


-:スゴイ馬の傍にいるっていうことですね。

小:幸せですね。

ダービーをパスした将来が勇気に


-:あと1週間無事で、良い状態で天皇賞(秋)を使って欲しいですね。

小:馬は少なくとも僕らにはフレッシュな状態に見えるんですけどね。やっぱりダービーをパスしたというのは相当大きかったんじゃないかと思うんですよ。マイルCを勝つ過程で一番大事だったのは放牧に出さずに置いておけたということだし、マイルCの後、この馬の一番重要だったのはダービーをパスして休ませてくれたということです。牧場でも完全に休ませてくれたというのが、大きかったんじゃないかなと。これからどういう競走成績を残すか分からないですけど、これからのブラックヒルにとってはダービーをパスしたというのはものすごいプラスだったんじゃないかなと個人的には思っています。

-:まあ、競馬ファンからしたら、ブラックヒルがダービーに出ていたらどうなっていたかというのも見てみたかったレースなんですけど、それは将来の可能性として残しておくということですね。

小:まあ、何ともなかったと言うか、どこも悪い所はなかったんですよ。ただ、どこが痛いとかじゃなくて、NHKマイルCの後の馬の全部出し切ったような雰囲気を見たら、あそこで休ませるしかないだろうって。疲れとかよりも馬自身が「全部出し切りました」っていう感じで、馬房で休んで佇んでいたので、あれはもう、休ませるしかなかったんじゃないかと思います。そこは鈴木オーナーの良識というか、普通そんな判断はできないですけどね。

-:NHKマイルCでタイトルホルダーになって、ダービーに出られるなら出したいという人が多いでしょうしね。

小:はい。でも、そこはスゴイなと。その判断は誰にでもできる判断じゃないですけどね。スゴイなと思いました。


■「馬は少なくとも僕らにはフレッシュな状態に見えるんですけどね。やっぱりダービーをパスしたというのは相当大きかったんじゃないかと思うんですよ」

-:そういう良識のあるオーナーだからこそ、これだけの宝物が回ってきたんでしょうね。

小:そうですね。これからもその分、無事で行って欲しいですね。

-:最後にこの馬はかなり人気をすると思うんですけど、天皇賞(秋)で応援してくれるファンにメッセージを。

小:前回は確か秋山さんとブラックヒルを応援して下さいと言ったんですけど、今回は何と言って良いか分からないですけど……(笑)。

-:まだ、枠も決まっていないから、どんな競馬になるかっていうのも。

小:枠順はやっぱり大きいですよね。それこそ運ですけど、枠順は……。

-:大外枠とかは嫌だと?

小:まあ、誰でも嫌でしょうね。このレース、府中の2000mは極端なんで。どうしようもないですけどね、枠順だけは。ただ、G1と言っても、何かレース前からドキドキするような、どうなるんだろうってハラハラするレースって、そんなに毎回ある訳じゃないので、言ったら悪いですけど。でも、今回の天皇賞(秋)は古馬もスゴイし、3歳もブラックヒル、ブラックヒルって言われているけど、フェノーメノだってすごい強いし、ジャスタウェイだって前走あれだけ詰めて来たので、これは楽しみなレースじゃないかと思いますね。
毎日王冠は結果的に勝ったけど、だからと言って勝負付けが済んだとは一つも思っていないし、そんな風に思っちゃいけないと思うし、毎日王冠を勝って、さあ次だというよりも、もう1回振り出しに戻って、改めて同じ3歳と古馬と再戦ということですね。


-:楽しみなレースですよ、これは。本当に色んな個性がぶつかり合うという。

小:ブラックヒルがどうこうと言うのはもちろんだけど、競馬、レースそのものが楽しみですよね。

-:多分、そういうレースになりますね。

小:そういうレースに携われるというのは幸せだし、これからも気を抜かないで1週間、10日かな。馬がドンドンとシャープになっていくので、油断できないですけど。

-:今朝も坂路でトーセンジョーダンとかトゥザグローリーとかを見たら、やっぱりスゴイですね。僕らでもそれだけワクワクするG1ってないんでね。

小:僕も当事者というか、関係者としてはもちろんだけど、一競馬ファンとしてもこんなに楽しみなレースはないんで。

-:ぜひライブで。

小:本当にたくさんの人に見てもらいたいなと思いますね。

-:ありがとうございました。

小:ありがとうございました。

(取材・写真)高橋章夫


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【小林 真也】 Shinya Kobayashi

中学3年でテレビゲーム「ダービースタリオン」にハマる。そして、5年制の富山国立高専を3年で辞めて早田牧場に。その後、天栄ホースパークで5年務めトレセンへ。

大橋厩舎に所属した後、現在の平田厩舎で攻め専として勤務。一昨年のマーメイドSを勝ったブライティアパルスが思い出の一頭。「膝を骨折してから掛かるようになってしまって潜在能力の半分くらいしか出してやれなかった」と悔やむ。気難しく、普段からうるさかった同馬が輸送した時、夜明けとともに馬房から外に出してレースまで延々歩かせていたのを懐かしむ。

牧場時代から秋山騎手のフォームに憧れていた。「自分じゃあそこまでキレイに乗れないですけどね(笑)」調教後も事務作業を淡々とこなす頭脳系ホースマン。