関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

濱田多實雄調教師

濱田厩舎の育成方針

-:そして、厩舎を開業されまして、調教の面はどういう感じでこなしていますか?

濱:運動時間を長く取ることですね。下乗りをちゃんとして、ウォーミングアップをシッカリとやってから、坂路、または馬場を1周ぐらいですね。運動時間はしっかり取りたいなと思っていたので、そこは削れませんから。その分、担当制なんですけれど、協力しながら、なるべく無駄に長く仕事をせずに要領良く。

-:具体的に言うと、曳き運動はこの人がやってと?

濱:まあ、そういうことですよね。要するに自分の馬1頭を全部するのではなくて、乗っている人が跨っている間に残っている人は曳き運動とかして。時間があれば調教も見て、というのもありますけど。

-:それは理想的ではありますけれども、今までのスタイルでやってきた年輩の方からしたら?

濱:わずらわしいことだと思います。全部オールでやるならできると思うんですよね。そういうのは関係ないから。担当制で自分の馬もありながら、ということなので。でも、不満があるのかもしれないですけれど、別に不安もなく、すごく協力的にやってくれています。嫌な顔は見たことがないですから。シンドイな、という顔はたまに見掛けますけれどね。

-:引き継がれた厩舎は新川厩舎。そこのスタッフさんが中心ですか?

濱:ええ。コミュニケーションも取れていますよ、スタッフ同士で。最近(スタートする)の厩舎はこういうことをやるだろう、という腹づもりで来てくれてますし、こういうことなんやな、と思いながらやってくれてます。まあ、まだ開業して2週間ぐらいなので、段取りとかが上手くいかなかったりすることがあるんですけれど、毎日、徐々に流れが良くなってきてるんで。

あとはこれからはやっぱり、小林厩舎じゃないですけれど、入れ替えとかもしていかないと馬も使えないですし、レースに使えない馬をずっと置いておいても馬主さんに負担が掛かるだけだから。間隔を開けないと使えないとか、何回か使って出したり、12馬房しかないので回転させていかないとね。また誰か違う手になるかもしれないですし、そのへんはみんな納得済みでやってくれてるんでね。


-:近隣の牧場との連携とか、色んな短期で出せる牧場を知っていないと?

濱:難しいですよね。僕も今、やりつつという感じですね。自分の出身でもある三重ホースは、栗東から1時間半ぐらいの近さですし、他の調教師の方なども結構、使っているんです。重賞の馬でも10日競馬で、2週間で使って、三重ホースから入って使って、結果を出しているので。
僕も指示は出すこともありますが、向こうの方がノウハウをわかっているので。変に調教をするんじゃなく、極端な話、牝馬の食べない馬が向こうに行ったら食べて、フックラして帰して、ポンと追い切りをかけて、すぐに使うという使い方が一番良いかなと。短期放牧という意味で頼みやすいですね。


-:馬が一旦、戦闘モードからオフになることが大事ですね。

濱:それですね、今、よく言いますね。何回か出してたら、ココでは馬はシンドイことをされないということで馬も楽になるので、そういうのは大事ですね。やっぱり運動学的なことはスゴく発展して、どういう筋肉を使ってとか、どういうスピードで、心肺機能が、というのはみんな研究されているんですれど、生き物なんでね。

これだけの栄養のあるカイバを食べて、どの馬も同じ筋肉が付いてと、絶対そういう訳じゃないので。消化する馬もいれば、消化の悪い馬もいるから、個々の個性があるし、何といっても生き物なので。精神的な面はやっぱり大きいので、そういうところを、やっぱり調教を大事にしていきたいんですよね。


-:日本人が一番、馬に対して忘れている部分が?

濱:特に僕もまだ、2週間で調教師という立場になると、番組を見て“ココが使える、時計が出て、コレは使える”と段々、自分が離れていってしまうというのを、ちょっと感じるんですよ。だから、調教でも馬のところにいて、息遣いとかを感じておかないと、忘れてしまいそうになりますよね。ココ使って、ココ使って、とか、そういうことばっかり考えていると。馬の入れ替えとか、それはもちろん考えないといけないんですけれど、やっぱり馬を見て考えないといけないなと思いますね。

-:ということは、調教は結構、馬の傍で見てらっしゃるんですか?

濱:角馬場とかだったら近くで見ています。それで坂路を上がってくるのを上で見て、上がってきた息遣いとかを確認しています。それは技術調教師の時に2週間ほど、関東の加藤征弘先生のところにおじゃまさせてもらって、色々なことをやっていらっしゃったのです。その時も双眼鏡がビデオみたいになってて、それを毎日撮って、帰りにスタッフが全部、それを自分らで見て、チェックしてやるんですけれど。こういう別々の仕事をしているので、厩務員さんが結構、忙しかったら見に行けないんですよね。
ひたすら脚元とか、他の馬の手入れとかやってると、やっぱり、おもしろくないと思うんですよ。自分の馬がどうなっているか見たいし。そういう意味で僕もちょっとビデオを撮って、今日はこんなんでしたよ、と後で興味があれば見てくれたらなと思います。乗っている人も客観的に見て、勉強になると思いますしね。なかなか自分が乗っているのを客観的に見たら、“アレッ”ということが多いんでね。


-:ゴルフのスイングでも、こう打っているイメージがあるけどれも、見たら“アッ”というのがありますからね。

濱:攻め馬はみんな“自分は武豊!”と思って乗っているけれど、見るとアレッと。

-:ジョッキーのお話が出ましたけれど、ちなみにジョッキーはどういう方を使っていきたいと考えていますか?

濱:今のところ、そこはあんまり僕は拘ってないというか……。

-:所属されていた、谷厩舎のジョッキーと言ったら、結構、名門ですね。

濱:ですよね。幸騎手に頼んで乗ってもらうと思うんですけれど、いつも(騎乗依頼で)一杯です、人気の騎手やから。まあ、乗れてるジョッキーとか、あとは自分の感性ですか。こういう馬だったら、こういうジョッキーが合うかな、というイメージで。
まあ、あんまり個人的には騎手と距離は近づかないでおこうかなと思ってるんですよ。やっぱり結構、今はシビアな時代で、そこに感情が入っちゃうと難しいかなと思うんで。昔から幸とは谷厩舎の縁もあった仲間やから、特別な部分はありますが、彼以外では仕事っていう感じですかね。


-:今は先生がこのジョッキーが合いそうだというよりも、馬主さんからオーダーが?

濱:確かにそこも大きいので。なかなか僕の意見が通るとも限らないんで。

-:馬主さんの希望する乗り役さんをちゃんと乗せるのも調教師の仕事、みたいな?

濱:そういうのもやっぱり。まあ、そうやって調教とかもそうなんですけど、良い馬を連れて来て、良い乗り役を探してくるというのが大きな調教師の仕事かなと思いますね。生まれてきて、大体決まっていると言ったらおかしいですけれど、なかなか素質のない馬を上までというのも……。最大限できることはやっていきたいですけれど、やっぱり血統もありますし、そういう仕事かなと思いますね。

-:逆に最初から血統馬だったり、実績が出そうな馬たちって、なかなか入ってこないものなんですけれど。それをいかに走らせるかというのが、そこに当たりというか、思わぬ馬が出てくるかもしれないですしね。

濱:それが楽しみでやってますよね、この仕事は。

-:今(3/13)、在厩馬の中で未勝利馬が占める率というのはどれぐらいですか?

濱:6頭だと思います。登録は12馬房で30頭までできるので、そんなに多くはないと思うんですけどね。この間、運良く最初のレースで2頭ほど権利(※)とか取って、ちょっと初勝利に近づいては来ているので。その馬たちを何とかしたいという気持ちは強くなりますよね。
(※未勝利戦は5着以内に入ると、次戦での優先出走権が与えられる)



-:ファンが思っているよりも未勝利を勝たすことは大変ですね。

濱:ですよね。普通に競馬を見てたら、毎週3場だったら、その内の10何頭が勝ち上がっているから、それほど難しくないと思うんですけれど、厩舎サイドとしてはなかなかね。それこそ今の中京だったら、頭数も多いですし、使うのもなかなか難しいですよね。権利を取らないと自分の思うようなローテーションも組めないですしね。

-:しかもコンディションをちゃんと作って、相手関係も見て、適性も把握して、ジョッキーも押さえて。上の条件の馬と言ったら、一番上が1000万ですか?

濱:そうですね。転厩馬なので、まだ(取材時は厩舎に)入ってきてないですけれど、転厩馬であろうが、全部、新川さんの馬やったりする訳ですから、全部、一からと一緒なんでね。でも、下から上がって行こうとすると、それはそれでおもしろいかなと思うんですけれどね。いきなりオープン馬が来ても、それはそれでも良いとは思いますし、勉強にはなるとは思うんですけど。

-:傍から見ると、下級条件の馬が多いと大変そうかな、という感じも?

濱田多實雄調教師インタビュー Part.2はコチラ→

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インタビューPart.1 (前半)はコチラ→

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【濱田 多實雄】 Tamio Hamada

1972年 大阪府出身。
2012年に調教師免許を取得。
2013年に厩舎開業。
JRA通算成績は0勝(13/4/14現在)
初出走:
2013年3月2日1回阪神3日目5Rテイエムオーライト


高校卒業後、調理師の専門学校に進学。アルバイト先の喫茶店で、大の競馬ファンだったというマスターのすすめで競馬界に足を踏み入れることに。
専門学校の卒業とともに4年間、三重ホーストレーニングセンターで勤務。メガミゲランなどに跨った。その後は競馬学校の厩務員課程を経て、トレセンで従事。小林稔厩舎、谷潔厩舎で経験を積み、2013年3月から厩舎を開業した。
厩舎のトレードマークには桜のモチーフを登用。「いつかは世界へ出たいという気持ちもありますし、そこで日本から来た、という象徴的なものを考えました」とその由来を語る。