キタサンブラック、誰よりも遅く追いだしての完勝 JC勝利!【平林雅芳の目】

キタサンブラック

16年11/27(日)5回東京8日目11R 第36回ジャパンカップ(G1)(芝2400m)

  • キタサンブラック
  • (牡4、栗東・清水厩舎)
  • 父:ブラックタイド
  • 母:シュガーハート
  • 母父:サクラバクシンオー

ジャパンカップの結果・払戻金はコチラ⇒

関西はかなりの雨、だが府中も後半雨予報だったのがJC直前にパラ、パラッと来たぐらいで、最悪の馬場コンディションは免れた。 最内枠からゲートを決めたキタサンブラック。ワンアンドオンリーとリアルスティールがついて来たが、並んだりつつくこともなく淡々とした流れとなる。向こう正面で後続を少し離したが、後はほとんどユッタリ行けた。4角を廻っても後続馬が皆、追いだしているのにキタサンブラックの武豊Jだけがまだ追ってない。ラスト400mあたりから追いだして、左ステッキを計7発。最後は2馬身半の決定的な差をつけてのゴール。東京競馬場に《さぶちゃん》の『まつり』の歌声が流れた。

パドックには、2レース前あたりからいた。それでも人が多くて最前列では見れない。馬が入場してきて、周回しだした。前の人の肩から先しか覗けない。馬の上半身や頭しか見えない。早めにいつもの場所に帰って返し馬から見た方が無難だと動く。
北島三郎氏とその集団がけっこう早めにパドックに現れていたが、馬の中に外の端っこで静かに周回する馬を眺めていたのが、この優しいソフトさがいい感じだな~と思ってはいた。出過ぎず騒がずがいい。
馬場入場して、ほとんどが4コーナーの方へとキャンターで走っていく。一番先に入ってきたのがレインボーライン。絶好調、ルメールが背中だ。観客で埋め尽くされた場内には《ユーミン》の新たな曲が流れている。

返し馬から真っ先にゴールへと来たのがキタサンブラックだったと思う。大勢のスタンドの真ん中あたりにある2400のゲート。やはりやや興奮気味の馬が多い。Mデムーロが首さしを撫でて落ち着かせようとしているサウンズオブアース。時折、キタサンブラックもうるさい仕草をしている。それに比べて、リアルスティールが落ち着いた周回をしている。《今日は全てがうまく行ったんだな~》と、装鞍からがスムーズに進んだに違いないと想像できる。《手強い相手だな~》と。
そしてゲート入りが始まる。意外や意外、ゲート入りに外国馬がすべて手こずる。前扉を開けて入れたりもしていた。リアルスティールに最後にシュヴァルグランが入って、ゲートが開いた!

当然にキタサンブラックを見ている。突進気味のスタートではなかったか。何せ、いいスタートが切れた。『別にハナにはこだわっていないよ~。どうしても行きたい馬がいたら、控えてもいいんだから』と、武豊Jには昼あたりに話のなかで訊いていたし、馬場コンディションも百も承知していて安心はしていた。でも実戦となると別、何が起きても不思議でない。レースは生ものだ。
迷わず先手としたキタサンブラック。ワンアンドオンリーが来た。田辺Jはいろんな乗り方をしてくるジョッキー。まさか先手はないだろうな~と願う。外からRムーアもリアルスティールを導いている。前が有利な流れを読んでいるのか~と感心する。
最初のカーブに入る時は外の2頭の勢いが凄かったのだが、次の2コーナーを廻って行く時には少しおだやかな流れになる。ゴールドアクターが枠の有利さでリアルスティールの内で3番手、次いでイラプト、ラストインパクトが続いてルージュバック、サウンズオブアース。ディーマジェスティは後ろから3頭目で最後方がナイトフラワーの、けっこう縦長の隊列だ。

向こう正面に入ってから、キタサンブラックのリードは4馬身ぐらいと少し後ろを離した。かと言ってペースが上がった訳でもなく、武豊Jが後で言っていたイーブンペースだったのだろう。1000m通過が《1.01.7》、今日の馬場コンディションでもけっこうユッタリな流れではある。後でPVで見て分かったのだが、キタサンブラックを始め皆、内を3頭分ぐらい空けて走っていた。
3コーナーを過ぎて、4コーナーが近づいていくにつれ後続がどんどんと前へ詰めて行く。キタサンブラックと2番手ワンアンドオンリーとの差も1馬身ぐらいまでなくなってきた。そして最後のカーブを廻って直線へと入って来た。
進路を少し外へと取ったキタサンブラック。まだリードもある。外からリアルスティールが追いだして2番手ぐらいに上がりだした。ラスト500を過ぎてもまだ差は詰まらない。ラスト400でもまだ追わない武豊J。この時、私はもう立ち上がって双眼鏡も置いて、右手を振り上げて応援しだしたと思う、確か…。

リアルスティールがどれだけ迫ってくるのか、ゴールが遠く感じたものであった。だが後で見ると、まったく危なげないものだった。2着はサウンズオブアースは判っていたが、3着はすっかりリアルスティールが入ったものと思っていた。
急いで地下道へと降りる。清水久師が来たので握手、そしてハグまでさせて貰った。可愛い息子さんも一緒だったので、握手をお願いした。
馬が続々と帰ってきた。だいぶ経って残り少なくなってからウイニングランをした後、帰ってきたキタサンブラックと武豊J。検量室前の枠場前でなくエレベーターを降りてきて地下道の入口あたりで待っていた北島三郎氏達。その前を喜びの挨拶をして枠場へと向かっていった。馬を降りて最初の武豊Jの言葉が、『どんどん強くなっていく』と感嘆の言葉であった。

検量室の中。後検量を終えたジョッキー達が見つめる大きなPVのテレビ前。Rムーアが武豊Jに寄っていき握手を求める。《どうしたんだ~》と武豊Jは訊いた様に思えた。少しクビをかしげたRムーア。おそらく《距離が長いね~》と言ったんじゃないかと勝手に思っている。
その後、勝利者インタビューに応えた武豊J。馬場内の表彰式へと去っていった。キタサンブラックのレースはほとんどライブで観てきたが、今までで一番強い楽な勝ち方をしたのではなかろうか。それもただ一度大敗をしたダービーと同じ舞台、同じ距離で。それも古馬の頂点、ジャパンカップでだ。先週のマイルCSと違って、スムーズな競馬で誰も文句のないレースであっただろう。
流れだけが先行有利ではあったが、ちゃんとサウンズオブアースにシュヴァルグランらは末脚を発揮して来ている。レインボーラインも、終いの脚は良かった。そんな中でディーマジェスティは何もなかった。いろんな事があるのだろう。

でもキタサンブラックは、着実に足固めをしている感じだ。一歩、一歩、上へと階段を昇りつめていっている感じであり、北島三郎氏と共々、国民に愛される馬になった。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。