2012年最多勝ルーキー・菱田裕二騎手(後編)

2013/1/6(日)

菱田裕二騎手

理想としているジョッキー像

－：競馬ファンが、菱田裕二を買う時というのはどんな時に買ったら良いですか。どの馬も感触を掴めて競馬に挑む訳じゃないでしょう？

菱：何なんですかね。自分でも自分の得意なパターンというのは全然、定まっていないんですけど……。何かなあ、難しいですね。

－：成績が表すようにダートだけじゃなく、芝でも勝たないまでも上位にはこれるものはあるんでしょうね。

菱：僕はどっちかと言うと、中距離から長距離の方が結構、好きなんです。レース中の駆け引きとかもありますし、そういうところでの折り合いだとか、ジョッキーの技術が結構、出てくると思うので。勉強になります。

－：と言うことは、自分は向上心があって、上手いジョッキーになりたいと。

菱：そうですね、はい。

－：ちなみに目標としている乗り役さんというのはどういう人がいますか？

菱：まだ自分の目標というのがしっかり定まっていません。色んなジョッキーを見て、本当に先輩方みんな上手くて、1人1人盗むところがあると思うんですよ。普段から外国の競馬とかも結構、見るようにしていて。

－：話やすければ、海外のジョッキーのこういところが好きというのを教えて下さい？

菱：抑える技術にしても、折り合いを付ける技術にしても、最後、追う技術にしても、どれを見てもやっぱり、外国の競馬とか見てたらスゴイなと思うので。

－：引っ掛かる馬も手綱持ちますものね。抜かない。

菱：例えば、フランスの競馬とか見てても、すごくスローの密集した中でも、グッと抑えて、折り合いを付けて、終いを伸ばしてくる。なかなか映像を見てても、スゴイなと思うので、そういうとこも体験してみたいなと思いますし、ああいうジョッキーになりたいですね。

－：かなり筋力がいりそうですね。

菱：そうですね、はい。

－：海外のジョッキーって、もちろん日本に来て、僕らが見れるジョッキーというのはトップクラスなんですけど、やっぱり体が良いもんね。

菱：抜群の体つきですね。

－：今、二極化しているじゃないですか、ジョッキーが。岩田さんや、浜中さん、川田さんのように結構アクションがあって、いかにも追ってるというタイプなのか、武豊さんや秋山さんみたいに静かなタイプ。将来的にはどっちを目指していくつもりですか？

菱：考えが変わるかもしれないですけど、僕は今、キレイにと言ったらおかしいですけど……。う～ん、すごい難しいですよね。批判することにもなるので。

－：第一は馬の邪魔にならない、と。

菱：馬の邪魔にならないで、その馬の力を100％出せる乗り方が出来たら良いかなと思うんですけどね。その中で見え方がどうなってくるというのが自分でも分からないですけど、邪魔をしないで馬の力を100％出せるような乗り方ですね。

－：ルメール騎手に木馬に乗ってもって、ステッキを渡すと「ステッキはいらない」と言って乗るんですけど、その時に「クワイエット」って、静かに動かないで、キレイに乗るコツを、そこでやっているみたいです、あれほどの人でも……。その積み重ねがルメールのキレイさに繋がっていて、キレイなんだけれど、パワフルさもあって、ちゃんと抑えられる技術もあって、そこがやっぱりスゴイですね。
(続けて)
ファン目線からしたら、どうしてもハードにアクションをする人の方が、追っているというイメージがあるけれど、｢追う｣という日本語自体もいまいち明確ではないもので、ファンからしたら、動いていたら追っているという感じなんだけど、実際は4コーナーのカーブから直線までどれだけ追うかということよりも、1コーナーから3、4コーナーまでで、どれだけ残しておけるかというのも１つの大きな技術だと思うので。

菱：それはすごく言われますね。先輩から言われるのは「ホンマに追えへんというジョッキーがいたとして、本当に変わるのはホンの何馬身かだけど、道中、どう折り合いを付けるか、どうリズム良く運ぶか、位置取りをどこに取るかで、絶対、それ以上の差が出来るから」と。だから、僕も道中、馬のリズムとかはすごく大事にしているんですけど。

－：だからと言って、折り合いを付けようとし過ぎると、ポジションばっかり悪くなったりだとか、そこが実戦で乗っているジョッキーの難しさと思うんだけど、菱田騎手なんかは鞍数は中井騎手より(12/20時点で)90弱、乗り鞍は少ないはずなんですが、勝ち星は同じです。お互いライバルとして、良い関係でやっているのでしょうか？

菱：本当はもっと30勝、40勝と高いレベルで競い合えたら良かったんですけど、やっぱり21勝というのは僕の中では少ないと思ってるというか、本当はもっと高いレベルで、競い合えたら良いなと思っているので。来年、再来年ともっと高いレベルで競い合えたらなと。

菱田裕二が選ぶ2012年ベストレース

－：1年間通して見てた中で、やっぱりインを突くことも多いし、ケガすることもあるのかなと思っていたけれど、今のところケガはないですか？

菱：競走中の落馬は1回しかないんですけれど、ケガはしていないです。ただ、馬群の中に入ったりした時だとか、危ないなと思うシーンがあるんで、そういうのが極力ないように気をつけないといけないなと思います。

－：先週も審議の対象になったり、ちょっとヒヤッとしましたけど。

菱：そうやって、周りに迷惑を掛けてしまうケースが一杯あるので、レース中もっと冷静になって、そういうのをなくしていかないといけないなと思います。

－：この間はゴール前の審議でした。結局、道中どれだけスムーズに乗れたかによって、ゴール前の騎手の精神的な余裕も違ってくると思うから、そういう意味でも道中の折り合いというか、周りが見える眼というのは大事ですね。普段はどういう風に技術を上げようとしているのですか？

菱：僕はひたすらテレビで、レース映像とか、パトロールビデオとかを見て、上手いなと思う人の乗り方を見たりだとか、グリーンチャンネルとかで外国の競馬とかもやっているので、外国人ジョッキーの乗り方を見たりだとかしてますね。木馬に乗ったりとか、トレーナーを付けて、トレーニングをしてるんですけど。

－：もうトレーナーも付けているんですね。

菱：はい。

－：誰と一緒にトレーニングをしているでしょうか。

菱：一応、その時は1人ですね。主に体幹トレーニングなんですけど。あとは自分でランニングをしたりして。

－：下半身の強化を。今年の競馬を振り返って、自分以外のジョッキーでファンに教えれるとしたら、どのレースのどのジョッキーがスゴかったよというのを。菱田裕二が驚いた1鞍みたいなのを教えてもらえたら。自分の好きなレースで。

菱：結構、ノリさん(横山典弘騎手)のレースを観ていますが、全部、スゴイかなあ。札幌とかでも一緒に乗らせていただいたので。

－：ノリさんとは何か交流があったのでしょうか？

菱：少し話をさせてもらったりさせていただくこともありました。杉浦厩舎のレオアクティブが中山で勝ったレース。京成杯オータムHですね。これは僕、何回も見ました。何であんな後ろから内を差して来れんねやろ、と思って。これはすごく印象に残ってますね。

－：これは菱田騎手の分析としては？

菱：このレース、岡田厩舎のスピリタスが使ってて、それもあって注目してたんですけど、自分の前だけじゃなくて、前、前、前って、全部、そのレースが見えているから、ああいうことが出来るんだろうなと思って。僕だったら、例えば、あんな後ろにいて、人気馬に乗ってたら、簡単に外に回してしまうでしょう。そうじゃなくて、しっかり競馬を見て、スペースを突いてくるというのが。

－：ノリさんの場合は馬の特徴も見ているけど、前にいるジョッキーとか、その前のジョッキーの性格的なこととか、これまでのレースでどういう風にするパターンが多いかということまで、全部分かっているから。それを繋いでいって、｢内が開くな｣というのが見えるんでしょうけどね。恐いレースですね。

菱：ギリギリのところだと思うんですけど。スゴいなと思います。全部が見えているから、ああいうことが出来るんだろうなと。

－：あれは府中じゃなくて、中山ならではというか、中山って最後、結構内が開きますからね。

菱：そうですね。ちょっとバラッとするんですよね。短いのもあって、みんな急ぐので。

－：急ぐのもあって、坂で疲れるのもあって、G1のゴール前も中山は結構、内が開くことが。開いたとして、そこまでに脚が残ってないと意味がないんですけど。

菱：アレが一番、僕は印象が残ってますね。

－：自分のベストレースではやっぱりタニノシュヴァリエですか？

菱：はい。一番上手くいったかなと思います。ちょっと4コーナーで窮屈になったとこがあったんですけど。すごくかわいい馬で、その時も完全に無印やったんですけど、僕はチャンスがあると思ってましたし、馬を信じることが出来ました。結局、競馬もすごくリズム良くいって、よく頑張ってくれて、嬉しかったです。

－：じゃあ、これからは追い込みの菱田を見せてくれると。

菱：好位から抜け出す競馬だけじゃなくて、後ろから馬の最後の終いの脚を活かすような競馬も覚えれるようにしたいです。

－：それを嵌めようとしたらダートの方が、嵌まりやすい気がしますけどね。最近、芝コースがやっぱり硬くなってきていますから。それでは2013年の目標を。

菱：早く重賞に乗って、勝ちたいです。

－：重賞はまだ、乗ってないですか？

菱：乗ったことがないです。

－：中井騎手は乗ったんですよね。

菱：乗っています。夏、小倉で乗ってますね。まあ、早く重賞に乗ることと、勝つことです。数字とかはないですね。やっぱり、自分でも意識し過ぎない方が良いなというのもあるのですけれど。

－：僕らをワクワクさせるジョッキーになって下さい。

菱：がんばります。よろしくお願いします。

(写真・取材)高橋章夫

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≪関連リンク≫

同期の中井裕二騎手インタビュー →