
「一級品」の最大の惑星 サトノアラジンが逆襲の秋へ
2014/9/21(日)
輝きを取り戻して一線級にカムバック
-:サトノアラジン(牡3、栗東・池江寿厩舎)はデビュー時からトーセンスターダム、トゥザワールドにヒケを取らないほど評価の高かった馬で、ラジオNIKKEI杯2歳S、共同通信杯と人気になったものの、勝つのは7月の中京まで待たなければいけませんでしたね。
兼武弘調教助手:2勝目を挙げるまでは長かったですね。
-:ちょっと足踏みしてしまった訳ですが、中京の茶臼山高原特別と小倉の九州スポーツ杯と、2000mで危なげないレースをしてくれました。
兼:結果、圧勝という感じですね。競馬になると、気持ちが表に出るとか、ちょっと行きたがる面を見せますが、上手くジョッキーが乗ってくれて圧勝ですよね。
-:デビュー時から調教は滅法動いていて、血統的な背景だけじゃなくて、調教の動きからも人気になっていた馬なのですが、跳びが大きい分、体を伸ばしたり縮めたりする動きからすると、調教よりもレースの時の方がやっぱり激しい運動になるじゃないですか。その分、レースでの詰めの甘さが出ていたのが惜敗の原因だったのかと思うのですが?
兼:脚の使いどころの難しさが多少なりともありますし、春を観ていても、意外と競馬が難しい面はありますよね。

-:結果的に、3着になったラジオNIKKEI杯2歳Sのように、戸崎さんは溜めておいてハジけるというテーマを、恐らく持って乗られていたと思うのですが、そういう形が嵌まりそうなニオイのする馬ですよね。
兼:ある程度、前走は前になりました。思っているよりも、そういう競馬の方が個人的には良いんじゃないかと。見た目は溜める方が良いように見えるかもしれないですが、僕はある程度、前めで、ポジションを取りながら競馬をする方が良いんじゃないかと思っていますね。
-:意見は分かれましたが、本命馬のサトノアラジンが良い位置で競馬をするのは常識的な考えではありますよね。2歳時に走っていたクラスに、夏を経てカムバックしてきたというとこで、夏の疲れはそれ程、気にしなくて良いでしょうか?
兼:前走勝った後、放牧に出たのですが、もちろん牧場の方でもシッカリと疲れを取りながら調整を進めていくという感じでやっていただいていましたし、こっちに帰ってきてからも、引き続き疲れという点には気を払いながら進めてきました。先週はCWを単走でちょっと軽く流した程度でしたが、今週はビッシリやりましたし、抜群の動きでしたね。これを見ている感じでは大丈夫そうかなと。
「勝つということが大事ですからね。自信が付きますしね。精神面でのプラスというのはあると思います」
-:ただ、これまでも抜群の動きだったので、調教だけではどこまで良くなったのか、逆に分からない部分もあります。
兼:確かに分かり辛いところはありますよね、この馬は。
-:馬体的には500キロを超える大型馬になりますが、夏の2連勝を経て、本格化に近付いた手応えは感じますか?
兼:500万、1000万を連勝してシッカリ勝つということが、この馬にとっては精神的にプラスに働くと思うので、それは次に繋がっていくことだと思いますし、上のクラスで戦うことになっても重要なことになってきます。もともと走っていた馬たちと一緒にやる訳ですからね。
-:実際、古馬に勝っている訳ですからね。
兼:その通りです。勝つということが大事ですからね。自信が付きますしね。精神面でのプラスというのはあると思います。
-:この馬がクラシック路線で最大の上り馬ですね。
兼:そうですね。そう思ってますよ。

距離延長にあたってのテーマは折り合い
-:トーセンスターダムという実績馬と、上り調子のこの馬と、トゥザワールドの3頭というのは相当強力なものですよね。
兼:春もこの3頭で、と思っていましたけどね。アラジンはちょっと上手いこといかなかったですが、期待通りに夏に結果を出してくれて、秋に弾みを付けてくれたので、大いに期待してもらって良いと思います。
-:ここをステップとして菊花賞まで突き進みますか?
兼:そうです。そんな感じです。
-:馬体重的に長距離を走る馬というのは、あまり大きくない印象があると思うんです。むしろ、痩せた軽い馬の方が長距離をこなすイメージがあるのですが、アラジンにとって距離延長はどうでしょうか?
兼:折り合い次第ですね。テーマとしてはそこがシッカリ付けられるようになれば、長い距離だってこなせるんじゃないかと思っています。
「僕は一級品の切れというよりは、どちらかと言えば長く持続した良い脚というイメージかなと。もちろん切れ味はありますけどね」
-:道中のコントロール性というのはどうですか?
兼:前走は結構テンで行きたがっていましたね。上手いこと抑えてくれましたし、ジョッキーも2度目となったら分かるでしょうしね。まあ、操作しにくい訳ではないと思いますが、幾分行きたがる、ファイトしちゃうという。そこをどう収めていくか、ですね。
-:やっぱり出していって収めようとすると、ちょっとハミを噛む危険性があると。そうなると、やっぱりフワッと出て後ろからポジションに拘らずに、終いの脚に懸けるという選択肢もありますよね。
兼:引っ掛からずに乗ろうと思ったら、それが一番良いと思いますね。それでズバッと嵌まれば、それはもちろん良いかもしれないですよね。僕は一級品の切れというよりは、どちらかと言えば長く持続した良い脚というイメージかなと。もちろん切れ味はありますけどね。長く良い脚を使えるイメージがあるのでね。
-:この馬の将来像と言ったら、やっぱり中距離路線ですか?
兼:それくらいの路線になるでしょうね。
-:まだまだ奥があるでしょうね。
兼:馬が自信を付けたというのもあるのでしょうが、逞しく見えるかな、というところですかね。
-:ディープインパクト産駒と言えば、蹄とか脚元に問題を抱えている馬とかもいて、順調に使い続ける馬というのは意外に難しいものだと思います。サトノアラジンに関しては、脚元の強さはいかがですか?
兼:特に心配してないですね。脚元も蹄も特に問題ないですしね。

惚れ惚れするシルエットをパドックで
-:小倉、中京と走っているから坂は全然問題ないと思いますが、右、左も関係ありません。馬の良さをどうやって活かすか、というところが課題ですね。
兼:素晴らしいシルエットですからね。動きも綺麗な跳びをしますしね。
-:それをちゃんと1着でゴールまで持って来れるかということですね。
兼:良い競馬をして欲しいですね。2頭使うことになりますが、両方とも良い競馬で、良い結果を期待していますよ。
-:菊花賞は楽しみになりますが、キズナやアユサンらと配合は似ていますね。ディープインパクト×Storm Catで。
兼:初めはマイルちゃうかな、という気はしていたのですが、あの競馬を観て、これは折り合いさえ付けば大丈夫、という感じはしているのです。2000mを続けて使いましたが、折り合いひとつでこれはどうにでもなるぞ、と自信を持って言えます。距離が延びますけが、心配はしていません。
-:春活躍できなかった分、ファンに向けてのメッセージをお願いします。
兼:春は運悪く、ああいう結果になってしまいましたが、夏に連勝して馬も上昇ムードを辿っていますし、ちょっと逞しくも見えてきました。今回、変わったサトノアラジンを見ていただきたいと思います。
-:惚れ惚れするパドックを期待しています。
兼:素晴らしい体なので、ぜひ競馬場で見て下さい。ありがとうございました。
プロフィール
【兼武 弘】 Hiroshi Kanetake
滋賀県出身。1983年3月6日生まれ。初めて観戦した競馬はダンスインザダークが勝った菊花賞。中学生の時に競馬好きの知り合いが多かったため、影響を受けてこの世界に入る。高校の卒業を待たずして、北海道の千歳国際牧場で修行。その後は滋賀の湘南牧場、トレセン近郊のグリーンウッドに勤め競馬学校に入学。卒業後、池江厩舎に所属。持ち乗り(エアラフォンやバトードールを担当)を経て攻め専の調教助手に。モットーは「馬1頭ずつ個々の個性を大切にする」こと。目標は「厩舎全体のことを把握できるように頑張る」こと。業界一といっても過言ではないビッグステーブルのムードメーカー的な存在。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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