宿命のライバル対決 リオンディーズがエアスピネルを差す!

リオンディーズ


15年12月20日(日)5回阪神6日目11R 第67回朝日杯FS(G1)(芝外1600m)

リオンディーズ
(牡2、栗東・角居厩舎)
父:キングカメハメハ
母:シーザリオ
母父:スペシャルウィーク

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10年前のオークス。1番人気のシーザリオが、エアメサイアをクビ差で制して戴冠した。時を経て、同じ父を持つその子供達の対決である。
今度はエアスピネルが1番人気。直線のラスト400mで先頭に立ったエアスピネル。そのタイミングからも完勝かと思わせるものだったが、たった1頭、ライバルのリオンディーズが追ってきた。あっと言う間に差を詰めて、最後の1完歩で交わしきってしまう。武豊JのG1完全制覇は来年の暮れまで持ち越しとなったが、若き2頭の清々しい戦いぶりは、見る者に来年の熱き戦いの始まりを楽しみにさせるものでもあった…。


朝からけっこう人が多い。昼過ぎの新馬戦のパドックはエアグルーヴの子供、ショパンに注目する多くのファンが囲んでいた。いつもの如く、ひとつ前のレースからスタンバイして待っているパドックの席。息を潜めて2歳馬が入って来るのを待つ大勢のファン。エアスピネルのテンションが高い。二人引きだが、けっこう勢いがある。ボールライトニングの静かさ、リオンディーズの外々を廻る雄大さに圧倒される。兄にも似て、また母もこんなだったなと思い出す。エアメサイアはこれ程にうるさかったか記憶を探る。幸四郎Jの乗るイモータルの馬体もやけによく見える。
ジョッキーが跨る前に引き上げて、返し馬を見る位置に戻る。パドックよりは、エアスピネルはおとなしく返し馬をして行った。リオンディーズはゴール板の方まで行ってからのキャンター。実に大人の雰囲気がある。そしてボールライトニングの異様なほどの落ち着きが気になる。大舞台でこれ程に落ちついている馬の好走例を何度も見ているだけに、実に嫌な気がする。

ゲートの前まで周回する時間になると、またエアスピネルがチャカチャカしだす。《なんて子供なんだろ…》と思う。
ゲート入りが始まる。リオンディーズのミルコJが、何やら鞍の上でゴソゴソと落ちつかなかい。
やがてちゃんと収まってゲート・オープン。そのリオンディーズの姿が一番後ろにあった。かたやエアスピネルは、悪くないスタートでジワっとしている。隣りのシュウジが猛ダッシュで前へと出て行く。《やっぱり先頭か!》と思ったが、4番手ぐらいの処で納まる。トップはウインオスカーが出ていき、2番手が上原勢ショウナンライズアドマイヤモラール。少し間があってシュウジ。ユウチェンジがいて、ボールライトニングがここにいる。エアスピネルは中団の少し後ろ。相変わらずリオデンィーズは最後方でジッとしている。

3角を廻っていくが、そんなに動きはない。エアスピネルはジンワリと行く。外にシャドウアプローチ。少し前にボールライトニングがいる。
4角が近づく。前の馬との差が一気になくなっていく。武豊Jが外のシャドウアプローチの方を《チラッ》と見た。どう動くのかを確認しているのだろうか。そうそう、いいと思えた幸四郎Jのイモータルがやや頭を上げたりと、折り合いに難を見せている。《もったいないな~》と、せっかくの出来と馬の若さとのギャップを嘆く。どんどんとカーブが近づく。リオンディーズもジワっと前に上がりつつある様だ。

直線に入ってくる。ボールライトニング、エアスピネル、シャドウアプローチの3頭が横並びになる。先頭の馬との差が一気になくなってしまい、エアスピネルが先頭に踊り出た様だ。あと400mを残す地点である。前の馬が一気にバテてしまったかの様である。
後続との差を広げて伸びていくエアスピネル。場内のボルテージが一気に上がる。場内のアナウンスが《武豊だ。G1完全制覇だ!》と言っていた気がする。しかし後ろから迫ってくる馬がいるのが判る。真黒な馬体が迫ってくるのを。《何とかこらえてくれ!》と願うのだが、黒い弾丸はどんどんと迫ってくる。あっと言う間に並びそして交わして、動から静に入った処がゴールだった。

検量室前で待つ。笹田師が『相手が強すぎるわ~』と通り過ぎていく。武豊Jが帰ってきて枠場に入ってきたが、笑顔である。力を出し切って負けたからなんであろう。相手の強さを認めるのも競馬である。『お母さんと一緒だな…』と一言置いて、検量室内に入っていった…。
喧騒が過ぎ去って、次のレースへと地下道へ降りるあたりで取材をする。蛯名Jに訊けた。『下を気にしているんだ』と言うので、《エ?》と改めて聞き直す。用心する馬で、慎重にしているから、何かギアが上がらずじまいだったそうだ。そんなこともあるんだと、改めて思う。距離はむしろもっと長くてもいい馬とも言っていた。
武豊Jとも話せた。あのうるささを我々、素人は気にするがプロはそんな風でもない様だ。むしろ相手の力を言う。あの後ろから外を廻って差すんだから…と。3着を4馬身も離している事実。宿命のライバルの力を今日は認めようと言うことだろう…。

まだ始まったばかりの長い道のりである。来年に朝日杯勝利の課題を持ち越しとなった武豊J。良きライバルとの戦いで、来年も忙しくなりそうである。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。