日本の調教にも提言
2013/9/26(木)
高橋:そう考えたら、ユタカ騎手も凱旋門賞でチャンスのあるに乗れることは幸せですね?
安藤:そうそう。また、チャンスがある馬なんだからね。
高橋:どう乗るか注目したいですね。
安藤:間違いなく、安全なレースをするのは当然、それで良いと思うしね。全然、無理に変えなくても。変えるんであれば、ずっとあっちで乗ってないと無理なことだし。
高橋:その辺はキズナにとっては2キロ軽くなるというところを有利に使えば良いと言うことですね。
安藤:そうそう。
高橋:でも、あそこまで深い馬場で2キロの軽さは、関係がありますか?
安藤:どうなんやろうね。馬場が軽い方がやっぱりスピードの方で斤量は関係してくるやろ。
高橋:スタミナは自分がどれだけ疲れているかのほうが大きくて。
安藤:一瞬のスピードのビューンというのは、軽い方が絶対に差があるかもしれんけど……。それより、毎年3歳が良いというのは斤量も軽いからそうなんだろうけど、力も付けてくる時期だからね。馬としては一番ピークというか、そういう部分で3歳が強いというのもあると思うんやわ。
高橋:年齢的なハンデを付ける凱旋門賞の9月の終わりから10月ぐらいで、古馬と3.5キロ差付けるのはどうか、という話もありますからね?

安藤:俺も馬のピークって、そんなに長くねえんじゃないかと思う、本気で仕上げたらね。だから、ヨーロッパの馬なんかは数を使わずにバーンとダービーに行ったり、使い方がそうじゃない。ヨーロッパは引退するのも早いし、そういう部分では案外、本気で仕上げず、だから前哨戦はそんなに仕上げねえし。
高橋:日本でも息が長く活躍する馬はズル賢くて、毎回本気で走らないタイプの方が長く活躍できるという。
安藤:センスだけでは日本でもなかなかね。本当に早くから仕上げちゃうと、ピークがガァーと来る前に終わっちゃうからね。クラシックの頃には終わっている馬もいるぐらい。
高橋:やっぱり乗ってきて、それは感じますか?
安藤:調教からすごく良いヤツは、最初はかなり走るんだろうなと思ったら、やっぱり伸びねえ。最後に終わっちゃって。ちょっとやり過ぎている部分もあるんじゃないかな、日本は。
高橋:やり過ぎないと扱っている人がしんどくなるんですよ、多分。
安藤:それと自分が安心するんだよね。
高橋:でも、やればやるほど筋肉というのは鍛えられる面もあるけど、硬さが出てくるじゃないですか。やっぱり筋トレをしたら、筋肉が付くかもしれないけど、硬くなる感じがするから、それが?
安藤:それはあるよね。馬でもそうだもん。本当に段々と柔らかくなる馬なんて、ほとんどいない。乗って良いなと思うのは最初のうち。反対に緩いぐらいの時の方がいいよね。筋肉が付き過ぎるとかえって、硬さが出てきてバネがなくなる。

高橋:最後に一般のファンに凱旋門賞のキズナとオルフェーヴル2頭のポイント、“ココをチェックした方が良いよ”というポイントを教えて下さい。
安藤:キズナは状態としては若馬だから、1回使って環境に慣れる適応力もあると思うし、プラスには絶対に運ぶはず。2キロ軽くなるということもあるけど、ユタカがどういう風に乗るかという部分やろね。多分、同じように後ろから行くんだろうと思うけどね。そのまんますんなり直線を向いて、外に出してくるけど、そう上手くいくもんかと、そういう不安はある。俺は正直に言って、キズナの方に勝って欲しい。やっぱりユタカが乗っているし、馬主も前田さんだし、そういう部分で。キズナを応援してんだけどね。

高橋:実際にメイショウサムソンで凱旋門賞に行った時は、前半でヘバってたということがありますから、ああいうことがないというのも鍵ですね。
安藤:だからやっぱり、ガンガンと押されるから。馬もそうだけど、人間だってその度に引っ張ったりだとか。相手がこうやったままだから、少々押されてもそうだけど、長手綱で折り合いを付けているとガッガッと引っ張るじゃない。それだけでリズムが狂って、パッと行ってみたり、止めてみたり、案外と脚を使っちゃうやわ。
高橋:そういう意味では理に適ったおしくらまんじゅうなんですね?
安藤:固めちゃっているからね。下を向けて。だから少々、やられてもそのまんま変に力を抜いたり、入れたりという部分はないから。
「俺は正直に言って、キズナの方に勝って欲しい。
やっぱりユタカが乗っているし、馬主も前田さんだし」
高橋:オルフェーヴルに関してはどうですか?
安藤:正直、特にあの環境においては、騎手が信頼できるんだわ。総合的にオルフェの方が上やと思うんやけどな、本番に行ったら。去年のあの強さを見ていたら。それと去年の外にブッ飛んでいって2着に来た時。あんな馬はいないで。俺は何回も戦っているからわかるけど、アッという間にビューンと行かれちゃうんだもん。“普通のレースをしたら勝てねえな”と思ったもん。本当に俺の馬(ウインバリアシオン)もすごい脚を使っているんだけど、一瞬にしてビューンと離れちゃう。だから、反対に去年は瞬発力があり過ぎて裏目に出たんだけどね。今度はスミヨンもわかっているから。
高橋:そんなこともあるんですよね。瞬発力があり過ぎて裏目に出ると?
安藤:あれはそう思うよ。アッという間に先頭に立っちゃったからね。去年は内ラチにばっかり付いたやろ。外に行かんで内に。本当に走ってねえもん、最後。
高橋:そこまでになるまで引き出せたスミヨンというのも?
安藤:道中は完璧やったよ。そういう意味で、スミヨンも今年は悔いがねえ騎乗をしてほしいな。やっぱり、勝つのはオルフェーヴルかも知れんね。
高橋:ありがとうございます。お話を沢山させていただきましたが、日本馬の活躍を祈りたいですね。こちらのお話の延長戦として、9月27日(金)のニコ生で聞かせてください。

【安藤 勝己】 Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1 22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成した。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。今後は「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。
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【高橋 章夫】Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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