世代の頂点窺うシャイニングレイ 皐月賞の舞台で連勝へ
2015/2/28(土)
本番を見据えつつも勝ちに行く弥生賞
-:今回の弥生賞で先生が見たいものは何ですか?
高:この次は皐月賞で、コースも距離も同じなので、“プレ本番”という位置付けです。前走も弥生賞同様G2ですが、前走よりは格段にメンバーが強くなります。このメンバーに入って、どこまで良いレースをできるか、というところがポイントですね。要は他の馬との能力の比較になってくると思います。それでも、もちろん勝ちに行きますよ!
-:お母さんのシェルズレイもチューリップ賞に挑戦して2着で、その後もクラシックに駒を進めました。同じような時期に息子も弥生賞に挑戦するという競馬ならではのドラマですね。走るお母さんで走る息子が出てくるというのは、なかなかない話じゃないですか。ビッグネームのお母さんが全部走るかと言ったら、そうではないのが競馬であると思います。
高:そうですね。シェルズレイの一族はまだ重賞を勝ったことがなかったので、そういう意味では元牧場出身者、松田国英厩舎出身者としては嬉しかったですね。これでやっと、あの一族にようやくブラックタイプが付けられたなと。
-:シェルズレイの血統を見ていると、トウショウボーイが入っていますね。トウショウボーイ×トニービンで僕ら昔からのファンからすると、トウショウボーイの血が入ると2000mを超えると距離的な不安があるのではないかと疑ってしまいます。
高:しかし、(シェルズレイの弟の)ブラックシェルはダービーで3着などの実績通り、距離は持つ血筋ですよ。まったく問題ないのではないでしょうか。
-:走り方に関しては、やや首を高く保って、あまり首を使わないフォームだと思います。この辺りはお母さんのシェルズレイを彷彿とさせますね。
高:そういう部分は遺伝しているのかと感じますね。しかし、決して頭が高いから走らないという道理は、一つもない訳ですからね。
-:ジョッキーらの話では「背中をちゃんと使えたら良いんだ」という話ですからね。
高:普通、馬のフォームは遅めのキャンターなどのフォーム改善はできるのですが、ギャロップ(襲歩)になると、馬の持っているモノが全面に出てくるので、そこのフォーム改善というのはなかなかできないのです。それに耐えうる肉体をつくるという意味では、普通キャンターでの色々な矯正は必要だと思いますが……。
尊敬の対象であるG1馬を意識できる器
-:改めてシャイニングレイの一番の強味は、ホープフルSを勝ったことでゆったりとしたローテーションでクラシックに向えることですよね。
高:それは強味だと思います。正直、レースに使わなくともダービーに出られるくらいの賞金を持たせてもらっているので、これは大きいですね。先ほど申しました通り、今後は成長度というのが課題だと思っています。他の馬もこの時期ドンドン成長するので、これからはそこが勝負の時期になるだろうなと思います。
-:我々ファンにとって競走馬の成長を見極めるのは非常に難しいことです。成績や上がり時計、調教時計では見えないところなので、成長に伴う上げ幅を注意しておかないといけませんね。
高:本当にそうなんですよ。先ほどの話にも繋がりますが、やってみないとわからない不確定要素がつきものなので競走馬の世界は難しいんですよ。
-:我々は馬の細かい動作に注目しながら、各馬の変化に気づけたらいいですが……。
高:そうですね。僕らは管理しているの馬だけしか見えないものですが、競馬ファンは多くの馬と比較して見ないといけないので難しいですよね(笑)。
「G1を勝つというのは、大変確率が低い出来事なのです。この馬がG1を勝てたならばより一層、みなさまに尊敬の対象にしてほしいと思います」
-:関係者の方は、歯を削る時の硬さで「前より硬くなってきたな」など変化を感じられますが、僕らは単純に歩いていたり、走っていたりするのを見てチェックしないといけないから、ほとんど分からないところです。
高:本当に難しいと思いますよ。日々ずっと見ている僕らでも、やってみないと分からないという言葉がある世界ですから。だからこそ何百年も続いている面白い世界なんじゃないかと思いますね。この前、大久保洋吉先生の記事で、ダート替わりで一変した馬(ベルゲンクライ)の話を拝見しました。「こんなことなら早くダートに下ろしておけば良かった。この歳になっても馬は分からん」と言っていました。大久保先生ほどのキャリアがあっても分からないのだから、それは難しい世界だと痛感しました。
-:JRAの馬質というのは、世界の中でも相当に高いです。重賞だけではなく、朝、競馬場にポッと行っても、良い馬に出会えるという面では、僕らはきわめて恵まれた環境で競馬を観れているなと思います。
高:これだけ良い血統が導入されたのも、これまで競馬を支えてくださった馬主さん、牧場の方々など先人が心血を注いだ結晶なのです。シャイニングレイのような素晴らしい馬に出会えたのも競馬に携わってこられた諸先輩のお陰だと思っています。
-:その良い馬たちを、僕らは競馬場で楽しんで見ていると。
高:ファンの皆様に、より競馬を楽しんでもらうために、僕らは無事に競馬場に送りだすだけです。今までこうやってお話させてもらいましたが、“無事にお願いします”という思いで一杯です。“馬は脚元が弱い”と言われますが、脚だけじゃないんですよ。腸や胃は弱い、眼の角膜は傷つきやすい、ノドに疾患が出ればプアパフォーマンスになる、心臓はすぐに心房細動になりますし、肺は競走に耐えられない構造なのか、よく肺出血をしてしまうし、本当に弱さと背中合わせなのです。脚以外にもすぐに順調さを欠く生き物なので、“(手を合わせてお願いするように)頼みます”という思いがあります。少しでもそういうトラブルをなくすのが僕らの仕事ですので、とにかく無事に行ってほしいです。
-:そういうご苦労がありながら、いとも簡単そうに重賞を獲ったシャイニングレイの未来は明るいですね。
高:馬の潜在能力も高いですし、デビュー前から関わってきた牧場や育成場の関係者の努力をつないでここまで来ました。ここから先も無事にG1まで辿り着けるよう努力していきます。3歳クラシックの頂点、G1を勝つというのは、大変確率が低い出来事なのです。この馬がG1を勝てたならばより一層、みなさまに尊敬の対象にしてほしいと思います。
-:また先生の面白い話を聞かせて下さい。今回もありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)
1 | 2
プロフィール
【高野 友和】Tomokazu Takano
県下随一の進学校福島高校出身。 帯広畜産大で馬術を学び、ノーザンファーム空港牧場に勤務。その後、JRA競馬学校厩務員過程を経て、2002年7月から松田国英厩舎に所属することに。在籍時に管理していたダイワスカーレット、キングカメハメハ、ダノンシャンティ、ダイワエルシエーロら数多くの名馬に囲まれながら8年間を過ごした。2011年に開業するとわずか3ヶ月で管理馬のエーシンジャッカルがダービーに出走。昨年はショウナンパンドラで念願のG1制覇を達成するなど、今勢いにのる調教師の一人といえる。
1976年福島県出身。
2010年に調教師免許を取得。
2011年に厩舎を開業。
初出走:
11年3月6日 2回小倉4日目1R ホクザンヴィリル
初勝利:
11年3月20日 1回阪神8日目7R エーシンジャッカル
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
■公式Twitter
@aklab0328さんをフォロー