この春、4頭の日本馬が遠征したオーストラリア。そこでは現地を拠点とする一人の日本人ジョッキーがチームJAPANのサポートにまわっていた。その重責を担ったのが、東京競馬場のお膝元・府中市出身の市川雄介騎手だ。JRAの騎手を夢見るも試験に2度失敗。そこで選んだ道はオーストラリアで騎手となること。その夢を叶え、見習い騎手期間に100勝をマーク。現地での幾多の経験を重ねて「良い意味で悩んでいる」という現在の心境を語ってもらった。

見習い期間に100勝をマーク

-:では、オーストラリアでのデビューから振り返っていただきたいと思います。よろしくお願い致します。デビューはいつ頃でしたか?

市川雄介騎手:よろしくお願い致します。騎手デビューは、シドニーのコン・カラカサニス厩舎から2009年の10月ですね。今、騎手になってから5年半ほどですが、フリーとしてやっています。

-:見習期間中に挙げた勝ち星はどれほどでしたか?

市:4年間で108勝ですね。1年目は40鞍ほどしか乗っていないので、1勝に終わりました。

-:しかし、1年目は1勝のみも、残り3年で107勝したということですね。

市:108はフリーになってからの成績も入っています。フリーになってからは3勝くらいしかしていないので、見習期間に100以上は勝ちました。というのも、去年の10月に見習が終わってから、競馬に乗っていたのが3カ月くらいで、その後は一度日本に帰ったり、今回の日本馬のお手伝いなどをしていたのです。

-:こちらは見習が終わった後に、免許試験のような制度はあるのですか?

市:ないですね。そのままです。日本で例えれば、所属騎手からフリーになるような。ですから、今は一般的なフリーのジョッキーです。しかし、所属という括りはないものの、厩舎の主戦といった立場はありますね。

市川雄介

▲若くしてオーストラリアの地に活躍の場を求めた市川雄介騎手


-:見習から「ジョッキー」になって、どういったところが一番変わりますか?

市:減量が付いているのと、あとは騎乗料の差、賞金が入ってくる額も違いますね。見習いの時は騎乗手当と進上金の25%が、ボス(所属厩舎の調教師)の方にいってしまうのでね。

-:普通のジョッキーになれば増えるということですね。

市:そうですね。騎乗手当と進上金の全額が自分に入るので。

-:まだ普通のジョッキーになって日が浅いでしょうが、見習の頃とは違いを感じていますか?

市:シドニーなので、なかなか騎乗機会を掴むのが難しいです。納得もできていないですし、色々と難しい問題もあって……。

-:「難しい問題」とは、具体的にはどういったことですか?

市:見習が終わる6カ月前くらいに所属厩舎が解散して、流れが悪い状態でフリーになってしまったのです。

-:所属厩舎から良い流れでいっていればと。

市:そうですね。そのまま所属厩舎の主戦という感じになったので。

JRAの試験を2度失敗

-:騎手になろうとした経緯を改めて伺いたいと思います。競馬を知ったキッカケから教えてもらえますか?

市:中学生の頃から競馬ゲームを始めて、競馬を見始めて、という流れですね。東京の府中市出身でしたが、子供の頃は競馬場には行けませんでしたので、現場で見ることはなかったです。テレビでは観戦していましたが。

-:競馬ファンになったのをキッカケに、騎手になろうと決心したと。

市:それよりも、中学校2年から乗馬を始めて、乗馬が楽しかったというのが大きいですね。それに、体重は軽くなかったのですが、小柄で痩せ型だったので、それも大きな要因ですね。

-:中学を卒業する頃に騎手試験を受けようと決心したのですか?

市:そうですね。中学を卒業した時にJRAの騎手試験を1回受けて、その時は2次まで行ったのですが、翌年の2回目は1次でスパッと切られてサッパリでした。それが17歳の時ですね。日本の高校には1年だけ行きました。

-:それでも、騎手を諦めきれずオーストラリアに。

市:そういうことですね。北海道の岡田スタッドへ冬休みや夏休みを利用して研修に行っていたのですが、社長の息子さんがこちら(オーストラリア)に研修で来ていて「騎手になるならコッチが良いぞ」という話を聞き、その紹介もあってですね。トレインテックという日本人向けの競馬に関する学校に入りました。

-:トレインテックにはどれくらいいたのですか?

市:学校は1年で卒業しました。

-:見習騎手になるまでの過程はどんなものでしたか?

市:厩舎に所属して下乗りになって、そこから「トライアル」という能力試験に20回ほど乗って、それで師匠がOKと言ったら、見習いとして乗れるようになりますね。

-:となると、師匠次第なのですね。

市:いや、能検に乗った時に、裁決にしっかり乗れているかどうかを評価してもらいます。僕は30回くらいかかりましたね。

市川雄介

-:オーストラリアでデビューした中では、市川騎手は成績が良かった方ですね。

市:というのも、運が良かったということが大きいです。それに、シドニーだったというのもあるので。

-:シドニーの方がチャンスが多いという意味ですか?

市:う~ん、単にシドニーで勝ったから、良いジョッキーに見られるという意味ですかね。

-:とはいえ、見習でなかなか100勝もしないですものね。

市:まあ、所属した厩舎にも恵まれたので。

-:そして、シドニーに来て何年目ですか?

市:シドニー生活は7年目に突入するくらいです。慣れ過ぎたほどですよ(笑)。

-:そんな慣れた生活の中で、息抜き、競馬以外の趣味はありますか?

市:映画鑑賞くらいですかね。こちらのテレビで流れている映画も観ますし、日本の映画も観ますね。インドア派なので、テレビドラマも好きです。外に出る時は出ますが、休日モードの時はあまり外に出たくないですね。

-:一人でいる方が楽しいのですか?

市:いや、一人じゃなくても良いのですが、テレビを観たり、ぼーっとするのが好きです。競馬でずっと外に出ているじゃないですか。やっぱり家に居たくなるというか。しかし、外でワイワイしたい時はしますし、ちょうどバランスよくやっています。

-:家で競馬を観たりもされますよね。

市:競馬は好きなので、日常的に観たりします。最近は特に観ますね。一時期はこちらの競馬が忙しくて、全然日本の競馬を観ている余裕がなかったですが、最近は時間もありますし、日本に行きたいと思ってきたので、観るようにしています。

前哨戦で好走も本番に乗れず悔しい思い

-:オーストラリアのジョッキーの1日の流れを教えていただきたいのですが?

市:乗っている人は週6日、乗っていない人でも週3~4日、毎朝調教に乗って、レースがある日は競馬場まで車で行ったり、ない日は能検に乗ったりですね。レースがなければ午後は特に何もありませんが、ほぼトレーニングをしていますね。

-:攻め馬は何頭くらいするのですか?

市:日によって全然違います。乗っている厩舎によって、1日10頭ほど乗る時もありますし、4~5頭しか乗らない時もあるので、その朝の状況や厩舎にもよりますね。

-:担当馬などは決まっていなくて、師匠の指示にしたがって、ということですか?

市:決まっていないです。毎日乗っている馬や追い切りをする馬は、ある程度は知っている馬ばかりですが。

-:ちなみに、今の市川騎手のお手馬は何頭くらい抱えているのですか?

市:今はいないと思います。というのも、競馬も1カ月半くらい乗っていないので。見習の時に所属していた厩舎の馬はオーナーがOKだった場合は、8割方乗せてもらっていました。厩舎の主戦に近い形で、カントリーから、プロビンシャル、メトロまで全部乗せてもらいました。

-:それもあって成績が……。

市:そうですね。見習いが終わってからの下降が激しかったです……。厩舎に所属していた時は毎週乗り鞍があったので。


「競馬場へは自分で車を運転して向かいます。一番遠くて、片道6時間ですね。さすがに3時間を超えるとツラいとは思いますが、騎乗依頼が一杯ある時は行ってもそんなに苦にならないです」


-:オーストラリアはあちこちに競馬場があって、競馬場ごとが遠いことも当たり前です。移動はどうされているのですか?

市:自分で車を運転しています。一番遠くて、片道6時間ですね。しかし、飛行機で行ったりもしますしね。

-:それは苦にはならないですか?

市:仕方ないですね。さすがに3時間を超えるとツラいとは思いますが、騎乗依頼が一杯ある時は行ってもそんなに苦にならないです。やっぱり1鞍だけで3時間となると厳しいですね。ただ、運転はそんなに嫌いではないです。

-:今まで乗ったレースで、会心のレースはありますか?

市:ジャストアズコスミックという期待をしていた馬は、“クイーンズランドオークスも勝てるんじゃないかな”と思ったほどでした。2連勝していて、3連勝した時にタイミング良く乗れて、オークストライアルを使ってオークスには出れたのですが、結局オークスでは乗れなかったのですけど。

-:市川騎手が乗れなかったオークスでの成績はどうでしたか?

市:本番のオークスは4着です。前哨戦のオークストライアルは5着だったのですが、すごく次に繋がる良い競馬をして、期待していたのです。前哨戦まで乗れて、2歳からずっと乗っていて、色々競馬も教えながら乗れていただけに残念な思いでした。

-:メトロでも結構乗られているでしょうが、乗った中で一番大きなレースを教えてください。

市:オークスの前哨戦のG3かスコーンであるスコーンCというリステッドレースですかね。結果は満足のいくものではありませんが。それに、ランドウィックでG3を幾つか乗ったことがあります。

市川雄介騎手インタビュー(後半)
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