5頭目の牝馬3冠馬へ。春の2冠を制したアーモンドアイがラスト一冠に挑む。休み明けが心配された桜花賞も、距離延長が心配されたオークスも、その圧倒的なレースぶりで不安を跳ね返してきた。今回は京都内回りに舞台が替わる。末脚爆発なるか、国枝栄調教師が胸中を語る。

シンザン記念で確信「大きいところに行ける」

-:秋華賞(G1)へ向かうアーモンドアイ(牝3、美浦・国枝厩舎)のシンザン記念(G3)から振り返っていただきたいのですが、当時は未勝利勝ちの身で挑んだレースでしたけど、あの時の仕上がり状態とかはどのようにご覧になっていましたか?

国枝栄調教師:本来は暮れに使う予定だったけど、それが間に合わなかったので。「シンザン記念を使う」ということを言ってきたけど、とにかく馬の状態は良かったからね。男馬相手や輸送競馬といった条件は色々あったけど、レベルが高いから、普通に走ればいい競馬ができるなと思っていたよね。まあ、あそこまでの競馬ができるとは思っていなかったけどね。

-:ちょっとスタートは遅れ気味でしたね。

国:そうですね。タイミングが合わずに、後ろからでしたね。

-:ただ、終いの脚はすごかったですからね。

国:ええ。(戸崎)圭太も(追い切りで)乗って、手応えを感じていたのか、慌てなかったもんね。自分のリズムで走らせたということで、ペースもあるだろうし、馬場も道悪でしたが、(馬の能力を)信じていたんじゃないかな。

アーモンドアイ

▲ラスト3F12.1-11.7-11.5秒の流れを豪快に差し切ったシンザン記念

-:ジョッキーが馬のことを信じていたということですね。実際に今お話があったように、輸送をクリアして、牡馬との対戦も、道悪もクリアしたということで、先生にとって、シンザン記念はどんな評価でしたか?

国:すごいなと、大きいところに行けるなという予感もありましたが、ああいう男馬相手に重賞を勝てたということは、確かな手応えになったよね。

-:実際に、厩舎に来た時に良い馬だなと思っていたものが、やっぱりそうだったなと。このシンザン記念の後は桜花賞にそのまま行かれましたが、そこに向けての経緯も教えていただけますか?

国:あれだけの走りでしたからね。ラッキーライラックがいたので、比較は分からないけど、シンザン記念くらい走れば、勝負になるだろうなということで、そこから直行にしました。

-:シンザン記念後は一旦放牧に出されたのですね。

国:そうですね。一旦(ノーザンファーム天栄に)出て、また桜花賞に合わせて戻して、調整していったんだけど、特に気になるところもなく、変わらずという感じでしたね。

桜花賞でゴボウ抜き「レベルが違う」

-:変わらない状態でレースに臨めたということですが、実際にレース内容も強かったんですけど、振り返られていかがでしたか?

国:ラッキーライラックが本命で、あれさえ負かせば何とかなるという状況だったから、競馬はしやすいというか。クリストフ(ルメール)にはあの馬をマークというか、目標に、と言ったけど、実際には全く関係なくて、(ラッキーライラックは)内で、こっちは外枠(13番)でちょっと後ろからになったけど、(ペース的には)流れているなと思ったからね。向こうは万全な競馬だったから、届くかな、と思ったけど、直線に向いて外に出てきた時は、届くなという感じだったですよね。

アーモンドアイ

▲メンバー中、唯一の上がり3F33秒台の末脚を繰り出した桜花賞

-:実際に見立て通り脚を使った訳ですけど、ちょっとマークしようと思った馬が離れていた上に、相手があれだけ万全な競馬をしていると、少し不安がよぎったりしなかったですか?

国:不安というか、ちょっと大丈夫かな、という思いはレース中あったけど、4コーナーで外に出した時は、行けるんじゃないかなと思いましたね。

-:あの勝ち方によって、先生の中でまたさらに馬の評価が上がったのではないかと。

国:レベルが違うなという、負かした相手がやっぱり無敗で来ていて、相当なレベルだと思っていた馬ですからね。

-:しかも、向こうに不利があってとかではなかったですし、その上であの負かし方が出来たということですからね。それで、桜花賞が終わってオークスに向かう訳ですけど、その中間の過ごし方はいかがでしたか?

国:同じように(ノーザンファーム)天栄に出して、オークスに合わせて、という感じで戻ってきて、馬は変わらず、良い状況で来ていましたよね。

-:今までより距離が延びるという所で、中間の調整で何か気を付けたことはありましたか?

国:中間は下(コース)で乗って、追い切りもクリストフに乗ってもらったんだけど、全体的に長めから行っていたけどね。まあ、あまり関係なかったというか、競馬の時も装鞍所ですごく落ち着いて、良い感じだなと思ったけど、やっぱりパドックで騎手が乗ってからはちょっとテンションが上がって、それで競馬でもああいう風に(スタートで)ポンと出ちゃったから。

アーモンドアイ

▲オークス1週前追い切り

だから、ちょっと行きたがって1コーナーに入っていったから、嫌だなと思ったけど、向正面で何とか収まって、あとはスムーズな競馬が出来ましたね。さすがに2400mで、それまでのようなハンドライドだけでスッというよりは、キチッと追うというような感じになりましたけど、結果的に着差はついているし、追わなくても勝ったんだろうけど、追われたので、終わってから馬もフーフー言っていて、走らされた感じになっていましたね。

-:疲労度も今までとは違ったということですね。

国:そうですね。暑かったし、距離も長いので、けっこう目一杯やったし、時計的にもダービーと遜色ない競馬をしちゃったからね。

-:それだけ内容のある競馬をしたということですね。レース後の馬の過ごし方はいかがでしたか?

国:よく(状態を)みて、その後どうしようかということで、とりあえず(ノーザンファーム)天栄に行きました。夏も暑かったですし、これだけのパフォーマンスが出来るのであれば、トライアルから行かなくても、というところで。

秋の大目標はJC「目安はジェンティルドンナ」

-:これまでも、休み明けでも力を出しているというのがありますからね。

国:やはりみんなが一つの目安にするのがジェンティルドンナだよね。ジェンティルは同じような過程でドンドン強くなっていったから、それに倣うというか、同じようにということになると、やっぱり古馬の男馬との対戦ということで、使う所は「この後はJCに行こうか」ということでしたね。

アーモンドアイ

-:秋のローテーションはそのような形で決まったということですね。それらの逆算も色々含めたり、これまでの実績を考えて、秋華賞直行からJCという予定の形で考えていらっしゃるということですね。

国:そうですね。

-:秋華賞に向けての過程ですけど、帰厩後の状況はいかがですか?

国:1月くらいの余裕を持って、ということで来て、体の方は一回り大きくなって、馬もシッカリしたというか、メンタルの面でもちょっと威張ってきたようなところがあります。走ることにネガティブになるようなところもないし、色々気になる所もあるけど、全体としては今日(10月4日)追い切れたように、順調に来られたかなと。

-:今日の追い切りではクリストフ・ルメール騎手を乗せていましたけど、狙いと動きの評価をお願いできますか?

国:先週まで坂路でやって、大体息は出来ていると思うけど、やっぱり1週前ということで、下で実戦に即した動きをということで、ロジチャリスと併せました。今日の追い切りはちょっと混んでいたというか、周りに馬がいて、動きは悪くないんだけど、馬の影に入って見えなかったりだとか、馬の間を縫うような感じで、見ている感じではスッキリとこないような…。でも、大体予定していた通りに出来たかなと思います。

-:ジョッキーとのお話というのは。

国:ジョッキーはすごく喜んでいたよ。

-:良い感触だったんですね。

アーモンドアイ

▲4日にウッドコースで1週前追い切り

国:良い感触で、あれだけの騎手だし、この馬には何回も乗って、調教にも乗っている中で、O.Kサインが出ていたので。

-:先ほど「体が増えた」とおっしゃっていましたけど、具体的にはどこがどういうことなのですか?

国:全体的にボリュームアップしたというか、ボテッとじゃなくて、筋肉が付いて、ちょうど良いんじゃないのかな。これで、来週やって向こうに持っていって、前回からいくと+10キロくらいで競馬かなと思っていますけどね。

-:来週追って競馬ですけど「輸送を終えて、10キロくらい増えての出走」ということですね。

国:そうですね。

「確かに外回りよりはやっぱり難しいけど、鞍上もよく乗っているし、余程のアクシデントがなければ。折り合いが付いて、ある程度の位置をスッと取るのが一番。仮に取れなくても、他の馬と上がりが1秒以上違うからね」


-:京都の内回りの2000mというコースについてはいかがですか?

国:確かに外回りよりはやっぱり難しいけど、鞍上もよく乗っているし、余程のアクシデントがなければ。競馬だから、例えば他の馬のトラブルに巻き込まれた、そういうことは競馬として考えられないことはないけど、アクシデントを抜かせば、折り合いが付いて、ある程度の位置をスッと取るのが一番。仮に取れなくても、他の馬と上がりが1秒以上違うからね。

-:後ろからになったとしても、焦らずに競馬出来れば十分に、ということですね。

国:そうですね。アパパネも外を回って仕掛けていって、キッチリ差し切っているし、そういうのを考えれば、終いは…。そこら辺はもうクリストフに任せています。

-:今、少し話に出ましたけど、アパパネも3冠を達成しましたが、あの秋華賞前はどんな気持ちだったのですか?

国:あの時は夏が暑くて、アパパネがボンボン太っちゃって、とにかくローズSを使わないと絞り切れないなということでした。実際に負けて、その後、目方自体はそう変わらなくて、少し減ったくらいだったけど、シャープな動きと体になったからね。

「ピリピリしても、馬にはいい迷惑かな」

-:やっぱり1回使った変わり身があったということですね。

国:そうですね。実際にそれで秋華賞を獲れたからね。

-:当時、僕も話を聞いていましたけど、あまり先生に気負った面は見られなかったような印象があるのですが?

国:気負ったと言っても、走るのは馬だし、乗るのは騎手だからなぁ(笑)。こっちがどうのこうの言ったって、それはダメだろうと思うよ。そんなに我々が描いているほど、物事はキッチリいかないから。ましてや勝負事というか、他の人もそういう風に色々努力をしているので。だから、やっぱり雰囲気というのがあるから、上があんまりピリピリしても、馬にはいい迷惑かなと思うので。

アーモンドアイ

-:じゃあ、そんな感じで今年も。

国:そうだね。常にそういう風には思うよね。空回りになっちゃうから、大体そういう風にはいかないじゃない。だから、他の競技とは比べ物にならないくらい色々な条件が重なるから。陸上の100m走だったら、セパレートだし、ヨーイドンを決めればというのがあるけど、競馬は馬場、枠順、能力と様々ありますからね…。

-:考えても仕方がない面がありますね。

国:例えば、野球の監督と一緒だろうけど、野球の監督はやはり人間相手、こっちはそれの上を行く動物だから…(笑)。

-:最後に意気込みをお願いできますか?

国:これだけの馬なので、夢を与えてくれるので、やはり無事にちゃんと競馬が出来て、それでなおかつ先に繋がって、また良い夢を見させてもらいたいなと思っています。

-:ありがとうございます。