内田博幸騎手×戸崎圭太騎手

一流たる矜持と内田ジョッキーの超人的騎乗

-:ダービージョッキーっていうのはスゴイことですよね。世界に行って、通用する言葉ですからね。

内:ダービーを勝たせてもらって、とりあえず3歳牡馬クラシックは獲らせてもらったんでね。でも、最初にボクが地方出身としてできたのは自信にもなりますよ。何だろう、色々と課題が節目、節目であるから自信になったんだと思いますよ。やっぱり、石崎さん、的場さんがリーディングを争った中で、自分がそこで勝ち取れたっていうのもね。石崎さん、的場さんから勝ち取って自分がリーディングになって、中央に挑戦するようになったときに、「俺は石崎さんと的場さんを抜いたんだぞ。その俺が下手なレースをできるわけがないじゃないか」というのがあったんで。先輩たちの顔に泥を塗るっていうかね。そういう想いもあったんで。他にもいろんなことをやるだけやりましたね。やれるかどうかわからないけど、バカだから「竹見さんの記録を抜く」とかアホみたいなこと言って、「ホントにそんなことできるのか?」って周りは思っていたかもしれないけどね。「いや、絶対抜くんだ!」って。

-:あの記録は公言されてやったんですか?

内:そうですね。年の初めに言いました。最初は、前の年の夏くらいに言ったんですよ。で、10勝足らなかった。あと10個勝っていれば、抜いていたんだ。じゃあ来年は抜くぞと。で、年初めに、目標は505勝を抜くこと。これは2,3年でやらないと絶対無理だと思ったから、今年か、来年にできなければ絶対この記録は抜けないと思ったね。もう乗るだけ乗っちゃえと。で、何だろうね……。満足感?満足するんじゃないけど、達成感?達成して、次のステップをまた考えていける。

そうすると人間だんだんと欲が出てくるから、中央に移って、1月1日から1年乗ったらリーディング獲れるんじゃないかと思って。「リーディング獲るよ」とか言って。移った年に関東はリーディング獲ったけど、全国では2位でユタカさんには敵わなかった。そりゃそうだよね、3月からだもんね。次の年にはキッチリ。まあ乗鞍数の差とかはあるかもしれないけど、でも勝ち鞍では勝ったんだから。ユタカさんが2位ってことに価値があったんだよね。

だから、そういうのがあるから、逆に「負ける気がしない」じゃないけど、「負けちゃいけないな」と思う。心が折れるときも人間だからあるけど、やっぱりこういった人たちを目標として頑張ってきて、尚且つそういう人たちを、まあ技術では抜いてないかもしれないけど勝ち鞍では抜いたり、レースで勝ったりして……。「ココで俺が負けたら先輩たちに申し訳ない」という思いがあるから。今は自分がもっともっと頑張んなきゃいけないなって思うよね。

-:怪我から復帰して、ゴールドバシリスクで勝ったレースがあったんですけど、福永くんのダイヤモンドムーンと府中のゴール前で叩き合っていたときに、こういう姿勢になって、「落ちないのかな」って。写真撮りながら、スゴイなって思って。

内:何?全然わかんない(笑)。ああ、必死だったんじゃないですかね、コレ。必死ですよねえ?ねえ?

戸:必死ですね。もうゴール前は。

-:これ、戸崎さんから解説してください。

戸:この人って、ゲートを出て、もう、まるっきり落っこっているんですよ。もう、馬がいるじゃないですか。普通、こう乗っているじゃないですか。コッチに行っちゃっているんですよ、まるっきり。また乗ってレースしましたからね。そういう人なんで、こんなのを見ても全然……。

-:それはいつですか?

戸:いつくらいですかね?

内:随分、昔だよね。リーディングになる前だもん。半分……、いや殆ど落っこちた。

戸:いや、殆どって言うか、もう落っこちているんですよ!何が起きたのかな?という……。おかしいですもん、あんなん。合成写真じゃないとできないってくらいの……。もうホントに。

内:中山でも途中でアブミが抜けちゃって。「ア~、どうしよう」って思ったけど、追うしかないと思って、ハナ差勝ち。

戸:アブミ外したまま?

内:どの馬かは忘れたけれど(笑)、中央に移る前で、中央である程度乗っていた頃だから。そのときにアブミが滑っちゃったのよ。滑ってポーンと落っこちちゃったから「ア~」って。「アブミ履かなきゃ」と思ったけど、もうゴールが近いの。人気していたから追わなきゃいけないって。ヒザの片方を上げてね。

戸:ホントね……、おかしいんですよね。おかしいって言うか……。

内:でも、去年、大井で落ちちゃったんだよね。滑ったというか。

戸:ハハハ(笑)。少し気を抜いていたんじゃないですか~?

-:右足が滑ったんですか?

内:雨降っていたし滑ったね。ちょっと鞍も前よりで乗り辛かったんだけれど、馬群の後ろの方で追わなきゃと思っていたらね。

戸:そういうところからでも勝つという意識がいいですよね。

内:ツルっと滑って、馬を掴もうとしたら、あぁいない!みたいな感じでしたね。馬も外に行ったから。これはやばい落ち方だとは思ったんですけれどね。

戸:魅せますよね。魅力がある。色んな意味で、ですけどね。ファンからしたら、普通に乗ったらいい位置につけられるからそんなことする必要ないんですけど。そこから乗っちゃって……。「何が起きたの?」って、感じですよ(笑)。バケモノですよ、ホントに。

-:それは体操をやられていたのが効果あったんでしょうか?

内:それは関係ないと思う(笑)。

戸:勘と筋力というか……。

内:いやいや、乗り役はみんなちょっとおかしいんですよ。

戸:おかしいかもしれないですけれど……。

内:骨折したのにすぐに競馬に乗る?みんなおかしいよ。ある意味、おかしくなきゃ競馬はできない!

戸:おかしいけれど、内田さんはおかしすぎでしょ。やる事なす事が(笑)。だから、そういう意味で僕はないんですよ。魅せる競馬というか。

-:おかしな伝説が?

戸:おかしな伝説と言ったら変ですけれど、普通にいい馬を乗せてもらって、普通にいいレースをして、普通に勝たせてもらって……。というのが、俺のスタイルと言うか。

-:普通にできるのが凄いですよねえ。

内:そう!普通は普通ができない!

戸:普通にというか、みんな普通にやっているんですよ。


"(内田騎手は)バケモノですよ、ホントに(戸崎)"


-:でも、リアルインパクトみたいに普通じゃあ勝てないでしょう?

戸:いや、あれは一番いい時に乗せてもらったんですよ。

-:それは何かを持っているわけでもありますよね。

内:そうそう。俺が乗っていたら勝てなかったかもしれない。

-:前に乗っていた人(内田騎手)がよかったのかもしれない。

戸:そうですね(笑)。あのタイミングもすごくありがたかったですね。

内:それも何かの縁なんだろうね。

戸:あそこで地方の馬を使いにいけたというのもあるし、巡りあわせが……。

-:地方の馬がいなければ、乗れないわけですからね。それはスタッフにも感謝と言うか。

戸:ええ、そうです。だから、あれだけ頭を下げちゃうんですよ。すっごくバカにされたんですが。

-:アハハ(笑)。

内:何の話?

戸:ウイニングランですっごく!頭を下げていたんですよ。感謝の念が湧きでてきて……。それがルームに帰ってきたら、大井の騎手のみんなはおかしかったって、ゲラゲラ笑っていましたよ。

内:それやっかみだろ?

戸:ハハハ(笑)。

戸崎騎手マネージャー:ダグを踏みながら、あわせてやったからおかしいんでしょ?

内:それはおかしいなあ。一旦、止めればいいんだよ。

戸:あ、そうなんですね。でも、全然テンパっちゃって、「いや、本当に……!」「いや、ありが(とうございます)……」みたいなね。アハハ。

内:最後は美学を持たなきゃ?勝ったぞ、どうだ!?みたいなね。芝から地下馬道行くでしょ?その手前で止まるんだよ。止まった時にガッツポーズを決めて、そこから降りていけばいいんだ。ダグなんか踏みながらやったら、あれシーソーか?みたいに思われちゃうじゃない?

戸:内田さんもそういう派ですか?笑っちゃう派。

内:笑わないけれど、また勝つチャンスはあるんだから、そういう時にはウイニングランをするでしょ?感謝はしつつも、俺はカッコイイんだと思いながら、自分が乗ったから勝ったと思うくらいで、ガッツポーズを決めて、「戸崎~」って声援をブワーッと受けながら、厩務員さんが来るから、どちらにしても一旦は止まるじゃない?そこでガッツポーズをして降りていけばいいんだよ。

戸:そういう余裕なかったんですよね~。

-:内田さんのダービーの時はそうされたんですか?

内:ガッツポーズをずっとしていて、地下馬道に入る時にやりましたよ。

戸:カッコイイ人というのは、それが自然にできるんですよね。

内:違う、自分で意識してやるんだよ。地方でもやらないと。

-:鏡の前でやっているんでしょうね。

内:いや、レースの前に考えているもん。俺が勝ったら、ガッツポーズはどうだなって。

戸:そういう時はたまにあるんですよ。「これなら大丈夫だから」と。で、僕が考えていたら、勝った試しがないですからね。そんなですから、僕は(笑)。

内:勝った時に自然にやるようにしておかないとね。最初、みんな多少はカッコ悪いから。それをカッコ良く出来るようしていかないとね。

戸:じゃあ、イメージ湧きますか?僕がこう決めているところは。

内:カッコ良くするしかないからねえ。

戸:カッコ良くなってないんですよ。僕だと。

内:いや、ああいうのは“顔”とか関係ないんだよ。

戸:顔なんて誰も言ってないじゃないですか!?顔なんて、勝った時はゴーグルしているし、遠いからファンの人わかんないでしょ?

内:う~ん、だから、カッコ良くやれよとね。木馬に乗って、鏡をみて練習しときなよ。

戸:した方がいいですかねえ。でも、やっぱり抜けちゃうんですよ。あいつ、おかしいだろ?と、なるんですよ。それが僕らしくもあるんでしょうけれど。内田さんがやるのとは違うんですよね~。第三者がみるとね。

内:そうなんかなあ?

-:戸崎さんのキャラクターを作ればいいじゃないですか?

内:そうだ!中舘さんのようにどうだー!って。(ゴールしてからゴーグルを外してキョロキョロする振り)。自分の顔アップで。

戸:(中舘さんは)やりますね(笑)。でも、自分の中ではあるんですよ。だけれど、周りの評価は違うというか。

-:でも、ガッツポーズは全くしないじゃないですか?

戸:だからしないですね。逆に。

内:カッコ悪いから?

戸:う~ん、やって落ちたらカッコ悪いじゃないですか。

内:大きくやるから落ちるんだよ。普通にしていればいい。じゃあ、調教でやってみれば (笑)?

戸:ハハハ(笑)。

-:安田記念は先日行われたこともあり、去年の映像も改めて目にする機会は多かったのですたが、ゴールしてから、人に勝ち負けを確認してからのガッツポーズはよくないですよね(笑)。

戸:勝ったのを周りに聞いてから、ガッツポーズしたんですよね……。

内:プッ(笑)。だったらしない方がいいよね。だから、ガッツポーズは観覧席全体にみせるようにしたらいいんだよね。

-:内田さんもダービーの時は外ラチ沿いを辿ってきましたよね。

戸:何でも絵になる人はいいですよ。

内:絵になるんじゃなくて、魅せる仕事だから、そこまで考えないと。安田記念の時は競馬場だけでも何万人もの人が、戸崎を観ていたんだからね。「戸崎が勝った!すげ~な~」ってね。勝った事に酔うこと、自分に酔わなきゃ。それがアピールだし、ファンに対して、競馬をまた観に来てねというアピールにもなるから。いいレースをしただろう?って。ただ、戸崎圭太が乗っただけじゃない。

-:でも、ジョッキーはカッコイイものですよね。

内:まず、馬がカッコイイから、カッコ悪くてもカッコ良く見えるんですよ。あれだけの迫力がある馬に乗っかっているんだから。