関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

野元昭嘉調教助手

神戸新聞杯では夏の上がり馬、秘密兵器的な扱いを受けながらも7着。しかし、文中にもあるように敗因は明確で、これまでもどちらかといえば不運に見舞われているようなフシがある。付きっ切りで担当しているのは元騎手の野元昭嘉調教助手。2歳時にはレースでも自ら跨っていた愛馬について、大一番での激走の可能性を探ってきた。

圏外の2戦には明確な敗因あり

-:ラストインパクト(牡3、栗東・松田博厩舎)についてお話を伺います。菊花賞に向かう馬にしては珍しいですが、夏は7、8、9月と1回ずつ使って変わりなく来ていますね。有松特別では、スタートをして1コーナーに行くまでに内に入れないシーンがあって、そこでちょっと引っかかっているような仕草を見せたのが意外でした。有松特別での4着を振り返っていただけますか?

野元昭嘉調教助手:いつもテンは引っかかるところがあって、今回は頭を振った時にタイミングが悪くハミが全部抜けたんです。1コーナーからずっとその状態で走ってきてコンマ1秒での4着だったので、もったいないレースでしたね。

-:珍しいことですね。

野:そうですね。いつもと同じ馬装でやっていたんですけどね。ハミを噛んでいない状態であそこまで走ってくれるとは。

-:その辺はファンもわかり辛いところかもしれませんね。4着は力負けじゃないということです。それを証明するかのように、次の1000万のシンガポールターフクラブ賞では快勝でした。神戸新聞杯では3番人気で7着でしたが、位置取りが “思ったより後ろから行ったな”という気がしました。

野:その時も、パドックで落鉄するアクシデントがあったんです。だから、ラストインパクトの能力を全部発揮しきれなかったです。

-:馬場入りで、最後までなかなか出て来なかったですね。菊花賞では人気の盲点になりそうです。

野:馬自体は本当に良いので、僕は菊花賞で巻き返してくれると思っています。

-:春から見ていて、ディープインパクト産駒でありながら、正直そんなにメチャクチャキレるようなタイプではない半面、乗りやすそうな馬だなと思っていました。菊花賞のような混戦となる舞台では、乗りやすさが一番の武器になると思うんです。今回、順調に夏を越してようやく本番を迎えるということで、野元さんから見た春からの成長度合いや、変わってきたところを教えて下さい。

野:春から、結構しっかりとしていた馬でした。自分が調教で乗っていても、乗りやすいなと思います。調教と競馬は違うので、競馬になると馬のテンションも上がって、やっぱりかかるところも見せますけどね。

-:この馬は、掛かると言っても、ずっと掛かっている訳ではないじゃないですか。最後のスタミナロスを最小限に抑えられると思います。

野:どこかでハミはポンと抜けますけどね。賢いと言えば賢いですね。本当に競馬も上手いし、スタートの時も大人しいし、パドックも落ち着いています。

-:菊花賞で穴を開ける条件は揃っている訳ですね?

野:僕は、ちゃんと走ってくれるんじゃないかな、という期待は大きいです。



自由自在な脚質が最大の武器

-:今週の水曜日(10/9)に、CWでアドマイヤスピカとの2頭併せが行われました。時計は遅かったんですけれど、逆に言うと、長距離仕様の調教ができたのかなと思います。

野:「アドマイヤスピカと併せ馬で、最後まで同入してくれ」と先生に言われたので、指示通りにしました。「追い切りは動く馬なんで、最後まで併せるように」と。

-:むしろ時計の速さよりは、折り合いが付いたというところが評価できるのでしょうか。

野:直線はやっぱり馬が行きたがりますので、抑えたままです。それでも2周目からは掛からないんでね。調教では、本当に何の問題もない馬なんですけどね。

-:調教で乗っている時のフットワークは、どんな感じですか?

野:「安定感がある」としか言いようがないです。

-:どちらかと言うと、トモだけで走るディープインパクトのような感じではなくて、前も効いている感じですか?

野:馬には、背中がすごく柔らかい馬と、安定感がある馬がいるのですが、ラストインパクトは安定感がある馬です。脚を蹴り上げたりもしてこないですし、安心して乗っていられる感じの馬です。

10/9(水) CWコースでアドマイヤスピカと併せ86.4-69.3-53.8-40.0-12.9秒(馬なり)をマークした


-:松田厩舎には、あんまり柔らかい馬がいるイメージがないです。キッチリと調教をして、筋肉にもしっかりと負荷が掛かっているから、硬めの馬がいるようなイメージがあります。ラストインパクトも、柔らかさやユルさよりも、シッカリ感とかパワーがあるタイプだと思って良いですか?

野:でも、この馬は柔らかいですよ。そんなゴトゴトしないし。

-:その辺は、さすがにディープインパクトという感じですか?

野:取りあえず乗りやすいですね。乗っていて手間が掛からないですね。

-:それを証明するかのように、体重が3戦続けて482キロですね。

野:小倉に行っても、こっち(トレセン)にいても、大体同じような体重でいてくれているんで、調整はしやすいです。

-:前走は落鉄があったから度外視するとして、先行して3番手からレースをしていることもあれば、後ろからレースをしていることもあったり、位置取りに関して自在性があるのがこの馬の武器ですね。菊花賞でどうなるかは、ジョッキーでないと分からないのでしょうか。

野:それはユウガ(川田将雅騎手)に任せます。乗り慣れたジョッキーですし、先生の指示もあるはず。前に行っても勝っているし、中京では後ろから行って差し切っているし、青葉賞では好位につけて、上がり33秒台の脚を使っていました。だから、キレてないという訳ではないんですよね。終い3ハロンも1番のタイムで勝ってもいますし、自由自在でしょうね。

-:3着や4着には来るけど、ちょっと勝ち身に遅いようなところもあるのでしょうか。

野:超ドスローで行く馬は楽に折り合いが付きます。やっぱり、スローペースで好位から後ろに行く馬は、多少ハミを噛むところがあるし、力負けという感じは僕はしてないんですけどね。

-:“この馬の力をちゃんと出せたら”という感じでしょうか。

野:そうですね。僕は馬場で放すまでが仕事なので、後はジョッキーに任せます。

ラストインパクトの野元昭嘉調教助手インタビュー(後半)
「馬場状態不問で安定感がある馬」はコチラ⇒

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【野元 昭嘉】Akiyoshi Nomoto

競馬学校騎手課程第11期生。1995年、父である野元昭厩舎の所属騎手としてデビュー。同年は29勝を挙げ、中央競馬関西放送記者クラブ賞を受賞した。騎手時代の通算勝利数は重賞3勝を含む、5698戦238勝。引退レースで見事勝利し、2012年の12月20日に鞭を置いた後は松田博資厩舎に所属し、持ち乗り助手としてラストインパクト、サダムダイジョウブを担当。調教師を目指しながら、腕利き揃いのスタッフの中で切磋琢磨している。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。