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田中克典調教助手

田中克典調教助手(栗東・西園正都厩舎)

時計面や前2走の相手関係、そして久々が懸念され5番人気に甘んじた京王杯2歳Sだが、終わってみればそれを嘲笑うかの完勝。短距離王国、西園厩舎の超新星と言っても過言ではないエーシントップだが、聞けばまだまだ完成途上。朝日杯FSは同じ3連勝中、東の横綱であるコディーノと雌雄を決する場になるが、大一番を前に田中克典調教助手が元騎手ならではの視点で特徴などを詳しく教えてくれた。

体を持て余しながらも3連勝中

-:朝日杯FSに出走するエーシントップなんですけど、3連勝中です。正直、前回の京王杯2歳Sなんですけど、僕個人としてはちょっと下に見ていたんですよ。休み明けであったり、中京2歳Sのレースのレベル的なこともどうなのかと思っていたんですけれど、同厩舎のマイネルエテルネルが引っ張る中、2番手から伸びきれるのかなという手応えに見えました。

田中克典調教助手:そうですね。3連勝はスゴいですね。飛びも大きいですし、ギューと溜まって、ギュンという感じではないんで、そういう風に見えるんでしょうね。実際、僕も見ながら、ここから伸びきれるのかな、どうかなと思っていたのですけど、シッカリ脚を使ってくれて、力強く走ってくれましたね。

-:浜中ジョッキーにレースの後、話を聞いたら「成長している」と。

田:デビューの時、まあ、今でもそうなんですけど、すごくユルくて、体を持て余す感じだったんですけど、直前の追い切りで、ものすごく速い時計が出て、やっぱり良いスピードを持っているんだなという感じでデビュー戦に向かって、その通りに良いスピードを見せて押し切ってくれたんですけどね。その後、ものすごくテンションが上がってしまって、モロい部分が中京2歳Sでも、誰の目にも明らかなぐらい出ちゃって、それでも押し切ったんですけど、勝ったということよりも内容がすごく良くないなという……。

競馬までのテンションもそうだし、走り方だって人間の言うことを聞いていないという、そこがものすごく課題が残っちゃったんで、この休養があけて、京王杯2歳Sに向けて、その辺を一番気を付けながら、調教を進めて行っていたので。送り出すまではテンションも上がらずに、ハミも工夫したりして、それで何とかならないかと、正直、コッチもまだ、半信半疑な部分があったので、あとはこの子の精神的な部分に期待するしかなかったんですけどね。


-:ハミのことなんですけど、どれからどれに替えたか教えて下さい。

田:普通のエッグバミからリングバミに替えました。初戦でも2戦目でもそうだったんですけど、4コーナーでも外に張るようなところもありましたし、元々、ちょっとフニャフニャしたところがあって、右に頼ってみたり、左に頼ってみたり、コーナーに入る度に、手前を替える度にシャキッと走ってないという……。その上に引っ掛かっているんで、少しでもそういうところが良くなれば良いなと思ったので、先生と話をして、「今回はリングでいこう」ってことでした。

-:驚くべきは中京2歳Sもそうですし、この馬はデビューしてから3戦共に1400を使っているんですけど、いきなり2秒以上、時計を詰めてしまったんですよね、京王杯2歳Sの時にね。

田:2戦共にそんなに目立った時計じゃなかったですけど、詰まるんじゃないかなという風には思ってました。ただ、力関係的にも休養明けだったので、どの程度、通用するのかはまだ、コッチも計れてなかったので……。

-:時計を詰めるにしても、レベルが上がっていけばもちろん、新馬とか2戦目に比べて時計は速くなりますよね。全体のラップが流れた中で時計が詰まるのは分かるけど、前回のレースはほぼ上がり3ハロンだけで時計を詰めているんですよ。それが厩舎の工夫が表れて?

田:追い切りでも速い時計が出るんですけど、テンからビュンビュン行って、終いまで踏ん張らすというのよりはどっちかと言うと、なるべくリラックスして、折り合いを付けて入って、終い反応良く、シッカリ脚を伸ばせるという、終いが速くなるように、なるべくそういう調教はずっと心掛けて来てたので。やっぱりクラスが上がれば上がるほど、いかに道中、脚をタメれて、終いシッカリ速い脚を使えて、上手に競馬を出来るかというのが、大きく作用されてくると思うので。

(浜中)俊も1戦目、2戦目となるべく工夫して、乗ろうとしてくれたんですけど、なかなか馬もそこに追い付けなくて、コッチとしても俊の気持ちも分かりますし、自分らもこの先、大きいとこを狙っていく上で、課題というのが明らかだったので、何とかしていかなきゃなと思っていて。


-:さもすると一本調子になりがちな馬で、若干、ハミに乗ってきて、乗る方としてはちょっとちょっとと思うタイプだと思うんですけど。

田:それが普段は全然、そんなことはないんですよ。本当に併せ馬とかもできますし、全然、力むところがないんですけど、やっぱりスピードを上げて、アクセルを踏むとちょっと制御が効かなくなるところがあるので。調教の方が乗りやすくて、競馬でああいう風になっちゃうというのが一番の問題点だったんです。

-:それは考えたら分かる話なんですけど、調教のスピードとレースのスピードは全然、違いますからね。

田:そうなんですよ。場所も違いますし、馬も分かっちゃうんで、テンションも上がりますし、その辺をどう上手くコントロールして、抑えるかというのが、ものすごく課題だったので。

■「テンからビュンビュン行って、終いまで踏ん張らすというのよりは、どちらかと言うと、なるべくリラックスして、折り合いを付けて入って、終い反応良く、シッカリ脚を伸ばせるという、終いが速くなるように、なるべくそういう調教はずっと心掛けて来てたので」

-:一本調子的な気性というか、若い馬ですから、そんなにいきなり溜まってスパーンというのはないと思うんですけど、どっかで溜めを作りたいというテーマを持ちながら、普段、調整されているということですね。その効果というのは、休み明け2戦目でG1挑戦なのですけど。

田:前走でああいう競馬ができたというのはものすごく良かったです。ずっと俊も乗ってくれているので、この馬のことは一番誰よりも分かっていると思いますし、その前走で結果も良かったですけど、内容がすごく良かったので……。そこは変わらないように、コッチも変に何か変えようとしないで、同じような感じで変わらずに持っていけるのが、一番良いかなと思うんで、調整をずっと進めてきていますね。

-:別に荒探しをしている訳じゃないんですけど、この馬にとったら、実際、もうちょっと流れた方がレースがしやすいですね。

田:そうですね。あの形になったら理想だなというのは思っていたんですよ。何か引っ張ってくれる馬がいて、2番手で、あとは我慢できるか、できないかはゲートを切って、行ってみないと分からない。ただ、たまたまウチのマイネルエテルネルがゲートをポンと出て、行ってくれて……。ただ、同じ厩舎なので、俊も気を使ってくれて「どうしよう」って、一瞬迷ったと思うんですね。そこでスッと折り合いが付いたので、それはものすごく大きかったですね。

-:逆にこの脚質の馬で、エーシントップより切れる馬はいると思うんですけど、その中であのラップで我慢して、押し切れたというのは。

田:それは本当に評価して良いことだと思いますね。あの位置で、あの時計でシッカリまとめられたというのは今後、この子にとってはものすごく大きな武器になるなと思いましたし、後はこのまま成長してくれたら、見ている方も安心できるのでね。



-:あと関東、関西で言うと、新馬とか未勝利戦を見てて、一番痛感するのは新馬戦のラップが関東は異常に遅いんですね。色々、若い馬に対して考えて、そういう風になってきていると思うんですけど、やっぱり舞台が上がっていくと流れた時にどうなのかという未知数の部分が多くて、合う馬もいれば、それでダメになる馬も出てくるんですけど、エーシントップなんか、どっちかと言うと、上がりが掛かりそうなレースを前々で押し切る方が、合うイメージがすごくあるんです。だから、G1になって、ある程度、流れた時に逃げ、逃げ、2番手からの競馬になってますけど、それを3、4番手辺りで溜めが利けば、これまた、おもしろい競馬が。

田:そういう競馬にできるように持っていきたいので、俊もそういうイメージで、もちろんいると思いますし……。ただ、やっぱりゲートを出ちゃうので、押し出される形もできなきゃいけないし、前走でも俊は「行ってしまったら、行ってしまったで仕方がない」という気持ちで、乗ってくれてたみたいなので。

-:ハナに行っていても、そんなに。

田:同じぐらいのペースで行っていると思うし、同じようにまとめて上がってきていると思うので。ただ、前に馬を置いて、そのレースの流れで、溜めを利かすのと自分で行ってしまうのでは、その後、展開が変わってきた時に対応できなくなるので、早い段階で、こういう控える競馬ができたというのは本当に収穫でした。押し切っても勝ってますし、これで番手でも良いし、行っちゃっても大丈夫だしという選択肢が出来たし、幅もちょっと広がったんで良かったかなと思います。

-:坂下で我慢してましたからね。むしろ、マイネルエテルネルの手応えの方が、若干、良く見えて。浜中騎手が押しているシーンが目立ったんですけど、あそこは溜めを作っているということでしょうね。

田:まあ、休み明けの分、ちょっと反応も悪かったのかなという感じですけど。だけど、ラップ見たら速いですしね。

-:速いですからね。だから、イメージより。

田:ただ、思ってるより多分、スピードは出てるんだろうなという感じですね。

田中克典調教助手インタビュー後半
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【田中 克典】Katsunori Tanaka

1987年8月12日生まれ。中学1年の時に家族で乗馬クラブに行く機会があり、そのまま馬乗りになろうと誓う。2006年に、山内厩舎所属で騎手デビュー。同期には北村友一騎手、黛弘人騎手らがいる。2012年に騎手引退後は西園厩舎で調教助手(攻め専)に転身。日々心掛けているのは「調教をつけている以上は少しでも良くなるように。その馬にとって、どうしてあげるのが一番良いのかなというのは考えて乗る」こと。西園調教師も元乗り役で、酒井学騎手が常に調教につきっきりの環境で、スタッフ同士でコミュニケーションを取りながら切磋琢磨している。