JRA所属の2歳馬たちにとって、世代初めての重賞となる函館2歳ステークス(G3)が迫ってきた。大半の馬がキャリア1~2戦と未知な要素が多く、その半面、どの馬にもチャンスの大きい一戦のため、数多くの馬を現地で直撃取材してきた。別ページでは既に上位人気馬の現地取材内容もお届けしているが、ここでは、その他の有力馬のレポートをお届けしたい。

(取材=競馬ラボ小野田)

姉に続く勝利、母超えを狙うビアンフェ

まず、1枠1番のビアンフェ(牡2、栗東・中竹厩舎)は半姉が2015年の勝ち馬ブランボヌール、母ルシュクルも同じ中竹和也厩舎で管理されていた。父は姉とは異なり、新種牡馬キズナに替わっているが、両親、兄姉と同グループのオーナーで、陣営にとっていわば所縁の血統馬だ。

「脚さばきは、やや硬めで、つなぎや肩も全体的に立っているところはお母さんに似ていますね。走りだすと、やっぱりオープン馬並の走りをしますね。1週前追いは『目一杯やろう』という話をジョッキーとしていましたが、全体時計も速いし、テンから出していったのに終いも12秒台でまとめてくれますから」

函館2歳S

評価するのは現地で調整を続ける伊藤大輔調教助手。2008年のこのレースに出走した母ルシュクルのデビュー当初、つまり2歳時の函館でも乗っていたそうだ。母は6着と、このレースで結果を残すことはできなかったが、後にすずらん賞、古馬1000万下を洋芝で勝利。馬場適性の高さはその子どもたちにも受け継がれているのだろう。

初戦は行き脚がつかず、序盤に脚を使う競馬で2着。前走は外枠から流れに乗ると、稍重発表ながら1分10秒0の勝ち時計で勝利。2着馬には詰め寄られたものの、3着以下を突き放したあたり、能力の高さを感じさせた一戦だった。

「普段はおとなしいのですが、気性的にカッとならないかが心配ですね。前回もパドックで傘をさしているお客さんがいて、傘を怖がっていましたから。また、音にも敏感です。ここ(函館)は飛行機の音も大きいですから。調教もいつも朝一番で乗っているので、(飛行機が飛ばない時間帯で)外でエンジン音を聞くこともなかったですからね」

伊藤助手は課題を挙げるが、それよりも懸念していた問題が「抽選」。4分の2頭という難関だったが、結果、無事出走。出走への第一関門くぐり抜けた今、母超え、そして、勝利を手繰り寄せたい。

毛艶は抜群 仕事人が手がけるリュウノゲキリン

続いてダート1000mの新馬戦を快勝し、中1週で挑むのが2枠4番のリュウノゲキリン(牡2、栗東・牧田厩舎)。初戦は好スタートを切ると、ハナこそ他馬に譲ったものの、好位を追走。最後は鞍上のステッキが入ると危なげなく2着馬を競り落とした。

「ゲート試験の時も、1回目はちょっと横に出ましたけど、2回目はビュンと前に出て、しかも速かったですからね。だから、ゲートは多分出るだろうなと思っていたんですけど、さすがにあそこまで速いとは思わなかったですね。大跳びっぽい感じだから、スピードに乗れて行ければなと思っていたんですけど、内容的にはシッカリ勝てたから、楽しみではありますね」

函館2歳S

▲長谷川助手とリュウノゲキリン

新馬戦を振り返ってくれたのは長谷川智也調教助手。芝適性は未知ではあるが、短距離戦において、ことスタートの速さは今後も武器になりそうだ。また、特筆すべきは「具合の良さ」。青鹿毛の毛色も相まって、ひと目に毛艶の良さが目につく。

「毛艶は来た時から抜群なんですよ。ツルツルで、鞍がズレるんじゃないかなと思うほどです(笑)。カイバもシッカリ食べますからね。ボロも一杯するし、体調面で心配はないす。やっぱり競馬後はちょっと胃腸のこともあるし、少し減らし気味にするんですけど、中1週で、体重を減らしていくのも嫌だから、ちょっと食わそうかなと。早熟タイプという感じでもないと思うんですよね。ただ、骨やトモが緩かったりもするから、心身ともに充実してきたら、もっと走れると思うから、まだ先の馬かなとは正直、思いますけどね」

ちなみに、担当の長谷川助手の熱心な仕事ぶりも記したい。まだ静まりかえる午後の厩舎地区でも、誰よりも早く厩舎に現れ、マイクロ波治療器をじっくり当てていた。

「函館に来ると、どうしても調教施設は限られますからね。そこで人より差をつけるにはどうするかとなると…。自分たちでケアをするしかないですから」と語る。

函館2歳S

過去には、昨年のマーメイドSを制したアンドリエッテを担当していた仕上げ人。最後に、「馬がモタれっぱなしにならないように。自分がグッと(手綱を)持つと、馬もグッと(反応を)返してきたから、そこを維持して乗りたいですね」と調教のポイントも明かしてくれたが、厩舎名だけでなく、担当者を覚えておくことも走る馬を見つけるポイントなのかもしれない。

レースセンス抜群 師弟コンビで初タイトル目指すパフェムリ

3頭目は3枠6番のパフェムリ(牝2、栗東・岡田厩舎)。新馬戦は序盤で追っ付け加減の追走も、最後はインから抜け出し、3馬身差の勝利。相手関係に恵まれた感もあったが、騎乗していた菱田裕二騎手、担当する北野哲史調教助手ともに「センスがあって、人の指示にも従順」と口を揃えていたのが印象的だ。

函館2歳S

▲菱田騎手自ら追い切りに騎乗している

もともと栗東での調整段階から、古馬と併せてもヒケをとらない走りをしていたパフェムリ。調教でも速いところに行くと、走りが変わるそう。つまりはギアが入るようだ。北野助手曰く「操作性も高いし、おとなしい馬だから現時点で課題が見つからない」という程だという。

昨年、重賞初勝利を挙げた菱田裕二騎手。しかし、デビュー8年目を迎え、自厩舎(岡田稲男厩舎)での重賞タイトルは未だ無し。「菱田で重賞が獲れるのが一番嬉しい。一緒に勝ちたいと話しているんです」と北野助手。師、厩舎に報いる重賞制覇となるか。

福島の新馬を不良馬場でブッコ抜き 未知の魅力ならゴッドスター

最後は福島デビュー組のゴッドスター(牡2、美浦・池上和厩舎)。父は菊花賞馬のアサクサキングスながら、芝1200mの新馬戦では豪快な差し切り勝ちを決めた。同馬が函館移動後、現地で調整を任されている福島貴志調教助手は語る。

「美浦でのイメージでは気のいい馬で、追い切りに乗っていたジョッキーも『新馬向き』といっていたほどなんです。それが全く逆で、新馬らしからぬ競馬で勝ったことには驚きでしたが、そういう意味で想像していた以上の能力はあるのかもしれませんね」

函館2歳S

▲福島の新馬戦は他馬と違う脚色をみせつけたゴッドスター

その新馬戦は、不良馬場を考慮すると、流れが向いた感は否めないが、上がり最速の35.7秒は次位の36.6秒に0.9秒も速い末脚。脚が違ったことは事実だ。

「速い脚よりもワンペースという感もあるので、新馬戦はみんなの上がりが掛かった中で、脚を使えたと思うんですけどね。馬場が悪くなって、時計が掛かったり、洋芝という条件は良いと思います」

また、美浦では「少しイライラして、運動でも歩けないようになっているから」という報告が入っていたそうだが、函館での調整は「すっかり落ち着いている」とのこと。環境に馴染んでいる上、カイ食いも問題なし。追い切りごとに状態は上向いているそうだ。


近年、デビューのサイクルが早くなりつつある競馬界。その中でも函館2歳ステークスは、洋芝、滞在競馬という特殊条件の中で行われる。今年はどの馬が重賞タイトル一番乗りとなるのか。また、今後、どのような活躍をみせるのか。世代の行く末を占う意味でも注目したい。