研究員ヤマノの重賞回顧

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10月27日(土)、東京競馬場で行われた武蔵野S(3歳上、G3・ダート1600m)は、9番人気のエイシンロンバード(牡5、栗東・小崎憲厩舎)が、水が浮いている泥んこの不良馬場で積極的にハナを切ると、単勝1.7倍に支持された1番人気ワイルドワンダーの追撃を凌ぎ切り、大金星を挙げた。

エイシンロンバードは、3走前、29戦目にしてようやく1600万を勝ち上がりOP馬となった伏兵的存在。
レースが行なわれた土曜の東京は、台風の影響による悪天候で、特にダートコースはあちらこちらで水溜りができるような、不良馬場だった。
そこで重の巧拙がレースの明暗を分けた大きなポイントと考えるのは当然の事である。3走前の不良馬場での勝利から、エイシンロンバートのこの激走を道悪巧者ととらえる声が多く聞かれたのも、自然なことだろう。
確かに、“道悪巧者”と呼ばれる馬は多々存在し、爪の形状や走法などからも、向き不向きがあるのは間違いない。
それでは、このエイシンロンバードを直ちに“道悪巧者”ととらえ、今後、道悪時に出走する際に頭から狙ってしまっていいのだろうか。
それはいささか早計かもしれない。
というのは、この馬はデビューして最初の1年間に行なわれた重・不良時のレース3鞍では、いずれも1秒以上差の敗北を喫しているのだ。
それでは最近の道悪での激走はどういうことなのか?
私見だが、その答えのヒントは昨年3月に行なわれた伊丹特別にあると考える。
このレースで、エイシンロンバードは重馬場で初めて3着と好走している。
では、それまで行なわれた重・不良時のレース3鞍との何か違いはあったのか?。
調べてみると、道中の位置取りが大きく異なることがわかった。
伊丹特別では、道中2番手からスムーズな競馬ができていたようだ。
さらに調べを進めると、この馬がハナを切ったのは今回と香港JCT以外では他に1鞍だけで、そのレースでは0.1秒差2着と好走していることが判明した。
ということは、この馬は道悪上手というよりも、気持ちよく前々で自分のレースができるかどうかが、最大の好走条件だと推論できるのではないだろうか。
今後、同馬が出走するレースに注目してみたい。


同27日(土)、京都競馬場で行われたスワンS(3歳上、G2・芝1400m)は、道中後方で脚をタメていたスーパーホーネット(牡4、栗東・矢作芳人厩舎)が、最後の直線で猛然と追い込み、先に抜け出して粘り込みを図っていたフサイチリシャールをゴール前で捉え、ハナ差で接戦をモノにした。

このレースは毎年大荒れのレースで、今年も1番人気のアストンマーチャンで3.6倍と戦前から波乱のムードが漂っていた。
ゴール前、大接戦で真に見応えのあるレースだったが、歴史は繰り返され、またも大波乱の決着となってしまった。
このように過去の傾向やメンバー構成からも波乱が予想され、その通り大荒れの結末を迎えてしまった今年のスワンS。
実はもう一つ別に、大荒れのレースになるだろうと一部のファンの間で囁かれていた、いささかオカルト的な話が存在したのはご存知だろうか?
それは、“オートセレブの乱”である。
その内容は、オートセレブが出走するレースは必ず大荒れになるというものだ。
これは別に同馬を揶揄してものではないだろう。ここ最近3連勝と立派な成績をあげているわけだから、非難される道理もない。
しかし、確かに3連勝したレース3鞍全てで3連単100万円以上決着と、大波乱の使者となっていたことは事実である。
今回は不幸にもレース中で2度目の鼻出血を発症してしまった同馬。
鼻出血は外傷性なら問題ないものの、肺からの出血が原因だと大事になることもあり、3回発症するとレースに出走できなくなると聞く。
大過なく再びレースに復帰し、3連勝の実力を発揮して欲しいと願う。
また、“大波乱の使者”としても競馬を大きく盛り上げて欲しいものである。


翌28日(日)、東京競馬場で行われた天皇賞・秋(3歳上牡牝、G1・芝2000m)は、1番人気に支持されたメイショウサムソン(牡4、栗東・高橋成忠厩舎)が、武豊Jの好騎乗に導かれて天皇賞春・秋連覇を達成した。

メイショウサムソンは今年凱旋門賞を目指していたが、今夏の馬インフルエンザの影響で遠征を無念にも断念していた。
その後ここ目標に入念すぎるほどに乗り込まれ勝ち得たこの栄冠は、不屈の雑草魂と称された同馬にふさわしい、素晴らしい勲章だと言えよう。
しかし、そのメイショウサムソンの輝ける雄姿とは裏腹に、今年の天皇賞・秋は決して全ての馬が力を出し切れたスムーズなレースとはならなかった。
かつて、“府中の杜には魔物が棲む”とまことしやかに囁かれていた時代があった。
何故か予測できないアクシデントが頻繁に発生していたからであるが、今年の天皇賞・秋を見て、その言葉がふと脳裏をよぎった。
事の起こりは、最後の直線で逃げていたコスモバルクがフラついた事から始まった。
カンパニーは前をカットする不利を受け、一瞬ひるんでしまった。
コスモバルクが寄ってきた事に驚いたエイシンデピュティが外に逃げ、そのエイシンデピュティにアグネスアーク、シャドウゲイト、ダイワメジャー、アドマイヤムーンが、馬体をぶつけ合うようにして外に飛ばされた。
こうして多くの馬が実力を発揮できない後味の悪い結末となってしまい、レース後は当事者たちから辛らつなコメントが残されたりもした。
競馬ファン、関係者、人によって思いや言い分は様々だろうが、皆に共通する思いは、来年こそは、何事もアクシデントがないフェアなレースになって欲しいという事だろう。