淀に《まつり》の歌声が響き渡る!キタサンブラックだ!!

菊花賞

15年10月25日(日)4回京都7日目11R 第76回菊花賞(G1)(芝外3000m)

キタサンブラック
(牡3、栗東・清水厩舎)
父:ブラックタイド
母:シュガーハート
母父:サクラバクシンオー

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道中でこれ程までに動きのあった菊花賞を観た事がない。淡々と流れる長距離の戦い、そんなイメージの3冠最後の一戦である。だが今年の菊花賞は、今までとまったく異なるレースとなった。
向こう正面で中団の馬が動いて、流れが一変。内々で最後の最後まで動かなかったキタサンブラック。直線に入ってからは、狭い内をこじ開ける様にして出てきた。直線半ばで一旦前が塞がり気味だったリアルスティール。前が開いてから一気に脚を使って迫っていく。先に出た内のキタサンブラック。外のリアルスティールの勢いも悪くない。さぁ、どちらだ!真ん中のリアファルは、残念ながら少し遅れ気味。クビ差だけ、キタサンブラックが前に出ていた。


パドックでうるさい馬が多かった。秋を迎えてドッシリとした雰囲気になる馬が多いのがいつもの菊。しかし今年は、何かまだ幼さばかりが目立つ仕草の馬が多い。一番に目立つのがリアファル。後ろに蹴りまで入れるほど。チャカチャカとして落ちつかない。馬場入りして、返し馬もちゃんとスタンド前を歩いてオーロラビジョンを過ぎるぐらいまで来てから返し馬に入って行くのが通例だ。ところが今回は、馬場に入るや左へと、それもいきなりキャンターに移る馬が圧倒的に多い。何と、13頭が左へとファンから逃げる様に去っていく。僅かに5頭が、いつもどおりに歩いて右へと来た。その中にキタサンブラックが、落ちつきはらって悠々と闊歩していた。ミュゼエエイリアンタガノエスプレッソスピリッツミノル。そして最後にリアルスティールは半分ぐらいでクルリとキャンターに移っていった。

3コーナーの坂の手前からのスタート。さすがにそこまではスタンドの喧騒も届かないとは思うのだが、ソワソワした感じはいつまでも拭えない。
スタートで、スティーグリッツがジャンプする様に出てしまって置かれる。思わず場内がドーッと湧く。レッドソロモンが一番前にいた。ゲートセンス抜群の武豊Jが牽制したのだろう。誰も行かないのなら俺が行くぞと。リアファルとスピリッツミノルが先手を主張して出てきた。坂の下りでスピリッツミノルが先手を取っていく。
1周目のスタンド前へ来る。ミュゼエイリアンが3番手で、キタサンブラックはレッドロソモンの後ろの当然にラチ沿い。その外にリアルスティールがいる。キタサンブラックの後ろにサトノラーゼン。思い思いの位置で折り合っていく。
1角、2角と過ぎて向こう正面に入る。真ん中まで行かないうちに動きが出る。アルバートドックが動いて行く。前の集団が団子になる。その動きがあった後でキタサンブラック、レッドソロモン、リアルスティールがいるあたりがゴチャつく。後でPVを見ると、狭い位置を3頭で2頭分を主張する様な動きとなった様で、真ん中のレッドソロモンが挟まれる形となった様だ。その少し後にレッドソロモンは前へと出て行ってしまっていた。

坂の下りでは、後続馬もグンと差を詰めてさらに団子状態となっていく。そんな中でキタサンブラックの北村宏Jは、ジーッと動かないでそのままの位置をキープしていくのが見える。《いや~、辛抱しているな~》と思わず言葉が漏れるぐらいに潜んでいる感じだ。
もうペースアップしている。最後のカーブへと入って行く。大外に廻ったワンダーアツレッタの後脚が流れる感じに見受けた。いわゆる惰性で外へ流れ気味の廻り方だ。キタサンブラックとリアルスティールはそれまでほとんど同じ位置で内と外との差だけだったが、4角を廻る時に一気に内を狙いに行くキタサンブラックと、真ん中の進路を当然に選ぶリアルスティールと別れた。内ラチ沿いで加速して行くキタサンブラックの勢いが目につく。前にいたミュゼエイリアンの外を抜いて行く時の速さよ。リアルスティールの方は幾分、馬の数が多くてなかなか隙間が開かない。その間に、キタサンブラックはリアファルの内をも抜けて一番前へと辿りつく。
リアルスティールの全体像が見えたと思った瞬間に前へと迫っていく凄さ。それまでの差をあっと言う間に縮めていく。むしろゴール前はリアルスティールの脚色に方が優っていた。しかし、無念にもクビ差届かずの菊花賞であった。

いつもながら検量室の入り口そばに陣取って、いろんな会話を耳にしたり、動きを頭の中に入れる。関東ジョッキーの結束は固い。すでに中に入っていた横山典Jが、北村宏Jが入ってくるなり『ひろしッ!おめでとう』と固い握手をしていた。ウチパクJも、後でビデオでは馬場内で戸崎Jも祝福していたのを確認出来た。

取材陣でゴッタ返す検量室前。北島三郎さんが嬉しそうにしている。そしてアチコチから祝福の言葉に握手、握手だ。馬場内での表彰式も終えて、北村宏Jとサブちゃんの二人がインタビューされる。場内はいつサブちゃんが唄を歌うのか待ち焦がれていた。
北村宏騎手とのインタビューが終ると、場内から拍手が湧く。サブちゃんがマイクを持ったからである。『こんな処で歌うのは大変失礼かと思う。だが嬉しいので、歌わせてください!』に場内がグワ~ンとなる。そして手拍子を要求するサブちゃん。《まつり》のサビの部分を替えて歌ってくれる。場内は最高のボルテージとなった。《これが競馬の祭り~だよ♪・》と、美声が淀の競馬場にこだまする…

関西馬でありながら、関西で初めて走るキタサンブラック。過去のデータでも、神戸新聞杯組に比べても明らかに劣勢なセントライト記念組。そして母系にサクラバクシンオー。そんなくだらないデータを吹き飛ばしての、冷静沈着な北村宏Jの好騎乗。迷いがない、まっしぐらなお見事な騎乗であった。今年もいい競馬にいい声を聴かせて貰いました。長いことクラシックを観てきたが、こんなに気持ちのいい菊花賞はそうはないかも知れない。そんな想い出深い菊花賞になる事でしょう。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。