名将が縁深き一頭と海外へ。国内では日経賞2着の実績はあるものの、オープン特別ですら勝利したことのないチェスナットコート。今春の天皇賞では5着に入り、素質の一端を窺わせていたが、早々と海外遠征を表明。秋はオーストラリアのコーフィールドC、メルボルンCを転戦することになった。日本では未だ重賞タイトルを手にしていない馬だが、海を渡る決心に至った経緯とは?そして、勝算をトレーナーが語ってくれた。

春から予定していたオーストラリア遠征 そのワケとは

-:オーストラリアの10月20日のコーフィールドCと11月6日のメルボルンCに挑戦するチェスナットコート(牡4、栗東・矢作厩舎)についてお聞きします。まずオーストラリア遠征を決めた経緯を教えていただけますか?

矢作芳人調教師:今年のけっこう早い時期、日経賞(2着)を使う前くらいから考えていました。それは適性やメンバー、賞金などを総合的に考えてのものですね。賞金が増額されることも分かっていたし、高額賞金も魅力の一つでした。日本よりもメンバー的に戦いやすいと思っていたので、窪田オーナーに提案させていただきました。それで、僕以上にその気になってくださって、「行きましょう、行きましょう」と(笑)。その後、戸田先生にも打診したところ、「ソールインパクトも行きましょう」ということになりました。

ご承知のように、ソールインパクトも窪田オーナー一家の所有馬なのでチームを組めます。オーストラリアの厳しい検疫の状況下では、1頭であるか2頭以上であるかで馬の精神状態が全然違いますから。当初は他の馬も出走を考えていましたが、結果的に帯同馬はソールインパクトだけになりました。チェスナットコートにとって帯同馬がいることは本当に良かったと思っています。

-:海外遠征と言うと、輸送や現地での調教などトータルで難しいところがあると思います。そのあたりを全て整えるのは大変だったのではないでしょうか?

矢:安藤裕という僕の友人がコーディネーターをしてくれています。オーストラリア競馬とのパイプもすごく太かったし、彼が頑張ってくれたので助かりました。それと、(坂井)瑠星をオーストラリアに送り込んでいたということも役に立ちました。

矢作調教師

▲オーストラリア遠征の経緯を語ってくれた矢作調教師

-:チェスナットコートがオーストラリアに挑戦できる理由には、G1天皇賞・春で5着に入ったことでレーティングが評価されていたことも関係ありますか?

矢:レーティングは日経賞2着でも出ていますが、2頭ともG2の2着が最高実績なのに、なぜかソールインパクトよりもレーティングが高い。ソールインパクトと比べて、なぜ1.5キロも重いハンデがつくのか少し驚きましたよ。やはり天皇賞・春の5着が評価されたのでしょうね。

-:チェスナットコートが55.5キロで、ソールインパクトが54キロということですね。

矢:そのハンデを最初に聞いた時は「エッ、ちょっと重すぎるなぁ」と思いましたが、今となっては、その方が良かったと思っています。コーフィールドCはハンデの重い順に出走できるので55.5キロであれば確実に出走できる。今のところ54キロはボーダーライン上という状況です。例年ですと53キロで出走できるはずですから、去年までとは違っていますね。

-:レース自体の質やレーティングが上がって、例年以上に強い馬が出走表明している結果ともとれるのでしょうか?

矢:一番の理由は賞金でしょう。コーフィールドC、メルボルンCのシリーズ両方が増額になっているので、ヨーロッパからの遠征馬も明らかに増えました。出走馬のレベルが上がってきたことは間違いないですね。

-:これまでのコーフィールドCのデータを見ると、ある程度軽ハンデの馬が台頭することが多かったように思います。その点も変わってきそうですか?

矢:正直、今のところ全く読めません。どうしてもオーストラリアのレースは展開に左右される部分が大きい。その点だけは今も昔も変わらないと思っています。

-:たとえば昨年のレースですと、先行有利の結果でした。内のポケットの2~3番手を確保できた馬が、最終的に勝ち馬になっていました。

チェスナットコート

矢:それとは真逆にアドマイヤラクティの時は前が総崩れでしたからね。

-:その一つの原因となっているのが、特殊なコース形態にある気もします。あのホームベース型のコースというのは、どうお考えですか?

矢:コーナーが難しいですね。特に1コーナーの入り、多頭数の4コーナーを上手くさばくのは非常に難しいと思っています。

-:具体的には、どの辺りが最も難しいのでしょう?

矢:いやいや、僕はジョッキーじゃないから(笑)。観ている感じではアドマイヤラクティみたいな勝ち方は稀なのかなと思います。やはりいかに内を上手く捌けるかでしょうね。チェスナットコートには複雑な流れに対応できる器用さがあって、内を捌ける馬ですから。折り合いも付くし、操縦性が良い馬ですからね。

-:おそらくラップ的には日本の競馬の方が速く、オーストラリアの方が少し緩めなので、日本のレースよりも前目のポジションをとりたいところだと思います。そう考えると、枠も真ん中より内側が良いですか?

矢:当然そうですね。オーストラリアの競馬は全て内枠が有利です。

-:特徴的なのが、1コーナーを回っているのにまだ外から被せてきて、ハナを奪いに来る馬もいますよね。

矢:結局、どの騎手も内を回りたいということでしょう。外を回されたくないというジョッキー心理ですよ。外を回るのは厳禁なお国柄ですから。

-:内ラチから3頭、3頭、3頭で行くから、ペースが遅くても縦長の隊列になってしまいますよね。

矢:スリーワイド(内から3頭目)でさえ現地では叩かれますからね。フォーワイドなんてとんでもない。まずジョッキーの責任にされます。

長距離戦に対応できる資質 クレバーなジョッキー
チェスナットコート・矢作芳人調教師インタビュー(2P)はコチラ⇒