戸崎騎手の身上は「リズムを守ること」
2012/2/18(土)
水上:またしても、リズムというキーワードが出てきたので、最後はこのことについてもう少しお話を伺うことにします。
この「リズム」ということは、デビュー当時から気付かれていたことなんですか?
戸崎:そうですね、最初から、今とは感覚が違うながらも、“馬のリズムを崩さない”ということは意識はしていた気がします。それが出来ていたかはわかりませんが。
水上:リズムというのは、どなたからか言われた言葉なんですか?それとも、ご自分で乗っていて悟ったものですか?
戸崎:う~ん、たぶん、自分で気付いたんだと思います。もちろん、そのリズムと感じていることが、正しい解釈なのかどうかはわからないですが。 僕は馬の走りの力よりも、性格を大事にしたいんです。性格がいいと、騎手の言うことも聞いてくれますし、レースを造れるというか。しかし性格が悪いと、「行って」と言っても行かなかったり、我慢が出来なかったりするので、僕は性格を重視しますね。性格のいい馬じゃないと、上にはいけないと思いますから。
水上:馬の性格というと、乗らないとわからないですよね?それは一度乗って、こういう馬だとインプットされると。
戸崎:そうですね。乗ってみないとわからないところはあります。だから、“力があって性格が悪い馬”と“力がなくて性格が良い馬”だったら、後者の方が上に行くと思うんです。
ただ、性格が悪い馬をどうやって能力を引き出せるかも、騎手には必要だと思います。どちらかと言えば、性格の良さが成績に繋がるんじゃないかと思いますね。
水上:それほど、気性とは大事なんですね。僕は血統を介して、競馬を見ることが好きなのですが、もしかすると、気性というのは遺伝もあるかもしれないですよね。
戸崎:そうですね。僕は血統には詳しくはないと思いますが、あると思います。
競馬ラボスタッフ:馬とのリズムというポイントで、最近、ピタッとハマったと思える時はいつでしたか?
戸崎:う~ん……。最近あるかなあ。(マネージャーに向かって)何か感動したレースはありましたか?
マネージャー:中央の新馬戦(キネオピューマ)は良かったなあ。
戸崎:あれは馬が強かったでしょ~。だから、基本的にリズムを崩したくないから、ポジションを下げちゃうんですよね。「コレ、ダメだな」と思えば、前に馬をいれてしまって、リズムを崩さないように。スローでもそんな感じにしますね。
水上:下げた方がリズムは整い易いと。なんとなく、我々でもわかりそうな感はありますね。
競馬ラボスタッフ:昨日の最終みたいなのはどうでしたか?(1月17日の大井12Rコスモマハトマで1着)
戸崎:あれはダメです!行き過ぎです。今日のレースも丸っきりダメです。自分が一番やっちゃいけないレースをしていますよね。
水上:お話を伺っていると、個々の馬によって、リズムが違ってくるのかと思ったのですが、そういうことではなくて、戸崎さんが持っているリズムに馬を沿わせるのか。
戸崎:でも、基本的にはさっきも言ったように馬のリズムが崩れそうな時は行かないですし。
マネージャー:だから、馬のリズムに合わせつつ、自分の中に持ってくると。
戸崎:そうそう。馬のリズムだけで走っていたら、競馬じゃなくなりますからね。
マネージャー:馬の気分を損ねない範囲で、自分の中に持ってくるということだよね。駆け引きというか。
水上:となると、今日のインタビューの中で、戸崎さんが仰っていた“リズム”とは“戸崎さんのリズム”ですよね。どちらかといえば。
戸崎:あ~。
水上:馬の力を引き出せる範囲の基本ライン。「僕の言うことを聞いていれば、大丈夫だよ」とわからせるというか。
戸崎:一つ勉強になりましたね。
一同:(笑)。
水上:この話題一つでも、競馬は深いという事がわかりました。
戸崎:深いですね……。答えのない世界ですから。
水上:では最後に、今年の戸崎さん自身の目標や夢はありますか?
戸崎:基本的には“一つでも多く勝ち鞍をあげたい”というのが一番ですが、ミスが多いところは自分でも感じているので、それを少しでも少なくしていきたいですね。このレースを勝ちたいという思いよりも、そっちの方が大きいですね。
水上:競馬自体がこういうご時世でなかなか大変なところもありますけれど、競馬全体、大井競馬全体でもいいのですが、ファンの方へ向かって、アピールというか、こういうところを観てほしい部分をアピールしてもらえますか?
戸崎:今はなかなか競馬場に足を運んでもらえないというのがあるので、生でレースを観てもらって、その迫力であるとか、感動をリアルに生で感じてほしいと思います。それはどこの競馬場にも言えることだと思いますし、大井に関してはナイター開催もあります。大井はそこが魅力ですから、その部分をもっと楽しんでほしいですね。
水上:結局、ファンの人がそういう“熱戦”と言いますか、当たる・当たらないは勿論としても、「馬券代を払ってもいいレースが観られれば」という部分はありますよね。
戸崎:そうですね。僕らもそういうレースをしなくてはいけないと思いますし、迫力あるレースをしないと思いますからね。やっぱり、競馬を全然知らない方もいる中で、テレビで観ているだけよりも、競馬場に来ると、馬の蹄音や匂い、レースのスピード感や、大井であったらダイアモンドターンのように食事もしながら観戦出来る場所もありますから。ぜひ、一度は足を運んでもらいたいですね。
水上:今日は騎乗を終えてすぐのお疲れのところ、どうもありがとうございました。全くお疲れの様子も見えないですが、息抜きとかはどうなされているんですか?
戸崎:レースで勝つことです!
水上:素晴らしい(笑)。オフの日には全く競馬を忘れる方もいらっしゃるので。
戸崎:対照的ですね。ウチは競馬に乗っていない土日でも、競馬中継をつけていますから!
水上:乗る事が趣味、勝つ事が息抜きと。
戸崎:そうですね~。楽しくてしょうがないですから。
水上:凄いですよね。そりゃあ、成績を残せるわけだ(笑)。

プロフィール

水上 学
Manabu Mizukami
1963年千葉県生まれ。東京大学文学部卒。
エフエム東京のディレクターや、競馬場場内エフエム放送であるターフサウンドステーションの制作構成などを経て、グリーンchの構成作家に。現在は競馬ライターであり、評論家。
初めて見たレースは1971年の日本ダービー。ヒカルイマイの逆転劇と、競馬自体の美しさに感銘を受けて競馬にノメリ込む。 70年代後半から血統に興味を持ち、手製の血統表を作成。以後試行錯誤を重ねつつ現在に至る。現在は競馬ラボ提供のラジオ日本「土曜競馬実況中継」でも解説を担当中。
【最新著書】
『月替わりに読む馬券の絶対ルール』(ベストセラーズ刊)
【出演】
『土曜競馬中継』(ラジオ日本1422KHZ)
『競馬予想TV!』(フジテレビTWO)

戸崎 圭太
Keita tosaki
1980年7月8日生まれ、栃木県出身。
公営・大井競馬所属の騎手。1998年に騎手デビュー。
08年に年間306勝を挙げて、初めて地方全国リーディングに輝くと、2009年は387勝、2010年は288勝、2011年は327勝をマーク(地方競馬のみ)。
また、2008年頃から頻繁に中央でも騎乗。2009年に21勝、2010年も22勝を挙げている。重賞では2010年の武蔵野Sをグロリアスノアとのコンビで制し、JRA重賞初勝利を挙げると、2011年の安田記念ではリアルインパクトとのコンビでG1初制覇。
地方でも、これまでに東京ダービーを4勝、フリオーソとのコンビで帝王賞を2勝するなど、数々のビッグタイトルを手にしている。現在は競馬ラボでインタビューを定期連載中。