充実の夏を迎える若手に注目。デビューイヤーは24勝、2年目の昨年は37勝、今年はそれ以上のペースで勝ち星を重ねている武藤雅騎手。さらには交流重賞で重賞制覇、初の海外遠征と、着実に活躍のフィールドも広げる一年となっている。いま赤丸急上昇中の若手が勝てる秘訣とは?素顔を探るため、ロングインタビューを行ってきた。(取材=競馬ラボ小野田)

ジョディーとアメリカへ 初の海外騎乗を経験!

-:武藤雅騎手に初めてインタビューさせていただきます。先日はジョディー(牝3、美浦・戸田厩舎)でアメリカのベルモントオークス招待に出走。アメリカから帰国して、休むまもなく調教や競馬だったそうですね。アメリカから帰国後のスケジュールはどんな日程でしたか?

武藤雅騎手:よろしくお願いします。7月8日(月)に帰ってきたのが夜の12時くらいでしたね。攻め馬に間に合わないので、その日は東京に泊まって、火曜日に(北海道の)セレクトセールに行って、そこから函館に回りました。

-:それはかなりのスケジュールですね…。ベルモントオークス招待の結果は4着。レース内容は勝ち馬にもマークされるような形だったので、もう少し楽なら、もっと上の着順があってもいいんじゃないかと思いました。感想はいかがですか。

武藤雅

雅:今回は本当に素晴らしい経験をさせてもらいました。(小濱忠一)オーナーも快く「雅で行きたい」と乗せていただきましたし、戸田(博文)先生にも普段からお世話になっていまして、本当に良い経験をさせていただいたと思います。

レースは内に1頭速い馬がいたので、展開はその馬の動き次第でしたが、ジョディーにとっても初めての海外競馬でしたからね。ゲートボーイも初めて付くわけですし、不安がありましたけど、戸田先生が日本のゲートでしっかり調整もして下さっていたので、レースに繋がったのかと思いますね。マズマズのスタートも切れて、出来ればハナに行く形がベストだと思っていたので、スムーズに出ました。若干、勝ち馬(コンクリートローズ)にマークされた分、最後は苦しくなってしまいましたけどね。2、3着馬とはそれほど差のない競馬でしたし、勝った馬はブリーダーズCのような舞台でも勝負できる馬と言われていたので、ジョディー自身も頑張ってくれた結果だったのではないでしょうか。

-:あれでマークされていなかったら、もっといい着順だったかもしれませんね。

雅:後ろが離れていたので、もっと楽に逃げられていた感じもあったので、そこが一番苦しくなった部分かと思いますね。今回、初めてのアメリカ遠征でしたけど、本当に素晴らしい状態でレースに使えて、牝馬らしからぬ本当に気持ちの強い馬なのだと思いました。カイバも減らなかったですし、輸送で体が減ることもなかったので。あくまで見た感触になりますけど、しっかり張りのある体で出走が出来ました。スタッフの方々も一生懸命、良い状態でレースまで持って来てくれたので、何とかしたい、という気持ちで臨みました。

武藤雅
武藤雅

-:レース自体に悔いはなかったですか?

雅:どちらかと言うと、本当にすることは一つ。ジョディーの競馬が出来たということで、満足はしていますね。あとは逃げ馬の宿命で、やっぱりレース展開に(結果が)よってきてしまうので、そこは今後、もっと勉強していって、どういうペース配分で逃げて、どこで息を入れて、といったことが学べてくるといいかなと思いますね。

-:海外のG1ということで、緊張感はどうだったでしょう。

雅:特にはなかったです。3レース前に現地の馬にも乗せていただいて、そこで芝の感覚も掴めましたし、すごく良い厩舎なので、勉強にはなりましたね。

-:ちなみに、向こうの芝の質はどんな感触ですか?日本より硬いのか、または柔らかいのか。

雅:芝は深いですが、硬そうですね。レースの前日の調教後に、戸田先生にポニーに乗ってもらって、2人で一緒に常歩をしてきたのですが、先生とも「けっこう深いんだな」と話していました。その週はすごく時計も出ていましたし、ジョディーの直前のレースの時に大雨が降って、ちょっと緩むところがあったのですが、馬場自体は比較的、硬いのかもしれません。本来は時計の出る馬場だと思います。

-:アメリカにはいつ頃から現地入りされたのですか?

雅:前の週の日曜日の競馬が終わってから、月曜日に出発して、向こうの時間で言うと月曜日に着きまして、一週間近く滞在させていただきました。調教も6頭ほど乗せていただき、日本と変わらないサイクルといいますか、お昼も休憩をとって、また午後から厩舎に出て、という時間の過ごし方でした。馬自体は、やっぱり向こうはダート馬が多いので、大型で少し硬めの馬が多かったですね。日本とも然程変わらないかと思いますけど、調教時間が短いことが日本との大きな違いかもしれませんね。

武藤雅

▲ベルモントオークス招待はジョディーと積極的な競馬をみせて4着だった

-:そういったところでも動じないキャラクターは、ご自身の性格もあるのですか。

雅:今回は安藤裕さん()という通訳であり、コーディネーターの方がいたので、気楽に行けましたけどね。将来的にも個人で、向こうで乗りたいという気持ちがあるので、そういう意味でも、本当に良い経験になったかなと思います。安藤さんは本当にアメリカについて詳しい方なので、大変お世話になりました。「今回はオーナーサイドと先生にしっかり感謝しなさい」ということは、安藤さんにも言われましたからね。

(安藤裕氏=今年1月まで短期免許で騎乗していたオイシン・マーフィー騎手の通訳を務めた他、自身も海外で騎手だった経験がある)

-:海外遠征の意向も興味深いところですが、海外で乗られるのは、調教を含めて今までで初めてでしたか?

雅:去年1回ケガをして、骨折をして乗れなかった時期があり、フランスやイギリスに行っていたのですが、その辺から海外に興味を持ち始めて、いつかタイミングが良ければ、行きたいなと思っていました。前回はイギリスで、今回はアメリカでまた環境が違いましたけど、もし行くのであれば、しっかり考えながら行けたら良いですけどね。海外自体は乗馬をやっていた時に、オーストラリアに行かせてもらいましたし、小さい頃に旅行で何度か行かせてもらいましたね。

戸田師、水野師、そして、父 武藤雅騎手を支える3人の大きな存在

-:戸田先生の名前が先程、挙がっていましたが、先生とのコンビは頻繁に目にします。もはやお馴染みになりましたね。

雅:デビュー当初から本当にお世話になっていて、特に2年目の夏から騎乗馬を沢山いただくようになって、毎週、毎週、乗せていただいています。戸田先生の馬で、より結果を出していかないといけない、という気持ちを持っていますね。

-:もともとどんな縁があったのですか?

雅:僕が乗っていた千葉県の北総乗馬クラブに馬術のオリンピック選手の林忠義さんという方がいて、戸田先生とも昔からのお付き合いがあったのです。その縁で、僕もデビュー前や学校に入る前から戸田先生とは面識があって、デビューした当初は調教を手伝ってはいなかったのですが、キッカケがあってから、調教を手伝わせていただくようになってからは騎乗馬も増えていきました。次第に毎週のように勝ち負けになる馬をたくさん乗せていただいていますね。特に今年に入ってからは、重賞に乗せていただくチャンスもあって、函館記念のメートルダールに乗せていただいていますし、結果で応えたいという思いですね。

武藤雅

▲戸田博文調教師と(左2人目)

-:もはや厩舎の主戦のような存在ですね。

雅:とても愛を感じていますね。そして、とても厳しい方ですけど、僕に期待をしていただいているといいますか、本当に良いジョッキーになってもらいたい、という考えの中での厳しい教えなので、本当にその期待にしっかり応えられるようにやっていかないといけないと、常に思っていますね。

-:重賞という意味では、今年はラインカリーナ(牝3、美浦・武藤厩舎)で関東オークスを勝たれましたが、お父さま(武藤善則調教師)の管理馬でもあり、喜びの大きいレースだったのかと思いました。

雅:父の管理する馬でしたし、僕に騎手になる夢を与えて下さった方でもあるので嬉しかったです。デビュー週からたくさん乗せていただいて、なかなか結果を出せないことも多かったのですが、ようやく少し恩が返せたのかなと。勝った馬も僕がデビュー戦で乗せていただいたオーナー(大澤繁昌氏)でもあり、そこに対しても思いが強かったですね。

レースは外枠で少し横並びになる形で、ペースも落ち着きそうだったので、思い切って外から内に入りました。そこから少し掛かり気味で行ったので、気持ちを阻害しないように流していったんですけどね。そこで、セーフティリードを取れて、ホームストレッチに入ってからは自分のペースに持ち込めました。マドラスチェックに詰め寄られましたけど、そこも振り切るような手応えで、最後はしっかり力で振り切ってくれましたね。

-:レース前から手応えはあったのではないでしょうか?

雅:前走の伏竜ステークスでもデアフルーグやマスターフェンサーとしっかり戦っていますから、自信を持って臨めたかなと思いますね。前々走が(横山)武史が乗って、逃げて勝ちましたけど、もともとは気持ちがすごく前向きな馬で、調教でも掛かるところがあるほど。1400mや短いところを使っていたのですが、武史が1700mで勝った競馬を見て、幅が広がったので、イメージが湧く内容だったと思いますね。

武藤雅
武藤雅

▲父・武藤善則調教師の管理馬で重賞初制覇となった関東オークス

-:今年、初めて北海道に来られたのは所属の水野(貴広)先生の意見もあったそうですね。

雅:先生が「今年は減量も取れるだろうから、関西との繋がりもつくれれば」ということで、来ました。今までなかなかローカルに行く機会がなかったこともあり、来ることに決めたのですが、結果、移動が多く、調教に乗れないことが多かったです。(函館)1週目に関東オークスがあって、2週目に船橋でヤングジョッキーシリーズがあって、また福島があって、アメリカがあったので、あまり北海道にいることが出来ていないんですよね。

-:こと函館だと、調教に乗れないと騎乗数にも響きますね。

雅:そうですね…。アメリカに行くにしても東京経由だったりするので、不在にする日が多かったですからね。今年は初めてローカルに来るので、正直、騎乗馬を確保できている訳ではないことは事実です。

-:(水野)先生はどんな存在ですか?

雅:本当に僕を大事に育ててくれているといいますか、実習生の頃から自厩舎の調教は1頭で「他の厩舎を手伝ってこい」という方でした。それこそ1年目からたくさんの厩舎を手伝わせてもらうことが出来ました。様々な厩舎から依頼していただいて、常に僕のことを考えて下さっているというか、常に競馬も観て下さっているので、悪いところがあれば「ここはこうなんじゃないか」、逆に良いところがあったら「ここが良かったな」と、アドバイスもいただきますね。

-:騎手デビューする前から手厚いサポートもあったわけですね。

雅:本当に恵まれた環境の中でやらせていただいているので、それこそ同期の中で一番恵まれていると思っていますし、本当にそこに甘えずに、自分自身でもっと頑張っていかなくちゃいけないと思いますね。でも、頑張るだけじゃなく、結果をしっかり出していくということを常に考えていますね。結果にこだわって乗っていきたいと思いますね。

武藤雅騎手のジョッキーとしてのポリシー、理想像とは?
武藤雅騎手インタビュー(2P)はコチラ⇒