関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

高橋亮調教師

2012年2月をもって騎手を引退、その後は技術調教師として荒川義之厩舎で研修を積んでいた高橋亮調教師が2013年9月21日に厩舎を開業。すでに田島良保元調教師から引き継いだトーホウアマポーラなどで勝利を挙げているが、苦労人として知られるだけに、どのような厩舎経営をしていくのか気になるところ。突然の訪問にも関わらず、快くインタビューに応えていただいた。

“行儀良い馬”をモットーにする厩舎

-:新規開業ということで、よろしくお願い致します。まず高橋亮厩舎はこういう厩舎で、どんな馬作りを目指しているかというのを、教えていただいてもよろしいですか。

高橋亮調教師:よろしくお願い致します。馬に対する考え方は色々あるけど、思ってることはやっぱり“シンプル”ということ。僕は一応ジョッキー出身者やから、行儀良い馬を作りたいっていうのはあるからね。ファンの人に見せるために、馬場でも、ゴール板でも落ち着いて行くほうが、見た目もいいし、怪我も少ない。それだけじゃないですけどね。

-:その行儀が良い馬というのは、元ジョッキーとして、やっぱり苦労する馬の経験があったからですか?

高:やっぱり、ジョッキーもそういう馬には乗りたくないしね。レース前でちょっと神経使うような馬より、レースのことだけを考えたい、というのはありますよ。そのほうが、馬も力を発揮できるし、ジョッキーの力も発揮できるからね。

-:だからこそ、”コントロールしやすい馬を”ということですね?

高:そうやね。道中のコントロールももちろんそうですけど、その辺はジョッキーの腕でもあるし、馬の当日の気持ちも全然違うけど、調教で出来ないことをレースで出来るわけがないですから。

-:トレセンで見ている馬と、競馬場で見る馬というのは、やっぱり気合も乗ってるし、テンションも上がっているし、全然違うと思います。普段からトレセンで精神状態のコントロール出来ている馬のほうが、まだ制御しやすいという考えですか?

高:僕はそう思いますね。


「コース調教だと、当然コーナーを回るわけだから技術がいる。騎乗者の技術の向上にもつながるから。スタッフはみんな若いから、普段から乗っていかないといけないし、乗らないと技術も上がらない」


-:それに繋げるために、高橋亮厩舎の普段の調教は、軽めにしてるのか、強めにしてるのか。ファンの方は、本追い切りや最終追い切りしか見ないことが多いと思うので、教えて頂けますか?

高:強弱だけでいったら弱いかもしれないけど、その中でも内容はありますから。僕、追い切りでもあんまり細かくは時計を見てないんですよ。坂路でも、やっぱり距離は短いからね。その中でも4ハロンの内、最初の1ハロンを1コーナーに入るまでとか、こう乗る、というイメージ持っておいたら、別に慌てて行くこともないし。最後に伸びてくる馬、最後に頑張れる馬のほうが、競馬で強いからね。あとは、競馬って、やっぱトラックでやってるから、コースも併用して使っています。

もちろん坂路も良い施設ですけどね。馬を鍛えるのにもいいけど、コース調教だと、当然コーナーを回るわけだから技術がいる。騎乗者の技術の向上にもつながるから。スタッフはみんな若いから、普段から乗っていかないといけないし、乗らないと技術も上がらない。極端に上手くなることはないけど、経験は積まないと。馬もいきなり行ったら、できないこともある。でも馬は凄いですよね。すぐ慣れるから。


-:難しいですね。でも、そう考えると馬を育てる前に、ある程度、人も育てないといけないっていう。

高:そうですね。僕はあんまりごちゃごちゃ言う方じゃないですから。ちょっと語弊があるかもしれないけど、人間には得意、不得意、長所、短所もあるし、だからシンプルにしか言わないし、騎乗技術で「その拳をどうのこうのして」とか、そこまで言ってもね。もう極端なニュアンスでしか言わないようにしています。


屋台骨を背負う現在の看板馬

-:今いる中で、上の条件で注目されている馬もいると思うんですけど、その辺りをファンにアピールしてもらいましょうか。

高:今ちょうど2つ勝たせてもらって(11/14現在)、1600万にひとつ格が上がったけど、2頭とも内容が良かったんです。コルージャ(セン5)という馬と、厩舎初勝利のトーホウアマポーラ(牝4)。まだまだ活躍してくれそうな馬なので、今ちょっと放牧に出ていますけど、戻ってきたら、また期待ですね。

-:トーホウアマポーラは芝で。

高:芝ですね。でも、将来的にはダートの短いところを走らせたい気持ちもあるんです。

-:それはどういうポイントで、そう思ったんですか?

高:坂路の走り方などは、わりとピッチ走法なので。ピッチなんだけど、芝を走らせたら割と大きいストライドになる、不思議な馬なんですけど、アンブライドルズソングの肌馬にフジキセキだからね。坂路を乗った感じも、ダートも走りそうですから。芝で速い時計で走ってる実績もあるから、しばらくは芝ですが、ダートで使ってみたい気持ちはあります。コルージャは気性が悪かったんですけど、古馬になって落ち着いてきて、調整もし易い中で、僕が貰った馬やし、この間もかなり外を回りながらも、力で勝つ強い内容やったからね。これなら1600万下でも、上位争い十分できそうだしね。この馬は絶対にダートやと思うけど。

-:コルージャに関しては、乾いたダートと湿ったダート、二通りあるとしたら、どちらが合いそうですか?

高:本来後ろから行く馬やから、乾いたダートの方が、前が止まりやすいやろうけどね。雨で湿ったダートでも、意外と走っていますが。

-:ダート馬の中には、乾いたダートじゃないと差して来られない馬もいますからね。話は戻りますが、トーホウアマポーラと言ったら、お父さんがフジキセキなんですけど、フジキセキ産駒と言ったら、ダイタクリーヴァなど、先生もけっこう乗られていたじゃないですか。その辺の特性というか、違いというのはありますか?

高:全然違いますねえ。あれは本当に中距離の馬って感じで。フジキセキ産駒は割と牝馬の方が走ってるような気もしますよね。


「フジキセキのほうが、僕が良い思いしたっていうのもあるけど、平均的に走るからね。ダンスはちょっと当たり外れがあるかな。当たったらデカいけどね」


-:フジキセキ産駒といえば、競馬場でパニック状態になるというか、テンションが上がってしまうイメージがあります。

高:僕はいいイメージしかないですけどね。フジキセキって。

-:乗っていて、サンデー系の良さはやっぱり感じましたか?

高:まあそうやろうね。

-:その辺はトーホウアマポーラにも通じる部分がありますか?

高:フジキセキの子はどちらかというと、キレるってイメージじゃないんだよね。自分のサンプルの中では。レースで他の産駒を見ていても、なんとなくそんな印象は受けるけどね。平均点が高いような感じかなぁ。

-:短距離馬も出ますし、中距離もソコソコこなせるという幅の広さがありますよね。

高:そうやね。オールランダーやもんね。


-:その辺で言うと、橋口(弘次郎)厩舎に所属していた先生は、ダンスインザダーク産駒にも乗っていると思うんですけど、ダンス産駒とフジキセキ産駒の違いは何かありますか?見た目だけだったら、ダンス産駒の方がよく見えますね。

高:ダンスは奥手なところもあるのかな。あれは逆に牝馬の成績が悪いからね。僕のところにも来年ダンスの牝馬いるんやけど(笑)。フジキセキのほうが、僕が良い思いしたっていうのもあるけど、平均的に走るからね。ダンスはちょっと当たり外れがあるかな。当たったらデカいけどね。もう2頭とも種牡馬としても歳だけれど。

-:ダンス産駒の牝馬もサンプルが多くないという。コルージャの話に戻りますが、ゴール前の良さというのは、調教の成果が出ていると思っていいですか?

高:あれはどうやろう。僕が臨場してなかったから、最後に頑張って、勝ったんちゃうかな(笑)。勝つ時って上手くいくからね。あのレース前は、ハイペースになると思ってたけど、意外とペースが落ち着いて、ちょっとペースが緩んだ時に、馬が行く気になって、ちょうどタイミングが合ったね。気分を損なわずに外回る形になって、あれで正解やったと思う。

”コルージャの法則”っていうのがあって、アレは普段、調教でも併せ馬をしないと、気が悪いから止まったりする馬なんやけど、それと併せた馬が走るっていう法則が、田島(良保)厩舎時代からあったらしいんです。みんなでその御利益にあやかろうとしてたら、この間は自分で使ったから「なんやねんコイツ(笑)!?」とか皆で笑っていたんやけど。


-:ちなみに、その時に併せ馬していた馬はどうだったんですか?

高:僕は東京に行ってたんやけど、ネオシーサー(牡6)って馬が5着でした。

-:ネオシーサーも走りますよね。あれも先生の管理馬ですか。

高:あれ、好きなタイプの馬です。決め脚を持ってるからね。1000万下は、上手く行ったら勝てるんちゃうかなって思いますけどね。真っ黒な馬で、カッコイイしね。

高橋亮調教師インタビュー(後半)
「ジョッキーは続けて乗せたい意向」はコチラ→

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【高橋 亮】 Ryo Takahashi

1978年滋賀県出身。
2012年に調教師免許を取得。
2013年に厩舎開業。
初出走
13年9月22日 4回阪神7日目 1Rオーミハンコック(11着)
初勝利
13年10月13日 4回京都4日目10R トーホウアマポーラ


栗東の橋口厩舎所属騎手としてデビュー。96年のデビューイヤーに20勝を上げ、翌年には中京競馬記者クラブ賞を受賞。98年には中日新聞杯(ツルマルガイセン)で重賞初勝利を上げ、これを含む重賞4勝を記録。また、自己最多となる年間60勝を上げた。
2012年2月一杯をもって騎手を引退すると、引退時に所属していた荒川義之厩舎で技術調教師となる。2013年9月から厩舎を開業。10月にトーホウアマポーラで初勝利を上げた。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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