
競馬YouTuberとして一躍名を挙げ、各媒体に引っ張りだこの佐藤ワタルが、地方&海外レースを展望。若くして人並み外れた知識量、分析力を披露する。
【日本ダービー】オークス圧勝のルメール騎手も「今年は分からない」名勝負の予感
2018/5/24(木)

オークスはアーモンドアイが制覇
競馬場グルメを楽しみに競馬場へ足を運ぶ……そんなファンも少なくはないだろう。東京競馬場はとにかくレストランや売店の数が豊富で飽きないが、その中でも異彩を放っているのが『検量食堂』である。その名の通り検量室に隣接するこの食堂はファンエリアではないため、報道陣やバレット、調教師といった関係者御用達。とにかくここの『もやしラーメン』が熱過ぎる。この話を書きたいがためにこの前振りを書いたのだが、話の落としどころがよく分からなくなったので本題へ移ろう。
さて、先週5月20日(日)はオークス(G1)が行われた。2歳女王ラッキーライラックの巻き返しか、新星サトノワルキューレの戴冠か……とレース前に話題になっていたことを忘れるくらい、アーモンドアイ(牝3、美浦・国枝厩舎)の強さは際立っていた。それまでスタートで遅れていた馬が、互角のスタートを切ると、なんと道中6番手で追走していたのである。そして6番手から繰り出した上がり3Fタイムは33.2。東京芝2400mのGIで上がり33.2秒以内の末脚を駆使した牝馬は、ウオッカ、ジェンティルドンナに次いで3頭目。歴史的名牝たちと何一つ遜色のないパフォーマンスを見せてくれた。
同馬の育成に携わったノーザンファーム天栄の木實谷雄太場長は1週間前、「右回りのほうがスムーズと言いますか、直線で左手前で走るほうが力を出せるんです」「800mの距離延長はローテーションを組んでいく上でほとんど機会がないのです。対応力が求められますから、距離適性以外のところが問われます」と話していたが、その不安をまったく感じさせない圧勝ぶりに検量室前で木實谷場長も笑顔を浮かべていた。
「ごっつぁんです!」。そう言いながら勝利騎手インタビュースペースにやってきたのは、騎乗したC.ルメール騎手。先日話した際「オークスがとても楽しみです!」と言っていた彼も「スゴい!」「強い!」を連発していた。フランスオークスなどGIを5勝したディヴァインプロポーションズを始めとする数々の名牝に騎乗してきたフランスの名手にとっても、その強さは衝撃だったようで「この馬で勝つ自信はありました。特別な牝馬です。ポテンシャルは高いですし、海外にも行けると思います」と、夢は更に広がったようだった。
そのあまりの強さに2着リリーノーブルに騎乗した川田将雅騎手も「今日は(リリーノーブルは)本当にいい状態でした。全力で頑張ってくれましたが、勝ち馬が強かったです」と苦笑するしかなかった。
対して悔しそうな表情を浮かべていたのは3着ラッキーライラックに騎乗した石橋脩騎手。「道中は折り合いに専念して乗りました。4コーナーで後ろを見たら、白いシャドーロールが見えて……。アーモンドアイがもうこんなところにいるのかと驚きました。直線は馬場のいいところを選んで走れましたし、頑張ってくれているのですが……」と愛馬を称えつつも悔しさが入り混じる表情で引き上げていった。登録していた凱旋門賞も出走せず、秋は国内に専念するという。
同じく凱旋門賞を断念し、秋は国内に専念することを示唆したのは、6着に終わったサトノワルキューレを管理する角居勝彦調教師である。「一線級とやっていなかったからか…時計的なものではないと思うのですけどね」と首を捻る。これまでロングスパート勝負で高いパフォーマンスを見せてきた同馬にとって、上がり2F勝負になってしまったのは痛かっただろう。秋の巻き返しが期待される。
●出走するだけでも難しいダービーさて、今週5月27日(日)は競馬の祭典・日本ダービー(G1)が行われる。「来週の日本ダービーにアーモンドアイが出ていたら勝っていたか?」という質問に、ルメール騎手が「今年は分からないです…」と笑ったように、オークス以上の好メンバーが揃った。頓挫明けのダノンプレミアム(牡3、栗東・中内田厩舎)が強さを見せつけるのか、新星ブラストワンピース(牡3、美浦・大竹厩舎)の無敗戴冠か、皐月賞馬エポカドーロ(牡3、栗東・藤原英厩舎)の二冠達成か……。毎年そうだが、ダービーウィークはいつも以上に胸が躍る。
2015年の生産馬6955頭の頂点を決めるこの一戦。その直前に素質馬・オブセッションの訃報が入ってきた。アーモンドアイと同じシルクホースクラブのエース格として期待が掛けられていたが、喉の手術の合併症で発症した大腸炎により、惜しくもこの世を去ることになってしまった。ただただ合掌するばかりである。
どの関係者も言う。「出走するだけでも難しいのが日本ダービー。そもそもレースに無事出走するだけでも難しい」。今年も馬たちに感謝の気持ちを持ちながら、競馬の祭典を楽しみたいものである。
▼佐藤ワタルの予想動画「内ラチの上を走れ!」▼
プロフィール
佐藤ワタル - Wataru Sato
1990年山形県生まれ。アグネスフライトの日本ダービーを偶然テレビで観戦して以降、中学生、高校生、大学生と勉学に勤しむ時期を全て競馬に費やした競馬ライター。『365日競馬する』を目標に中央、地方、海外競馬の研究を重ねている。ジャンルを問わない知識は、一部関係者に『コンビニ』とまで評されている。早稲田大学競馬サークル『お馬の会』会長時代に学生競馬団体『うまカレ』を立ち上げたり、北海道の牧場などに足繁く通うなど、若手らしい行動力を武器に、今日も競馬を様々な角度から楽しみ尽くしている。現在はサラブレ、一口クラブ会報などでも執筆中。血統派で大の阪神ファン。甘党でもある。