【勝者に学ぼう】春のキーマン・国枝栄調教師に聞く"弥生賞とは"

20年弥生賞を勝ったサトノフラッグ

20年弥生賞を勝ったサトノフラッグ


●弥生賞ディープインパクト記念

国枝栄調教師の弥生賞優勝歴
2013年カミノタサハラ
2020年サトノフラッグ

——国枝先生にとって弥生賞とはどのような意味を持つレースでしょうか。

国枝調教師(以下、国):弥生賞は、皐月賞、ダービーといったクラシックを意識する馬が使ってくる重要なレースですね。最近は2歳のうち早めに賞金を加算してトライアルを使わず本番に向かう、などクラシックへ臨むローテーションもいろいろなパターンが出ていますが、弥生賞は皐月賞までのレース間隔もちょうど良いですし王道と言えるでしょう。

もうひとつ関東圏の皐月賞トライアルにはスプリングステークスがあって私の厩舎からもダノンプラチナなどを使いましたが、こちらへ進む馬は、最終的にダービーというよりはマイル路線も視野に入れるようなタイプというイメージです。

——先生は弥生賞を過去2勝されています。まず最初の勝利はカミノタサハラでした。

国:カミノタサハラは、ディープ産駒にしては体が立派な馬でね、春の最大目標はダービーかなと考えていました。あのときはキズナやエピファネイア、コディーノといった良いメンバーが揃っていましたし、フットワークが大きくて中山コースは向かないかなとも思っていましたが、それでも勝てたのはウッチー(内田博騎手)の勝負根性でしょうね。あれはウッチーだから勝てた、というレースです。

★

——もうひとつはサトノフラッグです。

国:サトノフラッグもカミノタサハラと同じで、ディープ産駒にしては肉付きが良くて、軽さがどうかな?というイメージの馬でした。デビュー戦はもっと動けるかなと思っていたけど案外で、マーフィーが乗ってから目覚めた感じです。

それでもまだシャープさに欠ける感じだったので、弥生賞のときも半信半疑の面はありました。決して重馬場が得意というタイプではなかったですし、勝てたのは武さんの好騎乗があったからだと思います。

——どちらもジョッキーのおかげという感じですね(笑)。

国:私はレース前に馬の特徴くらいは乗り役に伝えますが、どういう乗り方をするかはお任せなので勝ったら騎手のおかげなんですよ(笑)。

この年からレース名が報知杯弥生賞ディープインパクト記念になって、そのタイミングでウチのディープ産駒に武さんが乗ってくれるということで楽しみにしていましたから、その期待通りになって良かったです。道中スーッと上がっていく勝ち方も良かったのでクラシックでも何とかなるかな、と思いましたが、この年はコントレイルがいました。

——三冠馬が同期に。弥生賞に限らず、先生がこの時期の3歳クラシックトライアルに向けた調整で気を付けている点があれば教えてください。

国:クラシックへ出走するには賞金を加算したり出走権利が必要なので、ある程度人間の要望に合わせてやっていかないといけない部分はありますよね。そこが自分は甘いかな、と。

——甘い、というと。

国:「まだ馬が出来ていないから」とか「クラシックに間に合ったらいいな」というペースで調整しているうちに、結果的にクラシックへ間に合わなくなってしまったり。クラシックを取ろうと思ったら押していかないといけない面もあるのかな、と思います。ただ、そういう気持ちで臨んだのがカミノタサハラだったんですけど…。

——そうなんですね。

国:最大目標はダービーだけど、弥生賞を勝ったので次は皐月賞ということになるなと臨んだらそこで故障してしまって…。

もちろん無理をして使った訳ではないし状態も問題なかったですが、弥生賞で負かしたキズナが皐月賞を使わず別ルートでダービーを勝ったのを見ると、あそこで皐月賞を使わなければとか、違うローテーションならどうだったんだろうとか、タラレバをいろいろ考えますよね。難しいところだけど、人間の要望と馬の状態のバランスが上手く取れれば、と思いますよ。