NO HORSE、NO LIFE!
2010/3/6(土)

尾関知人調教師
尾:単純に応援してくださる方が多いと頑張り甲斐があります。あとはブログ以外のサイトのコメントを見てもそうなんですけど、やっぱり1口馬主の方の愛着の度合いの強さがありまして。1口馬主の方たちは、僕たちにとってはスポンサーの方々なわけですから、そういう人たちがどういう事を考えて競馬を見ているのかなっていうのは顧客情報として気になりますね。
-:顧客は何を望んでいるのか、と。
尾:そうですね。そういうところは勉強になります。
-:顧客に目を向けるといえば、先生が厩舎を開業にあたって近江商人の経営理念ですか、三方良しという事がブログに書かれていらっしゃいましたけど。
尾:はい。買い手良し、売り手良し、世間良しで「三方良し」という言葉があって、そこに馬良し、を加えて「四方良し」と言っているんですけど。そういう理念を念頭に置いて、といっても、日々バタバタしていると忘れてしまいますけど、ブログに書いておくと記録に残っているので自分でも思い出せるっていう利点はありますね。
-:備忘録としても役立つ、と。
尾:そうですね。業務日誌的な役割りもありますね。
-:あとやっぱり尾関先生といえば現在のブログのタイトルにもなっている「NO HORSE、NO LIFE!」。このキャッチフレーズですよね。これは某レコード会社を参考に…、尾関先生ご自身が考えられたんですか?
尾:はい。調教師合格したぐらいの時ですかね、何かキャッチフレーズを考えようと思って自分で考えたんですけど。でも多分同じような事を考えた人がいたんでしょうね、静内のセリに行った時にどこかの牧場に「NO HORSE、NO LIFE」って書いてあるところがあったんですよ。「カブってるよ!」って。
-:あらー。
尾:僕も「真似したわけじゃないですよ」って言いたかったんですけど、あえてそこで声もかけなくて…。いやー、カブってましたね(笑)。
-:まさかのカブりで(笑)。ロゴの色合いも、某レコード会社を彷彿とさせる黄色と赤で。馬服にも入っていて目立ちますよね。この配色も先生が決められたんですか?
尾:黄色と赤は、大久保(洋)厩舎の色に合うのでちょうどいいなという理由で。いや、馬服に入れようとは元々は思っていなかったですけど、厩舎の名前を書くだけじゃつまらないなと思って入れたんですけど。周りから結構リアクションがあって「そんなに反応があるもんなんだ」って結構ビックリしました。
-:目立ちますからね、ついこちらもリアクションしてしまいます。
尾:ああいう風に「NO HORSE、NO LIFE」と大きく出していることで、自分たちがその理念を忘れないように出来ればいいなっていうところですかね。自分もそんなに英語は詳しくないですけど、意味としては「馬が大好きだ」っていう事になるわけで、それくらい馬が大好きでやっていかなきゃいけないっていう事と、凄く単純な訳として、馬がいなければ我々は仕事にならないですから、本当に生きていけないよっていう話ですよね。
-:あともう1つブログを読んで気になった箇所が「熱く調教師という仕事に向き合っていきます」っていう一文の間に入っている(あまり客観的な自分のイメージではありませんが)っていう、先生の自己認識のされ方なんです。正直、確かに熱く燃えている先生って想像が出来ないな、とは思いますが。
尾:今まで競馬ラボさんでインタビューされた調教師のタイプで言えば、矢野(英一)さんタイプではないっていう事ですよ(笑)。ただ、矢野さんみたいな熱いリーダーシップっていうのは、トップとして必要な要素かなって考える事はありますよね。
-:なるほど。
尾:だからストレートに表現しないにしても、良い仕事をしてくれた時には厩務員と1対1で感謝の言葉をかけるとか、そういうような事はしているつもりではあるんですけどね。
-:熱く見られないけど本当は熱い、とか、本当の自分と周りの評価が違うと思うような例はありますか?
尾:うーん、どうですかね。そんなに意表つくタイプの人間でもないですしね(笑)。
-:私にとっては、先ほど先生がおっしゃっていた「いろいろな先生に話しかける」というのはちょっと意外でした。調教の時スタンドでお見かけすると、双眼鏡で馬場を見ていたり、自分の厩舎のスタッフに話しかけたりという場面ばかりだったので。
尾:ああ…、調教の時間は集中しているので、そういう部分はあるかもしれないですね。傍から見ているよりは意外と調教の事ばかり考えているというか。結構、僕は色々な事が出来て器用なんじゃないかと思われるんですけど、そんなに器用な人間ではないですからね。まだそんなに能力がないですし、目の前の仕事でいっぱいいっぱいで、何とかやっている感じですね。
-:複数の事を同時にやるような器用さが。
尾:もうちょっとそういうのを身に付けたいんですけど、ダメですね。メモリが2ギガぐらいしかない。4ギガ持っていないです(笑)。容量はこれからまだまだ増やしていきたいんですけどね。老いとの戦いでどこまで伸ばせるか…。
-:厳しい戦いですね…。
尾:調教メニューも一律ではないので、パッと見逃してしまうと、本当に見失ってしまうんですよ。だから集中力も必要ですしね。
-:トレセンは広いですからね。調教といえば、先生の厩舎は結構ジョッキーの方が調教に乗っている印象があります。
尾:そうですね。どうしても、自分は調教助手出身の調教師ですから、なかなか競馬に行って分からない面もありますからね。今まで僕が所属した厩舎も、ジョッキーに調教から乗せて成績を出してきている方なので、自分もシステムとしてそういう形に慣れている部分もありましたから。ジョッキーが嫌がりさえしなければ、調教で乗ってもらう事は、ほとんどプラスになりますからね。
-:どういう点が良いのでしょうか?

尾:ある程度レースを見据えて調教していく時、追い切りに乗ってもらえば、実戦を頭に置いて「ちょっとこうした方がいいんじゃないか」とかヒントを与えてくれますしね。よく手伝ってもらっている小野さんは経験も豊富な方ですから。
-:実際にレースに乗った人じゃないと分からない知識を厩舎にフィードバックしてもらって。
尾:小野さんはベテランですから凄いですよ。フワッという感じで乗ってレースを終えて、こちらが「もうちょっとギュッと出して競馬してくれればいいのにな」なんて思っている馬にローカルで若い騎手を乗せて、いざ出してみたらゲートで立ち上がるなんて事もありましたからね。やっぱり「そういうところを感じているから無理にプレッシャーをかけないで乗っていたんだな」とか、後々の過程を見ていると、自分自身も凄く勉強になります。
-:フワッと乗る時にもちゃんと何か理由があるんですね。
尾:そうなんですよ。ちゃんと考えがあるんですよね。ですから馬の適性条件を見抜く上でも意見を参考にさせてもらっています。調教していけば、おおよそ分かるんですけど、例えば「1800ダートでいいと思うけど、どうなのかな?」っていう話をしたら「いや、1200ダートの方がいいと思うよ」って言われたりして。
-:そうなんですか。
尾:実際にそう言われた馬が1200ダートで徐々に走って、1000ダートで勝ったりする事がありますからね。芝とダートの適性も含めて、正解がどこにあるか分からないところが馬の面白いところでもあるし、難しいところでもありますよ。
-:なるほど。そういう難しい中で今年は既に6勝をあげられて順調ですが、現状から変えたい点や、更に良くしていきたい点はありますか?
尾:まあ贅沢を言ったらキリがないんですけども、厩舎のシステム自体は今の状況で個々の仕事のレベルを上げていければ良いと思います。
-:厩舎が進んでいる方向に、特に不満は無いんですね。
尾:どこかで慣れがきた時に、何かしらぶち壊す必要があるのかもしれないかなあ、というのも考えてはいるんですけど、今は幸い成績も出ていますし、ようやく「このやり方でいったらいいんだろうな」というのはみんなも感じてくれていると思うんですよ。そういう流れで来ているので、もっと細かいところの精度を上げていくところかなと思いますね。
-:なるほど。
尾:あとは厩舎がまだ開業して間もないですから、逆にもっと厩舎施設や道具を充実させていかなきゃいけないのかな、と思います。スタッフにばかり求めるのではなくて、僕の方がそういう整備をちょっとやっていかないと、と思います。
-:スタッフの働く環境を改善して。
尾:そうですね。「お前ら仕事しろよ」「道具が足りません」じゃ話にならないんで。自分も忙しいのにかまけて、労働環境整備がちょっとおざなりになっているかなって思うんで。
-:環境のレベルを上げて、それに連れて従業員の方のレベルも上がってっていうのが理想ですね。
尾:そうですね。あとは自分の厩舎だけじゃなくて、今、美浦の厩舎自体を変えようとしているじゃないですか?人減らして、とか。
-:はい。
尾:今の僕の厩舎やり方は、それでも対応しやすいやり方になっているので、人が減っても対応は出来ると思うんですよ。ただ「いかに仕事の内容を下げないで仕事が出来るようにするか」という意味では、今の余裕があるうちに、もっとレベルを上げておかなきゃいけないんだろうなとは思いますね。
-:将来どうなるか分からないですもんね。長々とお話お聞きしてすみません。そろそろお時間になりますので、最後にファンの方に向けてメッセージをいただけますか?
尾:自分も競馬ファンだった人間ですが、こうやって送り出す立場になったので、なるべくファンの方に喜んでもらえる馬を育てて、競馬界を盛り上げていきたいと思います。あと、さっき話した能書きの「三方良し」ですけど、ブログにも説明を書いた通り、買い手良し、売り手良し、世間良しで、三方良しなんですね。 競馬の社会を小さな視点で見ると、買い手が馬主さんで、売り手が自分たち厩舎で、世間が競馬ファンっていう考え方も出来ますし、更にもう1つ大きな視点で言えば、売り手が競馬サークルで、買い手が競馬ファンの方々で、世間が、本当にもう競馬に関係ない一般社会っていう考え方も出来るかなと思うんです。
本当にファンの方なくしては競馬は成り立たないですから「競馬って面白いな」と思ってもらえるような馬を作りたいですね。 「尾関厩舎の馬が使っていれば、何かあるな」って思ってもらえるぐらいになるといいかなと思っています。
-:ファンに気にしてもらえると、やっている側としても嬉しいですよね。
尾:そうですね。この間も水曜日に地方交流戦を使ったんですけど、あの日はエンプレス杯があったんですよね。地方で平日なのに結構にぎやかにお客さん入っていたので「やっぱり馬とジョッキーと華のある顔ぶれが揃えば、ファンの方々がまだ来てくださるんだ」と感じました。
-:やっぱり現地に足を運んでもらうとまた嬉しいですよね。
尾:はい。現状厩舎にいる馬も、新しく来る新馬も頑張ってやっていますんで、応援していただければと思います。
-:尾関先生、これからも応援しています。今日はありがとうございました。
尾:ありがとうございました。
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「NO HORSE, NO LIFE !」のキャッチフレーズと共に2009年厩舎開業。2010年は2月末時点で既に6勝をあげる好スタートを切った。 また厩舎キャッチフレーズである「NO HORSE, NO LIFE !」をタイトルにしたブログ(http://ozeking.com/)も公開している。 |
