安藤勝己とC.ルメールの接点
2014/2/5(水)
昨年は2009年のウオッカ(ジャパンカップ)以来となる日本のG1をベルシャザール(ジャパンカップダート)で制すと、返す刀でその後に重賞を3勝。フル参戦した1月開催は全国リーディング第二位という好成績を残し、帰国の途についたクリストフ・ルメール騎手だが、かねてからポテンシャルを高く評価しているのが安藤勝己氏。古くはハーツクライ、現役ではベルシャザールなどが両人共通のお手馬として知られており、今回は競馬ファンの熱い要望を受けて日仏対談が実現。パイオニアの目から見るフランスの名手、両主戦から見るベルシャザールの未来など、関係者も必見のドキュメントを一読いただきたい。
-:本日、安藤さんはテレビでの解説後、ルメール騎手はレース直後(1/26・メインAJCC)でお疲れの中、ありがとうございます。安藤さんが引退されてから、お二人がお会いしたのは初めてですか?
安藤勝己元騎手:うん、そうやね。直接会ったのはそうかもしれないな。
クリストフ・ルメール騎手:はい、初めてです。昨年1月に引退したことは知らなくて、近年はちょっと乗り鞍を減らしておられたので、いつもそういう風なスタイルで乗ってらっしゃるんだと思っていて、11月に来日した時にあまりにもいないな、と思って、武豊さんに“安藤さんはどこに行ったの?”と聞いたら「引退したんだよ」と言われました。
-:安藤勝己さんと一緒に乗られていて、イメージ的にはどんなジョッキーでしたか?
ル:安藤さんは日本の中で色んな記録を持っていらっしゃるし、素晴らしいジョッキーの中の1人だと思います。
-:逆に安藤さんから見て、ルメール騎手はどんなジョッキーですか?
安:日本には結構長く来ているから、そういう点では(ミルコ・)デムーロもそうなんだけど、どっちかと言えば外国の騎手という感じがしないというか、いつもよく乗っているからね。また、オリビエ(ペリエ)が来んようになったからね。
ル:中央に来る前に地方でたくさん乗ってらっしゃって、すごいたくさんの記録を樹立されてきた方で、それを終えてまた、JRAの頂点に立たれたということで、みんなが尊敬する本当に素晴らしいジョッキーだなという印象です。
安:それこそ、ピッチョーニ(騎手)が笠松に来てた時代だよ(笑)。
ル:1日のうちで重賞とか後半のレースで、いつも良い馬に乗られていましたね。
安:中央に移籍してからは、良い馬に恵まれていたからね。

-:一緒に騎乗したレースで思い出のレースなどはありますか。どういう乗り方をしていたなとか、どんな馬に乗っていたなとか?
ル:有馬記念で(レース中に)一度も安藤さんのダイワスカーレットの姿を見ずに終わったんです。私はフローテーション(橋口厩舎)に騎乗していて、あれだけ前と離れてしまって、一度も見ることなく終わってしまった。有馬記念は芝の2500mですごく難しいレースだと思いますが、ダイワスカーレットも難しい印象がある馬なのに、それで勝ったということは安藤さんのパフォーマンスも凄かったように思います。
安:その前の天皇賞(秋)が酷いレースをしていたから。だから、中途半端に考えるよりもハナに行っちゃった方が勝てるなと思ってね。
ル:自分もハーツクライの時にジャパンカップですごい悔しい思いをして、有馬記念で違う乗り方をして勝てたので、同じような感覚です。
安:オレもハーツクライには最初の頃(3~5戦目まで)に乗ってたんだよ。腰が甘い馬だったでしょ。だから、あそこまで走るとは思わなかった。それで、ダービーはキングカメハメハと一緒だったから。ハーツクライはそのダービーで2着だったけど、当時はキンカメの方が全然強かったからね。オレがハーツクライに乗っていた頃は全然前に行けなかったんだけど、スッと前に行けるのが不思議だったんで、聞いて見たいんだけど?前に行くようになったのは、ルメールが乗るようになってからだもんね。
ル:天皇賞(秋)とかJCの前にみんな周りの人が「ハーツクライはスタートが良くない馬だよ」というイメージで教えてくれたのですが、自分が乗ってみるとそうでもないなと感じたので、出してみたら出るんじゃないかと思って。JCで悔しい思いをしたので、有馬記念の前にゲートで起こすというか、馬の気持ちを乗せるようにしたので、その分スタートが良くて、ああいうレースができたと思います。ドバイの時は自分が気持ちを乗せなくても、自分から前に行くようになりました。馬がすごく喜んでいる感じでしたね。今までは後ろから行って頑張らないといけないレースだったから、気持ち良く前で走れて、馬との気持ちが通い合っている感じでした。

安:オレが乗っている時は歩様が本当ではなかったでしょ、腰もね。デビューした頃は却ってユックリと出した方が良いなと思って、全然慌てさせなかったの。
ル:脚の長い馬だから、3歳ぐらいまではまだ不安定で、バランスが取りにくかったかもしれないけど、歳を取るに従ってバランスが取れるようになってからは、レースがしやすくなって走り方も変わったのでしょう。
安:最初の頃はコーナーでもちょっと無理をすると、最後動かない感じだったもん。
ル:馬も人間と同じで、波があるからどうなるか分からないしね。
安:オレはそういう点で、甘やかしとった分があるもんね。乗り方を決めつけてね。それでも力はあったから、直線で終いだけに懸けてもバァーンと来よったから。
ル:世界レコードのJCであの位置から2着に来れただけでも実力があるということで、有馬記念はディープインパクトがいるけども、それでも勝てるのじゃないかなという手応えがありました。
安:今思うと、ディープを負かしているんだから、すごいね(笑)。
ル:サンデーサイレンスの子で血統的にも素晴らしいモノがありますからね。引退しても種牡馬として活躍していて、とても嬉しいです。
プロフィール
クリストフ・パトリス・ルメール
1979年5月20日生まれ。フランス国籍。
99年にフランス騎手免許を取得すると、間もなく頭角を現し、02年より短期騎手免許を取得して来日するようになる。日本では重賞勝利までに時間が掛かったが、05年の有馬記念では追い込み脚質だったハーツクライを先行させ、三冠馬ディープインパクトを封じて、初重賞奪取をG1制覇で飾った。他にもカネヒキリと挑んだ08年のJCダート、09年のウオッカでのジャパンカップ、13年のベルシャザールでのJCダートなど、来日時は大仕事をやってのけることでファンにも馴染みは深い。「日本は第二の故郷」と今秋も再来日を誓う、世界トップクラスのジョッキーである。
【安藤 勝己】Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1 22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成した。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。今後は「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。
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