アイルランドの武者修行からホープが帰国
2010/11/4(木)

的場勇人騎手
的:そうです、ずっといました。いろいろな競馬場に連れて行ってもらいましたし、良い経験をさせてもらいました。
高:1日のスケジュールはどんな感じだったんですか?
的:7時前くらいに調教がスタートするので、朝6時くらいに起きて、調教スタート前までに厩舎へ行って、そこから7時から13時までは乗りっ放しですね。
高:えー!1日だいたい何頭くらい乗るんですか?
的:普段は4頭ぐらいなんですけど、追い切りのときは10頭ぐらい乗せてもらいました。
高:1頭にかける時間はどうでしたか?
的:長いですね。厩舎から調教場までがちょっと遠くて、その往復も全部乗っていかないといけないんですよ。もうずっと13時までその繰り返しです。あと、火曜日と金曜日は追い切り日なので、その時は調教場で乗り替わって、何頭も何頭も乗るような感じです。ずっと乗りっ放しなので、お尻が痛くなりました。
高:刺激を受けるような人はいましたか?
的:僕を預かってくれたジョン・オックス調教師と、アイルランドのトップジョッキーの一人のフラン・ベリー騎手ですね。凄く面倒を見てくれて、技術的にも人間的にも尊敬できて、初めて両親以外で尊敬できる人が出来たな、という感じです。
高:フラン・ベリー騎手に技術的なことを教わったりしましたか?
的:はい、彼はジョン・オックス厩舎のファーストジョッキーなので、普段から一緒に乗る機会が多かったんですよね。やっぱりトップステーブルなので、他にもマイケル・キネーンとか一流のジョッキーが集まってくるんですよ。その中で一緒に乗りましたけど、彼らは馬の気持ちの掴まえ方が上手いので、凄く勉強になりました。
高:レースには騎乗されましたか?
的:一頭だけですね。カラ競馬場っていうところで乗せてもらいました。
高:海外の競馬場はどうでしたか?
的:うーん、日本と比べるとタフですね。向こうは根本的にタフなのかな、と思いますね。本当に自然なところに競馬場を作っているから、起伏であったり芝の重さであったり。そういうところで馬を動かしていく技術を学びました。
高:馬のバテ方も激しいんですか?
的:そうですね。

高:他に日本との違いを感じるところはありましたか?
的:うーん、そうですね…。とにかく僕が思ったのは、馬がストレスを感じていないっていうことですね。日本とは環境が根本的に違うので、日本でそれをやろうとしても難しいと思いますけど。向こうは調教するところも競馬場も、馬にとって自然なところなんですよね。ラチとかも無いですし、自然な環境でリラックスしているから、走ることにストレスを感じていないな、と思いました。
高:普段の馬の仕草や大人しさも違うんですか?
的:そうです。あと、馬と人間の距離が近いですね。馬と人間の間にカベが無いんです。細かいところの技術ではなくて、根本的なところで、攻め馬でも競馬でも「馬の気持ちを優先させてもいいのかな」ということを凄く思いましたね。向こうの人たちはそれを無意識に出来ているんだと思いました。
高:なるほど。
的:自分はこれまで小手先でどうこうしようとし過ぎていたな、と思いました。根本的に考え方を改めさせられましたね。馬の気持ちをもっと汲み取ってあげないといけないと思いますし、これまでも汲み取ろうとはしていましたけど、その考え方を改めさせられました。
高:馬に優しい男になる、みたいな感じですか?
的:………??
高:…あ、そういう事ではない…。
的:優しいというか…、何て言うんだろう、もっと馬と信頼関係を築きたいということですね。僕らももっと馬を信頼してもいいかなと思うし、馬にも人間を信頼してもらいたいし。
高:時間がかかりそうですね。
的:もちろんそれは時間がかかりますよ。一日二日で出来るような話ではなくて、日々の積み重ねですからね。
高:そういう体験から考えたことについて、日本に帰って来てからどなたかと話し合ったりはされましたか?
的:「的場厩舎のスタッフみんなから『アイルランドかぶれになって帰ってきたんじゃないか?』って思われるかな」と思っていたんですけど、僕にとって嬉しかったのは、みんなが「どんな感じだった?」とか「どこをどうしたらもっと厩舎が良くなると思う?」とか聞いてきてくれたことですね。僕も「日本でももっと良くすることが出来るところはある」と思っていたし、みんなも「良いものを一生懸命吸収しよう」という気持ちでいてくれて、意見を交わし合えたのは嬉しかったですね。
高:良いですね。
的:僕がアイルランドに行って「良いな」と思ったことを伝えていきたいですし、そういうことを伝えるのも行った者の義務だと思いますから。実際いろんな人に迷惑をかけて行っている部分もありますし、そうやって無理をして行かせてもらった中で自分が得た物はみんなにも知ってもらいたいと思っています。
高:同年代のジョッキーに対して「海外に行った方がいいよ」って勧めたりされましたか?
的:それは人それぞれだと思いますからね。ただ、個人個人の捉え方だと思いますけど、もし海外に行ってみたい気持ちがあるなら、行った方が良いと思います。
高:行きたいなら行った方が良いですか。
的:例えば目の前に宝箱があって、その宝箱が空っぽなのか中身が入っているのかは分からないけど、宝箱があるなら開けてみるのも価値はあると思うんですよ。それで実際に海外に行って空っぽだったとしても、良いんじゃないの?と僕は思うんですよね。結果的に「海外に行っても得る物が無かったな」と思ったとしても、その前の段階で宝箱に興味を示したなら、宝箱を開ける価値はあると思いますよね。
高:的場さんにとって宝箱は中身が入っていました?
的:前よりも競馬に対する姿勢が変わったな、と自分で思うので、僕は宝箱の中身はあったと思います。ミミックじゃなくて良かったなって。
高:ミミック(笑)!ガブーッと噛まれて死んじゃいますもんね。ちなみに競馬に対する姿勢が変わったということですけど、例えばどういうところに変化があったんですか?
的:自分の競馬の理想イメージが根本的に変わったわけではないですけど、前よりもイメージの上積みが出来るようになったと思います。今まで自分にもボンヤリとして見えなかったものが見えてきたかな、って。
高:輪郭がハッキリとしてきて。
的:そうですね。ラフ画をより正確に(笑)。前よりもイメージ通りに乗れるようになってきた部分も多いですし、もちろん、まだまだだなと思う部分もありますので、それを噛み合わせて、どれだけ自分がイメージに近づいていけるかですね。
高:日本に戻ってきてレースに乗って、学んできたことを生かせたな、と思えることはありましたか?
的:技術的な面と精神的な面の両方で、経験が生きているなって凄く感じます。
高:そうすると、早くレースに乗りたい!って思うんじゃないですか?
的:それはメチャクチャ思いますね。帰ってきてから良いリズムで乗れていると思うし、良い馬に乗せてもらっていますからね。
高:また機会があったら海外のレースに乗りたいな、と思いますか?
的:もちろん、機会があったらリトライしたいですね。いろいろな国を見てみたいというのもありますね。
高:じゃあまた近いうちにどこかへ、ということも無きにしもあらずで。
的:そうですね。ジョン・オックス調教師に「ディープインパクトみたいな馬を連れて、もう一回アイルランドに来い」と言われたので、日本でもっと頑張らないといけないですね。
高:じゃあ今の良いリズムに乗って、更なる活躍を期待しています。今日はお忙しいところありがとうございました。
的:ありがとうございました。
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デビュー年に12勝をあげ、民放競馬記者クラブ賞(関東新人騎手賞)を受賞する。以降も27勝、39勝と着実に勝ち星を伸ばし、 09年には通算100勝を達成した。2010年夏、アイルランドで海外研修を経験。帰国後も勝ち星を伸ばし始め、更なる活躍が期待される。 |
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■出演番組
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2006年から2008年までの2年間、JRA「ターフトピックス」美浦担当リポーターを務める。明るい笑顔と元気なキャラクターでトレセン関係者の人気も高い。2009年より、競馬ラボでインタビュアーとして活動をスタート。いじられやすいキャラを生かして、関係者の本音を引き出す。 |
