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安田翔伍調教助手

前年の高松宮記念は2頭出しで、先輩カレンチャンが栄光を掴んだ安田隆行厩舎。しかし、昨秋より立場は逆転し、バトンを渡した女王は引退。完全にスプリント路線、それも世界のトップに君臨したのがロードカナロア(牡5、栗東・安田厩舎)だ。スプリンターズSから香港スプリント、それに阪急杯の3連勝は記憶に新しいところだが、最優秀短距離馬として負けられない戦いといえば、むしろ今回だろう。同馬が出走する際のジャッジではすっかりお馴染みの安田翔伍調教助手に、担当馬連覇に向けての手応えを伺った。

快勝だった阪急杯の仕上げと思惑

-:ロードカナロアの阪急杯快勝、おめでとうございました。順調に高松宮記念に向かわれるわけですが、前走を勝った後の状態から教えて下さい。

安田翔伍調教助手:思っていた以上に負担が軽かったですね。悪い意味じゃなく、本当にコッチが想像していた以上に競馬を上手にこなしてくれましたし、レース後の口取りの写真を撮影する時に息が入ってたぐらいです。レース後は、大体、火曜日に獣医さんに確認してもらうんですけれど、その時にも「疲労回復の注射は必要ないけれど、どうする?」と話があったほど。一応、打ってはもらったんですけれど、それぐらい体に負担が少なくて。かと言って、気持ちは使ったことで、やっぱりちょっと入りましたし、理想的な前哨戦を終えられましたね。

-:体重的にはプラス8キロでした。

翔:香港がトコトン減らしたという訳ではないですけれど、ある程度は負荷を掛けて、気持ちもなるべく走りたい気持ちを膨らまして。「追い込む」と言ったらニュアンスは違いますけれどね……。

-:わかりやすく言えば、ギリギリで仕上げた状態だったわけですね。

翔:そうですね。

-:飛行機で運んで、ギリギリに仕上げて使って、香港からプラス8キロというのは、ほとんど一緒か、ちょいプラスぐらいということですね。

翔:一緒ぐらいじゃないですかね。ちょいプラスぐらいで。本当に全然、意識して調整するとかはなかったですし。最近は体重を見ながら調整をすることはなくなったので。息遣いと馬の雰囲気だけで競馬に行くようにしているので。

-:前みたいな使った後の疲れを気にすることもなく?体重の減りも気にすることがなく?

翔:減りというか、どっちかと言うと、やっぱり男の子で増えやすいのでね。以前は数字を見ながら、乗った感覚と体重が一致した時に“重めかな?”と体重を見た時に再確認をしていたんです。最近は体重を無視して、乗った雰囲気だけで挑むようにはしています。

-:それは体の内面的な面がシッカリとしてきたからですか。

翔:成長をしても、体重どうこうじゃなく、逆に数字を意識しちゃったらマイナスになるかもしれないので。これだけずっと乗せてもらったら、今までと比較をしての感触で競馬に行って、それがマイナスならマイナスでも良いですし。というように体重は気にしないようにしていますね。

「気持ちを入れようと思えば入ってくれるし、オフにすれば、競馬にオフを出せるようになったというのを確認できたので、今後にスゴく安心して調整していけることを確信できたレースでした」

-:普段、ずっと乗っていらっしゃる翔伍さんから見て、阪急杯のレース内容のポイントはどこにありますか。良かった内容を一般ファンと違うプロの目から見て。

翔:レース内容は申し分ないというか、特に注文を付けることはなかったです。

-:マジンプロスパーを閉めながらというか。

翔:それはジョッキーに任せてるので。僕らがこの馬の成長を感じたのは、香港である程度、気持ちを高め、そこからの次走であって、距離も1ハロン延長ということなので。香港での気持ちがまだ残ってたりしたら、高松宮には直結しないと思いましたし、そこをケンカしてでも抑え込んでもらって、香港での気持ちの高ぶりが残っているのを解消してもらって、高松宮に行きたいということだったんです。そのために中間は香港とは180度変わって、オフにするような調整で来たんです。それが装鞍所の時からモロに出てて、返し馬もそうでしたし、競馬もそういう内容だったので。



-:ちょっとモッサリとしたというか。

翔:気持ちをそこまでオンにしないような、ちょっとズブさを出すような面があったんですけれど、それが3歳の頃では考えられなかったことです。スピードを活かし過ぎて、どれだけ普段、落ち着いていても、競馬に行ったらそういう……。そうかと言って、香港みたいに気持ちを入れようと思えば入ってくれるし、オフにすれば、競馬にオフを出せるようになったというのを確認できたので、高松宮を含めて、今後、スゴく安心して調整していけるなというのを確信できたレースでしたね。

-:高松宮から逆算して、敢えて選んだ1400だったわけですけれど、オフにした状態で1400を勝って?

翔:上手にこなしてくれましたし、香港と阪急杯を比較した上で、岩田さんに「高松宮でどの程度、気持ち高めるべきか」とアドバイスをされやすかったですし。「香港ほど気持ちを入れ過ぎず、今日よりは入っていた方が良いな」と言われたので、じゃあ、それに合わせて調整したら、次の競馬でもその気持ちのまま競馬ができるだろうと。コッチの感触通り、競馬で雰囲気を出してくれるので、スゴくやり易いし、ありがたいですね。

-:すなわち、この中間というのは阪急杯と少し違って、もう少しオン気味の調教をされているということですね。

翔:そうですね。香港が10として、阪急杯が5だとしたら、次は8か9ぐらいで行きたいなと思ってます。

カレンチャンが与えてくれたもの

-:そういう状況で昨日(3/13)が1週前追い切りだったんですけれど、乗られた時間帯が1番(追い切りの時間帯)ではなかったので、馬場コンディションも含めて、どんな動きだったか教えて下さい。

翔:1番でやればやるほど時計が出ちゃうので。それで負荷が掛かるかとなるとカナロアの場合、やっぱり、時計を出すだけだったら、コッチが求めてる良化が感じられないんです。だから、去年のスプリンターズSあたりから馬とちょっとケンカをすることで負荷を与えて。

-:敢えて何頭か走った後に?

翔:でも、ハロー明けだったんですけれどね。下もユルいことはユルかったですし、その中で追いはしないですけど、適度にプレッシャーは与えて乗ってはいます。

-:昨日はずっと坂路で写真を撮っていたので、時計的なことは確認してなかったんですけれど、ゴールしてから翔伍さんがニコニコ笑いながら?

翔:快感ですね、乗っていて。当初の予定では調教師に「54(秒)前後で」と言われていて、先週やった時は“コッチが思っているよりも気持ちの入りが早いな”と思ったので。“気持ちが入っているのが早いな”と思ったら、後は流す感じでいくので、その時は時計がちょっと速くなるかもしれないですけれど、「来週にピークを持っていけそうなぐらいの抵抗の仕方なら、最後までそれで行きます」といった時に、コッチが“これぐらいであったら良いな”と思うようなまま集中して走ってくれましたし、バランスも良かったです。

というのも、以前は右にちょっと馬を付けないと右ラチを頼るところがあったんですよ。それが馬場の真ん中をバランスを崩さずに走ってくれたので。久々に坂路の単走であの走りができたのもありますし、集中力の高まりも、もちろん乗り味も。あれだけコッチが抑え込んで、終い体を使っていける馬なんて、今後、乗ることがあるかな、とか色々感じてたら、(自然と)笑ってしまったんでしょうね。






-:本当に快感だったんでしょうね、馬乗りとして?

翔:快感でしたね。そんなキャンター前とか緊張しないんですけれど、ゴールを過ぎた時に何かエライ馬に乗っているなと。テンションが上がりましたね。

「快感ですね、乗っていて。集中力の高まりも、もちろん乗り味も。あれだけコッチが抑え込んで、終い体を使っていける馬なんて、今後、乗ることがあるかな、とか色々感じてたら、(自然と)笑ってしまったんでしょうね」

-:安田厩舎というとファンから見ても、短距離馬の充実度合いというのはスゴいですし、カレンチャンや、今年のフェブラリーSを勝ったグレープブランデーなど、そうそうたる馬が出ている中で、その中でもロードカナロアというのは翔伍さんにとって特別な乗り心地を与えてくれる馬ですか?

翔:それぞれの馬にそれぞれの良さがあるんです。もちろんカナロアにはカナロアの良さというのもあります。特にカナロアの場合、良くなりそうで、それを活かしきれない歯痒さが長いことあったので、そういうのが徐々に解消されてきているのを感じるので。

-:ヨソの厩舎にロードカナロアがいたら、同時期のカレンチャンというスターホースがいなかった分、若いロードカナロアの状態でも満足できたんでしょうね。

翔:カレンチャンがいてくれたから、あの馬で色々、競馬に行くまでのコンディションだけじゃない、もっとコッチがやっとかなきゃいけない、ということを教えてもらいました。あの段階を踏んで、G1馬になることを教えてもらえたので。それが今、どれだけ解消されているかは分からないですけれど、少なくともカレンチャンが経験させてくれなかったら、グレープもそうですし、カナロアもここまで……。僕がいなかったらもっとカナロアに良い調教があるかもしれないけど、僕が携わらせてもらうにはカレンチャンの経験というのはスゴく大きいですね。

-:カレンチャンが安田厩舎に与えてくれたモノというのは想像以上に大きいですね。

翔:どの馬も勉強になることはあるんですけれど、その中でもカレンチャンはスゴく悩ませてもくれたし、そういう良い思いをする過程も教えてくれたので。

-:差し支えがなければ、どういう引き出しが増えたかを教えてもらえますか?

安田翔伍調教助手インタビュー(後半)
「“絶対がなければいけない馬”」はコチラ→

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【安田 翔伍】 Syogo Yasuda

昭和57年7月8日生まれ。高校時代にアイルランドに渡り、本場の馬乗りを経験。1年間の修行を経て帰国後はノーザンファームへ。その後、安田隆行厩舎に入り、フィフティーワナー、カレンチャン、ロードカナロア等の活躍馬の調教を担当する。
父は安田隆行調教師、兄は同じ安田厩舎に所属する安田景一朗調教助手。兄の景一朗助手と共に厩舎の屋台骨として活躍している。