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永田公生厩務員

2歳時はウインバリアシオンやレーヴディソールというG1級と互角の勝負を演じていたメイショウナルト(セ5、栗東・武田厩舎)。そこから極度のスランプに陥ったものの、去勢、普通なら考えられないローテなど、紆余曲折を経て、小倉記念でいよいよグレードレースへと帰ってくる。陣営もが度肝を抜かれている愛馬のエピソードについて、ベテラン永田公生厩務員が飾らない本音を聞かせてくれた。

直線競馬大敗を経て突然の覚醒

-:小倉記念を予定しているメイショウナルトなんですけれども、2歳のデビュー時から期待されつつ走っていました。それが、最近までは低迷していたわけじゃないですか。去勢してから復活の気配をみせていますが、永田さんが直に接していて、一番変わったところはどこですか?

永田公生厩務員:そんなに特別、ここがどう変わったっていうのは無いんですよね。怖がりの面も変わらずだし。2歳の頃に比べたらだいぶ大人しくなってますけどね。それはもう5歳やから、年齢もあるだろうし……。

-:ただ、イメージよりも、馬房の中ではめちゃくちゃ大人しいですよね。

永:そうなんですよ、馬房の中は。その代わり、裏で何かあったりしたら、もう走り回ってますけどね。バッタバッタと。それ以外は、いつもボーっとしてるようなタイプです。

-:セン馬にするタイミングで、1年1ヶ月、空白の時期があるじゃないですか。その時は、まるっきり休んでいたわけではなくて、一旦、トレセンに戻って来たりもしていましたか?

永:2回くらい戻って来たんかな。あまり体調面が良くなかったので、まあ延び延びになって。

-:それで、結果的に休み明けが1年1ヶ月ぶりの新潟になったわけですね。

永:そう。1000mで。

-:また極端な条件でした……。

永:コーナーがなくて、ひょとしたらいいんちゃうか、という期待もあったんやけど。

-:実際に当日輸送してみたらどうでしたか?

永:競馬行ったらね、イレ込むっていうかバタバタ。馬が周りにいると落ち着きが無くなっちゃうんで、前掻きでカッカしてたりとか。普段はあんまり前掻きをする馬じゃないんで、まだ、ちょっと精神的に弱いのかな。



-:そういうところがありながらも、次のレースは京都の500万下で、いきなり芝の2200という距離を倍以上に延ばしたんですけれども、実は1800ダートに登録する予定だったという……。

永:オーナーの意向でね。でも、“それなら2200の芝に”って。これが、“ピッタリ賞”でハマったというかね、超ビックリしたんやけど。

-:しかも、この時の勝ち時計が2分12秒4で、2着馬をコンマ9秒ちぎって。

永:最後の直線だけでね。それもあと1ハロンくらいで。

-:2歳の活躍時から10戦くらい凡走してた今まではなんだったんだろう、という変わり身。レース前は“今回は良いぞ”っていう手応えはあったんですか?

永:全然、全く(笑)。ゴールしてみてビックリという。

-:ゴールするまではいつ止まるんだろうかという。

永:ずーっと見てたもん、ホンマに。3コーナーを回って“下がって行くやろ”と思ったら、3番手でジーっとしてて、4コーナーを回ってもジーっとしてる。直線に向いても、まだジーっとしてるから。抜け出した時は「アッ!」て思ったんやけど、それでも半信半疑やったもんね。

-:レースの次の週くらいに、秋山ジョッキーに話を聞いたんですけど「いや、何言ってるんですか?」もともとこの馬、走ってたじゃないですか」って。「僕は別に何もしていませんよ」って言うんです。

永:ほんまにねえ。確かに彼の言うとおり、本来の力なら500万くらいならねえ。

-:勝ってもいいじゃないですか。デイリー杯3着の実力を持ってすれば。それでも、相手をコンマ9秒ちぎったことなんか、未勝利でもないですから。

永:でも、未勝利でもちぎったよね、後ろ。5馬身くらいね、確か。

-:あれが一応、コンマ8秒なんですよ。だから、相手がもっと強くなってるはずの500万でコンマ9秒ちぎっていると。しかも、時計が2分12秒4って速いじゃないですか。

永:ユタカ(武豊騎手)も言ってた。「京都新聞杯を勝った時のキズナより、コンマ1秒遅いだけですよ」って。“よう調べてるんやな~”って思わされたわ。しかも、目一杯(の仕上げ)じゃないからね。まさか、あそこまで走ると思ってないし。

連勝、その時に天才が出走を進言

-:次のレース、武豊騎手が乗って、また半信半疑で見てたんですけど……。

永:厩舎のみんなも、“今回は掲示板もないやろう”って思ってたのに……。

-:3コーナー手前ぐらいで折り合いを欠くところがあったんですよ。そこからスッて我慢して、なんのことはなく、スッと回って来て抜け出すという。また驚くべきは、このレースで時計を縮めて、2分11秒8。京都から阪神に変わって、馬場も硬くいいコンディションだったんですけど、それでも今までの10何戦はなんだったんだろうという。

永:1回は惨めなタイムオーバーがあったし……。去勢したのが良かったとしか考えられへんし、普段から特別変わったことしてるわけじゃないしで。

-:そして、前回の中京なんですけれど、それでもまだ半信半疑で。

永:あそこで勝ち負けっていうか、真面目に走ってくれたら、もう凡走することないかなと。本質は相手なりに走ってくれる馬やから。

-:また走ったんですよね、中京で。この時が初の左回りだったという。調教されてる水本助手に話を聞いたら「ナルトは左回りの走りが綺麗やから合うよ「」って。その言葉どおり、ニューダイナスティには負けたけれど、強かったですね。

永:抜け出した時からね、一瞬「アッ!」て思ったんやけど。

-:完全に勝ち馬の目標になってますからね。いい加減、3回続けて走れば信用していいんですけど、問題はそろそろ疲れてないかと。関ヶ原Sを使った後のナルトの様子はどうですか?

永:ちょっと飼葉食いが落ちてるから、疲れが来てるのかなって思うんですけどね。約2ヶ月で3回使って、500万、1000万は楽な勝ち方してるけど、こないだは真面目に走ってたみたいなので。

-:ただ、極端に馬場入りを嫌がったりだとか、調教を休止したりだとか、そういう事はありませんか?

永:ないね。もうちょっと飼葉をバリバリ食べてくれたらいいんだけど。

-:元々、小倉記念というのは、武豊騎手が1000万を勝った時に「小倉記念に行きましょう」と、まだ1000万クラスの馬に対して言ったと。

永:そうなんだよな。



重をこなす下地はあるも理想は良

-:久々の小倉。小倉コースはナルトに合うとは思いまか?

永:今回は直前輸送で行かないといけないみたいなんで、それがどうなんか。今までは直前輸送が全然ダメというか、まともに走ってなかったから。今回はマトモに走りだしてから直前で行くのは初めてやからね。

-:そこがクリアできるかどうか。

永:誰か調教してくれる人がいたら1週間前から行きたいところなんだけど、どうもいない。そこだけやね。でも、直前輸送で走ってくれれば、これからあちこちに心配なく使いに行けますし。

-:パンパンの良馬場が良さそうですもんね、好時計が出るような。

永:速い時計でも対応してるから。後ろから行って引っ張ってもらってる走りじゃないから、競馬はしやすいですよね。

-:重になったら一回しか走ったことないんですけど、この馬の走り的にはどうなんでしょうか。そんなにめちゃくちゃは悪くなかったんですよね。でも、つなぎがちょっと立ってるじゃないですか。

永:重でもこなしてくれるような爪をしてるんやけどね。

-:そうですよね、サイズというか、大きさもあるし。

永:対応してくれそうな爪をしているんやけど。でも、良馬場の方が合ってますよね。

-:いろいろ常識的には考えられないようなところがある馬ですからね。ハーツクライ、スターペスミツコの父母と言えば、ここにまた全兄弟が2歳でデビューを控えていて。

永:早くデビューして欲しいわ、あの馬も。期待してるのに。

-:オーディンバローズっていうんですね。ナルトのお母さん、スターペスミツコの仔はセレクトセールでも毎年出てますからね。

永:あそこの牧場(浦河の鎌田正嗣氏)は毎年出て、そんな高くないながらも、ものの見事に全部売れてますもんね。

-:今年のセレクトでも、やっぱりナルトが連勝した後、関ケ原Sでも2着来てますから、すごい宣伝効果があったようで。

永:ネオユニヴァースで2700万だったかな。

-:見ていたんですか?

永:そう、ここ(大仲)でね、うちの調馬師が見てて、俺を呼ぶから何かと思ったら「スターペスミツコの子が出てるぞー!」とか言うてね。

メイショウナルトの全弟のオーディンバローズ

オープンでG1級の同期との再戦を夢見て

-:さて、ナルトは小倉記念が終わってから、どこまで行きますか。

永:今年中にはオープンには上がってくれるでしょう。

-:同期はオルフェーヴルやウインバリアシオン。

永:一緒に走ることもあるんかな。ウインバリアシオンとは野路菊ステークスで一回走って負けてるのか。勝ちたいなあ。あの時はこちらが本命で、あの馬には負けると思わなかったけど。

-:野路菊ステークスの感触をまたこれから取り戻しに行かないとならないですね。

永:そうですね。

-:これからの活躍も期待してますので、ナルトのファンにメッセージをお願いします。

永:ずっと応援してくれていた人の期待を裏切ってきてたけれど、復活したので、また応援してほしいですね。そういえば、パドックで幸が乗ると横断幕が出てくるんだよね。それが絶対、幸とのコンビやねん。

-:なるほどなるほど。じゃあ今回は出ないと?

永:前回も阪神で勝った時はユタカでしょ。で、秋山の時も出てないでしょ。それがね、幸が乗るとね、日本全国どこでも出てくんねん。

-:前回も中京に横断幕が出てたのですか?

永:小倉やから九州の人かなとずっと思ってたんやけど、それが2歳ステークス使った時もこっちをパって見たら、同じやつが出てるから、どこの人かなと。

-:今回、小倉記念でメイショウナルトの横断幕が出るかも、永田さんとしては注目所であると。

永:多分ないね、絶対、幸とコンビやもん。まったく同じやつ、柄が一緒やねん。幸のファンみたいだけどね、追っかけで。去年小倉で900勝上げた時も、900勝した次のレースからパドックの幕がV900かなんかに変わってたしね。追加されてて。だから、幸が乗るとおまけでナルトがついてくる、横に。

-:メイショウナルトはすごく顔のいい馬なので、パドックでハンサムなところを見てあげて欲しいですね。左側のあの白目。あれも一癖ありそうな雰囲気で。

永:一癖あるもん。検疫開いた時パッと見たら「えー!左目、白目向いてるやん」て。このへんも注目して見てくれると嬉しいです。






【永田 公生】Kimie Nagata

10年前の引退直前まで宮徹厩舎でマイネルブライアンなどを担当していた父の影響でこの世界に入る。柴田富士夫厩舎から厩務員生活をスタートし、2年目より武田博厩舎に所属。思い出に残っている担当馬は、チューリップ賞で降着になるなどし、京都のダ1400mだけで5勝したエーピーハルコッチ。ちなみに当時の勝ち馬は四位騎手が乗ったダンツシリウスだった。当時は900万以下という番組が存在し『あの当時は総賞金が1億を超えて、それに手当があったから、1億1000万くらい稼いで永田家を支えてくれた馬。いい思いをさせてもらったよ』と。2年目からの丸々31年、武田厩舎一筋で勤めているという52歳の大ベテラン。