ハープスターと3度目の対戦だったオークスで、単勝1.3倍のライバルを尻目にヒール役を演じて見せたヌーヴォレコルト。秋緒戦のローズSもややフロック視された2番人気だったが、スタートからゴールまで危なげのない完勝で、秋はこの路線が1強であることを印象づけた。その後は栗東に滞在し、傍目には非の打ちどころがない臨戦過程。牝馬2冠制覇を狙う指揮官・斎藤誠調教師に、大一番に向けての手応えを聞かせてもらった。

ローズS後は栗東滞在で最終調整

-:秋華賞に向かうヌーヴォレコルト(牝3、美浦・斎藤誠厩舎)のお話を伺います。ローズSを使ってからは、栗東に入厩されています。その狙いを教えて下さい。

斎藤誠調教師:春先のチューリップ賞と桜花賞を使った時は直前輸送で、438キロでの競馬ができましたが、秋のローズSから秋華賞は、オークスが終わった後にオーナーから「ここは絶対だよ」と言われました。そこを見据えると、間が1ヶ月で、2着・3着と結果が出ていたとは思うのですが、リスクを減らして勝利に近づけるために、輸送がない方が良いと思い、滞在させました。春も滞在しようと思っていたのですが、帯同馬がいなくなってしまいました。今回は同じオーナーの妹馬を帯同馬として使っていい、と言われたので、非常に良い滞在になっています。

-:姉妹で栗東にいるのですね。

斎:美浦では個人の空間として使わせるために馬房を閉めているのですが、こっちでは静かな環境で2頭しか入っていないので、顔を見合わせるように開いていて、ヌーヴォがいなくなると2歳の方が寂しくて回ってしまうくらいです。帰って顔を見ると、お互いが安心する感じで、これは良い環境だなと思います。

斎藤誠調教師

-:ローズS前のヌーヴォレコルトの馬体の成長を、僕ら(関西のマスコミ)は立ち写真でしか見られないのですが、正直、それほどの成長をしているようには見えなかったです。

斎:成長はしているのでしょうが、数字的には表れなかったですね。牧場にいる時は460くらいあって、そこから乗り込んで、輸送をかけて、厩舎にきた時には440くらいでした。460の時の体を見ているので、数字的には成長していないんじゃないかと思われますが、十分にリフレッシュできています。

-:440から阪神に運んで438ということは、ちょっと回復させてから輸送できたということですね。馬体の傾向を見ても、栗東の滞在というのはプラスに働きそうですね。

斎:栗東から京都というのは、美浦からオークスを使う時よりも近い距離ですよね。かなりリスクは減ると思います。この滞在は本当に良い滞在だと思います。

斎藤誠調教師

-:同世代に圧倒的な人気馬のハープスターというのがいて、オークスの直線でも迫ってきました。ターフビジョンもハープスター1頭だけになって、カメラマン泣かせでした。

斎:その時にはヌーヴォが抜けちゃっていましたよね。

-:そして、あのレースもヌーヴォレコルトの写真を撮れたカメラマンが少なかったです。異常事態でした。

斎:ああいう絶対人気の馬がいましたので、追い付け追い越せでした。辛勝でしたが、こちらとしたら完勝といえる形だったので、勝てたのは良かったです。立ち回りが上手く、競馬の自在さがある、凄く賢い子です。オンとオフもはっきりしていますし、何も手が掛からない子です。

-:クラシックのG1ですからね。遅ればせながらおめでとうございます。

斎:有り難うございます(笑)。

-:正直、ヒールみたいな扱われ方でしたよね。

斎:あの時は完全にヒールでした。競馬場もどよめいていて、「空気読めよ」みたいな感じでした。

当初から距離が延びて良くなる予感

-:関西の人間は、レースでのヌーヴォレコルトは映像で見ているのですが、普段の仕草や性格はあまり知らないです。普段のヌーヴォレコルトがどんな様子なのか教えて頂けませんか?

斎:僕が見ていると、大人しくて人に従順です。鞍をつけて人を乗っけている姿しか見ないのですが、厩務員や助手に言わせると、けっこうヤンチャみたいです。頭の良い子なのでしょうね。無駄な動きをあまりしないですし、厩にいる時と、外に出た時と、馬場で走る時と、オンとオフがはっきりしています。飼葉も食べますし、飼葉を食べることが調教できることにつながりますので、女の子には大きいことです。

-:体だけ見ると、あんまり食べないタイプに思えますね。

斎:飼葉は食べてくれるのです。鞍を外してみると、条件馬と変わらないような感じに映るのですが、けっこう心臓が良いんですね。

-:それはデビュー前から先生自身が見抜かれていたのですか?

斎:中京(こうきやま賞)を勝ったあたりから意識しました。先を見据えて中京まで行ってみましょう、ということをオーナーに進言して、勝つことができました。その時も輸送をクリアできて、先行して勝たたんです。2番手からの競馬ができたので、これは良いところまでいけるんじゃないかと思って、王道のチューリップ賞に行きました。


「距離が延びてから持ち味が生きるんじゃないかとは思っていました。距離が延びた方が良いし、絶対人気のハープスターがああいう体で、ああいう競馬なので、こちらにも分が有るんじゃないかと思っていました」


-:こうやまき賞で手応えを感じたからこそ、チューリップ賞に駒を進めたのですね。チューリップ賞の2着で、より可能性が広がり、王道の王道になったのですね。

斎:秋も王道で、ローズSからということになりました。

-:デビューからずっとマイルを使われて、桜花賞も3着という結果でした。そこからオークスへは、距離が800m延びたのですが、そこへの適性は感じられていましたか?

斎:距離が延びてから持ち味が生きるんじゃないかとは思っていました。マイルだと、ハープスターを代表にして、体に恵まれている子のスピードにひけをとると思います。距離が延びれば、ああいう体型の仔でもね。喩えれば、マラソンランナーって、そんなに体がないじゃないですか。それと近いものがあると思うので、距離が延びた方が良いし、絶対人気のハープスターがああいう体で、ああいう競馬なので、こちらにも分が有るんじゃないかと思っていました。親しい記者さんには、桜花賞の前に、桜花賞よりオークスの方が負かしやすいかも知れない、と言っていたんです。

-:是非、レース前にカメラマンにも伝えておいて欲しかったです(笑)。

斎:あそこまで迫ってくるんだから、能力は高いですよね(笑)。

-:ヌーヴォレコルトもハーツクライ産駒ですが、ジャスタウェイやウインバリアシオン、ワンアンドオンリーなども、最初はそんなにムキムキした感じじゃなかったです。年齢を重ねて成長していくと筋肉が1枚、2枚乗ってくるというのが特徴で、それが古馬になってから奥深さが出てくるところだと思います。ヌーヴォレコルトも次のステップの体に変わる時期がくるでしょうね。

斎:今日(10/9)の動きを見ていても、自分からハミを取って、ゴーサインを出したらシュッと抜けるような瞬発力がついています。筋肉がしっかりしてないと出てこないことなので、それが出てきているというのは、筋肉も成長しているのかなと思います。美浦にいる頃は、走るんだけど、瞬発力よりも持久力のタイプ、だと思っていました。ローズSを見る限り、前につけて、突き放すという、瞬発力タイプですよね。33秒台の脚をコンスタントに使えるようになってきたのは大きいかなと思います。

ヌーヴォレコルト・斎藤誠調教師インタビュー(後半)
「春の立場とは一転して大本命に」はコチラ⇒

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