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安田翔伍調教助手


いよいよ世界のロードカナロア(牡5、栗東・安田厩舎)がマイル戦線へと殴り込んでくる。只でさえ、今年の安田記念は春のマイル王を決めるに相応しい豪華メンバーだが、そこに無敵のスプリント王が参戦してくるのだから、胸が躍らずにはいられない。同馬が出走する際の登場は恒例となっている安田翔伍調教助手に、参戦の経緯と距離克服への見通しを語っていただいた。

トランセンドから始まった歴史

-:オークスのレッドオーヴァルは残念ながら結果が出なかったんですが、その後シンガポールのダッシャーゴーゴーも不利というか、後手というか、期待したより走れなかったことは残念でしたね。

安田翔伍調教助手:そうですね。結果が伴わなかったですが、反省するところは反省をして、今後に活かしていかないと、それぞれのレースが無駄になってしまうので。

-:海外の馬場はダッシャーゴーゴーにとっては?

翔:馬場じゃなかったんですけどね。レースまでに色々と太鼓とかのセレモニーで馬がパニックになっちゃって。普段は本当にズブいぐらいの何もしない優しい馬なんですけれど、ゲートの中でパニックになって、人を落としてしまって。そこで、また1回出されて、競走除外になるか、という状況だったんですけど、その後の入りもゴネて、中でも落ち着きを欠いてとかで、レースに行くまでで消耗してしまったので……。

-:馬にとってはキツい経験でしたね?

翔:そうですね、この経験を何とか。(ロード)カナロアだって香港に行ったことで、馬がドッシリとしましたし、今後は僕たちがシッカリと精神的なケアをして、経験を活かせるようにしないといけないなと思います。

-:トランセンドとか、カレンチャン、ダッシャーゴーゴー、海外にも視野を広げている安田厩舎なんですけれど、その最上級の馬がロードカナロアだと思います。

翔:実績面でいけば、カナロアが結果を伴っているんですけれど、やっぱり伴うまでの過程でそれぞれダッシャーにしても、カレンチャンにしても、トランセンドがいたから、そこで経験ができたことが活かされて、今のカナロアが存在していると思うので。もちろん、カナロアの能力は確かですが、今のポジションになったとは思ってないんでね。

-:それは厩舎全体であったり、先生を含めてみんなが前向きだというところが?

翔:それに耐えられるカナロアの能力も素晴らしいモノがあると思いますが、それぞれの経験があって、ある程度の準備をして、海外で結果を出したというのもあります。それに全てが噛み合っての香港などでの実績なんですけれど、噛み合うまでには、色々な馬の経験もスゴく貴重ですからね。

安田記念出走の2つの真実

-:マイルは2戦目のジュニアカップ以来ですね。そこに焦点が集まると思います。

翔:1600自体はあれ以来なんですけれど、メンバーも違いましたし、カナロア自身の経験値も違ったので、良い意味でも悪い意味でも1600は初めてのつもりで調整をしています。

-:高松宮記念とか1200ではもちろん実績のある馬ですが、それにしては4角での手応えとかで、スッと動くタイプではないじゃないですか?

翔:動きだしたらスッとなんですけれど、ちょっとその辺は掴みきれてない部分があるんですよね。阪急杯とかはそれを見越して、岩田さんが早めに合図を出したらスッと動いちゃったし、セントウルSにしてもそうでしたしね。

-:レースによってエンジンの掛かり具合が一定じゃないという訳ですね?

翔:そうですね。まだ、若干周りに気を遣ったりしているのかもしれないですし、状況によってエンジンの掛かり具合が違うのかもしれないですけれど、どちらかと言えば、合図を出して、反応が速くなってきましたけどね。

-:もしも毎回スッと動けてたとしたら、距離の融通もそんなに利かないと思います。

翔:どうですかね。それも含めて、今回はどっちに出るか分からないんでね。

-:厩舎サイドとしても絶対的な自信を持って臨むという感じでもない訳ですか?

翔:それなりに結果を求めて挑むんですけれど、今までとは条件が異なるので。距離が1200から1600になって、バッタリ止まるとか、最後の伸びを欠くということがない自信はあるのですが、その伸びが1200の時よりも劣るのか、もしくは1600になって今までよりタメるところが多くて、僕たちの知らないカナロアを見せてくれるのかもしれないし、それは本当に競馬に行ってみないと。結果に関してはどうなるかというのは分からないんでね。

-:実際にさっき言ったジュニアカップは中山の右回り、今回は得意の左回りになるので、全然、違いますし、当時とは体つきも全然違うじゃないですか?

翔:競走馬としての完成度は、あの時を基準にして、今回の比較は全然、参考にならないと思っているので。

-:全く別の馬になっているという話ですね。

翔:カナロア自身も全く別の馬になっているし、あのレース自体が言ってみれば1勝馬同士のレースでしたし、ああやってリズムを崩しても能力だけで2着に来られたりできたんですけれど、今回はそういう訳にはいかないでしょうしね。距離の経験が実際にあったとしても、それは全く頭には入ってないですね。僕らの頭には入れないようにしています。

-:ココに挑戦する意図というのはマイルもこなせれば、選択肢が広がるということですか?

翔:それは2つあります。1つはもちろん今のカナロアの競馬に対する能力からいって、1600をこなすことで競走馬としての価値も上がりますし、今後の選択肢が広がるという意味で出走することを決意したのです。もう1つが当初、高松宮から秋まで休みの予定だったのですが、高松宮記念での疲労が阪急杯以上になかったんですよね。それが競馬で悪さではなく、たまたまタイミングで、踏み直した時にゲートが開いて、あの馬にしてはタイミングが合わない競馬だったので。

若干、戸惑いを道中で見せる中で、何となく坂上でダラダラと行って、馬自身がメリハリをつけられないまま道中流れて、本当に最後の坂を上って、怒られてグッと伸びただけでレースを終えたので、レース後も異常がなかったんですが、火曜日の獣医さんの診断でも「全く競馬をしたような心臓とか、筋肉の疲労が見受けられないので、ケアすることは特にない」ということだったんです。

それはそれで能力の高さを感じられたのもありますし、悪い誤算でもあったんですよ。ある程度、疲れて、そこで秋に向けて休養して、気温が上がる前に疲労がだいぶとれてきて、そこで調教を再開すると、いつも上昇していた馬が、あそこで疲労しなかったことによって、もしかしたら馬がダラダラといって、暑さのピークの時に馬が完全に緩みきって、そこから秋緒戦のセントウルSだったとしたら、スプリンターズSに影響しない程度に前哨戦を迎えられるかと言ったら、ちょっと自信がなかったんですね。そういう意味ではドバイに行きたかった理由は秋のために、ある程度は疲労することによって、秋への計画が立てられたんですが、そういうのが全部壊れてしまって。




-:ローテーションとしてのメリハリを付けたかった訳ですね。

翔:そうですね。この馬自身、ごまかすことはできないんですけれど、状態面で疲れが来て、ある程度、回復をした時にあるタイミングで進めると上昇するタイミングというのが、言葉で言わなくても分かっているので。それを相談した時に、これだけの負担しかなかったら多分、嫌なタイミングでピークを迎えて、果たして秋へのレースに向けてペースを上げたい時に、上げられる状態にあるかも不安でした。その状態で秋に向けて、上げることによって馬のリズムも崩れちゃうだろうから、それが僕らが描いた一番嫌な結末でした。

-:つまり、今回の安田記念は高松宮記念よりもシッカリと全力で走って?

翔:最近は競馬での疲労というのはそこまでは見せないのですが、この夏を迎えるのに対して、“緩ませるタイミングを失くしたな”というのはあります。それが別に馬に負担になるとは思ってないですけれど、高松宮記念の後は、精神的なリフレッシュは1カ月ほどあげて、ある程度は緩ませて、この期間でのオンとオフにすることによって、安田記念を目指せれば全然、今後に影響はないし、安田記念が終わっても同じように、ちょっとだけ気持ちのリフレッシュをあげて、また秋に、というのがベストかとオーナーにも理解をいただいたんですけれどね。

でも、それが安田記念じゃなくても良かったんですよ。京王杯SCか、斤量面を考えたら安田記念を使うことによって、秋に備えたいというか、“負担なく秋を迎えたい”という意味で中間を使わせて欲しいということで。まあ、立場的に京王杯SCを使って秋に行くというのも、僕らとしても物足りないですし、競馬を盛り上げる意味でも今、マイルを使うということは楽しみにしてくれる人は多いと思いますしね。そこをこなした時にはやっぱり競走馬としての幅も広がるという意味で、そういう2つの理由で安田記念という選択になったんですけどね。


-:安田記念に出る以上、ファンは1番人気で迎えると思います。

翔:カナロアが今まで戦ってきたスプリントに比べて、マイルが格上だという意識は一切ありません。条件が異なるというのはもちろん頭に入っていて、その条件が適性に合うかということで、今までと違った結果になる可能性はありますけれど、“格上に挑戦する”という意識は一切ないですし、今までのスプリントレースで獲ったタイトルの価値を下げないためにも結果に拘りたいと思います。一緒に戦ってきたメンバーのレベルを下げないためにも結果には拘りたいですね。

ロードカナロアの安田翔伍調教助手インタビュー(後半)
「マイルで結果を出すための工夫」はコチラ→

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【安田 翔伍】 Syogo Yasuda

昭和57年7月8日生まれ。高校時代にアイルランドに渡り、本場の馬乗りを経験。1年間の修行を経て帰国後はノーザンファームへ。その後、安田隆行厩舎に入り、フィフティーワナー、カレンチャン、ロードカナロア等の活躍馬の調教を担当する。
父は安田隆行調教師、兄は同じ安田厩舎に所属する安田景一朗調教助手。兄の景一朗助手と共に厩舎の屋台骨として活躍している。