スワーヴリチャードが、新たな可能性に挑戦する。前走の大阪杯は不安視されていた右回りで初G1制覇。陣営は、2つ目のタイトル奪取を得意の左回りで行われるマイル王決定戦に定めた。ファンを驚かせた安田記念への参戦を決めた理由とは……。庄野靖志調教師に真相と初距離への手応えを聞いた。

「秋は東京の2000mを走らせたい」

-:安田記念(G1)に出走するスワーヴリチャード(牡4、栗東・庄野厩舎)の庄野先生です。大阪杯に勝った後、安田記念に出走するということは、ファンにとっては異例なことだと思うんですけど、経緯を教えていただけますか?

庄野靖志調教師:デビューからずっと2000m以上を使わせてもらっていたけど、この馬の可能性を開花させていきたいという思いが一つと、もちろん東京コースというのもあるのだけど、やっぱりその可能性をドンドン広げていきたいという思いですね。

-:東京だけで考えると、マイルでも2000mでも、コーナーを回る数的にはそんなに変わらないとも考えられる、ということですね。

庄:逆に、秋は東京の2000mを走らせたいし、そう思ったら、そこに向かっての試金石になるんじゃないかなと思いますね。

庄野靖志調教師

▲庄野師にとってもJRAG1初勝利となった大阪杯

-:距離的な面は全く心配ないですか?

庄:この馬に関しては心配していないです。ただ、メンバーを見たら、やっぱりマイルのスペシャリストといわれる馬たちが一杯いる訳だし、今までとはテンのペースが全然違うから、少し戸惑いもあるかもしれません。その辺だけはちょっと不安材料かと思いますね。

-:秋に向けての試金石じゃないですけど、現状のスワーヴリチャードでどこまでやれるかというのを試してみたいということですね。

庄:試してみたいですね。

-:左回りが得意なスワーヴリチャードにとって、東京コースというのは絶好だと思いますけど、もともとあまりテンに出して行かずに、終いを活かすというレースが続いていました。成長と共にポジションも取れるようになってきて、前にも行けるようになっているというところでいくと、どういうレースの組み立てになりそうですか。

庄:無理してテンから押していくことはないと思うんですけども、道中脚を溜められるくらいの流れとか位置取りであれば、マイルであっても最後は良い脚を使ってくれると思うので、そんなにマイルを意識して、テンから行かなくても良いと思いますね。それも、結局はゲート出て、ゲートの出一つというか、ゲートを出た感じ次第になると思います。その辺はミルコ(デムーロ)とも話はしてあるので、ポジションを決めるのはゲートを出てからですね。

「マイルを意識して、テンから行かなくても良いと思いますね。マイルであっても最後は良い脚を使ってくれると思います」


-:馬のつくり方自体は、2000m以上を使う時とマイルの時で、セッティングの違いというのはあるのですか。

庄:とりあえず、今は何もしていないです。

-:今まで通りの調整ですね。

庄:今まで通りですね。マイル仕様の調教があれば、教えて欲しいくらいですね、フフフ。それは冗談だけど、本当に何か変えるのではなく、今までの状態で出せれば良いのかなと。

スワーヴリチャード

▲23日、1週前追い切りを行うスワーヴリチャード

-:そういう状況で、今週は安田記念の1週前追い切りの週だったのですが、昨日(5月23日)、追い切りを終えられて、どんな動きだったか教えてください。

庄:すごくリラックスしているし、いつもと変わらないですね。1週前だったので、ある程度時計は出していこうと思っていたので、併せ馬で前に目標を置きながら、といういつものパターンなのだけど、最後抜け出す時はさすがと思う脚力というか、スピード感はやっぱりすごいなと思いましたし、順調に調整出来ているんじゃないかと思います。

-:来週はサラッとで、態勢が整うという感じですか。

庄:そのつもりでやってきているので、来週はいつも通り、ジョッキーに乗ってもらって単走になると思うのだけど、気配だけ感じてもらえれば良いかなと思いますね。

マイル対応しても秋の目標は不変

-:安田記念自体、時計の速いレースになることもあり、マイルでの時計に対応するというところも一つの課題ですね。

庄:いや、やっぱりみんな速いですね。

-:もしかしたら(1分)31秒後半くらいが出るかもしれませんね。

庄:そのくらいの決着になるんじゃないかと思うから。東京コースもそんなに馬場が悪い訳じゃないし、今週からCコースになって、また内側も空いてくるので、速い時計の決着になるんじゃないかと思いますね。

-:最近は色々なレースが出来るようになっていますから、さっき先生がおっしゃっていた「ゲートをどういうような感じで出るか」によって、様々な組み立て方が出来るかもしれないですね。

庄:マイルなので、ある程度の位置は取りたいというのは誰しも思うことなんだろうけど、この馬に関しては、本当にゲートの出次第でしか、ポジションは取りにいけないと思うので、無理して押して好位を取りにいく必要はないと思うし、速い流れの中で、道中どれだけ脚を溜めれるか、という感じじゃないですかね。

スワーヴリチャード

-:大阪杯から2カ月空いているんですけど、同じくらいのコンディションで出せるということですか。

庄:馬は大阪杯が終わった後も、そんなに目立って疲れていた訳でもないし、リフレッシュさせて、すごく元気な姿で帰ってきてくれたので、特に変わりなく、同じくらいの感じで行けるんじゃないかなと思いますね。

-:G1連勝の可能性も。

庄:う~ん、それはやってみないと分からないかな。本当にマイルという距離も初めてなので、そういうことにはこだわらず、マイルにどれだけ対応出来るかを見てみたいのでね。

-:もしマイルに対応出来たとしたら、秋のローテーションもちょっと変わる可能性もありそうですか。

庄:いや、そんなことはないですね。現状、秋はやっぱり天皇賞(秋)~ジャパンCが良いのかなと思っています。今回どういうレースになるか分からないけど、良くも悪くも、秋は天皇賞(秋)~ジャパンCのローテーションで行けたら良いかなと思いますね。

-:オークスではアーモンドアイが勝って、逆説的に言うと、2400を勝った馬がマイルも勝つという考え方も出来るとすれば、スワーヴリチャードも2400でも強い訳だから、マイルでも上がりの速いところで使う脚は一緒なのかなと。

庄:そうですね。上がりだけで言うのなら、5ハロンくらいは良い脚は使えるので、そう思ったら、テンに上手く流れに乗ったら、届くんじゃないかなと。でも、アーモンドアイは強いとは思うよ、ハハハ(笑)。あれはすごいなと思う。あんなに距離を走っても、同じような脚を使ってくるからすごいと思う。

-:しかも、ポジションを取ってですからね。去年はサトノアラジンがケツからドーンと行ったんですけども、どちらかと言うと、もうちょっと前の中団辺りからというイメージですか。

庄:いや、どうだろうなぁ。去年のサトノアラジンのレースを観ていてもそうだけど、やっぱり終いに脚を使える馬って、今度の東京で言えば、多分、格好の舞台になるんじゃないかなと思っているのでね。

「終いに脚を使える馬って、今度の東京で言えば格好の舞台になるんじゃないかなと思っている」


-:他にも終いが切れる馬がいますからね。

庄:そういう馬たちの位置取りで、だいぶ着順も左右されるのかなという気はするけども、リチャードに関しては、そんなにゲートももともと速い方ではないし、本当に出たなりでミルコに考えてもらったら良いんじゃないかなと思いますね。

スワーヴリチャード

-:時季的に、天候が雨なのかがちょっと読みにくいところなんですけど、もし雨だった場合はどういう見通しですか。

庄:あまり気にしないで良いと思いますよ。

-:どっちでもこなせそうですか。

庄:どっちでも。雨だからとか、乾いているからだとか、あまり気にしなくて良いんじゃないかなと思いますね。

安田記念参戦プランは「オーナーから」

-:G1馬だし、能力がなかったら勝てない訳ですからね。

庄:そうですよね。前走みたいな競馬は二度と通用しないだろうけど、それでもこの馬の能力から言ったら、これからG1戦線で戦っていく上で、十分にこの1年間主役になっていけるだけの馬だと思っているのでね。

-:先ほど先生がお話されていたような前走のレースというのは、捲りきる形だったんですけど、あれは捲りきるというか、一番の主題はラチを取りにいった方が右回りでは良かったということなのですか。

庄:いや、それよりも3~4コーナーで外を回らされて、脚を使わされる方が良くなかったと思うから、向正面であそこまで上がっていけたのは良かったと思うし、有馬記念(4着)みたいに3コーナーで外を回されっ放しになると、やっぱり最後苦しくなってくるだろうからね。

-:その再現を嫌ったということですね。

庄:要は、持っている脚をどこで使うということだったんだろうけど、それでもあそこから行って、最後もう一踏ん張り出来るのだから、やっぱり大した能力を持った馬だと思いますね。

スワーヴリチャード

-:その辺は右回りで結果が出ないというか、左回りが得意だと言われるスワーヴリチャードにとっても、右回りでの1勝というのは大きな勝ちですよね。

庄:ずっと右回りはダメと言われ続けられながら、G1という舞台で右回りを克服してくれたのでね。

-:色々な壁を乗り越えてきたこの馬にとって、このマイルの距離の壁というのをまた一つ超えれそうですね。

庄:そうですね。面白いですね。面白いというか、楽しみですね。

-:先生も一番見てみたいですか。

庄:見てみたいですね。去年アルゼンチン共和国杯を使わせてもらった時に、イメージの中で何となく東京のマイルというのはちょっと浮かんだことがあったので、ここに来てそういう舞台に出させてもらうというのは、一つ楽しみがあるかなと思いますね。

スワーヴリチャード

-:これは先生が提案されたのですか。

庄:いや、オーナーからですね。

-:英断ですね。

庄:本当に素晴らしいと思いますね。

-:英断というか、僕らも見てみたかったですからね。

庄:だからと言って、マイルという距離で、京都や阪神でも一緒かと言われるとちょっと違うんですけど、東京のマイルというのは見てみたかったなというのはありますね。

「去年アルゼンチン共和国杯を使った時に、イメージの中で東京のマイルというのはちょっと浮かんだ」


-:確かに秋にも繋がりそうですし、僕らも楽しみな一戦になりそうですね。あと10日くらいですけど、良い状態でということですね。最後にファンにメッセージをお願いできますか。

庄:僕らも見てみたかった東京のマイルで、この馬の能力の可能性というのは、本当にまだまだ無限大だし、今度はG1馬としてこの舞台に立たせてもらうのだけど、この馬はまだまだ始まったばっかりというか、いつも挑戦者の気分ではいるのだけど、次はG1馬として、また新しい旅が始まるのかなという感じですね。

スワーヴリチャード

-:スワーヴリチャードの第二章が始まるということですね。

庄:第二章は終わったのだけどね。第一章はダービーで終わり。第二章はG1で終わり。

-:第三章ですね。

庄:でも、第三章はこの夏が終わると終わるので、秋からは第四章ですね。

-:短編ですね。

庄:秋からは第四章が始まります、ハハハ。

-:ちなみに宝塚記念は使わず、これで一旦前半は終わりですか。

庄:その予定です。夏は去年と一緒で、時期的にももう暑くなってくるし、休ませるタイミングも難しくなってくるので、ここを使って夏休みで、秋からという気持ちでいます。

-:初マイルをシッカリ見届けたいと思います。

庄:お願いします。

-:ありがとうございました。

庄:ありがとうございました。