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荻野要調教助手

新馬戦では後に3連勝で若駒Sを制すトゥザワールドに6馬身差をつける圧勝。続くエリカ賞でも京成杯6着のヴォルシェーブを5馬身ちぎるなど、圧倒的な強さで連勝中のバンドワゴン。きさらぎ賞では、早くも同じ2戦2勝のトーセンスターダムと初対決を迎えるが、優等生のライバルとは真逆といえるタイプだけに、戦前から興味はつきない。競馬ラボ初登場となる元騎手の荻野要調教助手に、ここまでの成長過程を聞かせてもらった。

仕上がり途上で圧勝の新馬戦

-:きさらぎ賞(G3)を予定しているバンドワゴン(牡3、栗東・石坂厩舎)は、まだ2戦しかしていないので未知なる部分が多いのですけれど、まずはデビュー前の動きというところから教えて下さい。

荻野要調教助手:よろしくお願い致します。ストライドも大きいし、調教でもやれば動くし、すごく能力は感じていたんですけど、全然馬が完成していないというか、普通なら使わなくても良い状態でレースをしていたと思いますね。

-:新馬戦の前の状態ですね。それは感覚的に1~2本調教を積んでから、ということですか?

荻:1~2本というよりも、まだまだ早いんじゃないかという。能力は感じていたし、やれば動くし、競馬に行ったら多分走れる状態ではあったと思うんですけど、無理に使わずにもうちょっと馬の成長を待ってから使っても良かったんじゃないかな、と思うほどで。

-:ただ、先を見据えるとそれも難しいですよね。

荻:調教師の考え方もあるし、競走馬をやっている人は、みんな最初はクラシックを目指すので。そこを逆算していったら、あの時に使わないといけなかったかなと思いますしね。

-:あのレースにはトゥザワールドをはじめとした良血馬が揃っていて、バンドワゴン自体は4番人気だったんですけど、僕が現場で見ていた印象としては、展開面に恵まれたのかな、と思ったのですが、終わって上がりのタイムを見たら、ハナに行っているのに一番キレていました。上がり3Fが33秒5ですね。それで、2着馬が34秒台ですからね。展開利がどうのこうのではなかったです。

荻:本当に能力だけで、力でねじ伏せた感じやったと思いますね。


-:ただ、あのポジションに行く馬がいなかったから、ハナに行っただけで。

荻:あの馬のスピードに周りが付いて来られなかっただけやと思いますね。あのポジションに押し出されて行った、というよりはね。

-:リアルタイムで見ていた時は時計も見られないですし、逃げ切られちゃったよ、みたいな感じで見ていたんですけど、終わってから結果を見たら、改めてこの馬はすごいなと。1回使った後の変わり身というか、変化はありましたか?良い意味だけじゃなくて、多くの馬はすぐに使えなかったり、完成度が低い状態で使った反動みたいなものが出たりする場合もあるじゃないですか。バンドワゴンの場合はどうでしたか?

荻:そういう反動はあったと思いますよ。やっぱり使った後は1度放牧に出して、少しリフレッシュをさせて、また入れて、エリカ賞の時もそれで調教を積んで、また一旦放牧に出ているんでね。

-:新馬を使った後に1回放牧に出たんですか。

荻:短期で放牧に出ていて、戻ってきてエリカ賞を使って、その後も放牧に出て、今回なので。


「僕自身もレースを観るまではそんな風には思っていなかったですし、レースでは異次元やな、というイメージですよね」


-:エリカ賞前に良くなっていたという点はどこですか?

荻:まだ特に大きく変わったところはなかったです。馬が壊れず、傷まずに戻ってきたな、という感じでした。

-:ホワイトマズル産駒というと重たいイメージがあって、もちろん短距離馬でキレる馬もいたんですけれど、中、長距離で走るホワイトマズル産駒の特徴というのは、持続力はあっても、そんなにスパッとキレるイメージもなかったので、この馬は先行力もありつつ、終いもキレる、というちょっと反則的な馬ですからね。

荻:そうですよね。僕自身もレースを観るまではそんな風には思っていなかったですし、レースでは異次元やな、というイメージですよね。


-:ということは、ミホノブルボンみたいなタイプになれるかもしれないですね。

荻:本当に無事に行ってくれれば。あとはちょっとずつ馬がレースを覚えていってくれれば、また違うレースもできるようになってくると思いますしね。

-:エリカ賞ではキャリア2戦目で、ある程度のメンバーと戦って5馬身差という内容というのは評価ができるのではないですか。

荻:あのレースも強かったと思いますね。最後に引き離したというのは。

-:しかも、時計の掛かるような展開でも来ているし、初戦のような硬い馬場でもキレる脚で対応ができているし、すごくオールマイティさがあるのは強みですよね。

荻:2戦共に阪神で、最後の坂もスピードが落ちずに上がってきたというのはね。

スピード、スタミナ兼備のエンジン

-:今回は京都になるんですけれど、不安という不安は現時点では感じないですよね。

荻:今もそうですけど、新馬、エリカ賞当時に比べたら、若干シッカリとしてきたかな、というところが見えてきているので。あのユルいまま、完成に向かわないまま行くのではなくて、ちょっとずつ完成していってるのかなと。

-:緩やかに上昇して成長していってると。

荻:少しずつ成長してくれているので、このまま行ってほしいですね。どうしても気だけで走ってしまうので。

-:このエリカ賞に関しては、ただ年内2勝というノルマを達成しただけじゃなく、既に2戦目でコーナー4つに対応できたという部分が大きいと思うのですが。

荻:対応できたかどうかは分からないですけど、距離をこなしてくれたという部分では大きかったと思いますね。


-:ああいう気性を見ると、距離が延びて展開利があるかもしれないですけど、そんなに距離が延びても……。

荻:スピードがあってスタミナがあるという、本当に兼ね備えていますよね……。普通に走ってくれれば、重賞でも勝ち負けはしてくれると思うんですよね。レースでは相手もいることなので、「勝つ」とは言い切れないですけど。

-:極端な質問になるかもしれないけど、ホワイトマズルのお父さんはダンシングブレーヴで、凱旋門賞とか追い込み中の追い込みのイメージがあるじゃないですか。バンドワゴンが出遅れて、もし位置取りが悪くなった時でも、新馬を考えると、ある程度の脚を使って終い伸びてきそうな感じもしますね。

荻:そうですね。溜めが利くようになれば。

-:その辺は助手である荻野さんが教育するというか?

荻:なるべくそういう風になってほしいですね。普段からそういうイメージでは乗っているんですけど。


「今はそこまでやる調教はしていないんですけど、やれば50秒台は出ると思いますね。それでも終いは12秒台で上がってくると思いますし、それをしてしまうと、馬が確実に壊れちゃうんで、絶対にしていないですけれど」


-:その乗り心地、フットワークはどんな馬ですか?

荻:普段の常歩ではそんなに乗り心地の良い馬ではないです。でも、キャンターの乗り心地は良いです。軽い感じで反動の少ない、いつの間にかスピードに乗っているという。

-:気を付けておかないと思ったよりも時計が出てしまうタイプなのですね。

荻:そうですね。

-:いつもの調教は坂路が中心なのですか?時計の目安として、やればこのくらいは動くぞという目安はありますか?

荻:坂路ですね。今はそこまでやる調教はしていないんですけど、やれば50秒台は出ると思いますね。坂路でテンからぶっ飛ばして行けば。それでも終いは12秒台で上がってくると思いますし、それをしてしまうと、馬が確実に壊れちゃうんで、絶対にしていないですけれど。


-:成長を待ちつつ、能力が出せるコンディションを維持するということは、結構気を遣いますよね。

荻:馬にガタが来たり壊れなければ、しっかりと能力を出して走ってくれると思うので。

-:色々なことを心配しつつも、無事に春を迎えられれば。

荻:無事にレースに行ってくれることだけですよ。

-:若干、京都の馬場が硬いので、これは壊れる馬が出るかもしれない恐怖感を持って見ているんですけどね。今週もこれだけ雨が降れば、安心かなと。

荻:そういう意味では条件はみんな一緒になるので、他の馬もそうですしね。

-:サバイバルで生き延びていかないといけないですからね。

荻:じゃないと、クラシックは獲れないので。どうしても目指しているところはそこですから。

-:厳しい目を持ちつつ、繊細に調教をしていくと。

荻:集中力を切らさないようにやるしかないですよね。ちょっとしたことでも馬の異変に気付いて、どれだけ人間がカバーしてやれるかだけなので。

バンドワゴンの荻野要調教助手インタビュー(後半)
「『完全体』はまだ先」はコチラ→

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【荻野 要】 Kaname Ogino

1978年8月28日生まれ。小学校5年生から始めた乗馬がキッカケで、1998年、栗東・増本豊厩舎所属で騎手デビュー。2013年9月20日に騎手を引退した後は、石坂正厩舎所属で調教助手となる。馬に乗る際、騎手時代から心掛けているのは「どうやって楽に走らせるのかということ。人が乗っていない状況で走っている時の方が、馬は良い走りをしているので。人が乗っていて、どれだけそれに近付けるかということ」。誰が乗っても乗りやすい馬づくりをモットーに、名門厩舎のムードメーカーとしてバンドワゴンなど素質馬の背中で奮闘している。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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