無敗のオークス馬・ラヴズオンリーユーがいよいよ復帰初戦を迎える。予定していた秋華賞を蹄の不安で回避する誤算はあったものの、夏を越えて馬体、体質面は格段にパワーアップ。「どこが頂点なのか分からないぐらいのポテンシャルを秘めている」と語る矢作芳人調教師に、中間の調整過程とエリザベス女王杯に向けての手応えを聞いた。

リスグラシューがコックスプレートを勝利
厩舎の勢いは最高潮!

-:リスグラシュー(牝5、栗東・矢作厩舎)のコックスプレートはおめでとうございました。

矢作芳人調教師:ありがとうございます。

-:海外挑戦3度目で、初めての勝利ということで、念願が叶った感じですね。

矢:特にオーストラリアには思い入れが強いのと、コックスプレートは南半球の最強馬決定戦ですから賞金も高額ですし、ものすごく感動しています。

-:それも1番人気での勝利でしたからね。

矢:もちろんプレッシャーがありました。現地のオッズでも最後は売れましたからね。外枠を引いたので締め切り間際には上がるとは思っていましたが、最初は4倍だったのが2.5倍まで売れるとは。内枠有利な競馬場ですから外枠でも評価されたのには驚きました。

ラヴズオンリーユー

▲厩舎の先輩リスグラシューが豪G1を制覇

-:最後はあの短い直線でも余裕をもって差し切りましたからね。

矢:過去のレースを振り返ってみても、コックスプレートであの位置では勝てないですよね。

-:馬の力が2枚ぐらい違った感じでした。

矢:そうですね。非常に格の高いレースですけど、今年のメンバーはそれほど強敵ではないなというのも遠征を決めた理由の一つだったんです。賞金があれだけ高くて、かつボーナスがある、相手関係は比較的楽かなと見ていました。当然、調教師として、どの馬にでもいい条件のレースを狙っていくという意味で、上手くいったと思います。

-:賞金が2億2000万円で、ボーナスが1億5000万円ですから、さすがです。

矢:本当に上手くいきましたね。

-:いよいよ4戦無敗のオークス馬ラヴズオンリーユー(牝3、栗東・矢作厩舎)も復帰になります。夏場の立ち上げが少し遅れたようですが。

矢:立ち上げが遅れたというよりも、上げていく段階の途中で左トモの筋肉痛が出て、少し長引いていました。それでも当初から秋華賞一本というのは決めていたので、ギリギリ間に合うかなというところでした。そこに蹄の不安が出た。2~3日様子をみましたが、目標をエリザベス女王杯に切り替えました。無敗馬でもありますし、無理をする必要はありませんからね。

-:ラヴズオンリーユーが休んでいる間の秋華賞ですが、オークス3着のクロノジェネシスが勝って、2着のカレンブーケドールが2着というワンツーフィニッシュでした。改めてオークスのレベルの高さを先生自身も実感されたのではないですか。

矢:そうですね。確かに夏場の上がり馬もいる中で、春の実績馬が順当に勝ったということは、ラヴズオンリーユーにとっても心強い流れですね。

-:今回は初の古馬牝馬との対戦になる訳ですが、3歳の出走は3頭、その内の1頭がラヴズオンリーユーです。夏場の成長で体も大きくなっていると思いますが、体重の変化を教えていただけますか。

矢:現状、30キロぐらいプラスです。おそらく20キロ程度はプラスで出走すると思います

ラヴズオンリーユー

▲M.デムーロ騎手を背にした1週前追い切り

-:エリザベス女王杯の1カ月前に帰厩して、順調に攻め馬を消化していました。先々週がCW84秒ぐらいの併せ馬で、今週もCW3頭併せでデムーロ騎手が乗られましたね。時計は77秒ぐらいだったのですが、先生の指示というのはどれぐらいだったのですか。

矢:ちょっと速すぎましたね(笑)。今週は一杯にやって、負荷を掛けておこうということでしたけど、時計の指示はしていないです。当然、エントシャイデンとタイセイグランツという先導馬がいて、そこには中谷騎手と安藤助手が乗っている訳で、彼らがシッカリとペースを作ってくれるだろうと思っていました。ただプレッシャーがキツかったのか、思った以上に時計が出てしまいました。

これだけハードな追い切りをすると一番心配だったのは反動や脚元のこと。今朝、確認してコズミもなくホッとしました。心臓は多少疲れているというデータが出ていましたが、疲れているのは悪いことではないのでね。心臓を疲れさせるために負荷を掛けたので、いわゆる肉体面、他の筋肉や脚元には異常がないということが何よりですから。

-:乗っていたデムーロ騎手のコメントを教えていただけますか。

矢:春と変わらずいい動きだけど、1週間前なので少し重いと言っていました。だから、これで態勢は整ったと思います。追い切りの時計は出すぎましたが内容はちょうど良いでしょう。

-:来週は強い調教が必要ないぐらい1週前に仕上がったとみて良さそうですか。

矢:来週は単走、馬なり、坂路1本で十分です。

底知れないポテンシャルで歴史的名牝へ

-:ファンは休み明けでG1という点をすごく心配していると思います。これまでは白菊賞から忘れな草賞が一番レース間隔が開いていたのですが、その時の攻め馬量と比べて、今回はどうですか。

矢:今回の休み明けとは圧倒的に違いますね。忘れな草賞は本当に間に合っただけでした。歩様も悪かったし、何もかも良くなかったですからね。あの時も言いましたけど、本当に5~6分のデキだったんです。あの時に比べればメンバーも全く違うので、今回の方が乗り込みも仕上がりも数段上ですよ。

-:その辺りが、NFしがらきからの帰厩が1カ月前だったということですか。

矢:矢作厩舎としては珍しいです。敢えて1カ月前に戻して、ジックリ乗り込もうという意図があったから通常よりも早目に帰厩させたわけです。

-:無敗ですからネガティブなポイントが見付けにくい馬ですが、エリザベス女王杯に向けて課題があるとすればどこでしょうか。

矢:まず心配があるとすれば、道悪ですね。あと一つ、敢えて言えば、折り合いですかね。休み明けは、どの馬でもテンションが上がりやすいし、引っ掛かりやすいものです。そういう状況でミルコが自信を持って乗れるか、という所ですかね。

-:そういう面では、装鞍所からパドック、返し馬に到る所まで気が抜けないですね。

矢:もちろんそうです。

ラヴズオンリーユー

▲4戦無敗でオークスを勝利

-:時期のリスグラシューよりも3歳秋時点での完成度は上ですよね。

矢:間違いなく上だと思います。結局、リスグラシューは3歳シーズンは勝てませんでしたからね。

-:リスグラシューは成長力があって、すごく上げ幅があったということですね。

矢:リスグラシューの方がもっと遅くて、今になって本格化してくれました。ラヴズオンリーユーは2歳の夏までは本当に目立たない馬でした。それが2歳の夏以降からこの1年での成長というのは目覚ましいものがあると思います。

-:歴史的名牝を、もう1頭管理することになりそうですね。

矢:それぐらいの気持ちで行きます。

-:最近は天皇賞・秋のアーモンドアイ、コックスプレートのリスグラシューとか、牝馬の怪物が多いですね。

矢:ウィンクスやエネイブルも含めて、牝馬の活躍は世界的な傾向ですね。何でだろう?というぐらい牝馬が強いね(笑)。

-:休み明けでもファンは心配せずに、オークス馬の復帰を安心して観ていれば良さそうですね。オークスで府中に行かれた時は、万全を期して金曜日に出発されていました。今回は近場の京都です。ラヴズオンリーユーにとってプラスですか。

矢:プラスだと思いますね。リスグラシューに似ていて、東京に運ぶより京都で走れるのは良いと思います。あと、注目するとすれば当日の気配でしょうね。京都だから心配ないと思いますが、イレ込みがないと良いですね。そこは気を抜けませんが、中間の調整過程は万全を期しています。これだけ1カ月予定通りには来られたことがなかった馬ですから、その点を評価していただけたらと思います。

-:最後に、5連勝を期待しているファンと1万口のクラブの会員様にメッセージをいただけますか。

矢:この馬はまだ底知れないものがあって、どこが頂点なのか分からないぐらいのポテンシャルを秘めています。そのポテンシャルを少しでも多く引き出せるように、調教もしてきました。それを競馬でお見せできると思うので、期待して応援して下さい。

ラヴズオンリーユー
ラヴズオンリーユー

-:もし決まっていれば、今後の行き先というのを。

矢:JCは中1週になるのでね。JCに行きたい気がないこともないですが、基本は香港なのかなというふうには思っています。有馬記念はリスグラシューがいるので、適性的にも自分のイメージとしては有馬記念ではないと思っています。2400が良いのか、2000が良いのか、適性はまだまだ未知数です。

-:香港も舞台が色々あるのですが、香港で選ばれるとしたら、今の所は。

矢:アーモンドアイと違う所(笑)。今のリスグラシューならアーモンドアイにぶつけてみたいけど、ラヴズにはまだちょっと早いかなと思っています。

-:もう少し修行して、勝ち星を重ねてからですね。

矢:もう一段階強いメンバーと戦って、実績を重ねてからでしょうね。

-:体重が30キロ増えてスケールアップしたラヴズオンリーユーが見られそうですね。

矢:間違いないですね。体は春とは違うと思います。

-:その走りを楽しみに待っています。忙しい所、ありがとうございました。

矢:ありがとうございました。