2023年12月7日に調教師2次試験に合格し、秋山真一郎騎手は惜しまれながら騎手人生にピリオドを打った。デビューから引退まで騎手に対する憧れを追い続け、騎乗フォームの美しさでは騎手仲間からも一目置かれていた秋山騎手。調教師に転身して、これからどんな厩舎運営を目指すのか――。初出走を終えた秋山調教師を訪ねた。

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——3月15日の中京2レースにテイエムパイロットを出走させて秋山真一郎厩舎の初出走となりました。調教師として初めてレースに出走した感想は?

騎手から調教師に変わったとはいえ、そこまで特別な感情はなかったですよ。淡々と過ごしていました。それよりも普段、厩舎で見ている馬を装鞍所で見た時に驚きました。騎手時代にも感じてはいましたが、調教師として毎日見ている馬が、競馬場でこれだけ変わるんだと。

——中京2レースで初出走を終えて、すぐに阪神競馬場に移動しました。コーラルSのパドックで見たテイエムリステットはどう映りましたか?

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テイエムリステットは上がり調子のタイミングで木原厩舎から引き継がせて頂いて、うちの厩舎に来てからは微調整くらいで出走できました。テイエムパイロット同様「上手く仕上がったな」と思いました。僕が想像したよりもいい状態で出走できたと思います。

——騎手を目指していた頃から憧れていた武豊騎手が鞍上でした。

武さんは偉大な先輩ですからね。騎乗依頼を受けていただけて感謝しています。竹園オーナーにも喜んでいただけました。阪神まで来られていましたから。

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——10レースでサブマリーナが勝ったことで、武豊騎手をパドックで乗せることは叶いませんでしたね。

特別レースを勝つと表彰式もあってパドックには来る時間がないんですよね。

——その後、地下馬道で武豊騎手を馬上に上げるのが上手くいかなかったとか?

やっぱりあれだけの人ですから遠慮してしまって(笑)。「下手やな」と言われてしまいました。そのあと返し馬を見たんですが、さすがでしたね。返し馬でも武さんの凄さを感じていました。

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——コーラルSは逃げたアドバンスファラオの2番手からという競馬でしたが、勝てそうに見えて勝てませんでした。

上手く乗ってもらって4コーナーでは勝ったと思ったんですが、相手が渋太かったですね。武さんも「3勝クラスで負けた相手にまたやられた」と言っていました。テイエムリステットに乗るのは初めてでも、過去のレースまで頭に入っているんですからさすがです。

——惜しくも2着にはなりましたが、テイエムリステットの力は出せたんだと思います。3月5日付けで開業して、コーラルSまでは10日間でした。短期間で調教メニューを変えたところはありましたか?

木原厩舎時代はレース1週前に強めに追い切って当週は軽めに乗っていたと聞きました。うちの厩舎では逍遥馬道を歩かせる時間を長めにとっていて、1日の運動量としての負荷は上がっていると思います。その中で1週前の追い切りを軽くして当週にはびっしり追う“逆パターン”にしてみました。

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——逍遥馬道を歩かせると、どんな効果があるのでしょうか。

角馬場でハッキングしてトモを入れる技術があればいいですが、乗り手のスキルを問われますよね?乗り手の技術によって個人差がでてしまう。でも逍遥馬道を歩くだけなら乗り手のスキルは関係ありません。

ありがたいことに逍遥馬道にはアップダウンがあって馬が歩けば自然にトモを入れてくれます。それを日々、繰り返すことでレースに行っても体が伸びすぎるのを防いでくれる効果があると思っています。

——坂路の追い切りだと1分もありませんし、コースで追い切っても2分足らず。でも歩く時間は1頭で1時間半にもなるので馬にとってはキツイかもしれませんね。

なるべく自然な流れで競馬に向かえたらいいなと思っています。追い切りは馬にとってしんどい運動なので、早い追い切りを減らしつつ運動量はある調教を目指しています。その方が馬のメンタルにもいいですし、故障のリスクも軽減できると思います。

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——開業して2週間ほどですが、秋山厩舎の調教スタイルはできつつあると?

まだまだこれから試行錯誤を重ねていきます。各競走馬の個性も見極めなければいけませんし、じっくりいろんなことを試しながら馬たちに良い結果が出るよう進めていきたいです。

開業までの日々

——改めてになりますが、騎手を引退されてから開業するまでの間はどう過ごされていたんですか?

調教師試験に合格して技術調教師になってからの1年は幼馴染みで同期の武幸四郎厩舎の調教を手伝わせていただきました。夏場は北海道に行って調教に乗りながら、開業してから入厩させる2歳馬のセールに行っていました。セレクト、サマー、セレクションなど国内のセールには全部行きました(笑)。

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——新規開業するにあたって日本のセール全てに行かれた人は少ないんじゃないですか?

騎手時代から親しくさせていただいてきたオーナーには感謝しかないですね。オーナーごとに購入する予算がありますから、予算内で走りそうな馬を選べるように自分なりに頑張りました。

——騎手時代は馬に乗って走るかどうか感じられたと思います。それがセールでは馬の血統や歩様、形で選ばなくてはいけません。

たくさんの若馬を見て勉強しているところです。購入した馬もセールで気になった馬も、トレセンに入厩してどう変わるのか?そこはこれからチェックして答え合わせをしていきます。時間はかかりますが、少しずつでも馬を見る目を養えればと。

——秋山先生がどんな馬を選んだのか?夏以降にデビューする2歳馬を楽しみにしています。

僕の師匠である野村先生は馬選びが上手でした。野村厩舎ではずっと厩務員さんが辞めずに働いていました。その大きな要因は、先生が選んだ馬が走ったからなんです。特定の厩務員さんだけが当たり馬を引く厩舎ではなく、まんべんなく走る馬がいたのは今になって凄いことだったんだと感じています。

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——走る馬がいれば、自然と厩舎の活気につながりますからね。

そうなれるように頑張ります。スタッフと一緒に自分も乗って管理馬の状態を確認していきます。

秋山厩舎に集まったスタッフ

——どんなスタッフが揃いましたか?

今年で引退された木原厩舎、河内厩舎、音無厩舎、藤沢則雄厩舎から集まってくれました。騎手時代からお付き合いのあった人達なんです。

——朝は調教に乗って、その後には近隣の牧場にも行かれていました。かなり忙しい毎日ですね。

在厩している馬の調教と並行して、次に入れ替える馬たちの様子を確認するために近くの牧場には通っています。電話1本で済む話かもしれませんが自分の目で見たいんですよね。実際に見ると「これなら入厩しても大丈夫そうだな」と安心できますから。

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——トレセンにはすでに2歳馬も入厩し始めています。秋山厩舎でも早くから2歳馬を入れる予定はありますか?

現時点で2歳は2頭入っています。調教の進んでいる2歳は早目に入厩させて一緒に調教していきます。

——野村厩舎から騎手デビューされて多くの競走馬に携わってきました。その経験を新生・秋山真一郎厩舎でも生かしてください。

預けてくださったオーナーや競馬を愛するみなさんに満足していただけるように頑張ります。1頭1頭工夫して少しでも走るように考えますので長い目で応援してください。

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