高木大輔助手(田村康仁厩舎所属)
武豊さんがディープインパクトに対して「変わらない事が良い」ってコメントされていた事があったんですよね。今のメイゲツにもそれが当てはまるのかなって…。
2009/11/20(金)
高木大輔助手(美浦・田村康仁厩舎所属)(ニシノメイゲツ担当)
‐:東京スポーツ杯2歳ステークスに出走を予定しているニシノメイゲツの調教を担当する高木助手にお話を伺います。結構メンバーが揃いましたね。
高:各厩舎の期待馬が集まって来ますからね。毎年この東スポ杯2歳ステークスはレースのレベルが高いですよね。
‐:その中でニシノメイゲツも注目される成績を残して来ていらっしゃいますが、新馬戦からインパクトのある勝ち方でした。
高:そうですね。そんなにデビュー前から稽古で目立っていたという感じでは無かったんですけどね。
‐:そうなんですか。
高:ただ、感じとしては、牧場から厩舎に来た当初から我が強くて、物凄く元気が良かったんですよ。だから、あまり攻め馬でガンガン攻めてしまうと、競馬までに良くない方向へ行ってしまうんじゃないかという不安があったので、あえて物凄い負荷をかけた調教をしていなかったという事もあるんですけどね。
‐:速い調教タイムを出すよりも、どちらかというと気性面を考慮した調教をされたんですね。
高:そうです。だから目立たなかったというのもあると思います。また、一般のファンの方は調教タイムなどの数字ぐらいでしか馬の評価のしようがないじゃないですか。タイムは関係無しに、馬が走っている映像を見れば「ああ、この馬は走りそうだな」っていうのも分かるんですけど、新馬だとなかなか映像まで見れないでしょうし。デビュー前から凄い時計が出ていたわけでもなかったので、そんなに人気も…。2戦とも一番人気ではないですよね?
‐:デビュー戦が3番人気で、2戦目の芙蓉ステークスが2番人気です。
高:ただ、僕たち厩舎の考えでは、あえて時計を出していなかったという事もあったし、間違いなく走るだろうという感じはありました。
‐:入厩してくる段階では、牧場のニシノメイゲツ評はいかがでした?
高:元気の良いタイプの馬ですよ、という話でしたね。
‐:そうしたら本当に元気が良すぎるくらいに良かった、と(笑)。
高:最初の頃は特に大変でした。メイゲツの調教が終わると「今日一日の仕事は終わったー」と感じるくらいに、神経もパワーも使いますから。キャンターを止めた時に「ああー、終わったー」って(笑)。人間もヘロヘロです(笑)。
‐:そんなにガックリ来るんですね(笑)。
高:凄いですよ。馬は力があるから、抑えるのにも凄く力を使いますしね。生半可な力では抑え切れないし、力では100%負けますから。逆に力だけに頼らずに抑える事もしないといけないですしね。
‐:高木さんはデビュー前からメイゲツに乗っているんですよね?
高:はい、入厩してきた初日から乗っています。2歳馬はトレセンの事を何も分かっていませんから、最初が肝心なんです。最初に正しい方向へ導いてあげないと、良からぬ方向へ進んでしまうので、そこだけはしっかりと人間が正しく馴致してあげないといけないですね。
‐:人の事をナメてくる馬もいるんでしょうね。
高:いますよ。こちらの様子を探ってくる馬もいますし。
‐:そうなんですか。それで、メイゲツは間違った方向に進んだらとんでもない事になりそうな感じを受けたというお話でしたけど、デビュー戦の頃にはある程度良い方向へ向いてきたんですか?
高:はい。メイゲツは自分自身で抑えが利くといいますか、本当に理解力のある子だったんですよ。本質的に頭が良い馬だと思います。
‐:学習能力が高い、という事でしょうか。
高:そうです。本当に覚える事の出来ない子だったら、人間の教えた事を全然理解出来ずに突っ走って行っちゃうんで。メイゲツはそういうところが無くて、人間が修正してあげた方にちゃんと来てくれているんです。ヤンチャではありますけど、頭は良いんですよ。こちらが修正して、良い路線に乗りつつあって、それが今もブレないでキッチリ来ているという感じですね。
‐:厩舎が「こう育って欲しいな」と考える方向に進んでいるんですね。
高:はい。でも、それも一歩間違えると崩れてしまうし、今もヤンチャなところは随所に見せるので、軌道修正しながらやっています。ただ、デビュー前に比べれば今は本当にラクですね。僕らは何年も馬をやって来ていますけど、結構、走る馬っていうのは手のかからないタイプが多いんですよ。全ての面において優秀なんですよね。教えた事は吸収するし、無駄な事はしないし。
‐:高木さんが今まで手がけたオープン馬にはどのような馬がいらっしゃいますか?
高:イブロンやソーマジックですね。
‐:その馬たちも学習能力は高くて。
高:そうです。でも、やっぱりオープン馬になるような素質のある馬は、紙一重のようなところがあるんですよ。物凄いパワーがあるんだけど、それが間違った方向に進んだら、ちょっと手を付けられないな、という感じで。走る馬ほど、その光と影の差が激しいというか。
‐:ニシノメイゲツも、まさにその条件に当てはまっているんですね。
高:そうですね。名前も…(笑)。
‐:メイゲツ…。光と影を感じさせるような…。まさかそれを見越して名付けたわけではないですよね(笑)。
高:光続けて欲しいです(笑)。
‐:確かに(笑)。それで、デビュー戦をインパクトのある勝ち方をしましたけど、一回レースを使った後に、目立った変化はありましたか?
高:正直、変化は無いですね。でもそれがいいのかな、と思います。
‐:そうなんですか。
高:僕、関係者のコメントを結構チェックしているんですけど、武豊さんがディープインパクトに対して「変わらない事が良い」ってコメントされていた事があったんですよね。今のメイゲツにもそれが当てはまるのかなって思います。今が凄く良い状態なので、変わらなくていいんですよ。
‐:なるほど。
高:まだ2歳だから身体的なものは変わって来るんでしょうけど、状態も良いですし、向かっている方向性としては変わらなくていいと思います。
‐:その良い状態を保ちながら芙蓉ステークスに向かったわけですが。
高:芙蓉ステークスでは、一回レースを使った事によって、馬のテンションが上がってガツンと来ちゃうんじゃないかなと思っていたんですよ。でも意外や意外、全くその逆で、道中ちょっと置かれてしまうような感じだったので、見ていて「あれ?」と。
‐:割りと前の方の位置でレースをするのかと思っていました。
高:それが思いのほか後方からのレースになって、しかも4コーナーでは外に振られて。もう、馬場の真ん中まで飛んで行っちゃうんじゃないかという感じだったんですけど、そこからの伸びがもう全然、他の馬とは違って。
‐:勢いが。
高:はい。だから相手がどうのこうのではなくて、メイゲツはメイゲツだけの競馬をしてきたみたいな感じでしたね。「俺はこれだけ走れますよ」と。そんなに着差は開いてないですけど、ちょっと脚力が違うな、と感じさせてくれたレースでしたね。
‐:内容の濃い勝ち方が出来て。予想していた走りと違う形で、嬉しい誤算といった感じもありましたか?
高:そうですね。この馬のお父さんはデュランダルですし、お母さんのニシノムーンライトも1600、1800くらいの馬だったので、血統的に見ればスプリンターかマイラーかなと思っていたんです。中山のマイルでギリギリかな、と思っていたんですけど、意外に芙蓉ステークスでフワッとしていたので、現段階では折り合いに不安は無いのかなって。
‐:良い感じでリラックスして走れますよ、と。
高:もっとガツンと入ってしまって、1200、1400くらいの馬になるのかなという気持ちもありましたけど、マイルでああいう競馬が出来たので、楽しみが大きくなりましたね。
‐:レース後の状態はどのような感じでした?
高:やっぱり新馬を使って中一週でマイルをまた使ったので、レース後2週間くらいは、飼い葉を食べてもそれが身にならない状態でした。それで少し体が減りましたけど、それを越してからは急激にまたグーンと体がふくらんで来て、今現在は芙蓉ステークスの時よりも増えたくらいです。
‐:飼い食いは割りといつも良いんですか?
高:良いですよ。
‐:普段の調教では、距離をもたせるような意識をされたりしているんですか?
高:いえ、そういう意識はないです。とにかく落ち着かせて、という感じですね。あの馬は我が強い割りに結構小心者なんですよね。
‐:え?
高:一頭だけになると「もう不安でしょうがないです」みたいな感じになるんですよ。周りに他の馬がいると、威張っているというか我の強さが出るのに、一頭になると「うわー…、何か…凄い寂しいんですけど」みたいな感じになっちゃって。
‐:全然態度が変わっちゃうんですね。
高:本当にそうなんですよ。だから、デビュー前から常にメイゲツのパートナーを付けて、必ず2、3頭で調教するようにしています。その方が調教もスムーズなんですよ。「先輩に付いていけばいいや」みたいな感じで落ち着いて調教が出来るし、キャンターなんかも凄く折り合いが付きます。でも、自分が先頭を切ったり、一頭だけになっちゃったりすると不安で不安でしょうがないみたいで、ガーッと飛んで行っちゃったりするんですよね。
‐:パニックになっちゃうんですか?
高:そんな感じです。
‐:それで普段はパートナーを付ける事を意識されているんですね。
高:そのパートナーも、ちゃんと先輩として誘導してくれるような馬じゃないと、メイゲツにとって勉強にならないので、常に良い先輩に付いてもらって。
‐:そうやって、調教の環境を整えていらっしゃるんですね。芙蓉ステークスの後も、良い意味で変わらずに来ている感じですか?
高:はい。本当に稽古に関しては、常にパートナーを付けて落ち着けていますし、今のところは手こずるところはほとんどないです。かなり高いレベルで安定して、体調も相当良いんじゃないかと思います。
‐:精神的にもしっかりして来た感じで。
高:うーん…でもまだ子供ですよ。調教の時にも、若いなと感じるような事はあります。トレセンは月曜日が休みですから、休み明けの火曜日、水曜日は特に元気が良いですね。それで稽古を進めて行くので、土曜日、日曜日くらいになると悪さもしないし、落ち着いていますので調教はしやすくなりますけど。
‐:それでまた月曜日の休みを挟んで元気になって、の繰り返しで。そういう元気でヤンチャなところをかわいいと感じたりされます?
高:かわいいという感じではなくて「コノヤロー、クソガキめー」みたいな感じですかね(笑)。メイゲツは遊んでいるつもりでも、乗っているこちらは危ない思いをする事もあるので。でも、後になって「いやー、あの馬苦労したな。怖かったな」っていう方が、振り返った時に思い出すんですよね。
‐:そうなんですか。
高:案外そういうものなんですよね。何の手もかからない走る馬よりも、物凄く怖い思いをした馬の方が、思い出しちゃったりするものなんですよ(笑)。
‐:インパクトが強いんでしょうね(笑)。人間でも「手のかかる子ほどかわいい」という言葉もありますけど。
高:そういう感じなんでしょうね。
‐:でもそんな手こずらされたメイゲツが軌道に乗ってきて、調教で乗っている高木さんにしては、馬がちゃんと教えた事を覚えてくれるって嬉しいですよね。こう育って欲しいからこういう乗り方をするんだよ、と伝わっているというか。
高:そうですそうです。
‐:自負心がありませんか?「メイゲツは俺が乗ったからこう育ってきた」というような。
高:いや、そういう気持ちはないですね。僕は常に馬作りに関しては、自分だけが上手く乗れてもダメだと思うんですよね。やっぱりどの人が乗ってもきちんと制御が出来て、キチッと調教が出来るような馬作りをしていかないとダメなんじゃないかなと思っています。
‐:他の人が乗ったら、全く制御が出来ないようだったら…。
高:「高木しか乗れないじゃないか」っていう事になっちゃうじゃないですか。それも助手としては助手冥利に尽きるという言い方も出来るんですけどね。それだけ技術が高いという事で。でも、そうではなくて、誰が乗ってもきちんとした調教が出来るっていうのが僕の理想なんですよね。そうでないと、厩舎全体で見た時にどこかで歪みが出てくると思うんですよ。
‐:特定の人しか乗れないと厩舎全体に影響が出るんじゃないか、と。
高:そうです。だから、最初僕が担当していたイブロンは、今年に入ってからは若い子にチェンジしたんですが、その彼が乗ってもちゃんと調教が出来るので、それは嬉しいですね。僕がやって来た事は間違っていなかったな、良かったな、と思えるので。
‐:なるほど。では話をニシノメイゲツに戻しまして、いよいよ今週は試金石ともいえる舞台ですが、高木さんは、現時点でのニシノメイゲツのセールスポイントはどこだとお考えですか?
高:やっぱり爆発力ですね。一瞬だけビュッと良い脚を使うタイプではなくて、ポンと点火すると、そこからグググググッと上がっていくような感じなんですよね。中山のレースでも大外からグーンと上がっていったじゃないですか。だからその持続する爆発力が良さかな、と思います。
‐:長く良い脚を使えますよね。東京の長い直線に合いそうですね。
高:合うと思います。
‐:今回は初めての左回りになりますが、その点はいかがですか?
高:調教でも左回りで速いところを乗って来ていますし、右回り左回りで違和感を感じる事はないです。レースでも結局、東京の1800メートルは多くの馬にとって初体験で、メイゲツだけが初めてというわけではないですし、その辺は気にしていません。
‐:こういう展開になって欲しいというような理想はありますか?
高:いえ、特に無いです。メイゲツは、相手うんぬんだとか展開は関係なく、とにかく自分の競馬をするだけですから、上手く力を出して欲しいです。
‐:自分の競馬というのは、やはりセールスポイントである爆発力を上手く生かせる形ですよね。今回も北村宏司騎手の騎乗で乗り慣れていらっしゃるでしょうし心強いですね。
高:北村騎手にはデビュー前から一回稽古に乗ってもらった事もありますしね。メイゲツはあまり乗り手を頻繁に変えない方がいいと思います。感性の強い馬なので、そういう変化があると感じ取ってしまうんですよね。だから常に同じリズムで、変えずに行った方がいいんじゃないかなと思います。
‐:そうですか。土曜日、楽しみですね。
高:そうですね。結果は、競馬なのでどうなるかは読めないですけど、とにかくこういう舞台に参加出来て、しかも、チャンスの大きい馬で参加出来る事が有り難いですね。やっぱり、みんなこういう事があるからこの仕事をやっているところもあると思いますしね。また先が楽しみになるようなレースをしてくれれば、と思います。
‐:応援しています。今日はお忙しい中ありがとうございました。
高:ありがとうございました。………。
‐:どうされたんですか?
高:いや、メイゲツ、今日木曜日は一日ラクをしているから、また金曜日の調教が大変なんですよ(笑)。どうしようかな、とずーっと考えています(笑)。
‐:頭の片隅にはいつもメイゲツの事があるんですね(笑)。
高:ありますよ。大きな存在ですからね。
‐:いい形でレースに向かえるといいですね。
高:そうですね。頑張ります。
‐:二度目になりますがありがとうございました(笑)。
高:ありがとうございました(笑)。

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田村師が「ウチの厩舎の助手はどこに出しても恥ずかしくない」と言うほど、信頼を得ている。09年東京スポーツ杯2歳ステークスに出走するニシノメイゲツの調教を担当している。 |








