3年近くに及ぶ逃亡生活が何を意味するのでしょうか、市橋容疑者の逮捕で衝撃的な事実が次々に明らかにされていくことでしょう。暗いニュースばかりの昨今。馬券師たちもとんと当たりが出なくて意気消沈気味です。

｢先週はGIがなかったから体を休めることができたけど、その分、ついつい馬券にのめり込んでしまって…｣と反省しきりなのがSN紙の若手、O記者です。以前にもお知らせしましたが、GIシーズンの競馬記者の生活は、地獄そのものです。相次ぐ出張、レース取材、紙面もボリュームたっぷりとなれば、原稿の量も膨大なものになります。特に体力十分の若い記者たちは、徹底的にこき使われます。栗東、美浦の両トレセンを行ったり来たり、競馬開催日はドカンと大展開するヒーロー紙面の取材、その準備などで、ジックリ馬券も買っていられないのが現状です。パドックで最終チェックしてから…なんていうのは夢物語。その時間帯は、すでに優勝しそうな馬の関係者に張り付かなくてはならない場合もあります。その点、GIレースがない開催日の仕事の量は、かなり減るわけですが、O記者のような被害者も出てしまうのです。

｢勝負事はリズムを崩すのが一番良くないんだよ｣とTC紙のベテラン、N記者が冷やかします。

｢NさんはGIだろうが、なんだろうが、仕事の量は大差ないから余裕ですよね｣O記者の反論です。確かに、N記者ほどのベテランともなると、GIレース日でも記者席やレストランの馬券記者たちの溜まり場に、でんと腰を据えていられるのです。

｢だから、取材でもお前達は無駄が多いんだよ。要領よく、簡潔にやればいいんだ｣というN記者に、O記者は｢Nさんたちは、手を抜いているとしか思えないんですけどね…｣と皮肉でやり返しました。

｢そうでしょ、リズムを崩すと、ろくなことはありませんよね｣北海道はすすきの馬券連のメンバーで、目下、門別競馬場でバイト中の学生君から報告が入りました。なんでも、某飲食チェーン店の店長氏が、先週日曜日に爆敗したというのです。

｢馬券休止宣言を発して、日本ハムの応援に没頭しようとしたまでは良かったんですけど、肝心の日本ハムが土曜日に負けちゃったから、その反動が日曜日に出てしまったんです｣と学生君。確かに店長氏、日本シリーズが第7戦までもつれ込み、最後はダルビッシュが締めくくってくれるものと信じて疑わず、ちょうど絶不調だった馬券の流れを変えようと策したのですが、ものの見事に当てが外れたのです。

｢土曜日は確かにすすきの場外には近寄らず、ナイター決戦に備えて札幌ドームに早々と乗り込んでいたようですよ。で、あの結果でしょ。日曜日に場外に姿を見せると、鬼気迫る感じで、馬券を買いまくっていたんです。もちろん、全敗。いつもの反省会では一言も話さないで、ひたすらやけ酒でした｣と学生君。馬券休止宣言でリズムを崩してしまったのが、店長氏の最大の敗因のようです。

｢で、今週のエリザベス女王杯なんですが、ブエナビスタの復活にかけます。札幌記念で2着惜敗、前走の秋華賞は降着の3着とリズムを崩しちゃっていますが、並の馬ではありませんからね｣と学生君。こちらはすっかり門別競馬場での厩舎バイトにも慣れた様子で、意気軒昂です。ホッカイドウ競馬は来週がラストですが、開催がなくなっても居座って、H元調教師の元で学生最後の冬休みの資金稼ぎをするとのことです。

その学生君、いつもは1点豪華主義なのですが、今回はもう1頭、ご執心な馬がいるとのことです。

｢フランスの3歳馬、シャラナヤです。GIのオペラ賞を勝っての参戦ですからね。これまでエリザベス女王杯には6頭の外国馬が出走して、タイガーテイルの3着が最高でしたけど、シャラナヤは別格でしょう。ブエナビスタと同じ追い込み馬、直線の追い比べは見ものですよ｣と言うわけです。北海道は雪の頼りもあって、すっかり冬支度ですが、学生君の熱気は冷めることはありません。(第63話終了)