宝塚記念はジェンティルドンナ、フェノーメノら強豪に先着。直前に回避した同厩舎オルフェーヴルが不在でも、｢G1に池江厩舎あり｣を証明したダノンバラード。それでも、秋緒戦のオールカマー3着というのは同馬のらしさでもあるが、今回は決してノーマークという判断はできまい。父は過去にアーネストリー、今ではあのキズナを手掛ける厩務員という、名馬を育成するDNAが流れる田重田裕生調教助手が、オブラートに包むことなく直前の手応えを語ってくれた。

枠順確定後・池江泰寿調教師のコメントはコチラ⇒

最終追い切り後・同調教師のコメントはコチラ⇒

－：ダノンバラード(牡5、栗東・池江厩舎)についてお伺いします。池江泰郎厩舎時代から担当されているということですが、この馬と最初に出会った時の印象を教えて下さい。

田重田裕生調教助手：元々、先生(池江泰郎調教師)が｢すごく良い。これはすごく走るぞ｣と言っていました。“どれだけの馬なんかな”という意識はあったんですけれど、最初のパッと見は“シルエットがキレイで、線が細いな”という感じでした。

－：ディープ産駒ですからね。細手でシュッとした馬なんですけれど、もっと小柄で華奢なディープ産駒も多いです。この馬は新馬戦でも464キロありますね。シルエットはどうでしたか？

田：良さが目に付きましたね。

－：新馬を使う前に乗った感触はどうでしたか？

田：札幌に入ってきて、最初に乗ったときは乗り味が良いと思いました。確かに評判通り、言われた通りの馬だなと。思うように新馬まで成長してくれました。

－：ラジオNIKKEI杯2歳Sを4番人気で勝っていますが、馬場が悪いところもこなせる強みがありますね。

田：そうですね。宝塚記念も馬場は力のいる馬場でしたし。


－：それでいて、“追わせる馬”というか。この馬のレースを色々と見ていても、そこが特徴的に思えます。血統的に見たら、いかにもピュッとキレそうなものをファンは期待してしまうと思うのですが、実際にこの馬が持っているのは、ややズブいところというか、先行しての渋太さと、渋い面じゃないですか。そこが5歳になって、ようやくレースで活かせるようになりましたね。乗り手が替わっても、その特徴を同じ方向でレースに活かせるようになっているのかなと思います。

田：そうですね。そのスタイルが確立されてきました。先生(池江泰寿調教師)もそう言っています。ゴール前は、あまり自分からは動くタイプではなく、動かされて動くという感じですかね。

－：宝塚記念での2着は、“してやったり”という感じですか？

田：といっても、僕はけっこう自信があったんです。“3着までは来るかな？”みたいな。

－：それは、やってらっしゃる本人として、コンディションの良さを感じて、ですか？

田：そうですね。説明するのは難しいのですが、僕の持っている感覚の判断というか。

－：馬の持っている反応が変わってきたのですかね。AJCCの頃よりも良かったですか？

田：ハイ。AJCCの時も良かったですけど、あそこから1度、調子を崩して放牧に出しました。それから良い状態で帰ってきて、鳴尾記念の時も良かったんですけど、1回叩いて更に良くなりましたね。


－：そこから鳴尾記念までに立て直せてきて、宝塚記念では、僚馬のオルフェーヴルは出られませんでしたが、ゴールドシップ、ジェンティルドンナという強いメンバーに入っても、あれだけ頑張りました。その要因のひとつに、ラチを頼れた、ところはありますか？

田：そこはどうなんですかね。僕は何とも言えないですけど、ジョッキーにしか分からない範疇じゃないでしょうか。

－：追い切りではどうでしょう？

田：最初からずっと右に張っていくような感じはありました。坂路でも、ちょっと外めから出すと結構真っ直ぐ走るのですが、ラチが近い方が出しやすいんです。ラチが近くなると、馬がどうしてもそっちを頼ってしまうというか、横に寄っていっちゃうんです。

－：そこから離れられなくなるのですか？

田：ヘバりつくようになっちゃうんです。だから、内に馬がいたら、それなりにちゃんと競馬でも真っ直ぐ走ってくれます。



－：調教でも右側に馬を置いていますか？

田：そうですね。そうすれば、乗っている人がそれなりに修正しながら真っ直ぐ走って来れるかなと思います。

－：左回りは、最近のレースでは金鯱賞以来。その金鯱賞では、左回りがどうこうよりも、逃げたことがこの馬のパターンではなかったということでしょうか？

田：そうだったと思います。それでも、あの時はスタートが良かったので、何か押し出された感じやったんで。

－：ペースも、それほど速くなかったですね。この馬は、前にターゲットを置いて2～3番手から粘り込ます方が良いと。

田：その方が合っているんでしょうね。

－：宝塚記念は“3着までに来られる”という自信があった田重田助手にとって、今回のデキはどうでしょうか？

田：まあ“3着に来れたら満足”というか、3着までに来れるんじゃないですかね。もちろん勝つつもりではいますけど、ただ、左回りは気になります。

－：右回りの中山や阪神向きですか？

田：やっぱり左回りだとジョッキーも難しいみたいです。外に張って、追いにくいみたいですね。

－：その場合はラチが使えないと。

田：そうですね。その分、ラチを頼ってはいかないから、そこは心配をすることはないんですけど。


－：ダノンバラードの特徴を活かすには、枠はあまり内でない方が良いと？

田：いや、内の方で良いと思いますけどね。

－：どうしても、見ている方は宝塚記念のイメージで、先行抜け出しでの頑張りを期待している人もいると思います。

田：皐月賞の時は内枠だったので、その時の感じで、中団～真ん中ぐらいから抜け出したいです。その時も府中で行われた皐月賞。天皇賞(秋)と同じ条件で、一瞬、オッと見せ場を作りましたから。

－：左回りも克服して上位に食い込んでくれたら、まだまだ楽しみも増えますね。

田：そうです。天皇賞(秋)って、外枠はちょっと不利ですよね？

－：だいぶ不利なイメージがあります。池江厩舎のトーセンジョーダンは、一昨年6枠12番で勝ちましたけど、あれが7枠、8枠になるとワンランク壁が上がるというか。

田：ねえ。外はあんまり入りたくないですよね。

－：外に入りたいという人はなかなかいないはずですから。

田：そうですね(笑)。ウチの父(佐々木晶三厩舎の田重田静男厩務員)も、アーネストリーで大外に入った時にいろいろ言っていましたもん。

－：当時は佐藤哲三ジョッキーも｢遠過ぎる｣と言っていました。

田：そうそう。あの時は出も良くなかったし。

ダノンバラードの田重田裕生調教助手インタビュー(後半)
｢お父さんはキズナの担当厩務員｣はコチラ→

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【田重田 裕生】Yuki Tajyuta 佐々木晶三厩舎でキズナ、アーネストリーなど幾多の名馬を担当する田重田静男厩務員の長男。父の影響を受け、小学校5年生から騎手を目指して乗馬を始める。その後はグリーンウッドに3年弱勤務し、競馬学校入学を経て池江泰郎厩舎に所属。厩舎解散後、担当のダノンバラードと共に池江泰寿調教師のもとにやってきた。思い出に残っている担当馬は｢阪神ジュベナイルFでG1に初めて出させてくれた｣というメルヴェイユドールで、馬に乗るときのモットーは｢馬の邪魔をせず、指示された通りに乗ってくる｣。

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【高橋 章夫】 Akio Takahashi 1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。 栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。 毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。