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角田晃一調教師

ファンタジーSは周囲の「1ハロン長い」という4番人気に反発しての逃げ切り勝ち。最重要トライアルを制しただけに、当然、次走は阪神ジュベナイルFかと思われたが、陣営が選択したのは、まさかの朝日杯フューチュリティS。牡馬相手の2歳G1で頂を目指す運びとなった。武豊騎手の全場G1制覇と合わせて興味はつきないが、自身も騎手時代にフジキセキという名馬で当レースを制したことがある角田晃一調教師に、決断の経緯を直撃した。

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枠順確定後・角田晃一調教師のコメントはコチラ⇒


最終追い切り後・角田晃一調教師の一問一答はコチラ⇒


最終追い切り後・武豊騎手の一問一答はコチラ⇒



牡馬相手のG1を選択した理由

-:ベルカント(牝2、栗東・角田厩舎)について、よろしくお願い致します。まずファンの皆さんも気にしているのは、牝馬が朝日杯FSに挑戦するということ。無くはないプランとは思いますが、そのあたりの戦略的な部分をご説明いただけますか。

角田晃一調教師:「一連の」と言ったら変だけど、デビューからファンタジーSまで3戦して、色々と修正するところもあるし、前走でも、距離に不安な面や、京都の外回り、という課題もあって、それをこなしてくれたので、G1に向けて行くというのは、そこで決めました。普通だったら「ジョッキーも豊さんで、ジュベナイル」というところですが、次の週になって、“出すのだったら、やっぱり勝ちたい。勝つ確率があるのはどちらかな”とっていうことになりまして。

それだけじゃ安易な考えなんですけど、あの馬の気性や、あとは中山と阪神のコース形態も全然違う。スタートも速い馬なので、そのアドバンテージを活かすのだったら、やっぱり中山の方がいいし、どうしてもシュミレーションすると、阪神の逃げ切りはキツいなと。仮にベルカント自身、折り合いがついたとしても、他の馬が掛かってくる可能性があるし、そうなると最後の長い直線、阪神の坂をクリアするのは厳しいですよね……。1600はまだ走ったこともないわけだし、それらを踏まえると、“やっぱり中山のほうがいいかな”という判断です。



「阪神のG1外回りで1600を逃げ切った馬なんて、恐らくいないと思うんですよ。旧阪神の時だったら、迷わずそっちにいってるでしょう」


-:牝馬とか牡馬ということを抜きにして、ベルカントの特徴を分析した結果、トータルで考えたら、中山で走らせたいということですね。

角:勝つ確率が高いのだったら、チャンスが有るのであれば、ね。阪神のG1外回りで1600を逃げ切った馬なんて、恐らくいないと思うんですよ。

-:それはジョッキーとして乗ってらっしゃった感覚でも、差す馬のほうがいいわけですね。

角:やっぱりよりいいですし、旧阪神の時だったら、迷わずそっちにいってるでしょう。輸送とかのリスクもないわけですし。

逃げた重賞の内容をどう見る!?

-:小倉2歳Sを振り返ると、あの時の馬場状態がちょっと悪かったじゃないですか。ベルカントが7枠12番からスタートして、4コーナーを回る時にけっこう内の悪いところを避けて、馬場の真ん中から抜けてきた、というのも印象的だったんです。

角:外に行ったのかササッたのか、そこも曖昧なところがあって、ちょっと悪い面を見せていました。返し馬からキャンターに行かず、人が下で引っ張って行こうと思ったら、もうぐしゃぐしゃになってしまったので。もともと右に行く癖などもあったんですけど、ゲートを出て、内の馬を抜かして先頭に立った瞬間、ちょっと右にグッと、バカつくわけじゃないけど、そういう面も見られましたね。ビデオを見たら、やっぱりササッていましたし、直線を向いたら、今度は内から外に行っていたので、“あらっ?”と思ったんですけど。

-:あれは馬場のいいところを選んで行ったんじゃなく……。

角:本当は豊さんに聞かないとダメなんですけど、負けたレースですからね。それでも、また差し返してきてるようにも見えて、最低限の2着は確保してくれたので。

-:しかも、勝った馬はコースロスの無い内を通っていましたね。

角:でも、コースロスが無いと言っても、やっぱり馬場が悪いというのもあるので、それは言い訳に過ぎないんです。勝った馬も結局、そのあとに連勝しているくらいで、やっぱり強かったんだな、というのは正直なところです。

-:その後、ベルカント自身もファンタジーSに駒を進めるわけなんですけども、この時にメンコを付けてきましたね。

角:もともとメンコはしたりしてたんですけど、競馬ではいらないかと。“テンションが高くならないように”と思いましたし、豊さんも「メンコをした方がいいんじゃないか」と言っていたので。まあ普段からしているので、そこは馬も戸惑いはなかったんです。あとは口向きの悪さ、敏感なところもあるので、そこら辺を考慮してリングハミに変えています。


-:その効果が見事に出たと。

角:それだけじゃないんでしょうけど、馬の状態も良かったんでしょうね。夏の小倉2歳Sが終わって、すぐ大山(ヒルズ)に放牧出して、良い休養期間でリラックスして帰ってきてくれたので。

-:パドックで、ファンタジーSのパドックを見させて頂いて、馬の形自体は、そんなにトモの彫りが深くなく見えました。どちらかと言うと、スピードを活かしてワンペース気味で押し切る馬の体型でしょうか?

角:体型よりは気がすごく勝っている馬です。初戦や、小倉2歳Sの時のように1200の絶対的なスピードは、あの馬の持って生まれたものなので、新馬から自信はあったんです。それが今度ファンタジーSとなると、1ハロン延びるし、外回りというのもあるから、そこら辺もちょっと他馬との兼ね合いもあれば、どうなるかわからない、というところが不安な点と言うか。状態も休み明けとしたら悪くないデキだけど、そこら辺がちょっと“クエスチョンマーク”というか。

-:中山の1600になるというのは、単純に1ハロン延びるだけじゃなく。

角:さらに、坂もあるからね。

-:坂もありますし、京都は平坦で馬場もある程度良とていう、先行馬にとっては願ってもないコース形態から、今度、差し馬でも台頭できる舞台に替わるわけです。

角:でも、2歳のうちは、もうG1がそこしかないからね。

父母ともに縁がある血統

-:サクラバクシンオーが、このベルカントのお父さんですけどれも、バクシンオー自体は先生がノースフライトのライバルとして戦ったわけで、思い出や、エピソードなど、バクシンオーの記憶はありますか?

角:と言っても、ノースフライトで乗って戦っただけなので。1200は一緒に走ったことないし、1400で一緒に走ったことあるんですけれど、もう向こうが強いな、というお手上げな感じ。やっぱり、マイルはマイルでスペシャリストもいるので。ただ、お母さんのセレブラールもすごく気性の勝った馬でした。

-:お母さんとお父さんの気性の勝った部分が、この馬の長所なんですね。

角:やっぱりスピードの絶対値が違うので。ただ、“どうなるんだろう?”というのは、正直なところです。距離が保ってくれるのを、もちろん願っているし、G1だからと言って、加減するような調教もしてない。逆に増やして、坂路も2本乗ったり、良い負荷もかかって、今週もいい動きをしていたと思います。

-:それだけ強められるということは餌も食べられる馬と。

角:もちろん。だからあんまり女馬と思わずにやってるので。あとは枠順ですか。輸送に関しては、小倉に2度行って、逆にプラスになってるくらいなので。ただ1600はちょっと未知な部分ですね……。この前もいい意味で期待を裏切ってくれて、強い勝ち方というか、完勝してくれましたよね。2着馬など、結局、後ろから来た馬ばかりだったので、それを考えたら1600でも、と思うけど、やっぱり不安もあります。


-:あと中山のマイルに関しては、朝日杯と言ったらフジキセキで先生も勝ったことがあるレースで。

角:まあジュベナイル(95年ビワハイジ)も勝ってるんだけど。

-:両方勝っていますけれど、朝日杯の枠順に関してですね、乗られた経験から有利不利があったら教えてもらっていいですか。

角:それは内枠のほうが有利でしょう。フジキセキの時は1枠1番で、あんまり上手く乗れてなかったけど、馬の能力で勝ったようなものです。ずーっと引っ掛かってたもんね。そういう強い、化け物みたいな馬もいたし、ベルカントも牡馬の中に1頭だけね、混じって走るんですけども。

-:牡馬が気にするかもしれませんね。パドックで牝馬の匂いなどを。

角:かも知れないね。

-:それもちょっとファンにとったら悩ましい。

角:まあね。あとはいい時はいい枠も引くもんですし。

-:2、3番手にある程度の有力馬の一頭が入ってくれて、ベルカントをブロックしてくれて、ある程度フリーで。

角:フリーのほうがそれはいいとは思います。あとはゲートを切ったら、豊さんに任せるだけなので。

-:先生としたら真ん中よりちょっと内目が理想ですか?

角:いや、一番内で。それは言っておかないと、ずっと。「1枠、1番がベスト」と。コース形態は最初、ちょっと上りじゃないかな? 3コーナーくらいから、ちょっとじわっと下ってる感じで、2000mとか、内回りと外回りのコースが、ちょうど繋がるあたりが、馬場も悪くなるので、やっぱりそこで馬場が悪いと、脚を取られたりして、バランス崩す馬もいるし。それに関しても、問題はないと思いますよ。

ベルカントの角田晃一調教師インタビュー(後半)
「当日の馬場状態には一切不安なし」はコチラ→

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史上初の全G1制覇へ!武豊騎手の朝日杯FS通算成績
馬名 人気・着
12年 ティーハーフ 6人気5着
08年 ブレイクランアウト 1人気3着
07年 ヤマニンキングリー 5人気7着
05年 ダイヤモンドヘッド 4人気5着
04年 マイネルハーティー 7人気4着
03年 グレイトジャーニー 2人気7着
02年 サイレントディール 3人気8着
99年 マチカネホクシン 3人気3着
98年 エイシンキャメロン 2人気2着
97年 アグネスワールド 3人気4着
96年 ランニングゲイル 5人気4着
95年 エイシンガイモン 2人気2着
94年 スキーキャプテン 2人気2着
朝日杯FSには過去13回の挑戦で(0-3-2-8)。最高着順は94年スキーキャプテン、95年エイシンガイモン、98年エイシンキャメロンの2着。
武豊騎手自身、初の参戦となった94年の勝ち馬は、角田晃一騎手(当時)騎乗のフジキセキ。今回はタッグを組んで朝日杯制覇を狙う!


【角田 晃一】 Koichi Tsunoda

1970年鳥取県出身。
2010年に調教師免許を取得。
2011年に厩舎開業。
JRA通算成績は46勝(13/12/07現在)
初出走
11年3月5日 1回阪神3日目1R サイキョウファスト(11着)
初勝利
11年4月24日 1回新潟2日目7R ロックンロール
重賞初勝利
13年11月9日 5回京都3日目11R ファンタジーS ベルカント


栗東の渡辺栄厩舎所属として騎手デビュー。89年のデビューイヤーに43勝を挙げ、同年のJRA賞で最多勝利新人騎手として表彰されると、翌年のエプソムC(サマンサトウショウ)で重賞初勝利。3年目には桜花賞(シスタートウショウ)で初G1制覇。
その後もジャングルポケットでダービーを制覇など、ヒシミラクル、フジキセキ、ノースフライトなど、幾多の名馬と共にG1通算10勝をマーク。JRA通算8322戦713勝を挙げ、一時代を築いた。
2010年2月一杯をもって騎手を引退すると、中竹和也厩舎に技術調教師として所属。2011年3月から厩舎を開業。今秋のファンタジーSをベルカントで制し、調教師として重賞初制覇。勇躍、G1獲りに挑む。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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