復活の兆しを見せたダービー馬エイシンフラッシュ
2011/4/24(日)

久保敏也調教助手
昨年のダービー馬・エイシンフラッシュ(牡4、栗東・藤原英厩舎)ュが天皇賞(春)で、2つ目のビッグタイトルを狙う。昨年秋はアクシデントで菊花賞回避。そして、その後の2戦も奮わなかったが、年明け緒戦の大阪杯で59キロを背負いながら僅差の3着に健闘。
「最強世代」と称された同世代のライバル・ヴィクトワールピサが、先日のドバイWCを制して、ますます世代レベルの高さが取り立たされる中で、クラシック最高峰のレースを制したプライドを見せたい一戦だろう。今回はエイシンフラッシュの日々の育成を担当する久保敏也調教助手に答えていただいた。
エイシンフラッシュとの出会い
-:まず、入厩した頃の印象を教えていただけますか?当初、この馬を見た頃と、ここまで馬体のアウトラインの変化などはありましたか?
久:実は、僕がフラッシュの担当になったのは京成杯を勝った後からなんです。入厩した頃から馬は飛び抜けて良く見えましたね。京成杯の後、放牧に出てから担当させて頂くようになったのですが、まさか、自分がフラッシュの担当になるとは思いませんでした。馬体自体は正直、最初も今も大きな変化はないです。言葉にするのは難しいですが、当初から誰が見ても雰囲気のいい馬だと思いますよ。
-:いきなり皐月賞前に担当されることになったんですね。当時は鼻肺炎が流行っていた頃で藤原厩舎でもグランクロワが鼻肺炎になっていた記憶があります。休み明けで挑んだ皐月賞でしたが、一連の流れを振り返っていただけますか?
久:鼻肺炎といっても熱が上がる程度で、それほど問題はなかったんです。ただ、休み明けで挑んだ皐月賞は一杯一杯の調教をしていなかった。体もまだ余裕がある中でレースに臨んだんですけれども、自分が思い描いていたものとは全然違う走りをしてくれました。これでこんなに走るのか、と思わされましたよ。
周りには「キングズベスト産駒は距離がもたない」とか「皐月賞までの馬だ」なんて言われていた中、密かに僕も手応えを掴んで、これはダービーもやれるぞ、と思っていました。
-:しかも、勝ったヴィクトワールピサは内を通っていたけれど、外を回ってのものだけに、皐月賞は価値がありましたよね。
久:そうなんです。あの馬はいつもぶつけられたり、前がごちゃごちゃして、抜け出す事が出来なかったりとか、不利が重なった皐月賞でもよくあそこから来るなと思いましたよ。
-:それでもまだ、ダービーも完成されていない中での勝ち星ですよね?
久: (馬の手入れで)歯を削っている時に、歯の柔らかさで、全体の骨の強さが判断できるのです。去年はまだまだ柔らかくて、子供の歯をしていましたからね。今年になって、幾分しっかりしてきましたけれど。
-:ダービーの時は凄い上がりで勝ちました。この馬にとって最適な競馬とは? ダービー前とレース後で、印象は変わりましたか?
久:やっぱり、ポジションが前か後ろかではなく、うまく脚を溜める競馬でしょうか。前に行っても、そこで我慢する競馬がいいと思うんです。京成杯も前で競馬をして勝っているようにどんな競馬でも自在に出来るんですよ。先行した方が、馬に負担は掛からないですし。そういう競馬が出来るような調教を藤原厩舎では普段からしています。
一瞬の切れ味がこの馬の持ち味だとは思いますけれど、ここ最近の競馬では、もうちょっと道中リズムよく運んでほしいとは思います。
-:昨年は菊花賞直前に筋肉痛で回避するアクシデントがありましたが、その前後で苦労されたことはありますか?
久:ダービーのパフォーマンスが、やっぱり、筋肉痛につながったと思うし、神戸新聞杯も決してよくない状態で走ったことで、一気にガクッときてしまいましたね。あそこで菊花賞を使っていたら、もう終わっていたかもしれないですし…。
ダービー馬の素顔
-:フラッシュの走り方って、独特なものがありますよね?前脚を叩きつける様な走り方ですね。
久:凄いですよね。調教では前脚の膝から球節までの管を保護するために巻くサポーターがあるんですが、普通の馬と同じように巻いていたら、掻き込みが強すぎて、ずれ落ちちゃうんですよね。最初に担当した頃、サポーターをちゃんと巻いても調教が終わると必ず2センチくらいずれて帰って来ていたんです。
だから、サポーターのずれ防止のためにスポンジ状のものを皮膚(管の裏側)に直接貼るようにしました。
-:見えないところに一工夫があるわけですね。
久:競馬の時には白いバンテージを巻いているのですが、ファンの方がパドックで良く見る色つきの黒や赤、黄色のバンテージとは違って、うちの厩舎が使っているバンテージは凄く薄く伸縮性があって巻くのが難しいんです。締めすぎるとよくないし、緩すぎるとずれたり。本当にそれくらい難しくて…。
だから、競馬では調教助手の荻野さんにバンテージを巻いてもらってました。調教では毎日、自分でサポーターを巻いているので段々うまく巻けるようになったんです。そうしたら、先生に「自分で巻いていいぞ」と言われたので、今は競馬の時も自分で巻くようになりました。


-:フラッシュの脚を触った感触は、今まで担当されてきた馬と比べて、どんな感じですか?
久:基本的には変わりはないんですけれど、管や球節など、全体的にゴツイですね。
-:日本の血統馬ではない雰囲気がありますか?
久:そうですね。それこそバンテージも、フラッシュの場合はギリギリまで使ってしまいますからね。他の馬を巻いている時は、最後に余って何十センチか切ります。それくらいフラッシュは日本の馬にはないタイプのしっかりした脚を持っているんです。
-:トレセンで歩いている時のフラッシュと、走っている時のフラッシュは全く違ってみえますよね?
久:そうなんです。普段は腹袋が大きい馬で立ち写真を見ると立派なんですが、走っている時はスリムにみえる。トレセンではそうでもないのに、競馬場に行くとトモも淋しく見えるタイプなんです。なぜか?関東でも関西の競馬場でも輸送すると、10キロちょうど減るんですよね。かといって、入れ込んでいるわけでも、なんでもなくて。
-:レースの時は飼い葉も変えたりはされていますか?
久:変えています。普段は栄養価の高いものですが、レースの1~2日前になると、筋肉が硬くならないように、シンプルであっさりしたものにします。レース後半で瞬発力が出せるような飼葉を食べさせています。
-:フラッシュの筋肉は柔らかいですか?
久:本当に柔らかいですよ。今はもうあんまり乗る事はないですけれど、昨年の夏に函館で乗った時、ゴム毬のような柔らかさで、なかなかいない背中です。それこそ、山内厩舎にいた頃に手伝いで乗ったダンツフレーム(02年宝塚記念など)や、自分が担当していたレディバラード、マルカオーカン等と同じくらいいい背中ですね。
僕が今まで乗った中でも、忘れられないくらいの背中をしていたのが、瀬戸口厩舎時代に担当していたマルカオーカンです。河内さんも京都新聞杯を勝った、長浜厩舎のスターマンを頼まれていたのに、菊花賞の前も「こっちの方が走る」と言って、マルカオーカンに乗ってくれたくらいですからね。そのマルカオーカンこそ、トレセンに入って3~4年くらいに担当した馬。今ならもっとやれたんじゃないか、という後悔がありますけれどね…。マルカオーカン以外の担当馬も同じ。今ならもっとこうしたいという思いばかりが残っています。だから、その分フラッシュには出来るだけの事をしたいんです。
-:山内厩舎時代にレディバラードを担当していたんですか!レディバラードと言えばダノンバラードの母ですよ。
久:そうなんですよね(笑)。レディバラードはダートを中心に活躍しましたが、僕は芝でも走れる馬だったと思っています。実際、秋華賞の時1番人気だったシルクプリマドンナ、桜花賞馬チアズグレイスと共に山内厩舎3頭出しで出走しました。レースでは位置取りが後ろになりすぎ9着に負けてしまいました。上がり3F33.9で終いだけの競馬になってしまいましたが芝でも切れる!と感じていました。
-:過去の調教を見ていると、プールに入れることが度々あったようですが、どういう意図でやっていらっしゃっているのでしょうか?
久:昔は脚元が悪い馬がプール調教に行くことが多かったと思いますが、今は調教メニューの一つとして組まれていますし、うちの厩舎自体がプールを使う事が多いですからね。競馬に近くなると、気性的にも気分が高まってくることもありますので、ガス抜きの意味も込めてやっています。フラッシュは上手に優雅に泳ぎますよ。中~長距離馬はプールでもゆったり泳ぐんですよ。
-:フラッシュの歩き方って首を下げて歩くので、観る人によれば、だらしなく見えるけれども、あれも中~長距離馬特有のものですよね?
久:そうですね。長距離馬は基本、のんびりしているという仕草がありますね。逆に短距離馬やマイラーは首を立ててしっかりした歩き方をすることが多いように思います。それに馬の体温も毎日計るんですけれど、短距離馬や気性がカッとしたタイプは、体温が全体的に高いんです。長距離馬やゆったりした気性の馬は体温が幾分、低めなんですよね。
あくまで、自分の経験の中で感じたものですけれど、ある獣医さんに聞いてみても、そう言っていましたからね。その点、フラッシュは低めで安定した体温をしているんです。獣医さんによれば、心臓も「凄くなめらかでゆっくりゆっくりしたいい心臓をしている」って言っていました。
久保敏也調教助手インタビュー(後半)
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