重賞メモランダム【エプソムC】

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上半期のGⅠシリーズも先週の安田記念で一区切り。レースの性格上、東京開催を締めくくるエプソムCは、夏のローカル重賞への前哨戦といった趣が強いのだが、今年に限っては一昨年の2歳チャンピオンのセイウンワンダー(牡4、栗東・領家厩舎)が参戦した。GⅢとなれば、明らかに格上の存在。3.6倍の単勝1番人気に推されたのも当然である。

ただし、朝日杯FSで世代の頂点を極めて以来、皐月賞や菊花賞で3着しながら、7戦続けて未勝利。どんな条件でも大崩れしない反面、勝ち切れないのが課題だ。過去1年に賞金を加算できず、目標に掲げていた安田記念を除外されている。ここも取りこぼすようならば、GⅠ戦線への再登場も難しくなってしまう。

そんな歯がゆいキャラクターらしく、薄氷を踏むような勝利だった。3着までがハナ+ハナ差の大接戦。騎乗した福永祐一騎手は、安堵の表情を浮かべる。
「最後まで勝てた実感はなかったね。スタートも良く、道中は理想的なポジション。不利を受けないことだけに注意して、直線もスムーズに割ってこれたけど、そこからがイメージより反応が鈍くて」

完璧に導いた結果だけに、手放しで喜ぶわけにはいかない。ただし、劣勢が続く4歳牡馬にあって、貴重な実力派。1年6カ月ぶりに勝ち切ったことで、再浮上のきっかけにしたいところだ。
母セイウンクノイチは未勝利で、産駒では同馬が初の勝ち上がり。決して良血とはいえないものの、その父はサンデーサイレンスだ。父(グラスワンダー)の強靭さと、母父のしなやかさとがバランス良く融合したタイプといえる。JRAブリーズアップセールで、最高価格となる2730万円で落札された。問題はさらなる成長が見込めるかという点。確かに馬体は重量感を増しているが、そのぶん硬さも目立ってきた。切れ味よりもパワー色が強くなっていることは間違いない。

「もっと楽に突き抜けないといけないが、まだ絞り足りない状況だから。ゲートの悪さが改善されてきたし、先につながる」
と、領家政蔵調教師は前向きに話した。これで堂々と宝塚記念に臨める。展開や馬場状態などの後押しがほしい現状ではあるが、辛勝だったからこそ見えてきたものもある。それを大舞台でどう生かしていくか、ジョッキーや陣営の手腕に注目していきたい。

前半4ハロン通過が47秒1、後半が47秒2のイーブンペースのなか、ハナを切ったシルポート(牡5、栗東・西園厩舎)が2着に粘った。中途半端にためなかったのが好走の要因。逃げ馬には苦しいインが荒れた馬場状態だったが、巧みなコース取りが光った。メイSが安田記念に勝つショウワモダンの2着。今回も相手はGⅠ馬である。コーナー2つの1800mは滅法走り、今後も目が離せない。

3着のキャプテンベガ(牡7、栗東・松田博厩舎)も、好騎乗がもたらした健闘といえる。芝が生え揃った外目にこだわる他馬を尻目に、コースロスなく早めに進出。
「これまでのイメージをあえて崩すような乗り方をした」
と、後藤浩輝騎手は説明。もともと大胆さが持ち味のジョッキーであるが、最近は追い出しのタイミングもきちんと図れている。

4着のセイクリッドバレー(牡4、美浦・高橋裕厩舎)も、内容は悪くない。インを懸命に伸びて、上位3頭から半馬身の差。安全策で大外へ持ち出した5着のゴールデンダリア(牡6、美浦・二ノ宮厩舎)だって、力は示している。これで評価を落とすわけにはいかない。メンバー中で最速タイの上がりをマークしたストロングリターン(牡4、美浦・堀厩舎)の将来性もかなり。6着までは、わずかコンマ3秒の間に収まった。

こんな白熱したレースが頻繁に繰り広げられれば、停滞気味にある競馬のムードも変わってくるはず。戦前の見立て以上に内容は濃く、夏競馬というよりも、さらに先まで心にとどめておきたい一戦となった。