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佐藤文昭調教助手

ここまで4戦3勝、土がついたレースはG1のオークス(6着)のみというティアーモ。決して派手さはないが、成績の額面からもケチのつけようがないように、初めての古馬との対戦となった前走を快勝。一夏を経ての成長ぶりをアピールしている。春の実績馬とは異なる道を歩んできた経験を、試金石の一戦でぶつけることができるのか?今回はワンカラット、サンシャインなど、厩舎の実績馬を手掛けてきた佐藤文昭調教助手に、秋華賞への見通しを語ってもらった。

一夏を越して大人びた心身

-:4戦3勝で小倉の西海賞を勝ってから、秋華賞に挑むティアーモ(牝3、栗東・藤岡健厩舎)ですが、体重が休養を挟んで14キロ増えていました。夏の休養から帰ってきた体を見て、どういう感じでしたか?

佐藤文昭調教助手:成長はしていますね。春はデビューも遅かったので、馬もスゴく緩く、調教の追い切り時計も、あまり早いところも出ませんでした。

-:緩いながらも、デビュー戦や君子蘭賞も、体を見た時にまだ子供っぽ過ぎて、京都よりもタフな阪神は不向きなのかな、と思っていたら、2戦とも逃げ切り。押し切れるパワーもあって、見かけよりも力があるなと思いました。

佐:実戦に行ったら、僕らが思っている以上に強かったです。調教もあんまり動けなかったので、実戦の芝に行ってびっくりですよね。

-:しかも、もっとびっくりしたのは、3戦目にオークスに行った時に、今までハナに行っていた馬が、5番手に付けて、そこから諦めずに頑張り通すという。しかも、長距離輸送もありましたからね。佐藤さんの感覚ではどんなレースでしたか?

佐:2戦とも逃げたのは逃げたのですが、調教でも引っ掛かるところはそんなにありませんでしたし、競馬でも引っ掛かるような気性じゃないので。藤岡佑介騎手も「落ち着いていて、行儀のいい競馬をしていたし、馬も成長して、どんどん良くなって行くだろう。これからが楽しみだな」という感触でした。この馬は普段でも落ち着いていて、スイッチが入っちゃうと、立ち上がったり、尻跳ねしたり、結構キツいところを見せたりしますが、競馬に行ったら一生懸命走ってくれます。

-:オークスも、前走の小倉も、輸送に関しては、そんなに問題ないですね。

佐:女の子だから、輸送がイイとは言えないのでしょうが。

-:体も春よりもだいぶしっかりしてきましたね。

佐:ここのところ、調教でも動ける様になってきたので、走る方に関しては、だいぶ馬がしっかりしてきたかなという感じはします。



-:秋華賞に向かう路線としたら、ローズS組が注目されていますが、この馬は別路線組。夏の上昇馬というか、その辺の楽しみをファンに伝えたいところです。やはり、体が成長して、しっかりしてきたところが大きいですか?

佐:それもありますし、精神的にもだいぶお姉ちゃんになってきていると思います。

-:この馬を扱っていて、世話をしている中での良さというのは、どういうところですか?

佐:大人しい部類ですし、扱いやすいですね。精神面もタフなところがあると思いますよ。

-:レースを見ていたら、そういうところはありますよね。

佐:競馬に行くと、僕らの予想以上に一生懸命走ってくれる馬ですから。

-:舞台が京都の内回り2000mになりますが、関西馬にしては珍しく、京都コースは未経験ですよね。軽い馬場は、この前の小倉で経験して、適性というのもわかっていると思うので、今度は展開利まで見込めますし、ハナに行くだけの一本調子でもない。面白い存在と思いますが、今のコンディションはどうですか?

佐:良い状態で出せるとは思います。前走から間隔も開いてはいますが、体重も増えも減りもしてないので、小倉くらいの体では出られそうな感じです。もうちょっと成長して、パワーアップをして欲しいですけれど、言ってしまえば、それも欲目なのかな。でも、もうこのままで競馬に挑めたら、と思っています。

-:当日の馬体重は先ほどと同じように、小倉と変わらずくらいか、ちょっとマイナスぐらいですか?

佐:ちょいプラスかですね。

見た目以上に走る馬


-:この馬はキングカメハメハ産駒なので、キングカメハメハ自体も安藤さん(安藤勝己元騎手)に聞くと、「それほど乗り心地は柔らかい馬じゃなかった。良い意味でしっかりした硬さがあった馬だった」と言っていたのですが、この馬のフットワークというのは、乗られていてどんな感じですか?
佐:乗り手の人はみんな、引っ掛かりもしないし、乗りやすさがあると。乗りやすいは乗りやすいタイプなんでしょうね。

-:秋華賞みたいな内回りの2000mという舞台なら、その乗りやすさを武器にして、人気を集めそうな差してくる馬より、一歩先で競馬ができる楽しみがありそうですね。

佐:オークスに出ていた実績馬と2回目の顔合わせで、オークスはかなり離されていたけど、それでも6着にきましたからね。京都の内回りなら、チャンス1つで巻き返せるのではないでしょうか。

-:オークスの時の馬場は結構力のいる馬場だったじゃないですか。そこから、今回は京都のおそらくパンパンの走りやすい馬場に変わります。

佐:勝った小倉の時も緩かったですし、案外、緩くても、それなりに走ってくれると思います。

-:緩い馬はちょっと力がないとか、非力なイメージがあるので、もしそうだとしたら、京都の下り坂とか、硬くて走りやすい馬場というのは、プラスに働きそうですよね。

佐:そうですね。見た目以上にはいつも走ってくれますから。

-:一発、ここで大物食いいきたいですね。

佐:毎日、仕事をしながら、そう思っています。



-:ファンからすると、実戦でのポジションが気になると思います。ハナにも行けるし、控えることもできる、その辺はペース次第で柔軟に対応できそうですね。

佐:そうですね。本当はハナに行くような馬でもないので。

-:逆に、新馬戦と君子蘭賞の逃げて押し切っているというのは、能力の高さを証明しているということですかね?

佐:たまたま逃げはしましたが、能力があるから、でしょうね。

-:逃げ切りで連勝する馬はいても、そこから、抑えるのに苦労する馬が多いと思うのですが、それがなんなく出来ちゃうというのが、この馬の凄いところですよね。こういう性格だと、内枠がダメだったりすることはないですか?

佐:そういうのも全然関係ないと思うんですけどね。

-:その部分も強いですね。今後もまだまだ成長する時期だと思いますが。

佐:デビューが遅かったので、まだまだ、もっともっと、良くなると思います。

-:秋華賞だけでなく、今後もこの馬に注目していって、一緒に成長を楽しみたいですね。最後に、ティアーモを応援してくれるファンに、担当の佐藤助手からメッセージをお願いします。

佐:相手は強いですし、人気は集めないかもしれませんが、是非、応援よろしくお願いします。




【佐藤 文昭】 Fumiaki Satou

重賞を4勝したワンカラットを担当するなど助手歴は20年位というベテラン。先日、現役を引退したワンカラットとのことを「あれだけ走ってくれた馬は僕にとって初めてだった。出会えたこともそうだけど、色々な人に感謝しないと・・・引退したらつくづくそう思います。高松宮記念は本当に楽しみにしていただけに残念で。たらればがあれば・・・。この仕事をしていて良かったと特に思えたのはワンカラットを担当したから」と振り返ってくれた。父と弟も厩務員というだけあって自身も生粋のトレっ子。「コツコツやっていれば良い事もある」という信念をもって仕事に向き合っている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。