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騎手コラム

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当歳でも億超え9頭!!セレクトセール2016・当歳馬市場回顧

当歳馬総括

7月12日、「セレクトセール2016」(主催:日本競走馬協会)の当歳馬市場が北海道・苫小牧市にあるノーザンホースパークにて開催された。前日には約81億円という驚異の売却金額を叩き出した当セール。2日目は上場馬が当歳と変わったが、その勢いが止まる事はなかった。

セール開始前には総勢232頭の展示がされた。あらゆるところから幼駒たちの嘶く声が響き渡る会場であったが、この日の目玉であると評されていたマルペンサの2016は、1頭じっと動かずに立ち続けていた。これが大物の醸し出す雰囲気かとこちらが硬くなってしまいそうになる。

雄大な馬体を持った芦毛の母馬が目に止まる。現役時代にヴィクトリアマイルを制するなど大活躍したホエールキャプチャだ。隣にはその仔、見た目は父・オルフェーヴルのような栗毛だが、実は毛色は芦毛。父のような色で見られるのは幼いうちだけだという。この馬が、後に会場を大きく沸かせることとなるのだ。

レイズアコールの2016

ジャスタウェイの初年度産駒のセリ1頭目となる
レイズアコール2016を落札した大和屋暁氏


午前10時にセリが始まると、5頭目に登場したのはジャスタウェイ産駒の母レイズアンドコールの2016(父ジャスタウェイ)。当歳世代が初年度産駒となるジャスタウェイの仔だが、これに狙いをつけていたのが大和屋暁氏だった。当サイトでもおなじみの存在であり、何を隠そう父ジャスタウェイのオーナーである。

「今日は何とか産駒を1頭でも落とせればと思っていました」という大和屋氏は序盤から積極的に手を上げる。しかし他のバイヤーからも頻繁に手が上がり、価格はどんどんと上昇。最終的に4700万円のビッドにハンマーが落ちたが、このビッドは大和屋氏によるものだった。

「もちろん最初の産駒だから、こうやって落とすことで盛り上がるだろうし、あとから出てくる仔も高い評価を受けてくれればと思います」と語った同氏。世界一に輝いたジャスタウェイの仔で追う夢はもう決まっているようで、取材の最後には同氏らしい、いい意味で力の抜けたコメントをいただけた。

「ダービー出てぇな」


前日からディープインパクト産駒の牡馬は漏れなく高額になるという状況で、2億8000万円の値がついた母イルーシヴウェーヴの2016を筆頭に、この日も続々と1億円オーバーが続出する。

そんな中、オルフェーヴル産駒の母プリティカリーナの2016(父オルフェーヴル)が1億円で落札される。同馬を落札したのはKTレーシング。現3歳世代から競走馬を所有し始めた新興馬主の一人だ。

今年のセールは新興馬主や外国人馬主の参入が多く見られた。母ファイナルスコアの2016(父ディープインパクト)を1億5500万円で落札したのは、イオン株式会社の元社長である二木英徳氏。まだ同氏は馬主免許を取得していない、言わば正真正銘の新規参入なのである。イギリスのEU離脱など景気の悪い話が少なくない近頃だが、この会場の中に限ればそんなことはお構いなし。競り合いとなり入札額がつりあがっていっても、上場されているのが良血馬であればどんどんと手が上がる。そしてそういったことが出来るのは、古くから馬主をしている人だけではない。いまやディープインパクト産駒は、初めて持つ馬の理想になりつつあるのかもしれない。それが成功への近道だということは、ここ数年の同産駒の活躍を見れば一目瞭然だ。

ファイナルスコアの2016

二木英徳氏が落札したファイナルスコアの2016


母アドマイヤテレサの2016(父ジャスタウェイ)は1億4000万円で近藤利一氏が落札した。これが初年度産駒となるジャスタウェイ産駒に、いきなりミリオンホースが出たのだ。アドマイヤテレサの子には、豪G1・コーフィールドCを制したアドマイヤラクティ(父ハーツクライ)がおり、父ハーツクライであるジャスタウェイを父に持つ本馬は兄と3/4同血である。異国の地で非業の死を遂げた兄を超えるような活躍が出来るか、夢は再び同じ勝負服で走り出す。

3戦無敗できさらぎ賞を制して、皐月賞3着、日本ダービーではハナ差の2着と3歳世代を大いに盛り上げたサトノダイヤモンド。その全弟となるマルペンサの2016(父ディープインパクト)が今回の目玉1頭であった。

会場にはそれまでよりも多くの人が駆け付け、熱気がこもるほどの注目ぶり。1億円からのスタートとなったセリは、3億円が見えてきた2億8000万円で落札となった。ハンマーが落ちる瞬間には、当歳ながら1頭で立ち続けていた本馬が大きく嘶いた。大物ぶりを表すかのような仕草も相まって、会場からは大きな歓声と拍手。間違いなくその日1番の盛り上がりを見せた瞬間であった。「いやあ、高かったですね。勢いでいっちゃった部分もあります(笑)」とコメントしたのは、兄も所有している里見治氏。同氏は2日間合計で13頭、13億2700万円の投資。前述の通りだが、ここでは景気の不安などは一切感じられない。

ファイナルスコアの2016

マルペンサの2016を落札した里見治オーナー


母ホエールキャプチャの2016(父オルフェーヴル)は同世代で激突した2頭の仔。芙蓉Sでは母が後に三冠を制することとなる父を抑えて勝利を挙げている。記憶に新しい重賞勝ち馬同士の仔ということもあり、セリは序盤から白熱。オルフェーヴル産駒2頭目の1億円を超え、ハンマーが落ちるかというその時であった。

大声を挙げながら手を上げたのは、マイネル軍団の岡田繁幸氏。総帥が動いた、自ら手を上げたのだ。その後もデッドヒートが繰り広げられたセリだが、全く譲らずに1億7000万円で落札(落札者名義はビッグレッドファーム)。G1馬同士の配合ということで注目を集めていたセリは、総帥の動きよってより注目を集めることとなった。

ホエールキャプチャの2016

オルフェーヴルとの間に産まれたホエールキャプチャの2016


最終的に、上場頭数232頭中、売却頭数は173頭。売却率の74.6%は昨年よりポイントを落としたものの、売却総額は68億1150万円と余裕の昨年超え。1歳セクション、当歳セクションと二日間を合わせた売却総額は149億4210万円と、過去最高額を記録した。

社台ファーム代表の吉田照哉氏も、「売っているほうも驚いているような状態」と話した。その中でも「新しく参加した人たちのパワーがすごかったです」と言うことを強調していた。「新規で来られている方たちが競りに来て、それにつられて皆さんが手を上げていく。いい馬じゃないと皆さん買ってくれないですからね」と、馬の質の高さも評価できるレベルとなってきている。

今年のセールにはアイルランドを本拠地として世界中で活動するクールモアグループも参戦していた。「クールモアの息子さんが来ていたけど、ただ冷やかしに来たんじゃなくて、真剣に買おうと思って来ていたんだと思うんですね。エイシンヒカリも外国で勝ったし、日本の馬が世界で通用するということがわかった。それが外国の方の購買意欲を上げたのではないか。香港の方がロードカナロアの仔を買っていったり、日本が世界に認められてきた証拠だと思います」と話す。驚きもあるが、自信を深めることの出来る2日間でもあった。ラニやエイシンヒカリなど、今年は世界に挑戦する機会の多かった日本馬。長い日本競馬の歴史の中でも今年は顕著な活躍が見られた。誰よりも日本の競馬を見てきた同氏が最後に発したこの言葉こそが、今の日本競馬界の勢いを象徴している。

「ようやく、日本が世界に通用する、競馬先進国にいれてもらったんじゃないですかね」

吉田照哉

セレクトセールの総括を語る吉田照哉氏