関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

鈴木裕幸調教助手

通例と言えるほど2歳時から密着してきたエピファネイア(牡3、栗東・角居厩舎)のレポート。いよいよその集大成を迎える時がやってきたが、コメントの節々から勝利への執念が受け取れ、それこそが名門厩舎が大一番で結果を残せる理由なのだろう。母を超えるインパクトを残すためにも絶対に欲しいタイトルについて、改めて意気込みを伺ってきた。

皐月賞で強いのは勝った馬だけ

-:期待された皐月賞は惜しくも2着。1000m、58秒台の速い流れで、なおかつ掛かっていましたね。

鈴木裕幸調教助手:他馬が寄っていったら掛かりましたね。ハミを噛んだみたいですけれど、あれくらいは許容範囲じゃないですかね。

-:最後に伸びてるし。

鈴:向正面でいったん折り合いましたしね。まあ、“折り合った”というか、落ち着いて。3、4角で、またちょっと掛かり気味にはなりましたが……。

-:もともと課題だった面が、マイナスの分、2着になったという気がしました。

鈴:どうなんですかね。あれが影響してるのかどうかは正直わからないですね。というのも、あの程度のことを敗因にしていいのかとも思います。もともと「前半1000mで折り合いがつければOKだ」ということで競馬にいったんです。そういう意味では、ロゴタイプが上手だったと思いますよ。負けは負け。それ以上でも、それ以下でもないです。皐月賞ではロゴタイプが強かったということです。

-:その反面、負けたエピファネイアも強さが目立ったレースだったと思うんです。

鈴:いや、負けたら強くないですから。強いのは勝った馬だけです。

-:中山の皐月賞、馬場状態も硬かったと思うんですけれど、使った後の疲れとかはどうですか?今回は故障馬もたくさん出ていて、故障していない馬でも疲労が残っていないか心配なのですが。

鈴:それは毎レース変わらないですよ。疲労の出方も、疲労の抜け方も変わらずにこられていますし。脚元に関しても変わらず。まあ、良かったのかなと。

初めての左回りをこう見る

-:鈴木さんはラジオNIKKEI前から「クラシックを見据えて、一戦一戦、少しずつでも、ステップアップするような調整にしたい」とおっしゃっていました。大目標のダービーまであと一週と迫りました。今日の追い切り、単走で行われましたが、どんな内容でしたか?

鈴:先週、先々週と良い時計を出しているので、今週はベーシックな70-40というところで乗ってもらいました。ハミを噛みながらでも上手く走れるか、そこを確認した追い切りですね。ジョッキーは「まあまあ、収まりもついている」と言っていました。そういう意味では順調にきているかなと思います。

-:あと馬体重ですが。

鈴:体重に関しては「今回は少し絞っていこうか」という話をしています。そういう中で、攻め馬も、ある程度の負荷をかけてきましたのでね、予定通り若干マイナスになっています。

-:大一番のダービーに向けて、目一杯の仕上げで挑むという感じですね。

鈴:そうですね。はい。

-:あと、左回りのこの馬の走りですね。トレセンで左回り(火曜と日曜)の走りはどうですか?

鈴:変わりないですね。日曜日の追い切りも単走でしたけれど、他の追い切り馬に絡まれてもテンションが上がることなく、すごい折り合いがついて、良い追い切りができたと思います。回りに関しては特に不安はないです。

-:時々、左回りだけ特別掛かるとか、右回りだけ特別掛かるという馬もいると思うのですが。

鈴:あんまりその辺はないかと思っているんです。僕も両方の回りで乗りましたけれど、どちらかの回りが偏って掛かるっていうのはないですね。

-:両方バランスよく走れるのが、この馬のセールスポイントでもあるわけですね。あと前回、初めてあんなに速い流れを経験しました……。

鈴:問題なかったでしょ?

-:問題なかったですね。

鈴:皐月賞でも流れには乗っていたと思います。

-:枠がもうちょっと内だったら、収まり方が違ったとは思うんです。

鈴:どうでしょう?あんまり、そういう風には思わないですけれど。

-:次に内枠がひけるとも限らないですしね。

鈴:そうですね。はい。



掛かるはネガティブな要素ではない

-:結果的にロゴタイプはG1 ・2勝でダービーに向かいます。「打倒ロゴタイプ」の一番手はエピファネイアだとファンは見ていると思うんです。一番、注意しないといけないのはやはり折り合い面でしょうか?

鈴:みなさんエピファネイアについて「掛かる、掛かる」と言いますけれど、それは楽に乗りたい“人間の思い”からくる言葉であって、決してネガティブな要素ではないですよ。競走馬は走るために生まれてきたんですから前に進もうとする「強い前進気勢」があっていいと思いませんか?それだけ走ることに真面目なんですよ。

-:なるほど。掛かっているように見えるくらい前向きなエピファネイアの気性は、競走馬にとって一番必要な「前進気勢」の表れなんですね。我々競馬ファンは勝ち負けや着順ばかり気にしてレースを見ているので「折り合うエピファネイア」を望んでしまいがちです。でもエピファネイアにはエピファネイアらしい競馬があっていいってことですね。

鈴:そうなんです。だから、相手がどの馬なのかは気にしません。ロゴタイプであろうが、キズナであろうと、関係ないと思っています。まずはエピが上手く走れるか?そこに尽きると思っています。リズム良く、上手に走れたら自ずと結果はついてきますからね。常に自分との戦いですよ。周囲を意識するよりも、エピファネイアが気持ちよくレースに向かえるように考える方が大切だと思っています。

-:エピファネイアがリズム良く走る、というのは「掛かっている」ような見た目だけでは判断できないんですね。掛かっているように見えても末脚を温存できるか?そこが重要だと。これまでも、掛かったように見えてゴール前ではちゃんと伸びてくる馬ですからね。

鈴:たとえハミを噛んでいても、脚さえ残っていれば、いいわけですし。噛んでいたら噛んでる中で、終いでどれだけ脚を使ってくれるか?そこが大事なんです。多分ダービーでもハミは噛むでしょう。ハミを噛まないレースだけが理想形ではないんです。エピファネイアの個性を活かしつつ、噛んでも脚は残すトレーニングをしているわけですから。

-:乗るのが難しそうなイメージがありますが、そういうセッティングだとポジションは前目になりそうですね?

鈴:どこでもいいですよ。リズムよく走れるところであれば。どこで競馬してほしいっていう希望もないですし、枠にいたっても何枠でもいいです。

-:府中の2400mは1コーナーに入るまでが難所だと思います。馬群が凝縮して狭まりますが、そこはどうですか?

鈴:府中の2000mとかトリッキーなところと比べたら、そこまで意識するほどでもないと思うんです。2400mですから、コースをぐるりと1週回ってくるだけです。



従来どおりの装備で臨む大一番

-:馬装とかハミで変更はありますか?

鈴:今のところないですね。メンコは今つけていないので、そのまま何もしないでいくと思います。パドックでもね。今はそう考えています。

-:皐月賞の時のパドックは鈴木さんから見て、どんな印象でしたか?

鈴:パドック自体は別に悪くはなかったと思います。ただ、ちょっとジョッキーが跨ってからのテンションの上がり方が、弥生賞に比べれば高かったと。特にゲート裏はテンションが高かったんですよね。でも、それは皐月賞直前で意図的にピリッとさせにいったぶん、一気に馬のテンションが上ったのかなとは思ってます。

-:レース直前の急激なテンションの上がり方が皐月賞の結果に出たのかもしれませんね。

鈴:皐月賞前と今回のダービー前ではレースに向かう過程が違います。皐月賞後は乗り出しから、ある程度“負荷”を掛け続けてきています。急激に競馬前に変化をつけるわけではありません。テンションは高く見えるかもしれないですが、馬にとっては調教で馴染んだレベルを維持できる状態だと思います。ですから前回のように、返し馬やゲート裏で急にテンションが上がることはないと思います。

-:レースで折り合うためには、レースに向かう気持ちの調整も大切なんですね。皐月賞よりも落ち着いてスタートを迎えられたらいいですね。

鈴:そうなってくれていればいいかなと。でもレース前は、どの馬もテンション上がりますから、あれぐらいであれば、そんなに問題はないですけどね。

-:今回の調整過程がレースでプラスに向けば楽しみも増えますね。

鈴:そうでしょうね。プラスに向いて欲しいですけれどね。どう出るかはなんとも言えないです。こればっかりは。



-:ただでさえダービーはスタンド前からのスタートになります。皐月賞よりテンションが上がりやすい舞台ですから、レース前にどれだけ落ち着いているかが、エピファネイアの結果を大きく左右するポイントになりそうですね。

鈴:そうですね。ただテンションが上がったところでも、その中で馬が納得してくれないとダメなんでね。今回はそこを目指してやってきてるんで。皐月賞とは全く違った方向性、180度ガラッと違う方向性なんです。それが良く出るのか悪く出るか?そこは、正直わからないです。

-:厩舎サイドとしては、それがいい方に出ると思っての調整を続けてきているわけですし、我々もそれを楽しみにしておいて、いいということですよね。

鈴:それはその通りですね。

-:お母さんがアイドルホースのシーザリオですし、応援しているファンはかなり多いと思います。ここで待望のG1、ダービーのタイトルを取って欲しいですけどね。

鈴:そうですね。ぜひとも頑張ってもらいたいなと思いますし、僕もエピファネイアを信じて送り出します。

-:それでは、最後にファンの方々へ一言、お願いします。

鈴:2度あることは3度あるのか、どう転ぶかはわからないですけれど、どちらにしても大一番の日本ダービーです。エピファネイアだけでなく、今年の明け3歳の仔達にすれば、上半期最後の競馬。大目標のレースになります。エピファネイアもスタッフも、一生懸命、頑張っていますので、また懲りずに応援してもらえればと思います。よろしくお願いします。

皐月賞前・エピファネイアについての
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【鈴木 裕幸】 Hiroyuki Suzuki

1977年6月生まれ、京都府出身。
競馬とは縁のない家庭に生まれるが、中学生の頃、偶然ダイユウサクが勝った有馬記念をテレビで観て、競馬という職業を意識することに。 ジョッキーとしては、身長・体重・視力などが適さなかったため、厩務員を目指すことを決意。高校時代に京都競馬場の乗馬苑で乗馬を始め、高校卒業後、北海道の幾つかの牧場を渡り歩き、2004年に競馬学校厩務員過程に入学。
そこから、角居厩舎に入ると、シーザリオ(オークス&アメリカンオークス勝ち)、フレンドシップ(ジャパンダートダービー)、ロールオブザダイス(平安S)、ステラロッサなどを担当した。日々の仕事に対してのモットーは「ルーティーンにしないこと、繊細に務めることを心掛けたい」と語る。