関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

中村将之騎手

本年の池添謙一騎手や藤岡佑介騎手のフランス遠征は競馬ファンなら知るところだが、障害を主戦場にしている中村将之騎手の遠征は大々的には報じられていない。フランス語はもちろん、英語もしゃべれぬまま単身で渡り、2ヶ月半の修行を終えて帰国した当人は、日本競馬の恵まれた環境を改めて実感したようだ。今回は他媒体ではまず活字にならない、フランスの競馬が、日本に来るフランス人の騎手が一流である理由をお届けする。

フランスでのカルチャーショック

-:それでは、フランス遠征のエピソードを聞かせてください。まずは日本とフランスにおける競馬の違いといいますか。

中村将之騎手:障害レースも登録までいったんですけれど、競馬は平場しか乗せてもらっていないんですよね。調教はG1を5頭出ししていたぐらいの障害がメインのガロリニサン厩舎で。

-:調教はどんな調教をされていましたか?

中:メゾンラフィットという調教場で、基本的に週2回の障害で、15頭ぐらいがみんなで固まって大きな障害をバンバンと飛ぶんです。日本じゃ、そんなことはないですよね。縦一列で15頭ぐらい並んで行ったりとか。

-:メゾンラフィットという調教場に置き障害があるんですか?

中:10個ぐらいのところを“15-15”ぐらいで、みんなでひとかたまりになって行って。

-:それはカルチャーショックでした?

中:日本だと障害というと、専門職っぽいところがあるんですけれど、向こうはみんな誰でも乗れるんです。言ってしまえば、女の子も乗るから、僕より年下の女の子もバンバンと飛ばすし、しかもうまい!「何だコイツら!?」って感じでした。

-:向こうにはアマチュアライダーのような方もいて、障害の草レースがあったりするんですよね。

中:それが上手いんですよ。平場も全然普通に乗れますからね。「お前、競馬に乗れんのか?」って人が、バンバン乗ってしまうんです。

-:文化の違いとかで感じたことは?

中:言葉が喋れないままで行ったので、お店の店員さんの接客が横暴極まりなかったです(笑)。“キングオブ横暴”でしたね。日本は最高だと思いましたよ。お金の面でも競馬の面でも。

-:別に被害には遭わなかったんですか?

中:自転車を盗まれました。ちょっといいマウンテンバイクを買ってしまったので。僕の自転車は前輪だけが残っていて、隣の自転車が前輪だけ盗まれてましたね。軽犯罪は多い国なのかもしれません。でも、お金は大丈夫でした。

-:フランスはそんなに現金を使う国じゃないんですよね。

中:僕は全部カードで支払っていたので。現金は8万くらいしか持っていかなかったですよ。ATMでお金を下ろせるので。キャッシングサービスでやったほうが得だって聞いて。手数料が結構高いんですよね。

-:宿舎はどこにあったのですか?

中:色々な人を受け入れているようなフランスの人の家でした。例えるなら、ホームステイのような。

-:そこで言葉の問題はどうしていましたか?

中:中学一年生くらいの英語でした。伝えようって気持ちと、向こうの受け取ろうって気持ちがあると、何とかはなるんですけれどね。でも、厩舎の人も全部英語だし、英語だって僕は喋れないですけど、喋らないと誰も相手にしてくれないのでね。ただ、厩舎の人はめっちゃいい人でした。意地悪だとも聞いてたんですけれど、メッチャいい人達でした。

日本とフランスの競馬文化の違い

-:実際、フランスに行ってみて、欧州競馬に対するイメージは変わりましたか?

中:毎年行けるなら行きたい感じですね。調教は朝だけで7時間くらいを毎日乗るので、メッチャしんどいですけれどね。馬装も全部自分でやりますから。日本は用意された馬に乗るだけなので、比べれば、楽じゃないですか。毎日楽をしていたのに、いきなりとんでもない場所に突き出された感じでした。日本は最高ですよ。

-:日本だったら競馬は土日しかないじゃないですか。

中:向こうだと調教に乗ってから、競馬に行きますからね。それが当たり前だし、むしろ、最後の日なんかは競馬に引っ張ってから競馬でしたからね。馬ごとの担当はないんですよ。「今日、お前がいけ!」みたいな感じで。月給制だけれど、みんなよく働きますね。最後の日も馬運車に3人で3頭で行って、「これだぞ」って言われて「嘘だろ」って。「俺、今日は競馬の日じゃないか」といっても、、「いや、これをやってからだ」みたいな。前運動して、競馬を引っ張って終わって、上がり運動をして、馬を洗って……。競馬に乗るときはやってくれます。3人で3頭で持っていってますので。

-:ジョッキーが何役もこなすという。

中:ジョッキーは職業というより、厩舎の人がジョッキーみたいな。向こうの見習いはみんなそうですし、プロはそうでもなかったけれど、アマチュアなんかは特にそうです。アマチュアはみんな普通に競馬に乗りますから。そのアマチュアも、メッチャうまいですからね。

-:ということは、そのフランスでプロのジョッキーになっている人は相当……。

中:日本は「引退したジョッキーをもう一回戻そう」なんて話もありますけれど、向こうでは、僕のいた厩舎にアマチュア入れて8人くらいいたから、その中で絞りこまれた人が、アプレンティスジョッキーになって、そこから一握りだけがジョッキーになるんです。底辺が、日本でいうプロ野球と一緒のような。誰でも乗れるし、普段は違う仕事をしている人が休みだから、ということで、いきなり馬に乗りに来て、追い切り乗って障害バンバン飛ばして。

それでも、いきなり来るものだから「誰だお前?」みたいになるじゃないですか。「俺は普段ジャーナリストをやってる」みたいな。それでも、うまいという。全然話にならないです。もう小学校の1年生2年生ぐらいには、クラス全員で1人1頭ずつポニーに乗って、先生がリードホースに乗って。日本じゃありえないでですよね?フランスでは街で普通に馬が歩いてるし。日本で馬に乗ってたら、「スゲー」ってなるけれど、向こうはみんなが乗れるみたいな。馬に乗っているからといって“だからなんだ?”という感じですよ。




-:自分が乗る以外にも他の人のレースを見たりして。

中:メッチャうまいです。根本的に、練習で乗ってる時点でメッチャうまい。ペースも違いますよ。日本は日本でいいところがあるし、向こうは向こうのいいところがあるんですけれど、馬の造り方が違う。向こうはゆっくり飛ばすし、馬場も力がいるからペースも速くはならない。日本はどちらかといえば、コントロールが利いていないところでパーンって飛ばすけれど、向こうは手の内にいれて飛ばす感じ。でも、手の内にいれて飛ばそうしないと飛ばないような馬の大きさですし。

-:向こうには障害血統があるじゃないですか。

中:混合種とかがいますからね。メッチャデカい馬とか。要はスピードよりは、どちらかと言ったらタフで飛越が上手くて、15-15くらいでバンバンって。だから、もう飛越がメッチャ離れているんですよ。日本の障害よりはるかに離れて。向こうは止めてもいいし。普通に中止。日本でやったらすごい怒られるけれど。

-:根本的に、馬に携わる文化が違うという?

中:向こうの馬は、僕でも競馬を引っ張れるくらい、おとなしいし、厩に入ってもずっと寝てるし、人間に対して敵対心がない。入って触っても起きないから、乗っかって足を蹴って起こしたりとか(笑)。日本の競走馬でそれはできないし、向こうの人はハッキングでボスが見てなかったら、手綱を離してピヨーンてやって遊んでるし、“乗馬じゃないんだから”っていう感じですよ。馬に乗って、どう楽しむか、という意識があるんですね。日本は馬に乗れる時間って貴重だから、そんな中でどうやって、という考えですけれど、向こうは誰でも親しめるようになってるという。

中村将之騎手インタビュー(後半)
「日本に来るフランス人ジョッキーとは!?」はコチラ→

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【中村 将之】Masayuki Nakamura

1986年 愛知県出身。
2005年 谷潔厩舎からデビュー。
JRA初騎乗
05年3月5日 1回阪神3日5R メディアブリッツ
JRA初勝利
05年5月22日 1回新潟8日9R ブレッザ


■最近の主な重賞勝利
・13年 阪神スプリングJ(シゲルジュウヤク号)


谷潔厩舎所属からデビュー。同期には大野拓弥、鮫島良太騎手ら。デビュー当初は平地でも年間20勝以上をマークしていたが、6年目頃からは本格的に障害へ。一昨年、昨年と共に8勝を挙げ、高い好走率を誇るなど、障害界で頭角をあらわした。
今年4月からは一念発起し、フランスに約2ヶ月間の遠征を敢行。自身の主戦場である障害レースに騎乗することはできなかったが、貴重な経験を糧に日本での更なる飛躍を誓う。