どこから来た!?泥にまみれたディアドラがグイっと伸びる!【平林雅芳の目】

ディアドラ

17年10/15(日)4回京都5日目11R 第22回秋華賞(G1)(芝2000m)

  • ディアドラ
  • (牝3、栗東・橋田厩舎)
  • 父:ハービンジャー
  • 母:ライツェント
  • 母父:スペシャルウィーク

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予報よりも悪い天気となり、朝からシトシトと降り続ける雨。ひとつ前の10Rから、ついに芝も重発表となった。
傘の花が咲くスタンド前のゲート入り。リスグラシューの駐立が悪く、少し遅れて出た。カワキタエンカの逃げで始まった、霧雨のなかでの秋華賞。4コーナーで前と進出したモズカッチャンが、ラスト1ハロンから一番前へと出る。それを追うリスグラシュー。と、そこへ内から外へ出したディアドラの伸びが良く、あっと言う間に前を呑み込んでゴールを駆け抜けて行った。その後の2着争いを、リスグラシューが何とかモズカッチャンを交わして制した。アエロリットは2番手のレースと読みどおりだったが、結果だけが違った。カワキタエンカをも交わせずに、伸びがなかった…。

馬体重の発表があった。アエロリットが10キロ減。確か札幌の時はかなり増えていたのだから問題ないだろうと思う。他に大きな増減は、ディアドラの12キロ増。これにはビックリ。けっこう使ってきている馬との印象で、ここに来てまた増えてくるとは!と意外な数字に驚きもしていた。
パドックをいつも見下ろすテラスから、傘をさして見ていた。ひと廻りした馬を見て、リスグラシューが細いのは変わらずながらも、何かしっかりしてきた感じを受ける。初めて見る関東馬もいて難しい。アエロリットは、もっと堂々としていると思った。またラビットランがちょっとうるさい感じだが、前回はあまり注目して観てないから比較も判らない…と、結局は雨の中だし早めに切り上げて馬場入場、返し馬に備える。

一番早く入ってきたのはハローユニコーンで、ラビットランが2番目に出てきた。そこからちょっと時間があって、続々と場内放送と共に入ってきては返し馬に行く馬、歩いてゴール板の方へと行く馬に別れる。ポールヴァンドールは硬い馬なんだと知る。
だいぶ馬場も悪くまだ上から降って来ているから、ディープインパクト産駒の出番の馬場コンディションではないな~と心の中でつぶやく。馬場的にはレーヌミノルはいいけど、距離が保つのかどうか。リスグラシューは悪くない馬場だ、等々とあれもこれもと考える。

雨で煙るなかでのゲートインが始まる。リスグラシューがゲート内で落ちつかない。タイミングがあえばいいけど…と願う。そうそう、ゲート前の輪乗りの時にゲートの横のスペースからアエロリットが前に出てきていた。気負っているのだろうか、なんて思ったっけ。

やはりリスグラシューの出はうまくいかなかった。ヨレて出て行く感じで、位置は後ろになった。やはりカワキタエンカが先手を取っていく。アエロリットも普通に出て、じっとして2,3番手。外からファンディーナがすっと前に出て、2番手を確保。レーヌミノル、モズカッチャン、ミリッサらがその後の集団で行く。ラビットランがその後ろだ。
リスグラシューは後ろで、ディアドラがすぐ傍にいた。最後方がハローユニコーンで、最初のカーブへと入って行く。

2コーナーを過ぎたあたりで、2番手をアエロリットとファンディーナが並んでいくが、アエロリットの鞍上、横山典Jがかなり抑え気味の姿勢となる。前から4列目のモズカッチャンは折り合っていい感じだが、外のレーヌミノルもかなり抑え気味である。ラビットランが後ろのインにいて、その後にリスグラシューとミリッサの同じ勝負服が並び加減で行く。ディアドラは後ろから4頭目だ。

向こう正面を過ぎ、アエロリットが並びからカワキタエンカの2馬身後ろと前へ出る。リスグラシューがミリッサよりも前へ出た。場内放送が『1000m通過が59.1』と言う。前の3頭から離れた4番手がブラックスビーチ。リスグラシューもミリッサも、鞍上の手が動きだしてきた。特に、リスグラシューがいつもより早めの仕掛けをしているのが判る。ペースが速くなっているのだろうし、ここが正念場なのだろうと推測する。

4コーナーが近づいてきた。馬群も縦長からだいぶ凝縮されてきている。リスグラシューにエンジンがかかり、だいぶ前へと上がってきている。
4コーナーのカーブへと入ってくる。モズカッチャンが、早めに前へ前へと出てきている。もう先頭を交わす勢いである。カワキタエンカ、アエロリット、そしてモズカッチャンと、3頭が並んで直線コースへと向いた。

モズカッチャンの勢いが良く、あっと言う間に先頭に立つ。リスグラシューがそれを追うように鞍上のステッキで促している。
ラスト200を切った。モズカッチャンが先頭。リスグラシューが追う。内ではまだカワキタエンカが粘っている。アエロリットの伸びがない。とその時に1頭の勢いのいい馬が来ているのに気がつく。ディアドラだ!
リスグラシューを交わして、なお前へと進んで行く。モズカッチャンをも交わしたディアドラ。ゴール板を過ぎて、ルメールが右手でガッツポーズをしていた。リスグラシューが、何とかモズカッチャンをハナ差交わしてゴールに入ったのが見えた。

検量室の前、ゴッタ返す人を整理すべくガードマンが壁を造っている。何とか検量室入口の少しのところへ潜りこむ。引き上げてきた武豊Jにひと言声をかけたい。近づいてきた武豊Jに『ゲートが悪かったね~』と。するとジョッキーは『そこは問題じゃない。ちゃんとカバー出来た・・』と、《こいつ何を言っているんだ~》の雰囲気で通過して行った。素人の質問は時に的を外す、そんな感じである。

パトロールビデオを何度も見る。《ルメールは何で内から来たんだ!》と呆れかえりながら。
内を突いて脚を貯めた馬が勝つ、それが競馬のセオリーとはよく解ってはいる。だがこの馬場で内を付いてコースロスを防ぎ、そこから外へ出して弾けて差す。こんな芸当をやってのけてしまう鞍上。それに応える馬。14戦目となるのにまた馬体が増え、充実一途の秋なのであろう。何と強靭な心と肉体を持っている馬なのだろうと、感心してばかりだ。 いつもなら横山典Jとも立ち話をするのだが、こんな時にはこちらもいい質問が出来そうもなく、まだ興奮で冷めやらぬ競馬場を後にした…。

火曜の朝、坂路で矢作師に言葉をかける。《よくあそこを突いて来ましたね?》と向けると、『あれが競馬だよな…』と言葉少なに返された。多くを語るには、勝ち馬の勢いがあまりにも凄かった。そんな想いで、その後の言葉を呑んだ。敗軍の将、多くを…なんである。
どこかの記者が来て、《リスグラシューの今後はエリザベス女王杯ですか?》と尋ねる。『ええ、その予定です』と答えた。その後はほとんどリスグラシューの話題は上らない、坂路監視小屋であった。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。