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安田景一朗調教助手

安田景一朗調教助手(栗東・安田隆行厩舎)


一昨年のジャパンダートダービーを制し、陣営としてもトランセンドの後継を意識していた中での蹄骨骨折。その戦績を辿るだけでも苦労は想像に難しくないが、そこはやはり精鋭揃いの名門厩舎。今年緒戦の東海Sを快勝し、目標のフェブラリーSにピタリと照準を合わせてきた。的確なジャッジを話していただけることでもお馴染みの安田景一朗調教助手に、またまた貴重なコメントを残していただいた。

致命的な蹄骨骨折からの復活劇

-:東海Sはおめでとうございました。

安田景一朗調教助手:ありがとうございました。

-:見ていても、あのレース振りにはビックリしたんですけれど。

安:本当に蹄骨骨折から、僕らもいつ復活してくれるのかなというのをずっと思っていたんです。休養明けからの初戦のブリリアントS(15着)から始まって、ジュライS(6着)は正直……。元は質が良い馬なので、それなりに攻め馬も走ってくれるし、乗り味なんかも良いんですけれど、能力でどこまでやってくれるのかなという。やっぱり、一番成長する時期、本当に“これから”という時の休養だったのが、かなり痛手で、能力でどこまでやってくれるのかなと思っていたんですけど、最初の2走はさすがに甘くなかったです。

それでも、厩舎も僕らも焦らず、オーナーの了承を得て、大事に使って、本当に良くなってきました。道のりはここまで6戦ですかね。タイトルが取れましたけど、長かったですね。正直、このレースは自信がありましたね。状態が全然、違ったので。それは前々走のジャパンCダートが賞金の関係で入るか、入らないかという感じで、2週前登録でギリギリ16番目だったので、じゃあ、放牧先から入れようかという感じで、実質的には2本ぐらいしか追い切りをしてないんですよね。

その中で見せ場タップリで、あの競馬だったので。レース直後は東海Sを目標にして、今回は12月の半ばから中旬ぐらいに入れて、ハードに乗り込むんじゃなくて、丁寧に丁寧に毎日を調整していったので、本当にゆとりを持って、このレースに挑めました。なおかつ馬もJCダートとは比べ物にならないぐらいの状態でしたし、これを負けたら本番はないな、これから先はちょっとどうなのかな、という思いはありました。


-:グレープブランデーは蹄骨を骨折したんですけれど、ファンの人は蹄骨をイメージできないかもしれないので、簡単に説明してもらって良いですか?

安:そうですね、本当に蹄ですよね。前脚の蹄の中。蹄底じゃないんですよね。言葉じゃ説明し辛いんですけれど、グレープブランデーの場合は端の方。真っ二つに線が入るような感じでした。

-:蹄骨の骨折というのは能力喪失の場合も?

安:ということもありますし、ウチの馬はワンカラットと同じかなみたいな。蹄骨というのは、今まで有名なところでは、現在は種牡馬のスパイキュールとか、完全に能力損失ですよね。本当にダメで、復帰して調教をしても、遠慮して違う脚をやっちゃったりだとかもあるんですけれど、この馬は幸い、そこまで重症じゃなかったんでね。多少は脚をひきずるようで、ヒドい歩様でもなかったので。ちょっと抑えているかなみたいな。



-:馬の全体重が蹄に掛かって、それを支えている基の部分ですからね。

安:ちょっと、ウォーキングマシンで尻っぱねをした際にどこか、つきが悪かったとか、マシンから出てきたら、歩様が悪かったという感じですね。競馬だったら、もっとヒドかったかもしれないのでね。本当にあの時は……。

-:目の前が真っ暗になるというような?

安:そうですね。トランセンドのライバルになると思ってたので。でも、キ甲も抜けてなかったので、まあ、良い休養になるかなとは思ったんですけれど。正直、去年の春から夏にかけては苦しかったですね。ああ~、こんなに厳しいんだと。やっぱり乗ってて、良い馬は良いんですよね。だから、やっぱり期待しちゃうんですよ。ローマンレジェンドには完敗でしたし、やっと小倉の準オープンみたいなメンバーで勝って……。

阿蘇Sでもまだ、状態は良くなかったですし、次のシリウスSも何か道中、ハミ掛かりが悪くて。ブリンカーを着けたみやこSはグッとハミを取ってくれたんですけれど、手応えほど伸びず。JCダートもよく頑張ったんですけれど、僕らが思っているグレープはもっともっと最後までシブとい脚を使うという感じだったんですけれどね。何か物足りないなという感じでした。でも、JCダートがあったから、この勝ちがあったのかなとも思いますよね。


-:阿蘇Sでは、あの頃の体重は今よりも16キロぐらい軽いんですよね。

安:そうです。輸送ですね。輸送がちょっと苦手でね。

-:フェブラリーSも輸送にはなりますよね。

安:最初、一昨年のユニコーンSで506だったんですよね、輸送で。次のジャパンダートダービーは516で出られました。阿蘇Sもそうですけれど、正直、今回が本番ですし、攻める、なおかつ、残しておくみたいな感じで、今は裸で542あるので、輸送で12~14減ると思うんですよ。520台後半になるかな……。

厩舎の看板馬と1600仕様の調教

-:グレープブランデーを普段、見ていると、性格的にややうるさいというか、チャカチャカした面がありそうな気がします。

安:厩務員の児玉さんはけっこう大変だと思うんですけれど、僕は乗るだけなので大丈夫です。2歳の来た頃は最初の5日ぐらいは本当にうるさかったですけれど、そこからは……。僕が乗ったら、何か言ったら怒られるみたいな風に感じていますよ。児玉さんが乗ったりしたら、坂路上がるじゃないですか。次にポリトラックに行きたいなと思っても行かないんですよ。コイツなら大丈夫だと。僕が乗ったら、怒られるから。そういうのもありますし、僕が乗る時は何もしないですね。

-:嫌なヤツじゃないですか。人を見ながら(笑)。

安:そうです、そうです。だから、頭が良いんですよね。コイツはスゴく頭が良いんですよね。

-:それでいて、暴れ出した時の迫力はスゴいですね。

安:スゴいです。

-:この馬の一番特徴的なのはダート界の中に入ると、若干、芝馬っぽいルックスなんですよね。

安:ああ、そうですね。

-:パワフルさがないとか、線の細さがあるとかじゃなくて、ラインがスゴくキレイなんですよね。

安:そう、キレイですよね。

-:顔も良いですし。

安:乗っていても、芝でもいけるんちゃうかなという。まあ、それなりにやれると思うんですよ。すみれSも2着でしたし。ただ、やっぱり本当に芝を勝ちに行くなら、函館記念かなと。

-:時計の掛かる?

安:やっぱり、切れとなると一杯いますし、苦手ではないと思うんですけどね。

-:そういう意味では去年のみやこS、JCダートというのはまあ、みやこSは京都というのもありますけれど、時計が速かったですし、JCダートも阪神に舞台が替わっているのにかなり速い時計で、この2戦を考えるとグレープブランデーの適性というか、ベストの条件からは外れているのかなと思ってたんですけれどね。東海Sでは普通のダートというか。

安:ええ、けっこう風もきつかったですしね。

-:その中でパフォーマンスを出したということを考えると、フェブラリーSでは距離が?

安:心配と言えば心配です。ルメールも「ちょっと忙しいかな」という感じでしたけれど、前半はゲートを出して、持つみたいな競馬が理想かなと思うので。例えば、急がしたら嫌気を差すとか、ないんですよね。最後まで一所懸命走るという感じで、浜ちゃん(浜中騎手)に言ったのはユニコーンSを見てくれと。

最初、芝でちょっとモタついて、状態は今まで走ってきた中で、あのレースが最悪やったんちゃうかなと。それで終いもアレだけ伸びてくるし、あの競馬を見て、どう思うか。あのレースを一番見て欲しいんですよね。彼もそれを見たら、忙しいんかなと思うと思うんですよ。でも、それを見ることで、色々、考えてくれると思うしね。1600のG1で強い馬が一杯いるのに、もちろん、勝ちたいですけれど、そんなに簡単じゃないと思うし。でも、絶対終いは伸びてきますよ。


-:この馬、結構、競馬が上手いんですよね。4コーナーではいつもソコソコの位置にいて、期待を抱かせるというか。

安:そうなんですよ。

-:そこから伸びるためには馬場コンディションとかもベストの条件じゃないとダメですし、体重とか輸送もクリアしないとダメだと思うんですけれど、1600だから短すぎるということはないですか。

安:これが船橋のかしわ記念とかだったら、ちょっと心配ですけれど、東京の1600と言ったら、1600ギリギリの馬は絶対、キツいと思うんですよ。1800を走れる馬じゃないとダメだと思います。まあ、1600のG1なので、本当にタフなレースになると思うし、その点では持ってこいです。あとは3コーナーまでが長いじゃないですか。長いから少々、最初の200mぐらいちょっと出していっても、自分のリズムになると思うんですよね。

-:なるほど。それが早めにコーナーがあったりすると、ちょっとモタついた分が後々に響いてくると。

安:そうです。距離は正直、やってみないと分からないですけれど、全く対応できないとも思わないです。1600仕様の調教をやってますし、今日も。体はできてますし、中身もできているので、57でハミを前半ガッチリ掛けて、ケンカをしながら抑えて、それでドーンというね。相手もロードカナロアとかと併せたり、とにかくプレッシャー、プレッシャーで。

-:それは安田厩舎流の1600に合わすグレープブランデーの持って行き方ですね。

安:最近は強い馬と併せようかみたいな感じで。それから結果もついてきました。前回、グレープブランデーはダッシャーゴーゴーと併せたり、ダッシャーゴーゴーがグレープに併せたりだとか、カレンチャン、ロードカナロアとか色々ね。時計を出すより、54、55前半でケンカ、ケンカ、ケンカ。絶対にソッチの方が負荷が掛かりますね。

-:馬もシンドイですもんね。

安:シンドイでしょうし、本当に外国流ですよね。外国人はハミを抜かないじゃないですか。ガッツリとそこで我慢して、ドーンでしょ。だから、そういうのを去年の夏過ぎぐらいから厩舎全体が考えて調教をしています。



-:日本の馬でそれができるかとなると、かなり技術的に難しいですよね。

安:はい。だから、前回のルメールのグレープブランデーもアッパレですよね。海外の競馬は前半がスローで、直線がドーンじゃないですか。彼ら独自のタメ方というのがあると思いますし。コレが日本人とかだったら怖いけれど、外国人が乗った後の次というのは、エエんとちゃうかなというのは……。

-:だから、ハミを掛けて手綱を持っているのにリラックスをさせているというかね。

安:そうなんですよ。

-:それで絶対、頭は上げさせない。

安:言ったら、日本人ジョッキーは拳を上げるじゃないですか。外国人はガッツリ上げない、ブレない。下半身ですよね、先週、ウチのカレンジェニオという馬が、8番人気でビュイックで勝ったんです。結構、口が硬いんですよね。ガシャンとグァーンと出して、グァーと抑えてタメて、アッサリと勝っちゃうんですよね。アルゴリズムの下のサンライズトークという馬が正月の一発目にビュイックが乗って。乗り難しい馬をいとも簡単にタメて、残すという。

-:正月最初の初勝利になったやつですね。

安:そうです。やっぱり、外国人が乗った後の攻め馬は変わるんですよね、グレープにしろ。痛んでないんですけど、ギンギラギンギラ良い意味でしているので。

-:それを日本のリーディングの浜中騎手がどう乗るか。

安:正直、彼がヨーロッパの乗り方のマネをしてもできないと思うのですけれど、スゴく冴えるでしょ。そこは。

-:勝負勘がある。

安:スゴいですよね。だから、彼が乗って負けても納得できそうな期待がありますよね。

-:グレープブランデーにとったら力強いパートナーですね。

安:そうですね。本当に僕の中では浜中君か岩田さんかなという風に考えてたんで。やっぱり、ズルい競馬で勝ちますから、彼らは。

安田景一朗調教助手インタビュー(後半)
「舌を縛った東海Sで一変。今回も!」はコチラ→

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【安田 景一朗】 Keiichiro Yasuda

1978年10月27日生まれ。栗東生まれ、栗東育ち。父は安田隆行調教師。弟は同じく安田厩舎で、先日のスプリンターズSを制したカレンチャンなどを担当する翔伍調教助手。

ジョッキーであった父の影響で自然に競馬に興味を持つ。小学校5年から乗馬を始めると、栗東高校で馬術部に入部。スポーツ推薦で青山学院大学に入学。

そこからノーザンファーム、競馬学校を経て、2002年6月に約半年間、作田厩舎に所属。2003年1月から安田隆行厩舎に所属し、現在は調教師試験も受験しつつ、厩舎のスポークスマンとしても活躍している。

安田隆行厩舎については、「みんないいスタッフで、いい時も悪い時も力を合わせて頑張ってくれます。調教師も仕事が終われば親だけれど、調教師としても従業員を信頼してくれるし、先生のおかげで楽しい仕事をさせてもらっています。スタッフの声にも耳を傾けてくれる調教師であることには感謝しています」とのこと。